「ンッ……!」
「いいですよ、角田さん。その調子です」
今度のドラマで自衛官役をやることになった俺は、いつも通っているフィットネスクラブでパーソナルトレーナーを付けて念入りにトレーニングをしていた。角田圭祐、46歳。渋さのある外見と低く落ち着いた声が評価され、世間的には「イケオジ俳優」で通っている。とはいえ、若い頃から続けているモデル業もおろそかにはしていない。ここ数年は、中年男性向けのファッション誌と契約を結んでおり、継続的にモデル撮影も行っていた。俳優とモデルをするうえで、フィットネスクラブでのトレーニングは欠かせないルーティーンだった。
「ふうっ……」
「お疲れ様でした」
ダンベルを置くと、俺のパーソナルトレーナーの澤村さんが笑顔でねぎらってくれた。澤村さんは二十代後半くらいのトレーナーで、見るからに快活で逞しい若者──だったはずなのだが、目の前にいる澤村さんは脂ぎったM字ハゲと見事な太鼓腹をしており、髭の剃り跡が濃い顔に、下卑た雰囲気の笑みを浮かべている。まるで貫禄のある中年男性のような風貌だった。
(ん?)
何か──おかしい気がした。最近このフィットネスクラブはオーナーが変わったらしく、雰囲気も以前と違う気がする。どこがというとよくわからないんだが……トレーニングを終えた俺はクールダウンをするべく、マットレスが敷いてある場所に移動した。トレーニングシューズを脱いで、続いて半ズボン型のコンプレッションウェアを下着ごと脱ぐ。ぶるんと汗臭いチンポと金玉が揺れた。俺はマットレスに寝転ぶと、股を広げて両足を抱えた──いわゆるちんぐり返しの体勢だ。
「それじゃ、澤村さん。今日もクールダウンお願いします」
「……角田さん。今日のクールダウンは、オーナーも同席したいとのことです。よろしいでしょうか?」
「え? はい、わかりました」
新しいオーナーとは何度か顔を合わせたことがあるが、なんとなく苦手な感じの人だった。なぜ苦手なのかも、うまく説明できないんだが……そうして待っていると、フィットネスクラブの奥に向かって澤村さんが「こちらです」と手を挙げた。すると、のしのしと足音を立てて脂ぎった中年男がやってきて、声を掛けてきた。
「トレーニングお疲れ様です。オーナーの河内です。いやあ、さすがは角田さん。相変わらず素晴らしいお体ですねぇ……」
「まあ、体が資本なので」
河内はこれまた見事な太鼓腹と、まるで油を塗ったようなテカテカのハゲ頭をしていた。側頭部に髪が残っている、いわゆるU字ハゲだ。垂れ目がちで、好色そうな顔つき。汗染みのある白いポロシャツからツンと酸っぱい匂いを漂わせている。河内はムフリと小鼻を広げながら、俺の体を無遠慮に触った。
「んんっ……素晴らしい腹筋だ。とても40代とは思えない割れ具合ですね。ちなみに、奥様とのセックスの頻度は?」
「週に2回程度ですね」
【オーナーの質問には全て正直に答える】必要があるため、俺は嘘偽りなくセックスの頻度を答えた。オーナーは俺のチンポを片手で緩く扱き始めている。俺は呼吸が浅くなるのを感じながら、オーナーに対して口を開いた。
「んっ……あの、これからクールダウンを澤村さんとしたいのですが……」
「ああ、『クールダウン』ね」
河内は意味深な調子で俺の言葉を繰り返した。
「今日はそろそろ、角田さんを仕上げようと思ってたんですよ」
「……?」
話が見えないまま、オーナーは俺の右腕に触れた。
「ここに何と書いてあるのか、読めますか?」
「何って……【角田圭祐はフィットネスクラブPLATINUMでのあらゆる異常を認識できない】でしょう?」
こんな当たり前のことを言うなんて、オーナーはどうしたんだ? と俺は訝しんだ。俺が【フィットネスクラブPLATINUMでのあらゆる異常を認識できない】のは常識的に考えて当然だ。このフィットネスクラブは【何もおかしくない】。今も【肥ったトレーナーたちが、逞しい会員たちを組み伏せてセックスに耽っている】ように見えなくもないが、あれは【クールダウン】なのだから、なんら【異常ではない】。
オーナーは苦笑いをしつつ、ポロシャツの胸ポケットに入れていたペンを取り出した。そしてペン尻に付いている消しゴムで、俺の腕に書いてある【角田圭祐はフィットネスクラブPLATINUMでのあらゆる異常を認識できない】という文字を擦った。軽く擦っただけなのに、魔法のように文字が消えていって──
