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ゴシック
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※ボツ作品。未完成。極短。『クロスカウンター』

筆折シリーズです。書き出してみたものの面白い展開が思い浮かばずに中断した作品になります。こういう作品が積もるようにあるのでゆっくりとここで公開していく所存です。 『クロスカウンター』  私の右拳が相手の頬を抉り、同時に相手の左拳が私の頬を圧し潰した。  クロスカウンターって、漫画とか映画とかでしか見たことなかったけど、ほんとにあり得るんだ。なんて、呑気なことを思った。っていうかビックリした。まさか、私のパンチに合わせて打ってこれる女がいるなんて。  交錯させた腕が離れ、私たちは同時によろめく。口の中で鈍い血の味が広がっていくけど、唾と共に吐き捨てて相手を睨んだ。 「やるじゃん」  相手の女も、裾で豪快に口元の血を拭い取って私を睨む。 「あんたもね」  名前も知らないこの女との喧嘩は、すでにニ十分近くが経過していた。長くても三分で相手を殴り倒してしまう私としては、かなり長期戦になっている。こんなに拮抗した勝負は本当に久しぶりで、少し嬉しくもあった。  しんと静まり返った森近くの工場に、荒い息遣いだけが聞こえている。私たちは拳を構えながらゆっくりと近づき合い、さっきのようにほぼ同時に動いた。今度は共に右拳だ。打った拳同士がすれ違い、相手の顔面へと近づいていく。そして直撃する寸前、遠くの方で人の会話の声が聞こえてきた。  肉薄していた拳がお互いの顔面の目の前でピタリと止まった。声のした方を見ると、男女六人組がガヤガヤと騒ぎながら歩いてきている。私たちのことはまだ見えていないようだ。どうやら、この工場跡地をたまり場にしている不良連中らしい。  拳を戻した私たちはお互いを見やる。 「どうする?」  私が訊くと、女は溜息をついて答えた。 「・・・・やめよ。邪魔されるかもだし、あいつらの見世物になるのもごめん」 「だね。離れようか」  私たちは消化不良を胸に抱えながら、集団に見つからない様にこっそりとその場を去った。  拳を交えて仲良くなった。とかそんな青春漫画みたいなことではないけど、まあ何となくこのまま別れるのも後味悪いので、私たちは二人で街中を歩いていた。  すれ違う通行人たちのほとんどが、私たちの顔を見て驚いていく。まあそうだろう。私もこの女も、顔にはいくつもの痣や腫れがあるし、服には口元から垂れた血が付いている。髪の毛もボサボサだし、何か事件にでも巻き込まれたかのように見えるのだろう。実際はただ喧嘩をしていただけなんだけど、それはそれで、喧嘩していた二人が横並びで街中を歩いているのもおかしな話かもしれない。  そもそもこの女とは、つい一時間ほど前に初めて会った。私はこの街に引っ越してきたばかりで、家電製品を買うために電気屋さんに電車で向かう途中だったのだ。そんな電車の中で喧嘩を売ってきたのがこの女で、理由は「顔が気に入らないから」だった。私も私でこいつの顔が気に入らなかったので喧嘩を買うことにした。 「あんた、この後予定は?」  女が言う。どこかで続きでもやるつもりなのだろうか。今日は家電を買う気でいたけど、今はもうそんな気分ではないあっちがそのつもりなら受けて立つだけだ。 「空いてるよ」 「じゃあ、ちょっと付き合って」  そして連れていかれたのは、居酒屋だった。どこにでもあるような何の変哲もないところだが、昼間から営業しているタイプのお店だ。平日の昼間とあって、店内はガラガラだった。 「・・・・ここですんの?」 「え?なにを?」 「なにって、喧嘩でしょ?」 「喧嘩?いや、やんないよ。そもそも私は飲むところ探して電車乗ってたの。そこであんた見つけて喧嘩することになったけど、私はいま飲みたいんだよ。とにかく付き合いな」  そう言って女が店内へと入っていきカウンターへと座す。私も仕方なく隣に座った。  酒とつまみを注文し、すぐさま用意された枝豆を口に放り投げながら女は言った。 「それで、あんたどこから来たの?」 「え?」 「ここの人じゃないでしょ?この街の強そうな女はあらかた知ってるけど、あんたを見たのは今日が初めてだから」 「ああ・・・・。二日前に引っ越してきたの。生まれはずっと遠くの県よ」 「ふーん。なんでこんなところに?」 「深い意味なんてないの。ただ、知らないところに行きたかっただけ」


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