NokiMo
ワモン
ワモン

fanbox


さんまるのやつのしんちょく

奇跡の日本軍人。極東の島国にそう呼ばれている男が1人いる。 能都 銑十郎と言う男だ。つまりは俺だ。 実際俺はそんなこと思ってないし、実戦でどんなに困難な作戦を命じられても成功させてきたなんてこともあったけれど、それは結局のところ試合に勝って勝負に負けたみたいなものだった。 何度も、何度も。自分で忘れちまいそうなほど。 失ってきただけだった。 この能都 銑十郎は...奇跡の日本軍人はそう言う男だ。 結果だけの奇跡の男だ。 だが、しかしだ。 そうだとしても俺は奇跡を起こしてきた、何度も何度も。忘れちまいそうなほど。 だから、生きているなら何度でも奇跡なんて起こしてやる。 それぐらい大得意だ。 01 地球低軌道宙域、ちょうどこの惑星が見渡せる。 「どうだラマーシカ、お前がずっと見たがっていた景色だぜ、なんか感想でも言えよ」 凱歌のコクピットから秘匿回線で僚機へと繋げる、相変わらず応答はない。 「イーダルサスーリカ、今はバージョン3だったか。まだそれに乗ってんのかよ」 向こう側からの応答はやはりない。 「へ、何も言いやしねぇ...お前そんな愛想悪い女だったか?」 にしては従順についてくんだよなぁコイツ。 ま、俺もそういうのは嫌いじゃねぇけど。 02 かなり時間を巻き戻そう。そうだな、大体1年くらい巻き戻すか。 富嶽戦術教導団、そこの団長だったあたりまで。 「転属ゥ?」 「どうかなされましたかな銑十郎殿、おやこれは...」 「見ての通りだ柏木、明日付けでロシアに飛べだと。連合所属になる」 少しシワのついた通知書を渡す。柏木はため息一つついた。 「これまた急ですな、これも彼らの体質か...全く直してもらいたいものですな」 「ちなみに消去法でお前が団長だってよ」 「なっ⁈」 柏木が顔を歪めた、そりゃいきなりだもんな。俺ら日本軍人にとっては沖縄から北海道に転属なんていうとんでも転属なんて日常茶飯事だけれど、まさか日本の教導団からロシアの連合支部なんてケースは俺も聞いたことがねぇ。 いや多分俺が知らないだけでどこかしらにはあるんだろうけれど。 「はぁぁぁぁぁ...なんでぇ転属なんて、よりにもよって国外なんてよぉ」 「大方、銑十郎殿の噂を耳にしたとか...ですかな?」 「勘弁してくれよ」 チッ、ようやく後方で一時休息ができると思ったのによぉ...なんで駆り出されんのかねぇ。 気乗りしねぇぜ全く...だからって行かないわけにもいかねぇ。 「む、銑十郎殿ここを」 「あ?なんだ...煌星の輸送?あの機体もロシア送りか⁈」 見れば俺が以前乗っていた機体だ、ほとんどワンオフの。んなもん持ってって何しようってんだあそこの連中は。第一、六等星系列機のライセンス生産は許可されているはずだろう? 「まぁいいか、俺ちょっと荷物まとめてくるわ、これ頼むな」 「ええ、それでは」 03 翌日、飛行機に揺られること数時間、俺は地球連合軍極東ロシア支部へと到着した。 数時間のフライトのせいで腰が悲鳴をあげていた。高速フライトでずっとがっちり固定されたままだったからな...。 滑走路に降りると隣に大規模な市街地を模した演習場が見える、さすが大陸だクソ狭い島国の日本と違ってスケールがでかい。どうやら現に演習の真っ最中のようだ。 「あいつはロシアのsU3000...サスーリカだったか」 六機で小隊を組んでやがる、にしても遠目から見ただけだがあの連携凄まじいな...一矢乱れぬっていうか、強固かつ柔軟っつうか。 「貴様が能都 銑十郎だな」 「あ?」 後ろに停車した軍用車両からだ、乗っているのはおっさん一人だけ...待てよ俺この人どこかで...確か教導団にいた時に何かの写真で見たような...。 「ゲオールギー...ゲオールギー・バルィシュニコフ大佐ッ⁈」 「?なんだ知っていたのか」 そうだバルィシュニコフ大佐といえばユーラシア解放の英雄じゃねぇか!そこいらの教科書にも載るような人物だぞ⁉︎そんな人がなんだってんで俺を? 「迎えに来たからに決まっているだろさて、貴様にはこれから私の直轄で動いている“フェーヤ小隊”に編入となるからな」 「はぁ...」 「不満か?」 「いえ、なんと言うかまさか大佐殿のような人物が私のような教官上がりの兵士に対して直々に出迎えに来るとは思ってもいなかったもので...」 「奇跡の日本軍人様にそう言っていただけるとは光栄だな」 「やめてくださいよ、それ」 言いながら車に乗る、俺が座ると間髪入れずに発進した。 奇跡の日本軍人...。仲間見殺しにして得た称号なんざいらねぇよ。 「言ってしまえば人殺しの末の異名ですよ、そんなのたくさん死んだ」 「私だってそうさ、たくさん死んだよユーラシア解放という悲願のために、我先にと言わんが如くね」 笑い飛ばした大佐の目はなんだかずっと遠くを見ていた。 聞くところによればユーラシア解放作戦はこの世の地獄だったらしい。そりゃあ生き地獄から帰ってこればあんな顔にもなるか...。 「さ、ついたぞ」 短いドライブの末、ずっと向こうに見えていた建物の真ん前に降ろさせた。ここがこれからの拠点となる場所のようだ。 「ようこそ地球連合軍極東ロシア支部へ」 04 一通り基地を案内されて小一時間、自分の荷物をまとめた後ブリーフィングルームに通された。 狭くも広くもない部屋には机が7個並んでいてそのうち5つに人が座っていた、全員女、年端もいかない少女だ。 「小隊全員揃って──ラマーシカはどうした」 「はーい、お姉ちゃんならハンガーで男の子捕まえて遊んでると思いまーす」 「あいつめ...すまない中佐、急用ができたようだすぐ戻る」 そう言うと乱暴に扉を閉めて出て行ってしまった。怒りの形相って感じだったけど...なに?なんかとんでも問題児でも抱えてんのこの小隊...。 「あんたが補充要員?」 前列一番左の少女が言う。 「ん?ああ...