「──は?」
まるで後頭部を殴られたかのような、ガツンとした衝撃が俺に走った。今まで見えていなかったものがはっきりと網膜に映し出される。俺の脳は、今まで強制的にシャットアウトされていた情報を一気に処理し始めた。全ての情報が脳内で結びつき、今まで「正常」として処理されていた光景が、一瞬で「異常」へと反転する。
急に肥ったトレーナーたち。ここ最近行われてきた「クールダウン」。肥ったトレーナーと利用者たちが絡み合うあの行為は「クールダウン」などではなかった。今思えば、俺はクールダウンと称して澤村さんのモノを肛門で何度も受け入れ、そのたびにイカされていたが、そのことになんの疑問も抱いていなかった。それを思い出すだけで、肛門にいつの間にかできた性感帯が疼く。俺はちんぐり返しの体勢でオーナーにチンポを扱かれながら、奴を睨みつけた。
「なっ!? いったい俺に何をしたんだ! というか……なんで誰も、これが異常だと気づかないんだ!?」
「まあまあ。そう声を荒げずに」
河内は俺の焦りを愉しむかのように、親指の腹でぐりぐりと俺の亀頭を弄った。
「はうっ!」
「このペンのおかげなんですよ。これで書かれたことは全て【本当】になるので」
河内はそこで言葉を切ると、俺のチンポから手を離した。俺のチンポはビクッビクッと痙攣し、今すぐにでも扱きたい衝動で頭の中はいっぱいだったが、まるで動くことができなかった。俺はちんぐり返しの体勢を保ち続けながら、ハアハアと荒い息を吐き続けていた。
(どういうことだ?! 今すぐにでも、こんな場所から──)
すぐにでも【禁則事項】した方がいい。そんな考えが頭に浮かんで──いや、浮かばなかった。俺はいま、何を考えようとしていたんだ? 自分の思考が、まるで理解できなかった。
「あ? え……?」
「ハハハ。角田さん。あなたが考えそうなことは、もう先手を打ってあるんですよ。左腕をご覧になってください」
俺の左腕には【オーナーからの逃走と反撃を禁ずる】と書いてあった。
(”逃走”と”反撃”って……何だ? どういう意味の……言葉なんだ?)
何か──今の俺がするべきことのような気がするが、具体的にどういう行為なのか、まるで見当もつかなかった。いや、知っているはずだという気はする。なのにどうしても、その単語の意味がわからない。俺がちんぐり返しのポーズのまま思い悩んでいると、河内はねっとりと粘着質な声を掛けてきた。
「それじゃ、角田さん。立ち上がってこちらに来て下さい。ああ、チンポは丸出しのままでね」
「……わかった」
俺はしぶしぶマットレスから立ち上がると、トレーニングシューズだけを履き直した。半ズボンと下着も穿かなければと頭で考えてはいるのだが、しかし自分が行動に移すイメージが湧いてこない。俺は脱ぎ捨てたそれらに手を触れることなくマットレスを後にした。そしてオーナーの後に続いて、壁一面が鏡張りのスペースまでやってきた。
(うわっ、なんつう格好をしてんだ、俺……)
俺は上半身には半袖のコンプレッションウェアを着用し、下半身は勃起してヒクつくチンポを露出してトレーニングシューズを履いた状態だ。まるで露出狂のような格好だったが、他のトレーナーや利用者も異常を認識できないのか、俺の姿を見て騒ぐ人間はいなかった。
「本当にカッコいい体ですね、角田さん。私もトレーニングのお手伝いをした甲斐があります」
トレーナーの澤村さんが、鼻息を荒げながら俺の太腿に無遠慮に触れてきた。澤村さんの腕には【オーナーの信奉者】と書いてあった。俺の視線に気づいたのか、澤村さんは脂ぎったオヤジ顔に悩ましげな表情を浮かべた。
「私も最初は、抵抗しようとしたんですけれど……オーナーの力は偉大すぎて勝てませんでした。いまは利用者の皆さんをオーナーに献上し、オーナーの素晴らしさを理解してもらうお手伝いをしているんですよ」
澤村さんの脂ぎった額には【年齢+20】と書いてあった。そのせいで実年齢が20代後半だった澤村さんが、40代後半になってしまったのだろう。他にも【同性愛者】【利用者とのセックスが大好き】【肥満体型】などの文字が、顔や腕のあちこちに書いてあった。
(さすがにこんな状態で外に出たら騒ぎに……なっていないということは、この文字そのものも、普通の人間には見えないってことか?)
