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ある女子生徒の日記②

タイマンとは。 一対一の喧嘩のことをいう不良用語です。近年では、一対一で対戦したり会ったりすることにも汎用されます。 しかしここでいうタイマンとは本来の意味。一対一の喧嘩。口喧嘩ではなく、相手の肉体を傷つけあうマジ喧嘩のことです。 私はそんなおっかないイベントに、今日初めて会ったばかりの名前も知らない女の子から誘われたのでした。 今までの私ならすぐにでも土下座をして泣きべそをかきながら裸足で逃げ出したでしょうが、高梨春【陽キャモード】の今となっては、そんな醜態を晒すわけにもいきません。星羅さんと美海さんが見ている以上、陽キャモードを崩すわけにはいかないのです。 しかしここで売られた喧嘩を買っても勝敗は目に見えています。目の前の少女は如何にも喧嘩慣れしていそうな雰囲気で、対して私は今まで人を殴ったことすら無いド素人です。開始10秒でマウントを取られてボコボコにされるのがオチでしょう。 私は咄嗟に頭をフル回転させます。正面から喧嘩を売られたこの状況。星羅さんと美海さんを失望させずに、なおかつ目の前の少女とのタイマンから逃れる方法です。 ですがまあ、そんな都合の良いものが出てくるはずがありません。私は間を埋めるため、とにかく会話を途切れさせないように口を開きました。 「は?なんでやんなきゃいけないの?」 会話を引き延ばしつつも「別に喧嘩が嫌なわけじゃないけどね?」感を滲ませるベストな回答です。緊張で声が上ずりそうにもなりましたが、何とか威圧感を込めて言えました。 「だから、あんたが気にいらないからって言ってんの」 相手の不良少女はなおを詰め寄ってきます。このままではこの場でいきなり殴られかねません。なんとか会話を続けなくては。 「そもそも、あんた誰?」 「小林璃緒(こばやしりお)だけど。あんた知らないの?」 それはとても違和感のある言い方でした。さっきホームルールで自己紹介したでしょ?という意味ではない気がしたのです。 すると、そこで背後から星羅さんが口を挟みました。 「ハルはここらへんの地元じゃないから、あんたのことなんて知らないんだよ」 「知ってんの?」 私が聞くと、美海さんが答えてくれました。 「まあ、ここらでちょっと有名なヤンキーかな」 ・・・・有名なヤンキー。なるほど、ますます喧嘩なんてしたくなくなりました。 有名と言われて嬉しかったのか、小林璃緒は余裕そうな笑みを浮かべます。 「別に知らなくてもいいよ。どうせこれから奴隷として尽くしてもらうんだし」 勝つ気満々の発言です。こちらとしてはそもそも喧嘩自体を避けたいのですが、もはやそんな逃げの一手は通用しそうにありませんでした。 加えて、ここで星羅さんが再び口を挟みます。 「いいよ、ハル。やっちゃいなよ」 「・・・・え?」 美海さんも加勢します。 「そうそう。うちらのことならいいから、小林なんてボコっちゃいなよ。終わるまで待ってるからさ」 「さっさと終わらせて三人で遊びに行こ」 星羅さんと美海さんはにこやかな笑顔で私にウインクをしました。もはや私が喧嘩をする前提で話を進めています。 せめてもの抵抗で、私はそれとなく逃げ道を探し続けます。 「でもさ、いま喧嘩の気分じゃないんだけど」 しかしすぐに美海さんがそれを打ち消しました。 「だからってさー、ここまで正面から喧嘩売られて逃げるのはありえんくない?」 ・・・・。なるほど。陽キャって、売られた喧嘩は買うのが当たり前なんですね。勉強になりました。 もはや逃げ道は無く、どうやらやるしかないようでした。腹をくくるときが来たようです。 「はやくやろうよ。奴隷候補ちゃん」 小林さんはなおも煽ってきます。これが、陰キャが陽キャの真似事をしようとした罰なのでしょうか。人並みに楽しい高校生活を送ろうとした罰なのでしょうか。 ・・・・いいえ。そんなはずありません。私にだって高校生活を楽しむ権利ぐらいはあるはずです。初日に喧嘩に負けて奴隷生活確定だなんて、そんなの絶対に御免なのです。 やるからには勝ちます。たとえ私が喧嘩経験のないド素人で、相手が喧嘩慣れした有名なヤンキーだとしても。 だから私は、自分への鼓舞も込めて言いました。 「いいよ。やってやるよ」 こうして私は、小林璃緒とタイマンをすることになったのでした。


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