らしいな」 「えーでもさー、久々の追加が男でしかも外国人ってぶち壊しもいいとこっしょ」 「そんな失礼なこと言わないの、せっかく私たちのために日本から遠路遥々来てくれたんだよ?」 「ぐぅ...Zzzz」 自由すぎない? 寝てる奴いるし...なんだろう学校の先生が『今日は自習だから』って言って出てった時の教室みたいなかんじがする。 「「「「「わーわー!ぎゃーぎゃー!」」」」」 仲良いなコイツら。 気楽に話せるのもかなりの信頼関係がある証拠か、見れば歳も近そうだ。本来なら学校に通ったり友達と出かけたりして青春を謳歌しているような年頃だろうに。 こんな状況作り出したのも俺たちの責任か、戦争はどんな非道も許容する...。 「チッ...」 今更ながら自分らの無能さに腹が立つ、こんなガキどもに殺しを教えてしまう無能が。戦争が始まってもう何年と経っている...最初は同族、今では宇宙人。全人類いや地球生命全体の危機かもしれねぇのに隣人同士でいざこざを起こしている自分たちが情けなくてしょうがねぇ、しかし人間は大きな理由じゃ戦えない。結局のところ、根っこの部分は両手のひらに収まるくらいのもんでしか戦えねぇんだ。そりゃああっちこっちでいざこざも起きる。 「早くしろラマーシカッ‼︎貴様これで何度目だと思っている‼︎」 「いでぇぇぇぇ‼︎引っ張んないで引っ張んないで!私の超絶サラサラヘアーがぁぁぁぁ‼︎‼︎」 「ええい喚くな騒がしい‼︎」 む、どうやら遅れて一人ご到着らしい。随分と荒っぽいお迎えだが...問題児というのはあながち間違いじゃないらしい。 「すまないな中佐、駄々をこねるものだから...」 「むぐーっ‼︎」 首根っこ掴まれて登場しやがった...親猫に運ばれる子猫かよ。 「はぁ...さてこれで小隊全員揃ったな、早速で悪いが貴様たちも知っての通り我がフェーヤ小隊に補充要員が入った、中佐」 「は、日本国軍富嶽教導団から転属となった能都 銑十郎中佐だ、よろしく頼む」 部屋全体がざわめく。ははぁ、どうやらアレはここまで響き渡っているらしい。 「あの...ノト センジュウロウってもしかして」 「いかにも、彼こそ極東防衛の要...その一人、奇跡の日本軍人の名で知られているな」 「────ッ⁉︎」 やべぇ、期待一身に背負っちまったかんじか? 「それでは我が隊のメンバーを紹介しよう、まずは...先ほど連れてきた前列右側のフェーヤアヂーン、ラマーシカ・スニグラチカ少尉」 「こんなでも一応は隊長、よろしく中佐」 「前列中央、フェーヤドゥヴァー、キーラ・アヴェリナ少尉」 「よろしくお願いします、先程は姉が失礼しました...」 「前列左側に座っているフェーヤトゥリー、ノンナ・バーベリ少尉」 「ん、よろしく」 「後列右側はフェーヤチティーリ、ライサ・ベレフキナ少尉」 「うぃでっす!よろでっす!」 「後列中央で堂々と寝てるのがフェーヤビャーチェ、セラフィマ・ヴァルーヒナ少尉だ、起きろ寝坊助‼︎」 「ひゃい⁉︎」 「そして最後にフェーヤシェースチ、ファイーナ・ガガリーナ少尉」 「よろ〜♪」 あー、なんつーかさっきから思ってたが個性派揃いだ。日本にもいろんな奴がいたが少なくともこんなに色とりどりって感じじゃなかったな。 「以上、私と貴様を含め全8名だ、これから貴様はフェーヤセーミとして嫌と言うほど働いてもらうからな、覚悟しておけ」 「は!」 「なお、特例として隊長はスニグラチカ少尉のままとなる...わかったな?」 「りょーかーい」 フェーヤ小隊、全員女の小隊、全員白に青混じりの髪をしたやつら。そこに危険な気配を感じていた、根も歯もない噂話の一つで“ロシアは自国で極秘裏に人工生命体を作っている”という...それを関連させざるを得なかった、こんな歳ではあるが結構オカルト好きな奴なんでね俺は。 宇宙人なんてのはもう大嫌いになっちまったが。 もしも本当にそうならば人権問題に直面するはず、戦時下とは言えそれは避けられない。しかしロシア国内でそう言った行動は無いと聞く、考えすぎか? みんな仲良く髪染めてるだけか? 「さてここで一つ能都中佐の歓迎会でもやってやりたいのだが、現時刻から13時間後に無理矢理演習の予定を組み込ませてもらった、貴様たちはこの方がよかろう?」 「うげ〜」 「文句言わないのライサ、ハードスケジュールはいつものことでしょ」 「それはわかってるけどさぁ、ファイーナの機体そろそろ丸一日使ってオーバーホールしないとぶっ壊れるんじゃないかなって」 「確かに...」 「別に大丈夫っしょ、さっき市街地演習場でも動いたんだし」 さっきって言うと俺が飛行機から降りてきた時か、あの時の戦術機動はコイツらが...まさか自分より遥かに年下の子供がやってのけたなんて...。それだけ操作系統が簡略化されているのかとてつもない練度なのか、どちらにせよ久々に他国ほ手応えのありそうな奴らと戦えるのは楽しみではある。 05 デブリーフィング終了は意外と早かった、というか日本でもこんなもんだったか。長いことこっちには関わっていなかったから感覚を忘れていたのかもしれん。 ちなみにスニグラチカ少尉はコッテリ怒られ、その後反省文だそうだ(災難なこって)。 「演習まで休暇が与えられたが、さてどうすっかな」 荷物は粗方整理し終えた、暇を潰せるような書籍は持ってきてねぇし自堕落に過ごす気もない、かと言って筋トレする気にもなれない。どうしたものか。 「あ」 そうだハンガーに行ってみるか、時間的にちょうど煌星の搬入が終わっているはずだ。 整備班の連中に色々教えてやらねぇと...なにせアレは姿形さえそこらの量産されている煌星と同型だが中身が完全に別モン、言ってしまえばこの能都 銑十郎専用機な訳だからな。 渡された資料との差異でびっくりこいてなきゃいいが。 「よう、整備班長はいるかい?」 「ええ、あそこに」 煌星の足元にいかにも年長者かつベテランの雰囲気を醸し出している男がいる。あの人か。 「誰か呼んだか?...っと、あんたは確か能都中佐だったか。