NokiMo
くろねこ@9605
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爽やかなラガーマンの教育実習生が、柔道部顧問の中年体育教師と立場交換してしまう話

「おう、中里。そっちは終わったか?」


「……はい! この箱で終わりです!」


 大学四年生の中里健悟は、教育実習で母校の県立高校にやって来ていた。今は授業のない空き時間だ。指導を担当する中年体育教師、佐田の指示で、来年取り壊す予定の旧校舎の荷物の整理を手伝っている。中里がタオルで汗を拭いている間に、佐田が校内の自販機で二人分の飲み物を買ってきてくれていた。


「お疲れさん。ほれ、飲め飲め」


「ありがとうございます。いただきます」


 佐田は中里が在学していた頃からいる教師だ。パンチパーマで口髭も蓄えている強面の容貌だが、面倒見がよく生徒たちから慕われている。中里は、自分も佐田のような頼りがいのある教師になりたいという気持ちを秘めつつ、佐田がくれた炭酸飲料を飲み始めた。隣にいる佐田も美味そうに飲んでいる。


「っあ~! 疲れた体にゃ炭酸が効くなぁ。本音を言えば、ビールが飲みたいところだがな!」


「あはは! そうですね。そういえば、佐田先生。さっき高価そうな鏡を見つけたんですけど、これはどうしましょうか?」


「ん~? どれ、見せてみろ」


 中里は装飾のある古い鏡を佐田に見せた。金属の枠にぐねぐねと渦巻き模様の装飾が掘られていて、値打ちがありそうに見える。その古い鏡に、中里と佐田の顔が映り込んだとき──2人の後頭部に、ガツンとした衝撃が走った。


「いっ!?」


「んあっ!?」


 かつてその鏡は、学園七不思議のひとつとして「人生を入れ替えてしまう鏡」と呼ばれていた。その鏡に映った人間同士の人生を入れ替えてしまう──すなわち、立場交換を引き起こす鏡であった。そしてその七不思議の通りに、中里と佐田の立場は入れ替わった。肉体はそのままだが、2人の立場、そして服装と髪型が入れ替わったのだ。


 ソフトモヒカンだった中里の髪型がみるみる伸びてパーマが掛かり、あっという間にパンチパーマになってしまった。日焼けした精悍なラガーマンの顔に口髭が急速に生えていき、雄臭い風貌になっていく。着ていた服は一瞬で入れ替わり、若く逞しいラガーマンの肉体は、佐田の加齢臭がむわりと匂う黒いTシャツと白いジャージに包まれてしまった。


 一方、パンチパーマだった佐田はみるみる髪が短くなり、パーマが直毛に変わっていく。そしてさっきまでの中里と同じ、ソフトモヒカンになってしまった。太い口髭も急速に短くなって消えていき、しまいには口髭のないさっぱりとした顔つきになってしまった。服も入れ替わり、大学生ラガーマンの爽やかな汗が染みこんだ白いポロシャツと、紺のジャージが、中年男の固太った肉体を包み込んだ


「な、なんか……いま、妙な感じがしなかったか? ん……??」


 中里が佐田の口調で話し始め、自分の口調に違和感を感じて口をつぐんだ。


「そう……ですね。なんだか俺も……変な感じが……」


 佐田が中里の口調で答え、そわそわと自分の顔を──口髭が生えていた辺りを無意識に触っていた。互いの脳内も相手の記憶で上書きされてしまっていた。違和感こそ感じるものの、しかし立場が入れ替わったことまでは自覚できていなかった。



「うっし! 授業はじめっぞ~」


 次の体育の授業では、パンチパーマで口髭を蓄えた教育実習生の中里が、まるで佐田のような口調で、佐田の柔道着を着て柔道の授業を始めていた。そしてベテラン中年教師であるはずの佐田が、教育実習生として授業の進め方を見学している。異様な光景であったが、しかし生徒たちもそれに気づくことなく、授業は進行していった。


(なんかやっぱこう……妙な感じがすんだよなぁ。いつもと体の感じが違うっつうか……こんなに手足、長かったか?)


