大学のキャンパス内を、二見 裕人(ふたみ ゆうと)は肩を落としてトボトボと歩いていた。 ひんやりした風が、裕人に吹きつける。 165cmと小柄な上に胸は薄く、肩幅も華奢気味。線の細さが強調されるせいか、歩く様子にもどこか頼りなさが漂っていた。 「……ちぇっ」 吐き捨てるような声を裕人は漏らした。 つい先ほど、レポート課題を提出した。だが、その大半にAIを使ったことを教授に見抜かれ、たっぷりと説教を受けたばかりなのだ。 「AIに頼りすぎ」「文章から“自分で考えた痕跡”が薄い」「提出し直し」 耳が痛い言葉が並び、裕人は何度も心の中で舌打ちした。 「別にいいだろ……タイパ良くやって何が悪いんだよ……」 ぶつぶつと文句をたれ、重いため息をつく。 すれ違う周囲の学生たちは、サークルの話や旅行の予定で楽しげに賑わっているのに、自分だけが灰色の空気をまとっている気がした。 やる気なんか湧きそうもない。 レポートの再提出など、今は考えたくもない。 (……帰ったら、巨大男の小説でも漁るか) ぽつりと心の中で呟いたその一言、それは彼にとってごく自然な発露だった。 裕人は物心ついた頃から、巨大で屈強な男の姿にどうしようもなく惹かれる、生粋のサイズフェチなのである。 身体が縮小して、屈強な男に弄ばれるといったシチュエーションや、常人よりもはるかに大きく逞しい巨人が、街を破壊し支配するという展開――それらの非現実の光景を妄想するだけで、胸が熱くなるほどの興奮を覚えるのである。 現実の自分が、細くて、弱い存在であるほど、自分が持ち得ないものを備えた“巨大で、圧倒的な男たち”の姿は眩しく、抗いようのない魅力を放った。 「あー……でっかい男が暴れまくる話、読も……」 そんなことを呟いて、彼が建物の角を曲がった瞬間だった。 ドンッ! 鈍い音と共に、彼は走ってきた誰かと激しくぶつかった。 裕人の顔は、ぶつかった相手の厚い胸板にうずまる形となった。一瞬視界がブレる。 細身の体はあっけなく弾き飛ばされ、その衝撃に尻餅をつく。 「わ、悪い!大丈夫か?」 頭上から、野性味がありながらも爽やかさのある、張りのある声が降ってきた。 尻餅をついた裕人に対し、相手はすぐに手を差し伸べてくる。 しかし裕人はその手に手を伸ばすことも忘れ、思わず見とれてしまった。 精悍で男らしい顔つき。短く刈り込んだ髪。そして何よりも、彼の肩から胴にかけての逞しい肉体。厚い胸板の上には、赤と黒のユニフォームを纏っている。裕人の大学のラグビー部のユニフォームだ。 「え、あ、……だ、大丈夫です……」 裕人はしどろもどろになりながらも、なんとか手を掴んで答えた。 裕人がラグビー部員の助けを借りながら立ち上がったところで、 遠くから「おーい! なにやってんだー!」と、他のラグビー部員のチームメイトから声がかかる。 「悪いー! 今行くー!」と応じたラグビー部員は、「悪かった!本当にゴメンな?」と再び裕人に対し心底申し訳なさそうに謝ると、チームメイトのほうへと駆けて行った。 裕人は、少し熱を持った鼻先に手を当てた。胸筋にぶつかった時の、あの分厚く強靭な感触が、残っている気がしたから。少し頬がゆるみ、ふへへ、と声を漏らす裕人。 (……嫌なことがあった後は、良いこともあるもんだな……) 彼の内側を満たす、ささやかな喜び。ぶつかった衝撃からくる痛みなど、どうでもよかった。 「巨大ラグビー部員が出てくる小説とか、探してみるかな……」 裕人は気分をわずかに上向かせながら帰宅の途についた。 アパートに戻り、玄関をくぐった瞬間、裕人は溜め込んでいた疲れを吐き出すように背伸びをした。 レポートの再提出という現実から目をそらすように、鞄を適当に床へ放り、椅子へ滑り込むように腰を下ろす。 慣れた動きでPCの電源を押すと、画面がゆっくりと明るくなる。その光に照らされながら、ピン、とひとつの考えが頭をよぎった。 