俺のスマホに奇妙な通知が届いたのは、晩飯を終えて、妻とリビングで寛いでいたときだった。
「土曜の午前はラグビー部の練習があるから、午後でどうだ?」
「そうね。じゃあ、午後2時くらいには家を出ましょう」
俺は桐谷慶吾、年齢は32歳。男子校であるM高校の体育教師で、ラグビー部の顧問をしている。妻と週末の予定を打ち合わせているときに、ふとスマホの通知音が鳴った。
「ん?」
──桐谷慶吾さんに、入れ替わりアプリの申請が届きました。
──あなたが入れ替わるのは、野球部員の男子高校生です。
──この通知から24時間以内に性的絶頂を迎えることで、入れ替わりが実行され、あなたの肉体も精神も相手のものに上書きされます。
「なんだこりゃ」
俺は苦笑した。いつの間にか、エロい広告バナーでも踏んだのだろうか。俺の名前が表示されているのは気になるが……どこかのサイトのアカウントやパスワードが漏れているのだろうか
──サポート機能が適用されました。この時点からあなたは「熱烈な入れ替わりフェチ」になり、入れ替わりへの抵抗感が薄れます。
「んっ♡」
その文章を読んだ途端、俺はうわずった声を漏らした。馬鹿馬鹿しいとしか思っていなかった「入れ替わり」が……途端に、卑猥でエロティックなものに思えてしまう。俺の様子を見て怪訝そうな顔をした妻が、声を掛けてきた。
「どうしたの? 慶吾さん」
「いっ、いや……それより香織……今日、これから……どうだ?」
俺は鼻息が荒くなるのを感じながら、妻をセックスに誘っていた。頭の片隅では、さっきの通知はヤバいものだという気がしていたが、それよりも「入れ替わってみたい。俺が俺じゃなくなって、体も心も他人になってみたい」という、金玉が煮えたぎりそうな興奮が、ぐつぐつと俺の内側から沸き立っていた。
「え、ええ……いいけど……どうしたの? なんだか急に……」
「いっ、いいから、なんかもう、今日は我慢できないんだ……頼む」
俺は、妻を急かすように寝室へと誘った。自分が不自然なほど発情しているのを感じながら、それでも俺の興奮は止まらない。俺はまるで付き合いたての頃のように、もどかしささえ感じながら前戯で妻を愛撫すると、濡れそぼった妻の膣内にチンポを突き立てた。
「フーッ! フーッ!! 香織ッ! 香織ッ!! ウオッ! ウオッ!」
「すっ、すごい……今日の慶吾さん、とっても荒々しくて……ああっ!」
俺は鼻息を荒げながら、腰を打ち振るった。やがて背筋に鋭い快感が走り、俺はオルガスムスに達した。妻の膣内に、俺の精子がどくんどくんと大量に放たれる。男としての征服感が、俺の脳を満たす。
それが、俺が桐谷慶吾として行った、最後の射精だった。
※
「んあ!? あれっ、寝てたのか? おれ……」
ビクッと体が痙攣して起きたおれは、握ったままだったシャーペンを学習机に落としてしまった。数学の宿題をしているうちに、いつの間にか眠っていたらしい。さっきから何度も見ているスマホをもう一度見た。
──入れ替わりが完了しました。
「おっ、通知来てんじゃん!」
おれはスマホの通知をタップした。おれは中島雄治。男子校のM高校に通っていて、野球部の先輩から教えて貰った「入れ替わりアプリ」を、さっき使ってみたところだ。通知をタップすると、アプリの画面に切り替わって、説明が出てきた。
──既にあなたの中身は中島雄治さまではなく、別人になっています。
──ただし、個人情報保護のため、元の肉体の記憶を思い出すことはできません。
「なんだよそれ。入れ替わったかわかんねーじゃん」
俺は文句を言いながら続きを読んだ。
──入れ替わったことの証明として、あなたは元の肉体や精神とのギャップを常に感じます。これに慣れることはありません。あなたは一生、他人と入れ替わった違和感を感じ続けます。
──また、入れ替わり前のあなたに付与した「入れ替わりフェチ」属性はそのままです。これからあなたは一生、中島雄治さまであることに対して、非常に強い性的興奮を感じます。
「な、なんだよこれっ♡ そっ、そういえばこの部屋……おれの部屋……じゃなくねえ!?」
