「おーし、今朝の連絡事項は以上だ。これでホームルームを終わるぞー」
とある男子校の朝の教室。35歳の体育教師、岩田克典がそう言うと、朝の教室は再び喧騒を取り戻した。まだ一時間目の数学の授業が始まるまでは時間がある。そんなとき、日焼けした坊主頭の男子生徒が岩田の元へとやってきた。
「岩っち岩っち! おれ、すごいの手に入れちゃってさぁ! これ見てくれよ!」
「松崎か。どうした?」
岩っち、というのは生徒から呼ばれている岩田のあだ名だ。松崎は浅黒く日焼けした芋臭い顔に笑みを浮かべながら、金色のチケットを岩田に見せびらかした。
「これ、マジですごいらしくて……ちょっと手に取ってもらっていいっすか?」
「なんだなんだ? やけに派手なチケットだな。ライブかなにかのチケットなのか? あんまり高価なものを、学校にもってくるんじゃ──」
岩田がそう言いつつチケットを手にとると、ビクンと急に背筋に奇妙な感覚が走った。
「んっ……?」
岩田の喉から思わず甘い声が漏れそうになる。荒くなる鼻息を抑えつつ、岩田がチケットに視線を落とすと「肉体交換チケット」と金色のチケットの表面に印字されており、裏返すと説明が書いてあった。
”肉体交換チケット”
”当チケットを受け取った時点で、あなたはチケット譲渡者との肉体交換を承諾したものとみなします”
”交換の進み方はチケット譲渡者の意思によって変化します”
”今回の肉体交換では、違和感を感じることができません”
”肉体交換が起きたことは認識できますが、あなたも周囲の人間も、それをごく当たり前のことだと受け入れます”
”それでは、新しい肉体での人生をお楽しみください”
「どう? すごいっしょ!」
どこかで聞いたような声に岩田が顔を上げると、そこには見慣れた『岩田克典』の顔があった。白いポロシャツを着た、精悍な風貌の35歳の体育教師。岩田は自分の肉体を見おろした。服装はいつの間にか学生服になり、やや腹回りが気になり始めた肉体ではなく、腰も尻も筋肉質で引き締まっている。思春期の男子特有の濃いめの体臭が鼻腔に匂ってきた。ふと頭を触ると、ソフトモヒカンだった髪型ではなく、坊主頭になっている。岩田は口を開いたが、そこから出てきたのは松崎の声だった。
「あのなあ松崎……【肉体交換チケットを渡したら、体が交換されるのは当たり前】だし、特にすごいことでもなんでもないだろ?」
岩田は──野球部の松崎亮太の肉体になってしまったことを、ごく自然に受け入れていた。それに対して、岩田克典の肉体になった松崎は「すっげ! マジかよ! 岩っち、全然違和感ないのかよ!」とはしゃいでいた。岩田は呆れたように口を開いた。
「だから、このチケットにも書いてあるだろ? このチケットで肉体が入れ替わるのは、別に変なことじゃないんだから。お前は何を騒いでいるんだ?」
そう、岩田にとって肉体交換チケットで肉体が入れ替わるのは「映画のチケットを使って映画館に入場する」のと同じくらい当たり前の事柄であり、松崎がなぜはしゃいでいるのか、全く理解できなかった。岩田は他人の声を出すのに慣れていない様子で、咳払いをしながら続けた。
「んっ、んん……それと岩っちって俺のことあだ名で呼ぶの、やめろよな。確かに俺はさっきまで岩田克典だったが、今はもう松崎亮太なんだから。そこのところの区別をつけてもらわないと困るな」
「うっーす。さーせん」
「だいたいなんだ、その態度は。松崎……じゃなかった。岩田先生。いつまでも学生気分でいるのはどうかと思うぞ? 岩田先生は35歳のいい歳した大人なんだから、もう少し落ち着きがあって、生徒たちの見本になるような態度でだな──」
岩田は腕組みをして松崎を叱っているが、しかし二人の肉体が入れ替わっているため、野球部の芋臭い男子生徒が、体育教師を叱っているような構図になっていた。松崎は岩田の説教などどこ吹く風で、ペロッと舌を出すと「まあまあ、いいじゃないっすか」と言うと、ポンポンと岩田の坊主頭を撫でて、話を打ち切った。
「おい、話はまだ終わっていないぞ!」
岩田は松崎を追いかけようとしたが、松崎と仲のいい野球部の男子生徒たちが、岩田の肉体になった松崎に興味津々で集まってきたため、叱るタイミングを逃してしまった。野球部の男子生徒たちは「すげーじゃん松崎!」「見た目岩っちだけど、中身は松崎なんだよな?」などと騒ぎつつ、岩田の肉体になった松崎に触っている。松崎も得意そうに力こぶを作り「おう! 見ろよ、岩っちのこの筋肉!」とラグビーで岩田が鍛えた筋肉をアピールしている。
そのうち、男子校特有の悪ノリで「つーか岩っちって、チンポのデカさはどんぐらい?」「デカそーだよなー。体育の時間、いつももっこりさせてるし」といった下世話な話になり、松崎がジャージを下着ごと掴んで、中身を周りに覗かせていた。
「見てろよ……うおっ!」
「結構デカくねえか?」
「ちょっと勃たせてみるわ」
「おっ……おぉ〜〜〜!!!」
岩田は呆れつつ、ため息を吐いて松崎の席に座った。さらに話題はより卑猥になり「岩っちって、奥さんとどういうセックスしてんの?」「ちょっと待てよ。いま、思い出してみっから……うへへ。昨日もヤッたみたいだぜ」「うおぉ……!!」「岩っちの記憶、思い出せんのやべーな」「つーか岩っち、バックで奥さんとセックスすんのが好きみたいでさぁ〜」と、松崎が岩田の脳から記憶を読み取り、赤裸々に夫婦の性生活を周りに話し始めていた。松崎は岩田の体で卑猥に腰を振って、実演までし始めている。
「あいつら……」
岩田は腹が立ったが、とはいえ【入れ替わりは当たり前のこと】であり、もうあの肉体は岩田のものではないのだ。
(……なんで俺、腹を立ててるんだ?)