わざわざこんな辺境の地まで来てとんでもない部隊に編入されちまったみたいだなぁ、ドナート・アバーエフ整備長だこれから頼むな」 「能都 銑十郎中佐だ、よろしく頼む」 軽く握手し煌星に向き直る、いやぁいつ見ても男前なツラだねぇお前は、なんつーか“カッチョイイ”って奴だな。自分で言うのもなんだが。 「どうだいコイツは」 「もうどいつもこいつも興味津々だ、見た目こそ既製品のモンだが中身が違う。見たことない機体構成に新型の動力炉、おまけにこの並外れた機体スペック、こんなん見せられて興奮しねぇメカニックなんざいねぇぜ!」 「そんなにか?」 「ああ、基地中のメカニックが舌巻いて驚いてんだ、中にはびっくらこいて腰抜かした奴もいるぞ」 いやいやそんなそんな...っつっても確かに今回持ってこいと言われた煌星は実質的な俺専用機、徹底敵に改造を施したワンオフ。そこらの煌星と比べりゃ全くの別物だから一般機のデータを見ていたやつからすればそうなるか。 「はは...そりゃコイツはオーバースペックすぎるからな」 「と言うと?」 「昔コイツの開発にあるパイロットが関わっていてな?そいつが実戦試験の時に今の煌星よりも劣るスペックの試作型でかつ単騎でタコ助どもの...バイロンの基地を壊滅的させちまってな、嘘や誇張はねぇぞ」 「はぁ⁈⁈」 ありゃ腰抜かしやがった。確かに俺だって最初聞いた時は耳を疑ったさ、しかし乗ってたのが“閣下”ならそれも頷ける。 「ま、そんなんで俺が乗ってたコイツには“それ”が要求されてんのさ、EXM単騎かつ短時間での敵基地の攻略がね」 「なんだ...だったらあのスペックにも納得がいくぜ畜生...にしても随分無茶な」 「六等星計画は日米共同と言っても機体の方向性はアメ公が決めちまうんだよ、そんで荒唐無稽な運用思想が出てきちまうんだが...いかんせん日本の技術が高いんでおおむねその思想が大体実現できる機体が完成するそうな...俺はメカニックじゃねぇから詳しくはわかんねぇけど」 てか六等星系列機ってライセンス生産できたはずだけど...確かコイツも含めて。アメリカとの取り決めでそうなっているはずだ、こんな機体があるんだったら何でこっちの軍は導入しねぇんだ? 「それは、ほらユーラシア各国は自国の技術育成で手一杯でさ。政治的思惑もあってあんまり他国の機体は使わなかったのさ」 「おいでなすったか問題児」 ハンガーの奥からゆったりとこちらに向かってくるのは、先ほどこっぴどく叱られていたスニグラチカ少尉だった。 てか反省文書くの早くね?普通もう少しかかりそうだけど。 「私にかかればあの程度の文章なんて敵じゃないね」 「んなもんに手慣れる前にさぁ、いい加減常習犯っぷりを直してくれないかねぇ少尉殿?うちの若手が使いもんにならなくなっちまう」 「えーだって経験豊富なのもいいけどウブな方が好きなんだもん」 なんの話だよ...いや予想はつくがまさかそんな...ねぇ?だって16とかそこらの“女の子”だぜ?いやいやまさかまさか。 「ああ能都中佐、一応言っときますけどコイツ売女みたいなもんなんだよ...うちの連中誑かして機体の影とかハンガーの隅っこでヤっちまってんだよ...それで毎回怒られてるわけ」 「ぶふっ⁉︎」 「あれ?オッさんこの手の話苦手なかんじ?」 おい待てゴラ。 たかが16やそこらのガキが恥じらいもせずなんてことしてやがる。貞操観念ゆるキャラかテメェは。 「隊長殿は節度ってのを知らねえのか...?」 「そんなもん守って気持ちよくなれるか‼︎」 「なっ⁈」 意外と速攻で返答しやがったコイツ...!こんなオープンな奴日本にゃどこ行っても居なかったタイプだな、ちくしょう俺こんな奴の下に就くのか? 認めたくねぇ...。 「ふっふっふ、どんなに嫌がっても私が上司だもんね~」 「くっ...」 調子好きやがってこの野郎...演習で目にモノ見せてやる。 「それでさぁ、結局のところどうなの?この機体」 「ん?コイツ俺が教導団に行く前に使ってたやつだからな...操作感にしたってなんにしたって練習機とは全く違うし乗りこなせるかは危ういかもしれねぇ」 最近はもっぱら練習機だったからな...久々にコイツ動かしたら身体がびっくりしちまう。 G負荷...耐えられっかな、あの時は若かったし専用のスーツまで支給されてたし...今すぐ動かすとなると多少のスペックダウンは確実か。 だがそんなの乗り手の技術でどうでもなる、俺も教導団で無駄な時間過ごしてた訳じゃねぇんだ。 「そこんとこは俺ら整備班がなんとかしてやるよ、サスーリカ6機だけでもかなりの手間だが間に合わせるさ...親父さんも無茶なスケジュール組みやがる」 「そんなのいつもの事じゃん、大佐にしろ国にしろ私らの完成は急ぎたいんだから」 「そんじゃオッさん、演習楽しみにしてるから。吠え面かくなよ〜」 「お前もな、っと...ドナート整備長、俺もコイツの調整手伝ってもいいか?」 「そんなわざわざこんな仕事やってもらう訳には...」 「俺もコイツ状態確認しときてぇんだ、元々そのために立ち寄ったんだし、それに乗り手兼有識者いた方が良くね?」 「そりゃ大助かりだが...とことんこき使うぞ?」 「望むところで」 06 13時間後。 地球連合軍極東ロシア支部市街地演習場。 「アヂーンからドゥヴァー、アグレッサーの位置は?」 『こちらドゥヴァー、アグレッサーは捕捉できない。おかしいな...もう接敵してもいいくらいなのに』 『ビビって近づいてこないんじゃない?』 『だといいけど、能都銑十郎にかぎってそんな事はないでしょ』 「全機警戒を厳に、全方位を警戒しつつ前進」 『了解』 気味が悪いほど静かだ、演習中にこんなの滅多にない。全員経験ないからやはりバイタルはいつもより緊張状態だ。 『レーダーに感あり!12時方向距離5000!接敵まで...20秒ッ⁉︎尚も加速中!』 「なにっ⁉︎」 嘘だ捕捉から接敵までが速すぎる...それでいてもっと速くなるだと? 「全機散開ッ!高度をとって立体戦術にて対処しろ!