 佐田の立場になってしまった中里は、柔道の授業中も違和感が消えなかった。佐田征司としての45年間の記憶があるため、柔道の授業するうえで支障はない……のだが、それはあくまでも「佐田征司」本人の記憶である。中里健悟とは手足の長さも筋肉量も違うため、佐田の記憶を元に柔道の技を掛けようとするたびに、他人の体で柔道をしているような感覚を覚えていた。


(それにしても中里……やけに柔道が上手えな。部活はラグビー部だって話だが……)


 一方、教育実習生の立場になってしまった佐田は、男子生徒と組んで互いに寝技を掛け合う練習をしている。佐田の記憶は中里のものに上書きされているとはいえ、体はしっかりと柔道の動きを覚えている。佐田が生徒に技を掛けたときも、まるで柔道の有段者のような動きであったため、中里は感心してしまったほどだ。


 柔道の授業が終わったあと、中里は佐田に声を掛けた。


「おう、中里。柔道の経験もあったのか? なかなか様になってたじゃねえか」


「いえ、体育の授業と大学の実習でやったぐらいなんですけど……なんだか不思議と体が動くんですよね」


 柔道着の胸元から、胸毛の生えた固太った胸板を覗かせながら、佐田がはにかんで答えた。佐田からすれば、自分には教育実習生の記憶しかないのに、柔道一筋のベテランの肉体を使って授業をしたようなものなのだ。


 立場が入れ替わった二人は違和感を覚えつつも、互いの家に帰宅した。中里は佐田の妻が待つ家へ。佐田は同棲中の中里の彼女が待つ家へ──



「パパ、なんかすらっとしたんじゃない?」


「そうそう。若々しい雰囲気になったっていうか。ダイエットでもしてたの?」


「そ、そうか? 別になんもしてないんだがな……」


 佐田の家に帰宅した中里は、佐田の妻である佳枝と、大学生である娘の香織と夕食を共にしていた。佐田の記憶が脳に上書きされている中里は、佐田として振る舞いつつも、他人の家に上がり込んでいるような居心地の悪さを感じていた。


(なんかこう……佳枝とも香織とも、初対面みてえな気がすんだよな。そんなわけねえのに……)


 得体の知れない違和感を抱えたまま、夕食を終えた中里。風呂に入ろうと洗面所で服を脱ぐと、思わず感嘆の声が漏れた。


「おおう……! 確かに……いつの間にこんな筋肉がついたんだ? 腕も太いし、胸板も厚いし……腹まで割れてんじゃねえか!」


 中里は、ラグビーで鍛えた逞しい肉体に惚れ惚れとしていた。佐田の記憶があるため「自分は胸毛が生えて固太った肉体の、45歳の中年男である」という認識があるのだが、しかし鏡に映っているのは23歳の大学生ラガーマンの肉体である。胸毛の生えていない厚い胸板や、ビール腹ではない割れた腹筋など、記憶との齟齬を鏡の魔力で強引に埋められつつ、佐田は鼻息を荒くして鏡の前で力瘤を作り、うっとりと自身の逞しい肉体に魅入っていた。


(それに……チンポも……うへへ)


 その厳つい風貌に反して、太短い包茎チンポであった佐田。しかし肉体は中里健悟であるため、股ぐらに生えているのは中里の反り返ったデカマラであった。中里は、佐田の記憶と性格を脳内に上書きされたまま、自身の逞しい肉体とデカマラに興奮して風呂を終えた。


「あなた……今夜、どうかしら」


「よ、佳枝……」


 興奮冷めやらぬまま、寝室で佐田の妻から誘いを受ける中里。佐田の妻も立場交換を認識してはいないが「やけに若々しく逞しい雰囲気になった夫」に、女として性的欲求を感じていた。中里はゴクリと生唾を飲み込みつつ、しかし後ろめたさも感じていた。20年以上連れ添った妻であるという佐田の記憶はあるのに「他人の妻を寝取ろうとしている」という、無意識下で中里が感じている背徳感が、じわじわと湧き上がってきてしまう。


(そ、そんなわけねえだろ! 佳枝は俺の女房だ!)