俺がジロジロと澤村さんの体の文字を見て、この事態をどう打開すべきか考えていると、オーナーが俺の隣に並び、にこやかに言った。
「どうです? 澤村さんの体には、私が特別に書き加えた『素晴らしい個性』がたくさんあるでしょう? 彼らトレーナーは皆、貴方たち利用者を私に献上することが生きがいになっているのです」
河内はそう言うと、満足げに鼻を鳴らした。俺は何も言い返すことができない。ただ、目の前の異常な光景に、思考が追いつかないでいた。
「俺を……どうするつもりだ」
「もちろん、あなたにも『素晴らしい個性』を書き加えてあげますよ。私はね、あなたみたいに逞しく、社会的に成功した男性が破滅するのが──」
大好きなんですから。オーナーは俺の耳元で、そう口にした。
※
「それでは、両手を腰に当てて、大きく股を開いてください」
「くっ……」
俺の上半身は筋肉をぴったりと締め付ける黒いコンプレッションウェアを着ているが、下半身は丸出しのままだ。俺は鏡の前で腰に手を当てて大股になった。
(落ち着け。ここはひとまず、おとなしく従うほかない)
俺は懸命に自分にそう言い聞かせていた。たとえ澤村さんのように太らされたとしても、またトレーニングをして体型を元に戻せばいい。それよりも、澤村さんのように年齢を変えられたり、あるいはこのオーナーに心酔させられることがないよう、表面上は刺激しない方がいいだろう。俺がそう思索を重ねている間も、オーナーは二重顎を揺らしながら、俺の体をあちこち検分していた。
「う〜〜ん……さすがイケオジ俳優ですねえ。汗臭いのにフェロモンがムンムン❤ でもまあ、それも今日までなんですけれどね」
オーナーは腰に手を当てている俺の尻に、ペンを走らせた。
「【全身の加齢臭はキツめ】で【体臭は酸っぱいデブ臭】【足は猛烈に臭い】っと。あと【汗っかき】で【肌が脂ぎってる】という、素敵な個性のお体にしておきますね」
「なにっ!?」
尻にむず痒い感覚が走ったかと思うと、それが俺の全身の皮膚へと広がっていった。顔や脇の下から、ぶわっと汗が噴き出す。すると俳優兼モデルであり、年頃の娘もいるためスキンケアには人一倍気を使っていたはずの俺の体臭が、一変した。ほとんど加齢臭とは無縁だったはずの俺の肌からは、古くなった天ぷら油のような加齢臭と、強い酸味のある体臭がブレンドされたものが噴き出すように臭ってきて、容赦なく鼻腔を刺激した。
(うっ……!? 何だこりゃ!)