相手は速度が仇となり急な方向転換を制限されるはずだ!そこを確実に突く!」 『了解ッ‼︎』 6機が一斉に上昇しバラバラの場所へ、煌星は目下まで迫っていた。 みる限りあのままこちらを迎撃とはいかないだろう、必ず方向転換時に背中を晒すはずだ。 『────成る程、いい指示だスニグラチカ少尉』 その通信が入った頃には煌星は円状に広がった私たちの陣形のど真ん中に位置していた。 「まさか...地面を蹴って直角に上昇してきたのか?あの速度で?」 身体がミンチになるぞ...そんな馬鹿げた機動⁈ 『並みの機体とパイロットならな、だがッ‼︎』 「シェースチ狙われてるッ‼︎」 『わかってる!そんなは機動はそっちだけじゃない‼︎』 ファイーナ機が負けじと機体を捩らせ回避してカウンターの姿勢へ、すると煌星はそれを予測していたかのように無理矢理姿勢制御をして後ろへ回り込んで一撃喰らわせた。 『シェースチ動力部に被弾、致命的損傷、大破』 「嘘ッ⁈」 煌星はすぐに反転して撃墜判定となったファイーナ機の影から飛び出す。太陽を背にした白色の機影は酷く気味が悪い。 これじゃまるで死神みたいだ。 「アヂーンより各機!とにかく動き回れ!真っ向勝負が現実的じゃない以上、数的有利を活かして相手が誰かを追跡している隙をついて仕留める、いいな!」 一目散に地上を目指す者と空中機動でできる限り翻弄する者とで分かれた、私は司令塔ということもあり一度地上へ下がる。空中ではノンナ機とセラフィマ機が煌星と近接戦を繰り広げている。流石と言うかなんというか、元々敵部隊に斬り込んでいくポジションにいる二人は手慣れた動きで相手を追い詰めているように見える。 「ドゥヴァー、チティーリはお互い離れた位置から砲撃支援、撃てると思ったら迷わず撃て、誤射になっても弾はあっちが避ける」 『了解』 『おっけー』 私は指示を伝え終えると2人とは逆方向に飛び出す。無論空中で格闘戦を繰り広げる2人の援護のためだ、近接格闘で唯一善戦できそうだったファイーナが最初にやられた以上ポジションから考えて私がカバーに入るしかない。 やれるか?あの化け物じみた機体を。 「やるしかないだろう、ラマーシカ・スニグラチカッ‼︎」 無理に自分を奮起させ照準を合わせる、ギリギリショットランスの射程内だ、ここで私に注目させれば煌星はキーラ機とライサ機に背を向けることになる。 「そーらこっちだ!オッさん‼︎」 3発威嚇で撃つ、ちょうどノンナ機とセラフィマ機をすり抜け煌星を掠める。 「どうだ⁈」 『ふん』 煌星は私の期待とは裏腹に、真っ先にキーラ機の元へ向きを変える。 『逃がすかッ...‼︎』 『よそ見するなッ‼︎』 「ダメだ!トゥリー!ビャーチェ!戻っ────」 叫び虚しく煌星は火の粉を払うように二機を討ち取る。 『トゥリー右主腕、動力部に被弾。致命的損傷、大破。ビャーチェ両脚部及び左腕部に被弾。行動不能』 「チッ」 私には興味ナシってか!随分とムカつく真似してくれるじゃねぇかオッさん‼︎ 『こちらドゥヴァー、バンデットインレンジ、エンゲージオフェンシブッ!』 『チティーリよりドゥヴァー、アヂーン、マニュアルで撃つからそっちで避けてちょ!』 「全く無茶なことを...‼︎」 『ねーたちだったらできるでしょ、こっちも最大限誤射には気を付けるし〜』 『じゃあ私の流れ弾当たっても文句言わないでよ!』 キーラ機が1発、同時にライサ機も2発撃った。私の見立てはどう避けても1発は当たる、なにせ狭い場所だ回避行動も取りづらい。これで隙を作れば私らの勝ちだ。 『挟撃⁈ならばっ‼︎』 煌星は即座にブースターをガシャガシャと忙しく動かし手足振り回し、地面を蹴ってビルを蹴って機体を捩って、さながら生身の人間のアクロバットのようにして避けて見せた。 『はぁ⁈⁈』 『そんな...そんな機動がEXM、いや人型兵器にできるの⁈』 『ちょいと関節が悲鳴をあげるが────な‼︎』 そのまま銃口を向けて2発ずつ撃った。2機は先の機動に呆気に取られ動くことすら出来なかった。 『ドゥヴァー、チティーリ、右主脚、機関部に被弾。致命的損傷、大破』 残るは 『お前だけだ、隊長殿』 「みたいだね...オッさんッ‼︎」 無策にもショットランスを構えて突っかかる、なにせ相手は拳銃しか持たない機体だ、現状一人でできる攻撃はリーチの差で攻めてそのまま撃つぐらいだ。下手に逃げたらやられる。 『煌星相手にドッグファイトか、いいじゃねぇか乗ってやるッ‼︎』 「吐かせよ‼︎」 煌星は拳銃で刃を受けてそのまま流す、動作の途中に2、3発撃っていた。私は無理に機体を傾けなんとか回避、左に回転して加速し、今度は後方からもう一度突く。 『おっとぉ⁉︎』 おちゃらけたセリフを吐きながら煌星は天高く飛び上がった。私の刃はすんでのところで届かなかった。 「バカに...するなッ!」 負けじと上昇して追撃に移るが煌星の機動に機体がついていけない、速度もそうだが例のアクロバットを空中でやられちゃ私には対応できない。クソッせめてキーラがいればこの動きでも足の一本くらいは奪えたのに。 煌星はさらにこれ見よがしに加速する、焦りと動揺を拭うようにこちらも後を追う。機体間の距離は縮まらない、さっきから大体同じ距離を保っている。 『中々しつこいじゃねぇか隊長殿は』 余裕そうに言う能都 銑十郎の声は優れない様子、この短時間であれだけの戦闘機動をしたんだ、身体にダメージがない方がおかしい、無傷だってんならそれこそ奇跡だ。 「ただで墜とされてやるほど親切な女でもないんでね!こっちも思い切りやらせてもらう!」 最大加速で距離を縮める。 まだだ、まだランスの射程外だ。もう3、4メートル詰めないと確実に当たらないッ...! 「ッ...オォォォォォッ‼︎」 身体が押し潰される、内臓が飛び出そうだ。視点はただ煌星だけを見つめて期を伺っている。 ギザギザに蛇行しながら飛行する煌星、まだ急激なアクロバットの様子は見せない。叩くなら今しかない。 「ぐっ...ぅぅぅぅ...」 