おれは鼻息が荒くなった。自分の部屋のはずなのに、他人の部屋のような気がする……教科書が乱雑に並んだ学習机、少年漫画ばかり詰まった本棚、壁に掛かった学ラン、野球部のエナメルバッグ……おれの部屋は、こんな汚い部屋じゃなかったような……。
「で、でも……おっ、おれっ……中島雄治……なんだよなっ♡」
そう言われてみれば、中島雄治という自分の名前にさえ、違和感を感じてしまう。おれの名前は、もっと別の名前だったような……でも、いくら考えても、元の名前は思い出せなかった。おれは鼻息を荒らげながら、素振りのフォーム確認用に買って貰った、全身が映る大きな鏡の前に立った。日焼けした坊主頭の男子高校生が──部屋着にしている学校のジャージの股間をおっ勃てて映っていた。イケメンでも男前でもない、芋臭い顔の男子高校生である中島雄治が、スケベそうに鼻の穴を広げている。
「んくっ♡」
おれの脳みそに、見たことのない光景がフラッシュバックした。ここではない家で、おれはスマホで入れ替わりの通知を見て、それに興奮したまま妻を抱いて──そして、妻の中に射精したのだと。なんかこう、結構がっちりした体格の、マッチョなオッサンだった気がする。顔は全然思い出せないけど……。
「おっ、おれっ……奥さんもいるオッサン……だったのかよっ!?」
そういえば、おれは誰に「入れ替わり申請」を出したんだっけ……と思ってアプリを調べたけど、アプリには【入れ替わり申請の記録は閲覧できません。あなたの記憶にもアクセス制限が掛けられています】とあった。確かに、アプリを使ったときのことを思い出そうとしても、記憶が妙にぼやけていて、よく思い出せない。
「ふひっ♡ おっ、おれっ、マジで入れ替わっちまってんのかっ!?」
おれは喘ぎながらベッドに倒れ込んだ。男子高校生の汗臭い体臭がむわっと匂う。自分の体臭のはずなのに、他人の体臭のような違和感があった。
(んっ♡ あ、汗臭えっ♡ おれっ、こんな体臭じゃなかったはずなのにっ♡)
でも、おれには中島雄治としての記憶しかないし、自分の体臭もこうだったって記憶がちゃんとある。なのに、自分とは全く別人の体臭を嗅いでいるような、違和感だけを感じるのだ。
(こんなの……おかしいのにっ♡ めちゃくちゃ興奮しちまうッ♡)
おれは鼻息を荒くしながら、ジャージの中に手を突っ込んだ。ガチガチに勃起したチンポが──短めだけど、割と太いチンポが、野球部の練習で豆が出来た手に触れた。チンポを握ったときも、他人のチンポを握っているような、恥ずかしさと違和感を感じた。おれのチンポはもっとデカマラだったはず……という実感だけが、脳みそにこびりついたように残っている。
「ふひっ♡ 短えチンポッ♡ 元のおれより小せえじゃねえかっ♡」
おれは元の自分の体とのギャップに興奮しながら、宿題をほったらかしてオナりはじめた。何度も何度も射精して、部屋のゴミ箱が、高校球児のザーメンたっぷりのティッシュでいっぱいになるまで……。
※
「どうだった? 中島。例のアプリは」
「もう、すんげ~よかったっす! 昨日は抜きまくりっすよ!」
翌日。おれは校門のところで顔を合わせた、野球部の沢畑先輩と話していた。おれに入れ替わりアプリのことを教えてくれた先輩だ。沢畑先輩は、角張ったゴツい顔にニヤリと笑みを浮かべた。
「だろ~? おれも実際使ってみて、すげーよかったからさ。マジで初日は金玉カラになるまで抜きまくったぜ」
「ん? ってことは、沢畑先輩の中身って……」
「おう。もちろん、おれの中身も別人だ。じゃなかったらこんな怪しいアプリ、お前にも勧めねーよ」
そうだったんだ……入れ替わる前はそこまで気にしてなかったけど、改めて考えてみればそれもそうだ。
「でも、おれの知ってる沢畑先輩そのまんまっていうか……言われてもわかんないっすね。先輩は、入れ替わる前のことどんくらい覚えてます?」
「あのな……笑うなよ。入れ替わる前のおれは……女子アナだったんだよ」
おれは思わず噴き出した。角張った四角い顎をした、ゴリラみたいな見た目の沢畑先輩の中身が、女子アナ? 沢畑先輩は真っ赤な顔でおれの背中を叩いた。