「おう、いいぜ」


 背徳感を押し殺し、普段の佐田のように妻を押し倒す中里。舌を妻の口腔内に入れ、性欲旺盛な軟体生物のように蹂躙していく。日焼けした大学生の手が、中年女性の乳房を揉みしだく。佳枝も喘ぎながら、強く中里を抱きしめる。互いに中年夫婦の営みだと思い込んでいるが、しかし実際は、大学生ラガーマンが、恩師の妻を寝取ろうとしている光景であった。やがてディープキスを終えた中里は、佐田の妻の湿った膣に、指を差し込んでくちゅくちゅと弄り始めた。官能が高まりつつある佳枝は、切なげに喘ぎながら夫を──逞しい大学生の肉体を求めた。


「来て、あなた……ああっ! もう私、我慢できない……!」


「あ、あぁ……! 俺もだ……!!」


 中里も鼻息を荒くしながら、佐田の妻に覆い被さる。佳枝の太ももを持ち上げ、その濡れそぼった女陰に、反り返ったチンポを挿入していく。


「お、おうっ♡」


 ぬるりと女陰の襞と男根が擦れる。思わず情けない声が中里の喉から漏れた。最近、彼女ができたばかりで、まだまだ性経験の浅い体育会系男子のチンポに、20年以上夫のチンポを受け入れ続けた中年女性のまんこは、刺激が強いものだった。中里は快感のあまり腰が引けそうになりながらも、あくまでも佐田征司として振る舞い、腰を打ち振るっていった。


「ウオッ! ウオッ!」


「あ、あなたっ! いいわっ! いつもより、激しくてっ……! ああっ!」


(すっげ、すげぇっ! 真琴のまんこより、よっぽど……! ん? 真琴?)


 中里の脳裏に、中里の彼女の名前が不意に浮かんだ。その時だった。


パチン、と泡が弾けたように、中里は自分が「中里健悟」であることを思い出した。


(んあっ! お、俺っ……本当はッ……中里健悟じゃねえかッ! 頭ん中まで、佐田先生になっててっ! な、なんでこんなことになってんだぁっ!?)


「よ、佳枝! ああくそっ! とっ、止まらねえっ! ウオッ!!」


「あんっ! あなたっ! あっあっあっ!!」


「ウオッ! ウオッ! ヌゥオオオッ!!」


 ラグビーで鍛えた大学生の広背筋に鋭い快感が走った。次の瞬間に中里健悟は、恩師である佐田征司の妻の膣内に、雄叫びと共に大量の精液を放っていた。



 一方、中里の立場になった佐田も、自身の立場と肉体とのギャップに違和感を覚えていた。


(俺って、こんな胸毛生えてたっけ……? それに肌がすげー脂ぎってて、やけにオッサン臭いっていうか……)


「どうしたの? 健悟」


 自分が着ている白いポロシャツの内側の、胸毛の生えた固太った胸に困惑していた佐田。彼が若い女の声に振り返ると、中里の彼女である宮本真琴がいた。ラクロス部に所属し、日焼けした筋肉質な肢体を持つ女子大学生である。宮本は性欲旺盛な肉食系女子であり、二人が交際したのも宮本の熱烈なアタックがきっかけであった。宮本はキャミソール越しにむにゅりと乳房を佐田の背中に押しつけながら、佐田の固太った肉体に手を這わせた。


「なんか今日の健悟、ちょっと雰囲気違うね。急に貫禄出てきたっていうか……」


「そ、そうかな?」


「んっ……これはこれで、好みかも」


 佐田の太い首筋に顔を埋めて、加齢臭たっぷりの汗の匂いを嗅ぐ宮本。彼女は匂いフェチであり、男臭く逞しい男が好みであった。そういった意味では、固太ってはいるが柔道で鍛えた筋肉のある佐田も、宮本の好みの範疇ではあった。


「ね、今日もこのまましよ」


「えっと……俺、まだシャワー浴びてないぞ」


「いつもそのままやってるじゃん。ほらほら」


 真琴に促され、ベッドに押し倒される佐田。性的興奮と背徳感が、胸毛の密生した胸板の奥で渦巻く。


(い……いいのか? 俺、女房も娘もいるのに、娘と同じくらいの年の女の子と、エッチするなんて……ん? 女房? 娘? 誰のことだ?)