ちくしょう...G負荷のせいで狙いがつけにくい、操縦桿を握る手の操作がおぼつかない、アラートも聞きづらい、視界も狭まってきやがった。 目を見開け、手を動かせ、狙いを定めろ。 せめて一撃ぶち込んでやるよ...‼︎ 「そ...こ...」 「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ‼︎‼︎」 ロックオンの表示を視界の隅で捉えた瞬間、ここぞとばかりに乱射する。ばら撒かれた弾丸は確かに煌星に着弾した。 『バンデット1、左主脚及びスラスターユニットに被弾、出力35%低下』 『────ッ⁈』 ザマァ見やがれオッさん。 機体高度が下がってきている、このまま追撃すれば...。 「あ...れ...⁈」 煌星の機影が視界から消えている、見失ったか⁈ チッ...視界がさっきよりも狭くぼやけて見える、野郎どこ行った⁈ 『流石だ、まさか当ててくるとは』 気づいて、レーダーを確認する。煌星がちょうど真後ろにいる。 まずい、早く回避行動を...。 『その様子じゃまともに動けやしねぇだろ、隊長殿の肉体のためにもこいつで終いにしてやる!』 煌星が放った弾丸が私のサスーリカに着弾する。回避行動は取れなかった。 『アヂーン、機関部に被弾。致命的損傷、大破。速やかに演習開始位置へと後退せよ』 07 ハンガーに戻り機体から降りると目下に満身創痍といった様子の4人が見えた。 あと2人、ベレフキナ少尉とヴァルーヒナ少尉はまだ機体の方にいた。 俺は声をかけようと動く、一歩踏み出すと自然にすっ転んでしまった。 やべ...足元がフラつきやがる、ブランクあるってのにいきなりあんな機動するんじゃなかった...心なしか吐き気も目眩もする...。いやむしろこれだけで済んでよかったか。 手すりに掴まって立ち上がり、顔色を整えリフトを下す。小走りであいつらの元に駆け寄ると案の定沈んでいた。 やりすぎたかなぁ...やりすぎたよなぁ...。 「おーう、その...どうだい調子は」 話しかけるといち早くアヴェリナ少尉が反応した。 「よくはないですよ...なにせロシア最強と名高い私たちが演習とはいえたった一機の相手に負けたんだから、お姉ちゃんはそうでもなさそうだけど」 「ウップ...ゥェェェェェェェ...ゲフッゲフッ」 真ん中に蹲って吐いていたのは他でもない、さっきまで俺と格闘戦を繰り広げていたラマーシカ・スニグラチカだった。 「前言撤回します、一番重症かも。肉体的にも」 「ヒュー...ヒュー...ウゥッ」 完全にゲロインが誕生していた。 「くそっ...初陣で吐きも漏らしもしなかった私がこんな所でこんなオッさんにっ」 割とすごいことをさらっと言いやがる、吐きも漏らしもしなかったなんて...こいつもしかして相当肝が据わっているのでは? いやもしくはただの鈍感野郎か薬の影響か。 「ねぇ」 「ん?」 「あの機動どうやったのか教えて、私たちの連携を捌いてた時とキーラ姉さんとライサの挟撃を避けた時」 後ろからズバッと聞いてきたのはバーベリ少尉だ、クールぶってはいるものの本心はそうではないらしい。 「ああ、あれな、若い頃良く生身の喧嘩でああいう動きしてたからよ、どうにかこうにか機体に再現させてみただけだ。大体の動きは結構単純で、必要なのはタイミングだ。それさえわかればあの機動も割と簡単にできたりする」 「ふぅん」 そっけない返事をすると彼女はスタスタと去って行った。 「ちょっとノンナ!勝手に行かないで!」 「離れたとこで休憩する、ラマーシカ姉さんゲロ臭くて耐えらんないから」 「ゲロ臭いって...もう!言うにしてももっとオブラートに包んで言いなさいよ!」 「いいのよキーラちゃん...お姉ちゃんゲロ臭いの事実だからさ...」 四つん這いのまま顔を上げずに言う。一呼吸ついて彼女は俺を見上げると、ニタァと口角を上げた。 「なんだよ」 「性能差のある機体で勝って粋がってんじゃねーぞオッさん...!」 「何を言い出すかと思えば...言っとくけど俺結構余裕無かったからな、ガガリーナ少尉の機体が残ってたら多分負けてた」 まぁいけんだろって思って舐めてかかったら案外そうもいかなかった、6番機を早々に仕留めていなかったら近接戦に気を取られていてあっさり狙撃されていたかもしれないくらいだ。 「ほーう?そんなにウチは脅威なんだぁ」 「戦闘機動についてはさっき言及されていたからな」 機体がぶっ壊れそうなほどの動きとなると機体のフレーム強度にもよるがおそらく俺の動きに匹敵するからそれ以上だろうな。 「いやぁしかし残念だな、直に見てみたかったのに」 「なにそれー、嫌味でも言ってる?」 「かもな」 「カッチーン...」 割と短気だなコイツ。 「キーラ姉!このおじさんぶっ潰したい!」 「そう逸んないで、あと本人の目の前でそんなこと言わない。思うだけにしときな?」 しっかりしてるなこの子は、上があんなので下がこんなのばかりだとやはり真面目になるのか...そうだよな、ブレーキ役が1人くらいいないと暴走しちまうもんな。 「...にしてもベレフキナ少尉とヴァルーヒナ少尉が降りてこねえが...なんかあったのか」 「ライサとセラフィマ?ああ、あの2人なら今に声かけてくるよ...ウップ...ッ」 吐き気を催しながらの回答の直後、5番機の方向から 「誰かー!セラフィマ起こすの手伝ってぇぇぇぇぇぇ‼︎」 とベレフキナ少尉の大声。 え?なに?あいつまさか寝てんの?今日まだもう一回演習の予定があるんだぞこのすぐ後に、そんな状況で寝てんの? 「じゃあウチ行ってくるわ」 「うんお願い...前のブリーフィングで見ましたよね、あの子が堂々と突っ伏して寝てるの」 「いびきまでかいてたな」 「セラフィマって睡眠欲の塊みたいな子なんですよ、隙あらば寝ちゃうんです、どんな状況だろうと。本当お恥ずかしい...」 俺は個性的でいいと思うが、見ていて飽きない。 「ちょいと揺さぶれば起きるんじゃねぇか?