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呪術者の舞⑦

「お前は呪いだ。呪いの権化たる女だ」 呪蝶は眠りの中、何度も脳に響くその声にうなされていた。常に澄まされ、見る者に畏怖に似た感情を与えるほどに整った顔を少し険しくさせながら、夢の中の声と闘っている。 「生命力を奪え。それが唯一の使命である」 その声と共に、呪蝶は目を覚ます。 天井を見やり、ゆっくりと上体を起こす。静まり返った屋敷の外から、鳥たちの声が聞こえる。山の中枢に構えるこの場所は、朝は鳥たちの声でやたらたうるさくなる。 「私は、魂を溶かす呪いの器」 そして、呪蝶の一日が始まる。 顔を洗い、いつもの黒の衣を纏っていると、いつものように婢女の一人がやってくる。この屋敷には婢女がいて、歳老いた老婆と、呪蝶とそう歳の変わらない若い女の二人だ。寄ってきたのは老婆の方で、呪蝶の着付けの手伝いをしにやってきた。若い方は、朝餉の準備をしているのだろう。 婢女の二人はほとんど口を開かない。たまに二人で話しているところは見かけるが、呪蝶に対しては自分からは口を開こうとはしない。同じ屋敷に住んでいるからといっても、立場は婢女。主である呪蝶に口を利くことは許されていないのだ。 もっとも、呪蝶が命じているわけではない。二人の婢女を用意し、呪蝶の世話役を任命したのは別の人物だ。 「今日はあいつがやってくる日だな」 呪蝶がそう尋ねると、婢女の老婆は目も合わさずに短く「はい」と答えた。一見不遜な態度に思えるが、これも決まりである。主と目を合わせて会話することは許されていない。それどころか、長時間視線を向けることすら禁止とされている。主と婢女の立場や身分の違いをしっかりと区別するためだ。 呪蝶の言う「あいつ」とは、月に一度の頻度でこの屋敷を訪れる、ある女のことだ。婢女の老婆よりもより歳老いていて、名を「黒羽(くろは)」という。 呪蝶は黒羽が苦手であった。嫌いといってもいい。あの女には全てが見透かされている気分になる。普段は冷静沈着で他者を圧倒する雰囲気を纏っている呪蝶でも、黒羽の前では緊張せざるを得ない。 呪蝶は小さく溜息を吐いた。 その日の晩、呪蝶たちのいる屋敷の前に、一羽のカラスが降り立つ。何の汚れのない、奇麗なカラスだ。じっと屋敷の扉を見つめ、ふとその身体が黒い霧で包まれると、その霧が晴れるころ、そこには呪蝶と同じ黒の着物を羽織った老婆が立っていた。 黒羽だ。 髪は白く、顔には深い皴が刻み込まれている。腰を折り、手には杖がある。手足は細く、ほとんど肉が無い。 それでも黒羽は、しっかりとした足取りで屋敷の扉まで近づくと、少し目に力を入れた。その途端、屋敷の扉が独りでに開かれ、黒羽が入り込むと、また独りでに扉が閉まった。 その様子を、呪蝶は険しげな表情で見ていた。 「毎度のことだが、入る時は一声かけろと言っているだろう」 「ほほ、何をおっしゃるやら。声など出さなくても、そなたは気配で察知することが出来るじゃろうに」 「我は礼儀の話をしておる」 「礼儀とは、まるで人間のようなことをおっしゃいますな。そなたは、わたくしが用意した呪いの権化、力を蒐集するための怪物ですぞ」 「・・・・わかっておる」 「では、此度はどれほどの力をお集めになったのでしょう」 「三人分だ。それに、二日後に若い女の生命力も手に入る」 「ほう、若い女。それはいいですな。ということは、性比べの儀式をなさるのですね。間違っても、負けたりしない様にお願いしますよ?」 「無論だ」 「ほほ。頼もしいことで」 黒羽が、聞く者を不安にさせる怪しげな声で笑う。呪蝶は、夢の中でも聞いたその声を、苦虫を噛み潰したような表情で聞き続けた。


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