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立花への挑戦権 【桜花学園】

〈1〉 9 立花香帆が、どうして「トリマー」を探しているのかを解明する。 そんな依頼を受けることになったわけだけど、馬鹿な私はどうやって突き止めるかなんて何の方法も思いついていなかった。小難しいことを考えるのは昔から苦手だ。だから私は、持田三久と別れた直後、『裏掲示板アプリ』を使って、立花の個人アカウントに直接メールを送ることにした。 「私と喧嘩してくれない?」 あまりにも直球すぎるメッセージだったけど、桜花学園に通う女たちにとって、これほど有効的なメッセージは無い。こんなものが送られてきたら、無視することなんて出来ないはずだ。そんな行為、プライドが許さないはず。 まずは勝負して、そこから徐々に探っていけばいい。どれだけ強情なも女でも、タイマンで負けた相手の質問なら答えてくれるはずだ。 しかし返事は一向に帰ってこず、返信が来たのはその日の夜中だった。眠たい目を擦りながらアプリを立ち上げて見てみると、短くこう書いてあった。 「いや」 唖然とする私に、さらにメッセージが送られてくる。 「どうしてもって言うなら、明日の朝、屋上に来て」 面を食らいつつも何とか打った「わかった」を返信して、そこでメッセージの短いやり取りは終わった。 そして翌日、いつもより早めに学校に着いた私は、言われた通りに屋上へと向かうことにした。 屋上と一言で言っても、桜花学園には四つの校舎(「教育棟」「教室棟」「第二教室棟」「特別教室棟」)があり、それぞれに屋上がある。どこのことを指しているのかはわからなかったけど、それも杞憂に終わった。初めて知ったことなのだが、生徒が入れるように解放されている屋上は、「教育棟」のものだけだったのだ。 階段を上がり、屋上へと出る。間違って落ちたりしないように高いフェンスで囲まれた空間には、誰もいなかった。まだ来ていないのか、それともすっぽかされたのか。私はメッセージを送ることにした。 「着いたけど、いつ来るの?」 「少しして、返信が来る。 「もう来てる」 顔を上げて周りを見回すが、誰もいない。単なる嘘か。・・・・いや、もしかして。 「屋上って、どこの?」 「特教」 特教。つまり特別教室棟のことだ。それならそうと、初めから言ってほしかった。 〈1〉 10 古くさび付いた扉を開けると、屋上の最奥、簡単に乗り越えられそうな低いフェンスにもたれかかった、一人の生徒がいた。 あれが、立花香帆。 私は近くまで歩いていく。足音で誰かが近づいてきているのが分かっているくせに、立花は背中を向けたまま、一向にこちらを振り返ってこない。強者の余裕ゆえか。それが少し、ムカついた。 「なんで入れるの」 あと少しというところにまで近づいて、私は言った。立花はゆっくりとこちらを振り返った。 茶髪のボブで、毛先を薄いピンク色に染めている。風でなびく髪はアイロンでウェーブをかけているようだ。しかしそんなものよりも、何よりも鋭い目つきが特徴的だと思った。私も目つきが悪いとよく言われるけど、立花には負ける。 立花はぶっきらぼうに答えた。 「鍵が壊れてるの。かかってるんだけど、強く押せば簡単に開くことを教職員たちは知らない。だからこうしてこっそりと入り込んでるわけ」 「ここで喧嘩する気?」 「いや、断ったはずだけど」 「逃げるの?」 「そんな安い挑発は乗らない。私は、意味のある喧嘩しかしないの」 意味のある喧嘩、か。確かに、私のとっては意味があるけど、立花には無いだろう。知らない同級生からいきなり喧嘩を売られた程度の認識なのだろう。 「それに私、明日喧嘩を控えてるから」 「その喧嘩は、意味があるんだ」 「あるよ。・・・・ところで今日、何日かわかる?」 「え?・・・・たしか、十七日かな」 「そう。五月十七日。つまり二日前、あれが更新された」 「あれ?」 「これだよ。「クラス内格付けランキング」」 立花がスマホの画面をこちらへと見せてくる。そこに表示されているものには見覚えがあった。『裏掲示板アプリ』に実装されている機能の一つ、「クラス内格付けランキング」だ。確か、生徒たちの格付けの勝敗数をカウントして、在籍しているクラスごとに順位を決める機能だ。お互いの了承の上で行われ格付けなら何でもよくて、殴り合いでも逝かせ合いでも、勝てば等しく「勝ち星1」とカウントされる。そのランキングの順位は毎月1日に更新され、次の月の順位の途中経過が十五日に発表されるのだ。 今日は五月十七日。つまり今から二日前、六月一日に発表される五月分のランキングの途中経過が発表されたということだ。 立花の画面には、彼女が在籍している一年一組のランキングが表示されていて、立花の名前の横には、「勝ち星8」「一位タイ」と書かれていた。 そしてその下に、同じく「勝ち星8」「一位タイ」と書かれている生徒の名前もある。 「・・・・これが?」 「見ての通り、私はいま一年一組の五月分のランキングで一位タイの順位にいる。ある生徒と一位を競ってるの」 「・・・・もしかして、明日の喧嘩相手って」 「そう。同じく「一位タイ」にいる生徒と。この喧嘩に勝利した方が、ランキング一位に一歩リードできるってわけ。一位を目指す私にとっては充分意味のある喧嘩」 「・・・・一位ね」 正直な話、私はそういうものにまったく興味がない。「クラス内格付けランキング」のページを見たのも、入学してアプリをインストールした時以来だし、いま自分が一年三組のランキングで何位にいるのかも知らない。一位なんて称号、欲しければくれてやるって感じだ。 でも、立花はそうではないようだ。 「私は一位にならなくちゃいけない。でもただ数を多く倒すだけじゃ実にならない。強い奴を倒し続けて、強くなりつつ、一位を取る。それが大事なの。だから私とやりたいなら、あんたも自分の強さを証明して」 「どうすればいいの」 「六月一日に発表されるランキング。そこであんたが自分のクラスで一位を取れば、相手をしてあげる」 「・・・・あと二週間で、一位になれって?」 「それぐらいのことが出来ないのなら、私と闘う価値はない」 ・・・・なるほど。随分と言ってくれる。でも、どうせなら強い奴と闘いたいって気持ちは理解できる。それは私も同じだからだ。立花とやるには、私もそれなりの努力をしなければいけないようだ。 立花がどうして「トリマー」を探しているのかを調査するために、その立花と喧嘩するためにランキングで一位を取る。なんだか随分と遠回りをすることになってしまったけど、仕方ない。 「・・・・いいよ。わかった。約束、忘れないでよね」


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