前だって一喝されて起きただろ」 「実はあれ大佐だからで...私たちがやっても起きないんですよ」 「あの子の睡眠は筋金入りだからね、多分敵襲が来ても起きない」 言いすぎじゃね?というかいくらなんでもそんなことはないだろ。 「前のブリーフィングの時もこうで、なんとか運んだんですよ...三人がかりで部屋まで」 「随分厳重な護送体制だな」 話している最中も5番機からは賑やかに(状況的には賑やかではないと思うのだがとにかく賑やかに聞こえる)騒ぐ声、ハンガー中に響いていることを考えると相当な大声だ、多分喉は無事ではあるまい。聞こえる音はだんだん激しくなっていく、終いには引っ叩く音まで聞こえる。 「あー、もうアレ使うしかないな、お姉ちゃん使用許可」 「もう派手にやっちゃいなさい!」 スニグラチカ少尉が指を鳴らすと2秒ほどたったあと絶叫がした。色気も女らしさもへったくれもない、まさしく“ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎”という、宛ら大怪獣の雄叫びにも聞き取れるヴァルーヒナ少尉の絶叫だった。 「ごめんなさいごめんなさい!起きてます!おめめパッチリですぅぅぅぅ‼︎‼︎────あれ?」 「はいおはよー、セラフィマ姉」 「んにゅ?なんだファイーナちゃんか...びっくりした...Zzzzz」 「ねーるーなー‼︎」 「...なにしたんだ?」 聞けば今まで地面に突っ伏していたスニグラチカ少尉がむくりと身体を起こし不適に笑って 「こんな時のために大佐の怒鳴り声を録音しておいたのさ、ふふふまさに効果的面、本当はこんなことに使う予定じゃなかったけど」 成る程...よくやるわこいつも...。 懲りねぇんだなぁ。 「慣れてると言ってくれないかい?」 「そんなもん慣れるやつじゃないでしょ!」 底なしの馬鹿かもしれなかった。 08 実機演習は滞りなく行われ、二度目はフェアな条件でやれとのブーイングもあり(6人全員のコンビネーションの前ではぐうの音もでない、ずるいぞそれ)サスーリカの予備機を使うこととなった。 とは言ったものの機体条件以外は以前と同じ1対6であることには変わりなかった。俺が勝ったという結果も、先程と変わりなかった。 「オッさんもしかして天才か...?」 「いや、各国で兵器体系は千差万別だけれどもEXMの管制ユニットだけは万国共通だからこれくらい乗り慣れてりゃできるっての」 「戦闘機動が異次元なんだよ、コッチのはオッさんの煌星よりも動きが重いのによく同じ機動できるね?」 さすがにバク転じみた機動は腕のフレームが死にそうだったからしてはいないが、しかしそれでも機体には負荷をかけてしまったようで演習だってのに機体箇所破損のアラートが鳴ってしまった、猛省猛省。 「してる風には見えないのだけれど、特に顔」 「元からこういう顔だっての、ケチ付けんな隊長殿」 「やめてよそれ。第一、階級はオッさんの方が上でしょ」 「じゃあもう少し上官に対する口の聞き方をだな───」 「やだよ」 即答ッ⁈ 「それに距離感作るよかいいでしょ?同じ部隊だし、人数少ないんだし」 「...まぁ俺入れて出撃するのは7人だからな」 「元々連隊だったんだけどね、フェーヤって」 連隊...じゃあ100人もいたのか、前線では戦況が苛烈だから人員不足のために補充要員が間に合わずそのまま部隊規模を縮小するって話しは珍しくないが、あっても一つか二つ小さくなるくらいだ。連隊規模の部隊が小隊規模になるなんて滅多に聞かない。 「ユーラシア解放作戦でまず極東ロシアを取り戻したあと、そのままの勢いで進軍してね。フェーヤ連隊が最前線だのを務めたせいもあって今はこんなんってわけさ。ま、私はその頃前線にすらいなかったけど」 今17ね、と付け足す。お前その歳で売春行為なんてしてんじゃねぇよバカ。 もう少し健全に生活しやがれ。 ともあれユーラシア解放は10年前、歳を考えれば徴兵対象にすらなっていないな。いやこれは日本の基準だから違うか...対象年齢は各国で異なっていた筈だから、確かロシアはいくつからだっけか。 「優秀な奴らは12から軍事教練には参加してる、士官学校に特別編入って形で」 「ふーむ...やはり敵支配域が間近にある国は違うな」 「日本も同じようなもんだって聞いてるけど?」 「ありゃ九州と北海道が陥落してた時だ、もう10年くらい前に取り返してる」 「ふぅん、で、オッさんは当時出撃してたの?その歳じゃ任官してたでしょ」 言われて思い出す、そうだ俺は確かに10年前には任官していた、青森臨海防衛戦、北海道・九州奪還作戦、確かに俺は参加していた。当時の日本は絶体絶命、北と南を占領され、さらにはユーラシア大陸からの大規模侵攻の可能性を孕みながら水際の防衛線を維持してきた。そりゃ戦況も良くないし関東関西圏には沖縄、九州、四国、近畿、東北、北海道からの戦災難民が一気に押し寄せてきて一時はスラムがあちこちに形成されていた。 それを見るたび自分の無力を恨んだ。 .............。 「あーどうだったかなぁ、なにせ10年も前だもんなぁ忘れちまったよ。うろ覚えだ」 はぐらかした、本当はしっかり覚えてるさ。難民の恨み言に同胞の断末魔までしっかりな。 でも俺は言わなかった、口実は色々あるけれど結局は俺自身がそんな事思い出したくなかったからだ。 「なんだよそれ、まぁ人間は忘れる生き物って言うけどさぁーその歳で忘れたは流石にビョーキなんじゃないのオッさん?」 「言ってろ売女隊長」 「なんだとぅ!」 きっとこいつは...そんな俺の矮小さを見抜いていたんだ。 09 11年前 5月19日 20時37分 東京駅付近 ──────── 「また難民が増えましたな、まさかここにまで溢れかえろうとは」 「ああ...東京までごった返してくるとはな」 「そう肩を落とさず、中尉は、銑十郎殿はよくやったと...私は思いますが」 「柏木...」 