「……そうだ、レポートを書くときにはレポートアシストAIを使ったけど、サイズフェチ向けのAIってあるのかな」 そんな独り言が自然と口からこぼれた。 考えてみれば、プログラムを作ったり、作曲するような、色々なジャンルに特化したAIがある。 なら、自分の趣味に特化したものがあってもおかしくない――そう思った瞬間、胸の奥に小さな高揚が生まれる。 すぐさま“巨大男 AI”と検索をかけてみる。 すると、意外にもすぐに一つの項目がヒットした。 「サイズフェチ特化AI・巨大男ジェネレーター」 「うっそ……マジであんの?」 椅子に背もたれから背中を浮かし、画面へ顔を近づける。 心臓がじわりと熱を持ち、脈打つたび胸の奥に期待が広がっていく。 気づけば口元に、抑えきれない笑みが浮かんでいた。 震える指でカーソルを動かす。 クリックして開いた先には、大きく 「あなたの理想の巨人を生成します」 という謳い文句が飛び込んできた。 ページをスクロールすると、そこにはまるで本物と見紛うばかりのリアルな画像が並んでいた。 水着姿の筋肉質な男がミニチュアのオフィス街でビルを薙ぎ倒すシーンや、巨人バスケットボール選手が小人の群れに足を踏み下ろそうとする瞬間など。裕人は思わず息を呑んだ。 さらに、物語生成用のサンプルも並んでいる。 「高校球児が巨大化する薬を飲んで街で大暴れする」 「巨人が人間を支配する世界で、巨人の王が人間の奴隷を弄ぶ」 「柔道選手が小人の世界へとワープし、小人を摘み上げては次々に食べていく」 どれも彼の嗜好に直球で刺さる内容だった。 胸がざわつき、気づかないうちに息が荒くなる。 まるで秘密の宝箱をこじ開けてしまったような、背中がぞわつくほどの興奮。 「……ふむふむ……これは……すごいな……」 これを使えば、自分だけの巨人が作れる。 理想を、欲望を、全部詰め込んだ巨人が。 「……よし。やってみるか」 初めて見るサイトだったから、勝手はよく分からないが、 とりあえず何か作ってみようと心が浮き立ち、 裕人はとりあえず大きく表示されている「巨人を生成する」というボタンをクリックしてみることにした。 画面が切り替わり、 「まずは巨人のプロフィールを設定します」 という項目が表示される。 「巨人のプロフィールか……うーん、どうしよう……いざ自由に決めていいってなると、迷うな……」 脳内で理想の巨人像が膨れ上がりすぎて、 あれがいいかな、これもいいかも、とついつい散漫になってしまう。 う~ん、と頭を悩ませていたとき、裕人の頭に、ふと先程ぶつかったラグビー部員のことが思い浮かんだ。 彼の逞しい肉体、精悍な顔つき、そして彼にあの厚い胸板。そこからインスピレーションが生まれた気がした。 「……ああいうヤツにしてみるのもいいかもな。さっきのヤツは……190cmくらいはあった気がする。……それぐらいの身長のラグビー部員って設定に……いやでも、どうせならもっと盛って、2メートルぐらいにしてみようか」 一度ベースが決まると、設定の方向性がするすると定まっていく。 性格も、普段はあんな感じの爽やかで男気がある感じだけど、実はその内側にとんでもない巨大化願望や破壊衝動を秘めていて……と、体験をベースに、彼の理想と欲望を上乗せして設定を盛っていく。裕人の顔はニヤけていく。 「どうせなら、色々とチート級に詰め込みたいよなぁ……」 などと不埒な考えが丸出しになり、項目をひとつひとつ埋めながら更にいやらしくニヤついてしまう。 そして最終的に、こういう設定に落ち着いた―― ・大学生ラガーマン。通常時は身長200cm、体重120kg。 ・普段はラグビーに真剣に取り組む男だが、強い巨大化願望や征服欲や破壊欲を抱えている。 ・特殊な能力を持っており、指でぐるりと円を描くだけで別次元へと繋がる穴を作ることができる。さらに接続した先の世界のスケールを自由自在に変えられる。 ・大抵は200分の1サイズにして、好き勝手に暴れまわる。部活後、汗だくのユニフォーム姿のまま暴れるのが習慣となっている。 ・小人を食べるのも好きで、小人を摘み上げては生きたまま丸呑みにしてしまう。 文字にしてみると、我ながら相当な“盛り方”だったが、 裕人の胸は満ち足りたように熱く、自分の嗜好がそのまま形になっていく高揚にぞくぞくと震えた。 「ふふん……完璧だ。これでいこう」 満足げに頷き、裕人はついに、「生成ボタン」へカーソルを合わせる。 そして―― 深呼吸のあと、そっとボタンをクリックした。 生成された物語が、凄まじいスピードで画面に表示されていく。 文字列が流れていくたび、裕人の胸は自然と高鳴った。 --- 昼下がりの大学ラグビー場。 ひときわ大柄なラグビー部員――五条 厳(ごじょう げん)は、チームメイトとともに激しい練習に励んでいた。 精悍で男らしい顔つきに、短く刈り込んだ髪。 赤と黒のユニフォームには土と汗がまだらに付着し、盛り上がる筋肉の上を汗がゆっくりと伝い落ちていく。 その頬には、小さな傷が一筋ついており、その体つきとあいまって、野性味を醸し出していた。 「五条、今日やべぇぞ。動きキレすぎだろ!」 「おう。まだ余力あるわ。次のセットも全力でいくぞ」 短く笑い合い、仲間と肩をぶつけ合う。 昼間の五条は豪快で気さくな、どこにでもいる体育会系の男に見えた。 やがて太陽が沈み、練習が終わる頃には空は真っ暗だった。 ラグビー部員たちはぞろぞろとロッカールームへ向かい、各々がユニフォームを脱いで汗を拭き、着替え終わると早々に帰っていく。 「五条! 今からみんなで飯食いにいくけど、お前も来ないか?」 「あー、悪い、ちょっとストレッチしてくわ。先帰っててくれ」 軽く手を挙げて答える五条に、仲間は特に疑いもなく頷き、そのまま荷物をまとめて出ていった。 ロッカールームに響いていた雑談の声も、扉が閉まると同時にぴたりと途切れる。 静寂が落ちる。 そして――その静けさの中で、五条の胸の奥に潜んでいた獣の本性が、にじり、と目を覚ます。 その変化は、ごくわずかな表情の変化から始まった。 昼間の気さくで豪快な体育会系の顔つきが、ふっと影を差したように冷たい色を帯びていく。 頬の傷とその表情とが合わさって、どこか「狩り」を前にした獣のような血の気を感じさせた。 五条はゆっくりと息を吐き、独り言のように低く呟く。 「……へへ。この汗だくの身体で、思い切り暴れられる時間が、ようやく来たぜ」 その声音には、昼間の五条からは想像もできないほどの獰猛さが潜んでいた。 五条は普段こそ仲間と切磋琢磨しあう、充実した学生生活を送っている。 が、その胸の奥底には、五条本人でもどうすることもできないほど強烈な“怪獣のように暴れて、全てを破壊したい”という、常軌を逸した巨大化願望が渦巻いているのだ。 しかも五条は、その願望を“現実に叶えてしまえる”だけの能力を密かに持っていた。 それは、空中に円を描くだけで、別次元へと繋がる穴を開けることができる力である。 その穴の向こうにある世界は、五条の思うがままにスケールを自由に調整できる。 大抵の場合は200分の1のサイズの世界へと赴き、そこで傍若無人に暴れまわるのが、部活後の日課となっていた。 「……そろそろ、行くか」 五条は右手を上げ、いつものように人差し指で空中に円を描く。 軌跡をなぞるように光の筋が現れ、それは輪となり、瞬く間に五条の体がくぐれるほどの大きさへと変じていく。 その輪を見つめる五条の瞳には、暴力を前に興奮する野獣の光が宿っていた。 「へへ……今日も、好きにやらせてもらうぜ」 ぽつりと呟くと、五条は躊躇いもなく光の輪の中へと、スパイクを履いたその大きな足を踏み入れた――。 --- 「……おぉ、冒頭からめっちゃ良い感じじゃん……」 興奮混じりに呟きながら読み進めていた裕人だが、 次の瞬間―― ドズウウゥゥゥゥゥン!!! 腹の底から揺さぶられるような重低音の地響きが鳴り響き渡った。 「な、なんだ!?地震か!?」 裕人は椅子から飛び上がった。 一度目の大きな衝撃音の後、再びズズウウウン!!