 不意に脳裏に浮かんだ自問自答に戸惑う佐田。中里健悟としての23年間の人生しか思い浮かばないにも関わらず「自分には結婚して20年以上経つ妻と、大学生の娘がいる」という、理解不能な実感だけが湧き上がってくる。


「なあ、真琴。やっぱり今日は……うおっ!」


「ん? なに?」


 宮本のスポーツブラからぶるんと乳房が溢れ出た。久しぶりに見る若い女の生の乳房に、強面の中年男の顔がデレッと緩んでしまう。佐田は生唾を飲み込みながら口を開いた。


「……いや、なんでもない」


「じゃ、始めよっか。ていうか健悟って、こんな毛深かったっけ? でも、こういう胸毛生えた胸板も、私好きだなー。すごい男らしいじゃん」


「あ、ああ。なんか、いつの間にか生えててさ。あっ……!」


 宮本の指先が、中年男の色黒な乳首をコリコリと刺激した。元々、佐田は乳首が弱かったが、特段妻とのセックスでは使ったことはなかった。佐田の反応を見た宮本が、嗜虐的な笑みを浮かべた。


「なんか今日の健悟、かわいいね。このまま乳首弄ってもいい?」


「あ、あぁ……いいぞ」


 戸惑いながらも、若い女とのセックスにのめり込んでいく佐田。胸毛の密生した固太った胸板を打ち振るわせ、太短いチンポを勃起させた佐田が、宮本に騎乗位で犯され始めたのは、それからほどなくのことだった。



 翌朝の時点で、立場が入れ替わっていることに気づいているのは、中里だけであった。


(あ~……くそっ! やっちまった……)


 隣で寝息を立てている佐田の妻の横顔を見た中里は、ひどい自己嫌悪と──そして倒錯感を感じていた。佐田征司として、佐田の妻の佳枝を抱く──しかし、自身の肉体は中里健悟である。それは自分が夫であると同時に間男でもあるという、矛盾と倒錯に満ちた状態でもあった。昨晩、中里健悟としての記憶は取り戻したが、それでもなお「自分は佐田征司である」という実感は脳内にこびりついたままだ。今の中里にとって「中里健悟としての人生」の方が現実感がなく、嘘っぽく感じるほどだ。


(いや……どう見ても、この顔も体も『中里健悟』だよなぁ……)


 中里は妻を起こさぬようにそっとベッドを出て、洗面所の鏡に己の顔を映した。髪型がパンチパーマになり、眉の形や濃さも佐田の怒り眉になり、厳つい口髭を生やしてはいるが、どう見ても20代の精悍な男の顔だった。「佐田征司」の自意識としては、急に若い男の肉体になった──ように錯覚してしまう。中里は見慣れているはずの自身の肉体を、あちこち触っていた。そのうちに、次第に鼻息が荒くなっていく。


(もともと俺の身体なんだし、もっと堂々と見ても別に構わねえ……よな?)


 どうしても全身の筋肉を確かめたくなり、寝間着にしていたジャージとランニングシャツ、そして下着も脱ぐ。浅黒く日焼けした、逞しいラガーマンの肢体があらわになった。精緻に鍛えられた上腕二頭筋。胸板も分厚く盛り上がり、腹筋も割れ、太股はまるで丸太のように逞しい。中里は、惚れ惚れと自身の肉体美に魅入ってしまった。45歳の中年男のアイデンティティが植え付けられた中里にとって、元の己の肉体を見るだけで、若く男前なラガーマンと入れ替わった中年男のような──そんな感動が押し寄せてきていた。


(はぁン……た、たまらん……このマッチョな体……い、いや! これはもともと俺の体なのに……なんでこんな……興奮しちまうんだ!?)


 好色そうな目で己の肉体美を眺めると、昨夜のようにぐっと鏡の前で力瘤を作り、ポージングをする。チンポは痛いほどに勃起し、反り返って凹凸のある腹筋をベチンと打った。そのときだった。


「んひっ!?」


 中里は唐突に遺精した。金玉が激しく上下し、デカマラからビュルルッ!! と勢いよく精液が噴き上がる。立場交換を自覚したことによって、大学生ラガーマンの精強な肉体と、中年男のスケベ心とのギャップが、濃密な倒錯感を生み出してしまった結果だった。中里は好色な中年男のような、だらしのない笑みを顔に浮かべたまま、射精の快感にヒクヒクと肩を震わせていた。


 そのまま快感の余韻に耽っていたかったが、妻が起きてくる気配がしたため、中里はいそいそと射精の後始末をし、顔を洗ってリビングに向かった。


「あら、あなた。今朝は早いのね。コーヒーはどうします?」


「おはよー、パパ。ねえねえ、新しいスマホ欲しいって話なんだけど──」


「あ、あぁ。その……」


 中里は、自分のチンポに悶えた佐田の妻の痴態を思い出し、寝間着にしているジャージの中で、射精したばかりのデカマラが跳ね上がるように勃起するのを悟られないようにしながら、それとなくリビングの席に着いた。


(佳枝も香織も……俺が中里だって、まるで気づいてねえのか!?)