「おまっ、笑うなっつったろ!」
「す、すいません……」
「ったく。さすがに自分の顔とか、名前までは思い出せねえんだけど、スタジオで原稿読んでたことは覚えてんだよ。ただ、どの番組だったかまでは覚えてねえな」
「へえ……誰だったんでしょうね」
「わからん。ただ、旦那が野球選手だったのは……覚えてる。けどこれも、旦那の顔やどのチームだったかまでは思い出せねえんだよな。例の個人情報保護の規約でさ、個人を特定できる記憶は思い出せないようになってんだとよ」
「まあ『夫が野球選手の女子アナ』だけで結構いそうですもんね。そこは思い出せるんだ」
「ああ。そのせいで、テレビで野球選手を見ると、つい旦那とのセックスを思い出してムラついちまって……んあっ……やべっ、また興奮してきた。おれっ、ホモじゃねえのにっ……!」
沢畑先輩の日に焼けたゴリラ顔が、デレッと緩む。鼻っ柱の太い、男らしい鼻の穴がムフリとスケベそうに開いていた。先輩は肩で息をしながら、学ランの上から自分の股間を押さえた。
「んっ……おれ、入れ替わる前は女だったから、体の違和感もすごくてさ。チンポ生えてるだけでも違和感がすげーのに、勃起するとマジでやべーんだわ。いいとこの大学出た女子アナが、おれみてえな脳筋な高校球児になって、チンポ勃ててんのかと思うと……んひっ! た、たまんねー……なっ、中島は、その辺どうなんだ? 前の自分との違いとか……」
「んー、おれは入れ替わる前も男だったんで、違和感は先輩ほどじゃないんすけど……でも、入れ替わる前よりチンポは短くなってるし、元のおれ、マッチョなオッサンだった……のはなんとなく覚えてるんで、やっぱ普通に歩いてるだけでも変な感じがしますね。歩幅とか背丈も違うって感じちまうし。おれの体なのにおれじゃないのは、すげーわかるんで」
そう言えば、沢畑先輩は職業まで覚えてるのに、おれは自分の職業までは思い出せない。そのことを先輩に言うと、先輩はこんなことを言った。
「たぶん、それを思い出しちまうと、入れ替わり相手を特定できちまう情報なんじゃないか? よっぽど特殊な職業とか、あるいは身近な奴とか……」
「あー、なるほど……」
「んっ。悪い、中島。朝練前にちょっと抜いてくるわ。もう我慢できねえ……」
沢畑先輩は学ランの股間を固くしながら、校舎の方へと駆けていった。
※
(やっべ、数学の授業……ぜんっぜんわかんねえ……!)
学校の授業を受けている間も、おれは「元の自分との違和感」を感じ続けていた。入れ替わる前なら簡単に解けた問題だ、という実感はあるのに、脳みそも変わっちまってるせいで、数学の問題の解き方がわからない。ノートを取るときの、筆圧が強くて汚いおれの字も……自分の字のはずなのに、まるで他人の字のような違和感を感じちまう。休み時間にクラスメイトと話すときの口調や、話の内容──好きな漫画やテレビ番組の話題も、自分の口調や好みの話のはずなのに、他人の口調で他人の好みを喋っているような気がする。「中島雄治」として何かするたびに、前のおれとの違いを感じて……それに興奮しちまう。
(でもって、おれ……ホモだったのかよ!)
前のおれは、奥さんもいるノンケのオッサンだった……ことは覚えてるのに、いまのおれが興奮するのは、ガタイのいい男なのだ。今朝、沢畑先輩としゃべってるときも、割と先輩はおれの好みだったからムラついてたし、いまも……40代の数学教師の松木先生の、固太った体や、M字にハゲた脂ぎった髪の生え際、髭の剃り跡の濃いむさ苦しい顔に、ホモとして興奮しちまってるのを感じていた。
(もしかして、前のおれって……松木先生だったのか?)
身近なオッサンだし、一瞬そう思ったけど、松木先生みたいな固太り体型じゃなくて、もっとマッチョだった気がする。おれは悶々としながら数学の授業を終えて、次は体育で柔道の授業があるため、柔道場に移動した。
「おーし、みんな着替えたな。準備体操から始めるぞー」
体育の桐谷先生の指示で、準備運動を始めた。うーん……なんか桐谷先生の顔を見てると、変な気分になってくるっていうか……
(それとも、おれって……桐谷先生だったのか?)
