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呪術者の舞⑤

夜も深け、散らばった雲が月光に照らされる深夜、娘は家を出て昼間に訪れた茶屋へと向かった。 中で性比べが行われていると思われる茶屋は、外から見れば静まり返っているようにしか見えない。その中で二人の女が闘いを繰り広げ、それを見世物として多くの観客が見物しているなど、想像もつかない。 隣の民家の物陰から茶屋を監視していた娘は、ガラッと扉が開いた音を聞き取った。表の扉ではなく、裏口からだ。もしかして、勝負が終わったのだろうか。娘は急いでそちらへと向かう。 こっそり見てみると、何人かの男たちが裏口から出て行っているところだった。みな、満足げな表情だ。興奮しているのか、頬を高揚させている者もいる。全員が、恰幅の良い裕福そうな男ばかりだった。きっと、性比べの見世物は決して安くは無いのだろう。性比べということは、当然だが自分の裸、あるいは秘部を晒すということだ。名前も知らない男たちに見せるというのは、娘にとって想像したくない状況だった。 それからしばらくすると、女がふらふらとした足取りで出てきた。髪をボサボサにして、纏っている着物も無理やり着たように崩れている。あれが今回の性比べの勝者だろうか。声をかけようと身を乗り出した時、裏口の扉から、さらに女が一人出てきた。 今度の女は、長い黒髪を綺麗に整え、着物もちゃんと着こなしている。体調が乱れている様子もない。状況からして、今回の性比べはあの女の圧勝ということのようだ。 娘は意を決し、女の背中に声をかけた。 「あ、あのっ」 女は動揺する様子もなく、ゆっくりと娘に振り返る。その女はとても美しい女だった。年頃は娘と同じほどだが、顔つきは娘よりよっぽど大人びている。背も少し高く、冷ややかな眼つきで娘を見下ろす。 「・・・・なにか?」 「あの、今日、そちらの茶屋で性比べを行っていた方でしょうか?」 「・・・・そうですが」 「それに、勝利した?」 「・・・・何が聞きたいのでしょう。そうだとして、あなたに何か関係が?」 「いえ、違うのです。私はただ、あなたと性比べをしたいと・・・・」 女の眼が少し細まる。 「どうして?」 「私には、力が必要なのです。強い技術が。そのためには、強い人と闘って鍛えるしかないのです」 「・・・・倒したい女でもいるのですか?それほどまでに憎い女が」 「・・・・憎いというのは少し違いますが、でも、倒したいです。勝たなければ、ならないのです」 「なるほど。・・・・ですが、私に利益が無いのであれば、闘おうとは思いません。さっきの茶屋での一戦だって、お金がもらえるから闘ったのです」 「お金・・・・ですか」 娘の家は貧しい。女手一つで自分を育ててくれた母はその日の生活費を稼ぐので精一杯で、病に倒れていた娘も稼ぎに出ることが出来なかった。女に対して提示できる程の金は、娘は持っていなかった。 だが、それでも娘は目の前の女を諦めるわけにはいかなかった。少しでも早く強くなるために、手段は選んでいられないのだ。呪蝶に勝たなければ母の努力、命が無駄になる。それだけは、娘にとって何としてでも避けなければならないことだった。 だから娘は、拳を握りしめて言い放った。 「お金は、ありません。ですがっ、私は強くなるために貴女と闘わなければならないのです。貴女には無理やりにでも私と闘ってもらいます。今ここで襲ってでもっ!!」 娘は精一杯、目に力を込めて女を睨みつけた。娘は生前も誰かと喧嘩したことはない、臆病で心優しい性格だった。そもそも争いは好まないタイプの人間だ。だから、誰かを睨みつけるのには慣れていないし、覇気もなかった。 だが、そんな睨みを受けた女は、少し嬉しそうに笑った。 「へぇ・・・・。いい眼ね」 「舐めないでくださいっ」 「舐めていないわ。ゾクゾクする、何か本能的な力を感じるの。・・・・いいわよ。その喧嘩買ってあげる」 「っ!!」 「・・・・でも、どうなっても知らない、からね?」 月光を背後にした女の妖艶な笑みに、娘は自分の背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。


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