 中里は、自分が佐田ではないことがバレるのではとヒヤヒヤしたが、二人とも夫が、父親が見ず知らずの大学生とすり替わっているということに気づくことはなかった。中里にしても、佐田の家族とは昨日が初対面のはずなのに、どうしても自分の「妻」と「娘」としか思えない。中里は味のしない朝食を胃に流し込み、急き立てられるように出勤した。


「佐田先生、おはようございます!」


「おう、おはよう」


「おはようございます、佐田先生。昨日の朝礼で話があった、校外学習の件なんですけれど──」


「ああ、それなら──」


 校門で、職員室で。中里は生徒や他の教師から声を掛けられたが、いずれも「佐田征司」としての扱われ方であり、教育実習の大学生に対する扱いではなかった。中里は教育実習生である自分が、ベテランの中年教師として扱われる状況に戸惑いと、「いつも通りの日常である」という佐田としての自意識のギャップにめまいを覚えながら、数字の羅列にしか見えない授業計画が映るパソコンの液晶を睨み付けていた。


「佐田先生、おはようございます! 今日もご指導よろしくお願いします!」


 中年男が元気よく濁声で挨拶してくる声に、中里は顔を上げた。そこには、己を「中里健悟」だと思い込んだ佐田征司がいた。佐田は中里の髪型であるソフトモヒカンになり、髭のないさっぱりとした顔でにこにこと挨拶をしていた。もっとも、肌は中年男性らしく脂ぎっているし、額にはシワの跡があるオッサンの顔つきだったが。


「あ、あぁ……おはよう、中里」


 中里はドギマギしながら、佐田に返事をした。中里の中にある「中里健悟」の自意識としては、もうひとり中里健悟がいるような気がするし、立場交換によって植え付けられた「佐田征司」の自意識としても、もうひとり自分がいるような気がして、奇妙な対面であった。



「えっ、俺と佐田先生の身体が、入れ替わってるってことですか?」


「いやその……身体じゃねえんだ。どう言ったもんかな……」


 午前中最後の柔道の授業が終わり、生徒たちは昼休みを過ごすため、柔道場から教室へと戻っていく。中里は佐田に柔道場に残ってもらい、昨日二人の身に起きた異変について説明していた。


「俺たちの身体はそのままなんだけどよ、俺と中里の扱われ方? 立場? っつうのか? それが入れ替わってんだ。とにかく、俺がもともと『中里健悟』で、中里が……ああ、ややこしい! お前が『佐田征司』だったんだよ」


「えぇ……? にわかには信じられないですけど……」


 佐田は半信半疑といった表情で首を傾げている。それに対し、中里は「ちょっといいか」と告げて佐田の柔道着の胸元を掴んで、ジャングルのように胸毛の密生した胸板をさらけ出させると、勢いよくつばを飛ばして訴えた。


「ほら! よく思い出してみろ! 『中里健悟』は、こんな胸毛生えてなかっただろ?! それに顔だって、大学生なのにこんなオッサンなのおかしいじゃねえか?!」


「さすがに失礼ですよ、佐田先生! 俺は元からこの顔で──んん? でも、言われてみれば──」


 佐田の脳に植え付けられた中里健悟の記憶と、現在の肉体との齟齬。それを無視するように刷り込まれた鏡の魔力が、ほどけていく。やがて佐田は、愕然とした表情で大声を発した。


「あっ!! そ、そうですよ! 俺、昨日まで佐田先生で……なんでこんな当たり前のこと、今まで忘れてたんだ!?」


 佐田は自分が『中里健悟』だと思い込んでいたことに気づいて、頭を抱えた。やがて憔悴した様子で、中里に謝罪の言葉を口にした。


「佐田先生……じゃなくて、中里……中里くん? でいいんですよね? あの、俺……中里くんに謝らなくちゃいけないことがあって……」


「なんだ?」


「その、中里くんの彼女と……真琴と、昨日寝ちゃったんです……本当にすみませんでした! 妻子もいる俺みたいなオジサンが、中里くんの彼女に、その……色々と致してしまうなんて……ああもう! どうしたらいいんだ……」


