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ワモン
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先行公開的なあれ

こっちの音沙汰がなさすぎるので今書いてる小説の進捗で誤魔化すスタイル。

いやしいね。

魔法シリーズでテールプロミーズ仙台支部のお話だそうですよ奥さん。




溺れる夢(仮題)


唐突だがこれをお読みの皆様方は一度でも、たったの一度でも“人魚”を見たことがあるだろうか。

人魚。

マーメイドだ。

人間の上半身に魚の足を持つなんとも意味不明でいかにもな器用貧乏感満載のアレだ。不都合で不合理で誰かのフェチにまみれたアレだ。

そんなものただの作り物であることなど百も承知だ、しかし。しかしながら僕は問わずにはいられない。

これをお読みの皆様方は一度でも、たったの一度でも“人魚”を見たことがあるだろうか。

僕はある。

今この瞬間にだ。

眼前の水槽の中で、死んだように動かずいるそれを、僕は人魚だと形容せずにはいられない。


01

「なんだこれ、死んでんのか?」

「いや、死んではないよ」

「へぇ、じゃあこれ生きてるんだ」

「いや、そうでもないんだ」

隣で鳥仮面の魔術師はなんだそりゃと笑った。

「死に続けているんだよ、そういう命令をしたから。これは水槽の中で溺れ死んで、そして生き返ってまた溺れて死ぬ。それを繰り返すだけだ」

「なるほど“従属の魔法結晶”か、虎の子を出すとはそちらも余程の被害を被ったと見える。それなのに早い仕事だ、優秀がすぎるぞ」

「支部も全力を尽くしたからね、こういうのは早い方がいい」

彼は一考して水槽を向く、中のそれはマネキンのように動かない。

「人魚」

「あ?」

「そう見えるってだけだよ、僕には人魚に見える...“彼女”が」

「...........情が移ったか」

僕が拾って半年一緒に苦楽を共にした、そりゃ嫌でもうつる。いろんなものを得て失って作っていった仲だ。

そりゃあ...こんな終わり方なんて。

「まぁいい、慈雨からこれの処分を頼まれている。その前にこれの事を報告も込めて教えてくれ、わかることは知っておきたい、お前たち仙台支部がどう過ごしてきたのかも」

僕が顔を上げると彼女はゴボッと空気を吐き出した。

彼女はまた溺れ死んだ。

これで212回目だった。


02

何も聞こえない。

無音の水中、私がただ我慢できなくなって息を吐く、その時のごぽごぽという音以外何もわからない。目に水が染みる痛みはいつからか感じなくなった。

すりガラス越しみたいなぼやけた視点で私は水槽の外を見る。

支部長と誰だろう?仮面の人だ、何か話してる。大方私の処分なんだろうけど。

思えばなんでこうなったんだ?

私はただ生まれて、そこで生きて、そこで幸せに過ごしていたはずだろう?なんでこんな冷たくて狭い水の中で死に続けているんだろう。

どうして?どうしてかな。

わからない、どんなに考えても、知恵を尽くしても私には全く想像もつかない。もしかしたら私は、私自身という存在がいけなかったのかもしれない。だったら私はどうやってもこの結末からは逃れられないじゃないか。

はは。

誰か笑ってくれ。

愚かだとただ一言吐き捨ててくれ。

きっとあの2人はそんなこと言ってるのかなぁ、でも支部長優しいからなぁ...私のこと、いい子だったって言ってて欲しいな。

水の中じゃ、何も聞こえないけれど。

私はそう願った。

願いながらまた死んだ。

212回目の溺死だった。


03

少し時間を戻して物語を始めよう。私の物語と支部長の。

始まりは今と同じ冷たい水の中からだ。


降りしきる雨の中、足音が聞こえる。物陰に縮こまって眠気を我慢する私に向かってくる音。こちらに近づくにつれ、ぱしゃりぱしゃりと大きくなる。

やがて私の目の前で止まる。

「この子かい?」

『ええその子です、さっさと連れてきてください、仕事が山積みなんですから』

「わかってるよ。ねぇ君、そこの君だ、君の事を言っている」

「ん...」

こんな雨の中傘も差さない男がいた全身だら濡れのびしょ濡れで髪の毛も服も張り付いてる。そんな男が私に、私だけに話しかけているのだ。

「自己紹介してもいいんだけど、僕は傘も差さずに歩き回っていたせいでこれ以上長居したら風邪をひきそうなんだ。だから手早く行くよ」

「.......」

「僕ってやつは今から誘拐しようと考えてるらしいんだよ」

「え?」

誘拐?誘拐ってあの誘拐?融解ではなく?

私なんか連れ去っても悲しむ家族も手に入る金もないのに?

「そう、だから誘拐するんだ。大丈夫、生活は保障するから、広い個室に温かい布団、三食飯付きで風呂にも入れる、人も結構いるから友達も沢山できる、服だってそんなの着てなくても新品のいいのがたんまりあるんだぜ?一つだけ約束できるならそこに連れていってあげよう、嫌と言っても連れて行くけどね」

「...約束って」

私に手段はなかった。家もあらず、親もおらず、頼りにできる他者は誰もいなくて、いつのまにかこんな所でこんな風になっていたから。

その約束とやらがなんでも私は飛びついただろう、たとえ性処理用の便器にでもなり下がろうとも、食肉加工用の家畜になろうとも、私は男の話に乗った。

「誰にも言わない事、これから君の身に起こる事をどこの誰にも言わない事、これから行くところの所在をどこの誰にも言わない事を、そこへの行き方をどこの誰にも言わない事。それができるならご招待、できなかったら誘拐だ、どうする?」

「します...約束...できますから...」

「うーんいい子だ!」


04

奇妙な反応を検知したと連絡が入ったのはつい先ほどだ、紀良 鏃(きら よじり)に一報が入った。つまり僕にはそう報告が上がった。人とも獣とも判別できない理解不能な反応だとの報告だ。

誰も出払っていて傘も差さずに飛び出して、いざ来てみれば寂れた路地裏、支部からはそう離れてはいない。いかにもな雰囲気の場所に人の足が見えた。細く不気味な美しさの曲線を描くそれはまだ生気に満ちていて、久方ぶりに背筋がぞくっとした。

女の子だった。

特筆すべき特記事項はその女の子が妙な格好という点だ。拘束衣にも似た、白に黒のベルトが巻かれた服は何やら未知の言語で文章のようなものがあちこちに書かれている、それこそ札のようだ。拘束衣にはそれ以外にも十字架と紙垂とかのモチーフが大量かつ乱雑に盛り込まれている。

服がはだけて覗く彼女の体には、これまた先ほどの言語と同じ未知の言葉で何か書かれている。刺青か刻印か判別のつかない模様のような言語を身につけた少女の周りには明らかに場違いな物体が散乱している。一見するとゴミや瓦礫のように見えるそれらはどれもこれも複雑怪奇な模様が刻まれていた。

このタイミングで通信を入れた。

「この子かい?」

『ええその子です、さっさと連れてきてください、仕事だが山積みなんですから』

「わかってるよ。ねぇ君、そこの君だ、君の事を言っている」

僕は彼女を勧誘した。このまま野放しよりはいいと思ったからだ、そして何よりも好奇心が恐怖を殺したからだった。

「僕ってやつは今から誘拐しようと考えてるらしいんだよ」

彼女はすんなりと受け入れた。


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