確かに桐谷先生はラグビー部の顧問もしていて逞しい体格だし、顔も男前だ。ホモのおれとしては、入れ替わり相手としてアプリを使ってもおかしくない……よな? 準備運動を終えると、桐谷先生が今日の授業でやる寝技の手本を見せるために、おれを指名した。
「中島。ちょっと前に来てくれ。今日やる寝技についてだが──」
(ちょっ、桐谷先生のチンポ、勃ってんじゃん!?)
みんなに技の説明をしながら、おれを組み敷いた桐谷先生の股間が、おれの尻に当たった。明らかに勃起した桐谷先生のチンポが、柔道着の生地越しにおれの体に擦りつけられる。桐谷先生、なんでおれに興奮してんだ!? もしかして、今の桐谷先生の中身は──
──アクセス制限【あなたは、入れ替わり相手の正体を認識できません】
ん? 何考えてたんだっけ? おれは急に、頭の中から何か大事な考えがすっぽりと抜けた感じがした。
けど、それが何なのか思い出せなかった。相変わらず、桐谷先生はぐりぐりと勃起チンポを押しつけてくるけど……【特に不自然じゃない】し……何が気になったんだっけ? 先生が手本を見せ終えて、他のみんなが二人組で寝技の練習を始めると、おれは桐谷先生に話しかけた。
「桐谷先生。さっきのなんなんすか? めっちゃ勃ってたじゃないっすか」
「ん? ああ、悪い悪い。ほら、俺たちって昨日入れ替わったばっかりだろ? だから元の俺の身体に桐谷先生が入っていると考えると、どうしても興奮しちまってな」
──アクセス制限【あなたは、入れ替わり相手の正体を認識できません】
「んっ? なんすか? なんか、桐谷先生の言ってること、よくわかんないんすけど……」
「ああ、こういう感じになるのか。うん。本当になんでもないんだ。先生はそのまま中島雄治を続けてくれ。どのみち、こんな話をしても……昨日まで桐谷慶吾だったってことも、いまの桐谷先生はわからないんだろ?」
──アクセス制限【あなたは、入れ替わり相手の正体を認識できません】
「うーん、なんか難しい話してんのはわかるんすけど……よくわかんねーっす。もっとわかりやすく言ってくれません?」
「うんうん。それでいいんだ。さ、俺と組んで授業を続けるぞ」
おれは桐谷先生と組んで寝技の練習を続けた。先生の体臭を嗅ぐたびに、固くなったチンポを押しつけられるたびに、何かを思い出しそうになったが、それが何なのかわからなかった。
※
放課後。野球部の練習を終えたおれが部室で着替えていると、ニヤついた沢畑先輩が近づいてきた。
「どうだ? 野球部の練習でも……結構感じちまうだろ」
「なんかもう、すごかったっす……」
おれは、精液で粘ついた下着が見えないように隠しながら、そそくさと学ランを穿いた。「入れ替わりフェチ」になったせいで、元の自分とのギャップを感じるたびに興奮するようになったおれとしては、実際に体を動かす野球部の練習は、猛烈に気持ちよかったのだ。走り込み程度で終わる朝練と違って、放課後の野球部としての本格的な練習は、元の自分との背丈、筋力、体力の差を……イヤでも理解させられちまう。昨日までのおれと、今日のおれが別人だってことを、打撃練習や守備練習のたびに……どうしても意識しちまう。そのたびにおれのチンポは固くなって……甘イキっつうのか? とろとろと精液を垂れ流し続けた。
「これが、一生続くんすね……んっ♡」
「ああ、たまんねーだろ♡」
おれと沢畑先輩は、ブルッと背筋を震わせると、うっとりとした笑みを浮かべた。元はマッチョなオッサンだったおれと、元は女子アナだった沢畑先輩。おれたちはこれから一生、体を動かしたり何かを考えたりするたびに……どうしても他人のモノとしか思えない体と心に対して、チンポをおっ勃ててしまうのだ。
ピロン
(ん?)
カバンの中でおれのスマホが鳴った。画面を見ると、通知が来ていた。
──【あなたはこの通知を認識できません。以下の場所へ速やかに向かってください】
【この続きは300円プランで公開しています。こちらからどうぞ】