「あー……」


 中里も目を逸らしながら、言いにくそうに言葉を返した。


「その……俺の方こそスマン! 佐田先生! 実は俺も昨日、佳枝と寝ちまったんだ……本当に申し訳ないッ!!」


「あっ、そ、そうだったんですね……佳枝さんと……」


 互いに妻を、彼女を寝取り合った二人の男たち。気まずい沈黙が昼下がりの柔道場に流れる。だがそれは、結果だけ見ればスワッピングでもあった。今朝、中里がポージングで射精してしまったように【立場交換に気づいた後は、立場興奮した事実に対して性的興奮する】という性癖も刷り込まれていた。二人はなぜ自分たちの鼻息が荒くなり、股間が次第に固くなり始めているのか理解できないまま、それを互いに隠しながらぎこちない笑みを浮かべた。


「ま、まぁ……やっちまったモンはしょうがねえよな!」


「そ、そうっすよね! お互いにヤってたんだし、おあいこってことで……」


 そう言いつつ、中里は佐田に、佐田は中里に、じろじろと這うような視線を送っていた。「むさ苦しい中年男に、大学生の彼女を寝取られた」「逞しい大学生に、妻を寝取られた」という倒錯的な興奮が、柔道着の中で男たちのチンポを屹立させる。互いに勃起していることに気づいているが、あえてそこに触れないまま、中里と佐田は会話を続けた。


「とりあえず……元に戻るか、試してみるか」


「そうですね! でも、どうやって?」


「あれだよ。昨日見つけた古い鏡。あれが原因じゃねえかと思って、持ってきてんだ。ちょっと待ってろ」


 中里は柔道場の男子更衣室に持ち込んだ、スポーツバッグを取って戻ってきた。午前中の授業が終わってそのまま昼休みに入るこの時間が、おそらく一番都合がいいだろう思って用意しておいたのだ。中から、タオルに包んだ例の鏡を取りだした。


「あの鏡を見たとき、なんか妙な感じがしただろ? また二人で同時に覗けば、元に戻るんじゃねえか?」


「そうですね。やってみましょう」


 中里がタオルを外した。古い鏡には、パンチパーマで口髭を蓄えた青年と、ソフトモヒカンの中年男の顔が映った。


 しかし、中里も佐田も、想像していなかった。もう一度鏡を覗くことで「元に戻る」可能性だけでなく、「さらに悪化する」可能性があることに──


「お゛ひっ♡」


「んあっ♡」


 二人の男が野太い嬌声をあげたときには、何もかも手遅れであった。



「ウオッ♡ ウオッ♡ な、中里ッ♡ 早く鏡からッ♡ 手を離せッ♡」


「むっ♡ 無理ですッ♡ め、目も離せないしッ♡ 手も動かないしッ♡ ハヒッ♡ な、なんかおかしイッ♡」


 中里も佐田も、二人で鏡を覗き込んだまま釘付けになっていた。脳みその中が、鏡の魔力で作り変えられていく。二人の脳内では【元の立場への執着】が薄れると共に【新しい立場を受け入れることは当然】であり、さらに【立場と肉体のギャップを自覚するたびに、強い多幸感を覚える】ように、価値観が変質していく。すなわち【熱烈な立場交換フェチ】の性的嗜好を刷り込まれていく。


「ウオ゛ッ♡」


「ンイ゛ーッ♡」


 最後に一際野太い喘ぎ声を上げると、中里と佐田は二人で鏡を見つめたまま、オルガスムスに達した。脳みそを圧倒的な幸福の波が襲い、大量の精液が二人の柔道着の股ぐらを雄臭く汚す。二人は射精の余韻に呆然としたまま浸っていたが、やがて中里が身体を離し、涎を垂らしながら口を開いた。


「んひっ♡ も、元に戻るどころか……頭ん中、すげーこねくり回されちまった……けど……ウヒヒ♡ 最ッ高じゃねえか……なんで俺ら、元に戻ろうなんて思ってたんだ……?」


 自身の価値観がねじ曲げられたことを自覚しながらも、中里は嬉々としてそれを受け入れた。ビクンビクンと柔道着の股ぐらの中で痙攣するデカマラを、柔道着の生地越しに愛おしそうに撫で、生地に浮かび上がった精液を指ですくい、幸せそうに舐め取る。