「急ぎましょう、もうすぐ列車が到着する頃だ、厚木行きはこれを逃せばもう明日までは待ちますからな」 「そうだな、遅刻だっつわれてどやされたくねぇしな」 11年前 5月19日 20時50分 列車内 ──────── 「どうなっちまうんだ...俺たち」 「さぁな、今は軍が踏ん張ってくれてるけど...いつまでもつか、噂じゃ防衛線をまた後退させるらしい」 「またかよ、やられっぱなしじゃねぇか。──なぁあんた軍人さんだろ?」 「────っ...」 「あんたらがもう少し大陸で踏ん張ってくれてたらこうならなかったんじゃねぇのか...!」 「そっ...それは...」 「あんたらが力不足だったからこうなったんじゃないのか?どうなんだよ?」 「お待ちを、公共交通機関内では静かにと習わなかったのですかな?」 「でもよぉっ!」 「現在近畿、東北では日本国軍本土防衛連隊が決死の覚悟で敵軍を押しとどめています、国防をまかさせる最強の部隊、相当腕が立ちます故ご心配なく...どうかここは抑えていただきたい」 「...わかったよ」 11年前 9月22日 11時9分 日本国軍厚木基地第3演習場 ──────── 「能都中尉...だっけ、今日も相当気合が入っているな」 「ああ、ほら見てみろ中尉のスコア、俺たちよりかなり上だぜ」 「はー...敵わねー、やっぱ覚悟がちげーのかなぁ...」 「そんな事ねぇよ単騎での評価なんてアテにならないのは知ってるだろ?」 「お、噂をすれば」 「蹴上中尉と山代中尉だったな、俺は能都 銑十郎、補充要員でザウバー大隊に編入になった。どうかよろしく」 「ふむ、補充要員ね、こんだけ腕が立つんなら即戦力ものだぜ」 「はは、....あっと俺大隊長から呼ばれてんだ話はまた後でな」 「おう、────結構心配だったけど戦力的には本当に大丈夫そうだな、むしろ上がったんじゃないのか?」 「けどよ山代あいつなんか変な感じするぜ...」 「なんだよ」 「こう、とても危うく見えるんだ...」 10年前 3月27日 1時46分 北海道、旧札幌市街地 九州・北海道奪還作戦第3段階作戦開始より6時間経過──────── 「ザウバー6よりHQッ!ザウバー6よりHQッ!応答せよ!ザウバー6よりHQッ!」 『物資が3割を切った...まずいぞ銑十郎』 「わかっている!クソっ!誰も出やしねぇどうなってんだ⁉︎」 『銑十郎殿、もしやHQはもうすでに...』 「こんな早く壊滅するかバカ!恐らくこの吹雪が通信障害を起こしてんだ...察するにタコ助どもが細工したんだろう...!」 『なんと巧妙な...』 『こちらザウバー8、高熱源体反応!数36、大隊規模だ!一つだけでけぇのがいる...!』 「まだ来んのかよッ...!ザウバー6より小隊各機、使える武装かき集めて集合、楔型第一陣で高速突破する...」 『無茶だ銑十郎ッ‼︎推進剤は平均して残り2割、補給しても5割がいいところなのに────』 「だったらここでタコ助に黙って殺されろってか!俺は嫌だね!民を殺され国土を蹂躙され、それを取り戻すためにここに来たってのにこのまま死ぬなんて絶対嫌だぜ俺は...どうせ死ぬなら今からでも補給コンテナに爆薬詰めて単身突撃するね!」 『ッ...』 「ここを離脱して日本海軍連合艦隊と合流すればまともな補給も受けられる、この状況もなんとかなるかもしれない、1番近い第二艦隊主力の信濃、美濃、加賀は最終更新されたデータでは全艦健在...どうとでもなる筈...」 『.......銑十郎殿の案に賭けましょう』 『柏木お前正気か⁈』 『蹴上殿、仮にもこちらの乗機は最新である02式、それに高速戦闘用の装備だ。推進剤を節約しつつ匍匐飛行で全力噴射すればなんとか敵大隊を抜けれる、もちろん戦闘行動と被弾を一切しないと言う条件付きではありますが...』 『無茶だ無謀だ!できっこない!奇跡でも起きない限りは───』 『蹴上!忘れたか!うちの小隊長の名前を!』 「.......そうだ、俺は」 「奇跡の日本軍人・能都 銑十郎だ!見てろお前ら、今から全員生還の奇跡を起こしてやるッ!120秒以内に補給を終えろ!いいな!」 『『『応‼︎』』』 010 「...寝ていたのか」 えらく懐かしい夢見たな...厚木にいたのはもう10年も前なんだな。 なんだよ、ちゃんと覚えてるじゃねぇか。 忘れたわけねぇだろうが。 「あのあとどうなったんだっけ...」 確か中団に突っ込んで...それでなんか三つ首のデカイのが出てきて...。 「っ────痛ってぇ...二日酔いかよちくしょう...」 昨日確か入隊祝いでたっぷり飲まされたんだっけ...あーしんど。思い出すのやめた。 「.........」 北海道、今どんだけ復興進んだんだろうな...奪還には成功したけどその後どうなったのかはポツリポツリとしか聞いていない。そこに住んでた民は...帰れたのだろうか。聞く限りには関東にごった返してた難民は随分少なくなったって情報はあるが...。 ちくしょう、作戦後すぐに教導団に左遷されたのが裏目に出たぜ、そういや蹴上と山代とも連絡は取ってねぇしな...あいつら今どこの配属なんだっけ。俺が厚木を去った後は2人して別の場所に配属されたらしいけど。 「銑十郎さーん」 ドアの向こうから声がする、アヴェリナ少尉だ。 「はいはい、起きてるって...」 「うわっ、おはようございます」 「なんだよ“うわっ”って」 「顔...青いですよ...」 「お前らが調子乗って飲ませるからだ、痛っててて...」 「ごめんなさい、大佐はいつもあれくらいお酒飲むので同年代の銑十郎さんも大丈夫かと...」 「酒豪のロシア人と一緒にするなっての、あと俺まだあんな歳いってないし...で、なんの用?」 ドアにもたれかかって吐き気と頭痛を我慢しながら聞く、これだから酒はあまり好きじゃない。 「シュミレーター訓練の前に食事でもと思って、ちょうどPX空いてる時間帯なので」 「あーうん...顔洗ったら行くわ、その間に他の奴ら起こしとけよ、全員で飯食った方がいいだろ?」 「もう起きてますよ、セラフィマ以外」 だろうよ。 