35年生きてきた肉体と、体育教師という職業、さらに妻を奪われたという怒りが湧きそうになったが「肉体交換によるものなので、何もおかしくない」という認識で補正されていく。結局、岩田の中で感じた怒りは「担任の『岩田克典』が、35歳の体育教師の癖して、中身が男子高◯生レベルの悪ノリをすること」に対しての怒りだと認識が改変された。隣の席のラグビー部員──ラグビー部顧問として岩田が指導していた生徒、黒澤が同情したように口を開いた。
「でも、岩田先生も大変っすね。松崎と入れ替わっちまうなんて。あいつ、すげーおちゃらけてるし、下ネタも大好きだから。見た目は岩田先生なのに、中身がスケベなお調子者になるの、なんかショックだなぁ」
「まあな……あーくそっ。俺もチンポ勃ってきちまった」
「い、岩田先生!?」
「もう岩田先生じゃねえよ。松崎だ。こいつ、入れ替わりフェチみたいで、すげーこの状況に興奮しちまう……! んっ!」
「まずいっすよ。あと10分で数学始まりますよ」
「だ、大丈夫だ。こいつのチンポ、すげー早漏だしっ……あくっ! も、もうイクッ!」
岩田は鼻息荒く学生服の股間を弄ると、さほど間を置かずにオルガスムスに達した。岩田の芋臭くなった顔がデレっと緩み、肩がヒクヒクと痙攣する。下着の中が熱くべたべたに濡れて、イカ臭い匂いがムワッと周囲に広がったが、しかし岩田はもうそんなことは気にしていなかった。
(ハァン……たっ、たまらん……俺……おれ、さっきまで『岩っち』だったのに……)
岩田の意識が、松崎の脳に影響されて染め上げられていく。松崎亮太の価値観と性格に染まっていく。入れ替わりフェチで、スケベなお調子者の男子生徒に。それはセックスの主導権を松崎に奪われ、岩田が征服されたような歓びに似ていた。アイデンティティの根底が、他人のアイデンティティで塗りつぶされる。
(おっ、おれ……中身も松崎にっ……んくっ!)
射精したばかりだというのに、精神的な興奮で再び達しそうになる岩田。その表情は、さっきまで35歳の体育教師だったとは思えないほど、スケベなものだった。
「うへへ……」
「岩田先生……?」
「……ったく、さっきから言ってんじゃ〜ん。おれはもう松崎だっての! もうラグビー部の顧問じゃないんだから、敬語とかやめろよなー。あと黒澤さぁ……下着の替え持ってたら、貸してくんね? おれ、さっきのでイッちゃってさあ」
「ま、まあいいっすけど……」
「お、サンキュー」
恩師がスケベな高◯球児になってしまったことにドギマギしている黒澤をよそに、岩田は替えの下着を受け取ると、教室で堂々と着替え始めた。精液でヌルついた短小包茎チンポを、脱いだばかりの下着で乱雑に拭い、教え子だった黒澤から借りた下着を穿く。
「ふーっ……ん?」
下着を穿き終えた岩田の視線は、担任の『岩田克典』に注がれていた。教室の前の方では、岩田の肉体になった松崎が、野球部の男子に囲まれてオナニーをしていたのだが、いよいよイキそうになっていたのだ。松崎は「オーッ! イクッ! イクイクッ! 岩っちのチンポで、おれイクッ!」と雄々しく叫びながら射精する。射精の直後、松崎の肩が大きく震えたのを岩田は見た。おそらく岩田と同様に、脳みそに意識が染められたのだろう。その直感は当たったらしく、我に返った松崎は、顔を真っ赤にして慌てだした。
「うおっ! 俺……教師の癖して、なんてことしてんだ! ううっ……こんなの、ダメなのに……!」
岩田克典としての価値観に染まった松崎は、恥ずかしそうにザー汁染みのあるジャージの股間を押さえていたが、鼻息が荒くなっている。岩田の価値観に染まったとはいえ、中身がスケベな松崎であることに変わりはないのだ。それを見てゲラゲラと笑う野球部員たち。岩田は──『松崎亮太』は「ワンチャン……岩っちとやれんじゃねーか? 放課後誘ってみるか」と考えつつ、性欲旺盛な童貞チンポが、股ぐらで再び勃起し始めるのを感じていた。
(終)
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明けましておめでとうございます。次回のコミッションが肉体交換チケットを使ったものなのですが、その設定を練っているうちに興奮してきたのと「異常を感じられない異常」に対する熱が僕の中で最近高まっていたので、コミッションに手を付ける前に、ウォーミングアップとして一本書いてみました。くろねこからのお年玉として、楽しんで頂けたら幸いです。
2025.1.4 誤字を訂正しました。
Adam
2025-01-04 12:00:13 +0000 UTCくろねこ@9605
2025-01-04 06:09:42 +0000 UTCAdam
2025-01-03 12:23:00 +0000 UTCくろねこ@9605
2025-01-02 12:00:17 +0000 UTC黒竜Leo
2025-01-02 11:40:49 +0000 UTC