と大きな音が響き、外からは悲鳴や怒号らしき声も聞こえてくる。 「な、なんだぁ……?」 そのまま慌てふためきながらも、ともかく玄関へと急ぎ、逃げ道を確保しようと扉を開け放つ。 そして―― 裕人は目撃する。 街中に、 赤と黒のラグビーのユニフォームを着た、 筋骨隆々の肉体を持つ、 400メートの巨人が立っているのを。 そして―― 巨人の頬には、小さな傷が一筋。 「……え?」 声が震えた。 脳が現実を理解しようと痙攣する。 全身の血が逆流したかのような寒気が走るのが分かる。 しかしそこにいるのは、自分が“設定した”巨人・五条 厳。 そうとしか思えない存在が、目の前に顕現している。 放心する裕人の耳へ、空気を裂くような大音量が轟く。 「俺の名前は、五条 厳!!」 「や……やっぱり……!」 裕人の口から、思わず声が漏れた。 自分が設定し、生成された物語に登場するそっくりそのままの男。 こんなこと現実であるはずがないのに、今、疑いようもなく目の前に存在している。 その確信が恐怖へと変わり、胸が締めつけられる。 「俺の名前を覚えておけよ、これからこの街を壊し尽くす“破壊神”となる男の名だ!」 五条はその宣言を合図に、近くのビル郡へと薙ぎ払うような蹴りを叩き込んだ。 ズバァァアアンッ!! 瓦礫が雨のように降り注ぎ、人々の悲鳴があちこちから湧き上がる。 ズズウウン!ズズウウウン!! そして容赦なくスパイクを履いた足を交互に踏み下し、ビル群をメチャメチャに踏み潰していく。 「ははは、脆ぇなぁ! もっと壊し応えのあるビルはねぇのかよ!」 楽しげで、残酷で、完全に“あの設定”のままだった。 裕人の足は震え、心臓が早鐘を打つ。 周囲の街は一瞬でパニックの渦に飲み込まれた。 悲鳴、怒号、逃げ惑う人々。 「に、逃げろおおおおおお!」 近くにいた誰かが発したその声に我に返った裕人は、駆け出していた。 避難といっても、どこへ向かえば安全なのか分からない。 裕人はただ直感に従うように、巨人から少しでも遠ざかる方向へ必死に走った。 呼吸は荒く、足は震え、視界の端では街灯が揺れて見える。 ズズウゥン!ドゴオオン! 背後からは、ビルが薙ぎ払われ、踏み潰される轟音が次々に響いた。 そしてそれに混じって、巨人の尊大で小馬鹿にするような声が、街中に反響する。 「あーあ、本当に弱っちいな……。この街全体壊し終えるまでにいつまでもつだろうな?」 その言葉の軽さが、逆に恐ろしく感じられた。 しかも裕人にとって悪いことに、巨人がゆっくりと歩を進めるたび、 ズシーン、ズシーンとその足音は確実に、こちらへ近づいてきている。 ――ど、どうして……こんなことに。 涙が滲み、足がもつれそうになる。 胸が締めつけられるように痛く、呼吸が乱れる。 だが走る中で、ふとひとつの考えが裕人の脳裏を刺した。 あのサイトで生成したから――なのか。 あの生成するを押した瞬間、五条 厳を本当に“生み出してしまった”からなのか。 あとサイトは、物語を作るんじゃなくて、実際に巨人を生成してしまうのか。 自分の何気ない行動に絶望する裕人。 しかし、それと同時に彼にもうひとつの可能性が閃く。 もしかして、生成された物語を書き換えられれば……止められるかもしれない……! ほとんど藁にもすがる思いだったが、それでも希望は希望だった。 裕人は方向を変え、必死に自分の家へと戻るように走り出す。 もちろん、巨人が迫り来るこの状況で家へ戻りPCを操作するなど自殺行為に近い。 だが、迷っている暇はなかった。 「戻らなきゃ……戻らなきゃ……!」 引き返すたびに、巨人の足音がより鮮明に響いてくる。 ズズウウン……! ズッズウウウゥゥン……! 前進できないほどの激しい振動が地面を通じて足に直に伝わり、裕人の華奢な身体も震える。 それでも裕人は、ただひたすらに家を目指し続けた。 ようやく自宅マンションの壁が視界に入った――その瞬間。 ズズウウウウウウン!!! ひときわ大きな地響きが轟き、 裕人の目の前で、五条の巨大な足が、裕人の家を真上から踏み潰した。 