「ひゃいぃぃぃぃぃッ⁉︎⁉︎」 「訂正、今起きました」 「いつもあんなんなの...?」 結構な騒音だぞアレ、割と目覚ましがわりにでもなりそうなくらいだ。 「はいこれ、二日酔いの薬です、医務室からお姉ちゃんがくすねてきたやつなので何か言われたらお姉ちゃんのせいにしていいです」 「手厳しくない?」 「いいんですよそれくらい、お姉ちゃんものともしませんから」 懲りなさすぎる、反省と言う行動を知らないのかあいつは。 なんで小隊長やれてんだよ。 「早くしないと銑十郎さんのぶんまで食べられますよ?」 「へへ...こちとら昨日食ったぶんまで吐いちまったもんだから腹減ってんだ、ご勘弁願いたいね」 011 「ロシア料理出るんだここのPX」 「でも合成だから美味しくないよ」 「どこも同じか、アメリカぐらいだもんな普通に天然もの食えんの」 独り言に返してきたバーベリ少尉はケロッとした表情だったが意外と具合悪そうだった、そりゃ意地張って同じくらい酒飲むから...。 「これは演技、あんまりにも銑十郎がかわいそうだから私なりの慈悲」 「嘘つけ」 だとしたらそれはどんな慈悲だ。 「うぐ」 図星を突かれたのかただ単に吐き気を催したのか顔色を悪くする、この場合どっちもかな。 「銑十郎、私の心読んだ」 「はぁ?なわけねぇだろ」 「嘘、私の演技は完璧、パーフェクト、パー壁」 今時どこからそんな単語覚えてくるんだよ。 パー壁って。 何十年前だよそれ流行ったの、もう死語だぞ。死語通り越してもう化石だよ。出土しない限り出てこねえぞ。 「バーベリ、パー壁」 「そんな駄洒落みたいに言われてもだな」 「ご存知ない?」 「ご存知ない」 即答するとショックを受けたらしく暫く固まってしまった、ははぁクールな子かと思っていたがさてはそうでもないな? むしろその逆だな? 「銑十郎なに固まってるの、みんな待ってるから早くして」 「いやそれお前だろ...ったく」 えっとあいつらの座ってるとこは...あーみっけた、同じような髪色してる奴が5人集まってると見つけるの楽だな。白に青混じりって、やっぱり染めてんのかあいつら?にしても奇抜すぎるだろ、他を見渡してみてもそんな派手な髪色のやついねぇもんな、あのテーブルだけ異様だもんな。 「ねー遅かったじゃん」 「銑十郎が遅いだけ」 「あーもう銑十郎さんダメっスよ?レディ待たせちゃ」 「え?なんで俺が悪いみたいになってんの?」 待たせられた側だが? 「大方ノンナが待たせたんでしょ、あんまり嘘ついちゃ駄目よ?」 「うん、前向きに検討するように善処しておく」 「それ絶対しないやつよね、しない時の言い分よね」 「キーラ姉さん達には嘘つかない、ライサとセラフィマとファイーナと銑十郎には嘘つく」 「俺も入ってんのかよ!」 「全く、下3人はまだしもオッさんは年上なんだぞノンナちゃん」 「「「まだしもっていうな!」」」 「やめてよ!それなにも言えなくなるんだから!ねぇオッさん!」 うわでたそのコンビネーション、若干一名口調が強すぎる...言っとくが俺はその倍の量を喰らったんだぞ。 てかお前も同じようなこと俺にやったろ。 「それはそれこれはこれ」 「うっせ」 「うわぁぁぁぁ‼︎みんなしていじめるぅぅぅぅぅ‼︎」 どう見ても嘘泣きみたいな声を出した。流石にまずいと思ったのかアヴェリナ少尉がフォローに入り一時的に宥めたが、いつまた難癖つけられるかわからなかった。 「オッさんどうだった?ロシア料理の味」 「ん?まぁ強いて言うなら普通」 「普通⁈嘘でも美味しいって言うところじゃん⁈」 「どうせ...合成だからね...ふぁぁぁ」 大欠伸をこくなヴァルーヒナ少尉よ、また寝るんじゃなかろうな。 俺は運んでやらんぞ。 「大丈夫...私は寝てても...歩ける」 どんな技術だ、イルカかなんかの類かお前は。 「シュミレーター起動したら...やる気出すから安心してね」 常日頃やる気は出してくれ。 ともあれシュミレーター演習、日本じゃ実機でばっかやってたからあんまし触れたことないんだよな...柏木が言うには質の高い体感ゲームみたいなもんって言ってたっけ。あいつのゲームという表現には些か信用に欠けるが...。ま、やってみりゃわかんだろ。 聞くよりやる方が手っ取り早い。 012 「おお...ここが敵支配地域エヴェンスク...」 結構キッチリ再現されてやがる、家庭用ゲームなんかのCGじゃねぇ...まるで本物じゃねぇか。 まぁ本物見たことないんだけど。 『このデータは10年前のロシア解放作戦当時のエヴェンスク周辺を再現してある、解放作戦第一段階最大の難関とも呼ばれた要塞基地もな。これは作戦に参加していたプラーミャ連隊のうち、生還した20名のサスーリカ乗りが持ち帰ったデータの再現だ』 プラーミャ連隊、あの隊の編成は...寒冷地仕様のアルト50機、試作型のサスーリカ50機、戦闘車両200輌、機械化歩兵1500名、歩兵2300名だったな。 『彼のプラーミャ連隊は我々よりも遥かに劣る装備でここエヴェンスク及び極東ロシア地域の奪還という大偉業を成し遂げた、我々が今ここでこうして訓練が行えるのも偉大なるプラーミャ連隊の挺身あってこそだ、心しておけ!』 中々熱い口上じゃないの、やはりスニグラチカ少尉はあんなでもパイロットか...ここのシーンの貫禄だけで言ったら俺より5つは歳上に見えるぜ。 『これより300秒後に接敵だ、フェーヤセーミは単独で突撃して進路を開け、オッさんの機体はその為にあるんでしょ?』 「まったくもってその通りだが隊長、そいつは些か丸投げしすぎじゃねぇか?」 『なに?怖気付いたの?』 「まさか!一番槍もーらいッ‼︎」 スロットルを全開にしてブーストジャンプ、そのまま敵陣に突っ込んで着地と同時に2、3機墜とす。 『残った私たちは楔形参陣で全力噴射、セーミが開けた道を一気に走り抜ける、到着まで60秒だ!ちんたらしてる余裕はないぞ‼︎』 『『『『『了解‼︎』』』』』


Related Creators