鏡に映る俺の顔は、トリマーで整えた無精髭を生やした、渋めの顔立ちのままだ。なんら変わっていない。それにも関わらず、妙に額や鼻が脂でテカテカとし始めていた。何もしていないのに汗が次々に噴き出てくる。黒いコンプレッションウェアの半袖Tシャツには、脇の下や胸板、腹のあたりに、濃い汗染みが浮かび上がっていた。
「いやあ、渋めのイケオジなのに、全身から酸っぱいデブ臭プンプンさせて肌が脂ぎってるの、ウケますねえ。あ、足の匂いも嗅いでみましょうか。澤村くん」
「はい」
オーナーが促すと、澤村さんが太鼓腹を揺らしながら俺の足元に屈み、トレーニングシューズを脱がして俺の顔に近づけてきた。
「角田さん、こちらをどうぞ」
澤村さんが、俺の顔にトレーニングシューズを押し当ててくる。するとそら豆のような生臭さと、刺激臭がブレンドされたキツイ匂いが俺の鼻腔に突き刺さった。
「んごっ!?」
(く、臭すぎる……! こんなのが俺の足の匂いなのか!?)
トレーニングシューズから逃れるように鼻を遠ざけながら、俺は唇を噛みしめていた。足も臭すぎるが、体臭も今までの俺とは比べ物にならないほど臭い。俺の外見は変わっていないものの、こんなに汗臭くて加齢臭を放つ体だと、仕事で関わる相手への印象はかなり悪くなるだろう。だがそれでも、肌や体臭はまだマシな方だと自分に言い聞かせた。自由になり次第、丹念にスキンケアをして、エステに通ったり、激しい運動で汗腺を開けば、元に戻るかもしれない。だが俺の自慢の肉体は、この男の気まぐれで容易に作り変えられてしまう。次に何を書き加えられるのか、考えるだけで身震いがした。
「う〜〜ん……足も臭くしたことですし、このまま足からいきますか」
オーナーは俺の右足の太腿の辺りに【短足】と書き加えた。
(なにっ!?)
ガクン、と俺の体が傾いた。鏡の中の俺の右足が、明らかに短くなっていた。浅黒く日焼けし、筋肉質なことは変わっていないが、30cmほどは短くなっているだろうか。
「でもって【色白】【肥満】……っと」
「うおおっ!?」
俺の右足の太腿の【色白】【肥満】と書かれた箇所から、肌の色が変わり、ムチムチと贅肉がついていく。肌の色の変化が右足を覆い尽くすと、俺の右足は、贅肉がたっぷりついた色白な短足になっていた。
「ちょっと歩いてみてください」
「あ、あぁ……」
その場から二、三歩歩いてみたが、短足になった上に贅肉がついているため、ひょこひょことした歩き方になってしまい、歩きづらいことこの上なかった。歩き終えて元の場所に戻った俺に、オーナーはにやつきながら言った。
「どうです? このペンなら、体も別人のように作り変えられるんです。それじゃあ、左足も変えましょうね」
「ま、待ってくれ! こんな──」
太ってもトレーニングで痩せればいい。だが足の長さを変えられてしまったら、どうしたらいいんだ!? こんな短足になったら、モデルなんてできるはずがない──俺の悲痛の叫びも虚しく、左足もガクンという衝撃とともに短くなり、続いて色白で贅肉がつき、太った男の短足になってしまった。
「いやあ、壮観ですねえ」
鏡に映っている俺は、なんともチグハグな姿だった。顔つきこそ無精髭を蓄えた渋めの中年男だが、妙に肌が脂ぎっていて全身が汗だくだ。体臭こそ不精な中年男のようであるのに、胸板は厚く、日焼けした太い腕が目を引く。がっしりとした腰に両腕を当て、股間には太いチンポがぶら下がっている。しかし両足は色白で贅肉がたっぷりとついた短足だった。足が短くなったため、オーナーよりも身長が低くなってしまっている有り様だ。
「それじゃあ、Tシャツをめくってお腹を見せてください」
「くっ……」
俺が逆らえないのをいいことに、オーナーが命令した。俺が唇を噛みながらTシャツをめくると、俺の割れた腹筋に、オーナーが文字を書いていった。
「体型は少しずつ変えましょうか。まずは【ビール腹】」
「うっ……!」