瓦礫が爆散し、粉塵が舞い上がる。 押し潰された建物がガラガラと崩れ去る音、ガラスの破砕音の後、 目の前にあるのは一瞬で瓦礫の山となった自宅と、それを下敷きにする巨大なスパイクのみだった。 当然、PCが生きているはずもなかった。 「あ……ぁ……そんな……」 全身から力が抜け、裕人はその場に膝から崩れ落ちた。 目の前で消えた“唯一の希望”を、呆然と見るしかなかった。 その時、不意に視界が暗くなる。 大きな影が、裕人の上へすうと覆いかぶさった。 見上げる。 五条 厳の獰猛な瞳がこちらを見下ろしていた。 「なんだ? 逃げ遅れかぁ?」 馬鹿にしたような声音。 その余裕が、恐怖をさらに増幅させる。 巨人はゆっくりと腰を落とし、むっちりとしたケツも、筋肉質な上半身も地上へと迫ってくる。 裕人は震え、息すら止まりそうになる。 理想を詰め込んだ存在だったはずなのに、 今頭上に存在するのは“恐怖そのもの”だった。 巨大な親指と人差し指が動き、裕人の身体を器用につまみ上げる。 「う、うわああああ……!」 身体が宙に浮き、胃がひっくり返るような感覚が襲う。 五条は目の前まで裕人を持ち上げ、 ぺろりと舌なめずりをした。 「ふん……ひょろっとしてて美味くもなさそうだが……まあいいか」 そう呟いた後、「あーん」と冗談半分な調子で声を出しながら、その口がゆっくりと開いた。 眼前に広がるのは、暗く湿った洞窟のようだった。 そこから、湿った熱気を伴う吐息が吹き付けてくる。 その洞窟のような口の入り口には、歯並びの良い白い歯が石柱のように並び、舌はヒダひとつひとつが確認できるような巨大さだ。 そしてその奥には、不気味なほどの暗闇が続いている。 巨大な口の上で宙吊りにされている裕人は思い出した。 ――五条のプロフィール。 自分が書いたひと言。 “小人を食べるのも好きで、小人を摘み上げては生きたまま丸呑みにしてしまう。” 裕人の背筋が凍る。 「や……やめろ……!お前を生み出したのは……生成したのは、この……俺だ……!」 必死に声を絞り出すが、巨人には届くはずもない。 次の瞬間、巨大な指が放され、裕人の身体は巨大な舌の上へとぽとりと落とされた。 「ひっ……!」 ぬるりとした唾液が肌にまとわりつく。 巨大な唇が閉じ、世界が完全に闇に閉ざされたかと思うと、足元にあった太い舌がうねり、まるで玩具のように裕人を弄んで転がす。 「ひぎぃ……んぐっ!!」 舌先という、身体のごく一部でさえ、自分のような矮小な存在では太刀打ちできる相手ではないと、絶望的な強大さを思い知らされた。 「はぁ……はぁ……っ!」 息も絶え絶えといった裕人に更に追い討ちをかけるように、舌によって強制的に喉の奥へと追いやられる。そして、 ゴクリ。 抵抗する間もなく、裕人の身体は嚥下により一気に喉奥の闇へと引きずり込まれた。 「あああああ……い、嫌だああああ……!!」 暗く、狭く、湿ったチューブのような食道。 周囲の筋肉によって無理矢理押しつけられながら、裕人は落下していく。巨人の体の内部へと引きずり込まれていく感覚は、恐怖を超えて嘔吐感を催させた。 バシャッ、と音を立てて、裕人は胃袋へと辿り着いた。 周囲を満たすのは、停滞した不快な熱気と、強烈な酸の匂い。 すぐに皮膚にじりじりと焼けるような苦痛が走り出す。 彼の創造した理想の巨人は、裕人自身を消化し、その身体の一部にしようとしている。 もう、二度と外へは出られない。裕人の目が光を感知することはこの先にはもうなのだ。 かろうじて感じ取れるのは、外から聞こえる、くぐもった五条の声だけだった。 「へへ……お前も、この身体の一部にしてやるからな……」 ポンポン、と掌で腹でも叩いたのか、自分のいる空間ごと振動するのが感じ取れる。 その間にも、みるみるうちに全身が灼熱に苛まれていく。 裕人の意識は、 五条の体内で――永遠の絶望に沈んだまま、ゆっくりと、静かに消えていった。