NokiMo
ゴシック
ゴシック

fanbox


同窓会

残業を終えて自宅のマンションに帰ると、ポストに封筒が入っていた。同窓会開催のお知らせだった。 高校3年生の時のクラスメンバーで、十年ぶりに集まろうという集まりだ。そうか、もうあれから十年も経つのか。大学を卒業し、仕事に忙殺される日々ばかりを過ごしているうちに、すっかりと年月が経ってしまった。 同窓会の会場は地元の居酒屋。大学進学を機に地元を出て上京した私にとっては、これは少しばかり面倒くさい。地元は田舎の方で、帰るのにも結構な時間が必要になるのだ。ただでさえ実家に帰るのすら億劫でここ数年は帰っていないというのに、たかが同窓会の為だけにわざわざ休みを潰して地元に帰るのは、正直言って割に合っていない。 それに、高校3年生の時のクラスメイトなんて、ほとんど覚えていない。数人の仲のいい友人は今でもたまに連絡を取るし、同窓会に行かなくたっていつでも会える。それ以外のクラスメイトとは別に会いたくもないし、今どうしているかなんて興味もない。 これは、普通に考えて欠席かな。そう思った矢先、ある女の顔を思い出した。 ・・・・高校3年のクラスメイトって言ったら、「あいつ」もいたか。 忘れていたけど、そうだ、「あいつ」がいたんだ。もし「あいつ」がこの同窓会に来るなら、・・・・行ってもいいかもしれない。来るって保証はないけど、もし会えるのなら会っておきたい。それに、きっと「あいつ」は来ると思う。「あいつ」が私と同じ考えなら、私と会いたいはず。 ・・・・行ってみるか。 同窓会の開催日は土曜日だった。私はその日、昼の三時頃まで仕事をして早退した後、駅のロッカーに予め入れておいた荷物を取り出して、そのまま新幹線へと乗り込んだ。翌日の日曜は元々休みだし、月曜と火曜は有休を取ってある。もしものことがあっても大丈夫だ。 地元の隣県で新幹線を降り、そこから電車を乗り継いで地元の駅へと降り立った時には、すでに夜になっていた。同窓会は既に始まっている頃だろう。元々、遅れる連絡はいれていたので問題は無い。 居酒屋へと入ると、まず幹事役の男(元クラスメイトのはずだけど名前はまったく思い出せなかった)が「お、平川(ひらかわ)来たぞー」と声を上げた。みんなに愛想を振りまいた後、今でも連絡を取っている女友達たちが囲んでいたテーブルに混ぜてもらった。 店内をざっと見た感じ、「あいつ」は見当たらなかった。 「遅れてごめんね~」 席に着きながら謝ると、友達たちは何も気にしていない様に笑った。 「いやいや、いいよー。ていうか来てくれるとは思わなかった~」 「そうそう。だって、あの○○でしょ?超大手じゃん!忙しいんじゃないの?」 「うん、まあね。でもせっかくだし。それに、そろそろ実家に帰らないと親に愚痴言われるから」 友人たちと楽しく喋りながら食事をしていても、「あいつ」の存在が気になり過ぎてほとんど楽しめなかった。私は、ちょうど会話の切れ目に意を消して切り込んだ。 「そういえば、森村(もりむら)さん来てないの?」 言われた友達たちは、一瞬ぽかんと口を開けた。森村の存在を忘れていたのだろう。しばらくして、友達の一人が思い出す。 「あー、森村さんね。懐かし~。でもそれっぽい人は見てないし、来てないんじゃない?」 「ていうか、マコってあの子と仲良かったんだっけ?」 「仲良かったっていうか、たまーに喋ったりしたことあるだけ」 「えー、そんなイメージ無い~。森村さん、ずっと一人だったし、誰かと仲良くしてたの見たことないよ」 やっぱり、みんなにとって森村はその程度の存在なんだ。みんなあいつの本当の顔を知らない。ずっと1人で本ばかり読んでいた、暗い文学少女、っていうのがみんなのイメージ。でも私は違う。私は、あいつが人を殴るときに狂気が籠った笑顔を見せるのを知っている。 でも、どうやら森村は来ていないようだ。私はがっかりして、すっかり興醒めしてしまった。 居酒屋を出て、二次会は定番のカラオケという話になった。森村のいない同窓会は私にとって完全に無価値な存在になっていたので、私は上手く言い訳してその場を後にした。 実家へと帰る道中、酔い覚ましも兼ねて久しぶりに思い出の公園に寄ってみることにした。小さい頃から遊びの場として通い、高校生になってからは、よく深夜に家をこっそりと抜け出して来ていた。広いくせに遊具がほとんどない、寂しい公園だ。 公園の端にあるベンチに座り、夜空を見上げる。冷たい風が心地よい。高校生の頃、深夜によくこのベンチに座って待ち合わせ相手が来るのを待っていたのを思い出す。あの頃は、本当に楽しい日々だった。 そろそろ帰ろうとベンチを立ち上がると、公園の出入り口の方に人影が見えた。・・・・あの人影、なんだか見覚えがある。背は伸びているけど、少し猫背なのも、長い髪の毛も、あの頃と変わっていない。 そうだ。あの頃も、私と森村はこんな風に夜の公園で待ち合わせて、二人きりの時間を過ごした。学校ではまったく関わらなかったけど、どのクラスメイトよりも、濃密で激しい時間を過ごしたのだ。 「やっぱり、来てたんだ」 自分の魂が震えるのを感じる。私は笑みを浮かべ、ぎゅっと拳を握るのだった。


Related Creators