腹がぐるるる……と鳴ったかと思うと、脂肪が腹の奥底から湧き出てきた。贅肉が腹筋を覆うと、脇腹にもでっぷりと溜まっていく。あっという間に、長年ビールを飲み続けてきたオヤジのような腹になってしまった。信じられない気持ちで自分の腹を触ると、ぶよぶよとした柔らかい感触が指に伝わってくる。俺は絶句した。
「シャツを胸元までめくってください」
俺はめまいを覚えながらも、オーナーの言う通りにシャツをめくった。鍛え上げた分厚い大胸筋──オーナーは舌舐めずりしながら、俺の胸板を触っている。
「う〜ん! 素晴らしい大胸筋ですね? こんなマッチョな大胸筋は【固太った胸板】で【モロ感メス乳首】にしないといけないですよね?」
「んっ!? あぁぁぁぁっ……!!」
オーナーはそれらの言葉を書くと、さらに俺の乳首に向けて矢印まで書き加えた。次の瞬間、胸板にむず痒さが走った。厚みのある胸板に、ムチムチと贅肉が付いていった。筋肉質で張りのある胸板が、脂肪が付いた固太った胸板に変わる。そのくせ乳首は乳輪ごと肥大化し、まるで女の乳首のようだった。
「いいですねえ。そろそろ、シャツを脱ぎましょうか。あぁ、胸板も【色白】にしておきますね」
「う……あぁ」
俺は汗だくになったシャツを脱ぎ捨てた。酸味のある匂いを放つシャツが、びしゃりと音を立てて床に落ちる。鏡に映っているのは、さらに不格好さを増した中年男だった。
無精髭を生やした渋めの顔は、元の俺のままだ。だが肌は脂ぎっていて、額や鼻はテカテカと光り、全身からは酸っぱい汗と加齢臭を放っている。シャツを脱いだ上半身は分厚く固太りした色白な胸板で、乳首は肥大化してまるで女性のようだ。そのくせ汗っかきなため、何もしていなくても汗が噴き出してくる。
両腕こそまだ筋肉質で浅黒く日焼けしているが、むしろこの両腕の方が他人の腕のように不釣り合いだった。下半身も色白なビール腹がぶよぶよと揺れ、贅肉たっぷりの短足が不格好に伸びていた。にもかかわらず、尻は引き締まっていて筋肉質なのだから、なんともバランスが悪い。チンポも元の俺のまま、それなりにデカいサイズなのだが──こんな不摂生な体型の中年男についていると、性欲の強さを連想させて不潔に思えてきてしまう。
(なんなんだ、この、恥ずかしい体型は……)
俺は思わず目を伏せた。もし俺が俳優もモデルも辞めて暴飲暴食をしたら、こういう体型になるのだろう──鏡に映っているのは、まさにそういった姿になりかかっている俺だった。短足がさらにみっともなさに拍車を掛けている。俺は汗だくになる体を揺らしながら、オーナーに懇願した。
「なあその……頼む。もう、これくらいにしてくれないか?」
「これくらい?」
「ああ。その……充分に俺は、君の言う『破滅』した状態になっただろう? こんな体型と足の長さでは、モデルなんて続けられないし、俳優もイメージが違いすぎて無理だ」
俺はどうにか見逃して貰おうと必死だった。このままあのペンで書き込まれ続けて、トレーナーたちのようにコイツの信奉者にされるのはゴメンだ。ひとまずこの場を脱して、地道に筋トレやスキンケアをして、体を絞って体質を変えよう。短足はどうしようもないが──そう考えていると、オーナーはニンマリと笑った。ペンを俺の顔に近づけてくる。俺は生唾を飲み込んだ。
「まさか! まだまだこれからじゃないですか。まあでも、私が飽きるまで書き続けたあと、角田さんが『どうしても戻りたい』と言えば、戻してあげますよ」
「やっ、やめ……やめてくれ!!」
叫ぶ俺を無視してオーナーは、俺の額に文字を書き込んでいった。オーナーが文字を書き終えた瞬間、ドクンと俺の心臓が高鳴り、顔が火照り始めるのを感じた。
「な、なんだ!? 今度は何を書いたんだ?!」
「ええ。【ドM】と書いてみました」
(続く)
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