「そ、そうっすね……あぁ、俺、また教育実習生になっちまうなんて……なのに、すっげえ、興奮しちまうっ……♡」


 佐田も、強面なオヤジ顔にデレッと締まりのない笑みを浮かべていた。自身の教師としてのキャリアがゼロに戻ったことに対し、倒錯的な興奮を覚えてしまっている。中里がニヤつきながら佐田の背を叩いた。


「おう! 佐田先生! じゃねえや、中里! これから俺がみっちり指導してやるからな!」


「うっす! よろしくお願いします! 佐田先生!」


「へへへ……さあて、帰ったら佳枝を悦ばせてやらねえとな。中里も、真琴とよろしくやってくれよ」


「もう、そういうの男同士でもセクハラっすよ、佐田先生! あぁ……俺、昨日まで妻子持ちのオッサンだったのにっ……佳枝……香織ッ……!」


 佐田は、自分が妻子持ちの中年男から、彼女持ちの男子大学生の立場になったことに興奮しながら、柔道着を膝下までずり下ろした。佐田の淫水焼けした太短いチンポが、濃い陰毛の中で精液を垂れ流しながら、再び固くなりつつある。佐田は「佳枝っ!佳枝っ!」とかつての妻の名前を小声で呼びながら、くちゅくちゅと太短い包茎チンポを扱き始めた。強面のオヤジ顔が、泣き笑いのようになって、鼻水と涎を垂れ流している。中里はその様子を見てにんまりとスケベな笑顔を浮かべた。


「おいおい中里。佳枝はもう俺の女房なんだぜ。いつまでも夫婦面をしてもらっちゃ困るな」


「で、でも俺っ……20年以上も夫婦だったのにっ! ああっ!」


 鏡の魔力によって【立場交換を受け入れる】ように価値観を矯正されたとはいえ、中里と佐田への効果は個人差があった。「肉体はマッチョなラガーマンのまま、アイデンティティが中年男になってしまった」中里にしてみれば、若返ったような爽快感がある。一方「肉体は固太った中年オヤジのまま、アイデンティティが大学生ラガーマンになってしまった」佐田にしてみれば、若者がいきなり中年オヤジの肉体になったような不快感があった。


 しかしそんな佐田でさえも、鏡の魔力で【元の立場への執着】は薄れている。【新しい立場を受け入れることは当然】であり【立場と肉体のギャップを自覚するたびに、強い多幸感を覚える】ようになっている。そのため「絶対に元に戻りたい」という強い気持ち湧き上がるはずが「元に戻りたいとまでは思っていないが、名残惜しい」程度に減衰していた。


 そして鏡の魔力は、その隙を見逃さず佐田の脳を染め上げていく。佐田は口では妻の名前を呼びつつも「加齢臭ムンムンのオヤジ臭い男子大学生」になってしまった興奮が──妻と娘を失う喪失感を埋めるほどの多幸感の渦となって、中年男の脳みそを悩殺し始めていた。自身の毛むくじゃらな胸板から立ち上る加齢臭に、とろんと瞳を潤ませながら、佐田は淫水焼けした太短いチンポを扱き続けた。


「佳枝ッ! 香織ッ! パパは大学生になっちまったッ! 今後は中里健悟として、お前たちとは無関係な人生をッ♡ 生きるからなッ♡ んひぃっ♡♡」


 佐田征司としてのこれまでの人生と決別するように、佐田は宣誓すると、包茎チンポをいっそう激しく扱き立てた。45年間の人生と引き換えに手にした、圧倒的な多幸感。それに脳みそを染め上げられながら、佐田は柔道場の畳に吐精した。ビクンビクンと肉厚な中年男の肉体が痙攣する。佐田はこの毛深く固太った肉体のまま、23歳の若者としての人生を歩むことになるのだ。その様子を中里はにんまりと満足そうに眺めていた。


「へへへ……ずいぶん俺の立場が気に入ったようじゃねえか。んっ♡ お、俺もこれからずっとッ♡……佐田先生だって考えたらッ♡ 興奮してきちまったッ♡♡」


 23歳の男子大学生としての人生から、いきなり45歳の中年体育教師としての人生を歩むことになってしまった、中里健悟。彼もまた、これまでの23年間の人生と引き換えに手にした目も眩むほどの多幸感に、脳みそが急速に染まっていく。これから就職や結婚をするはずだったのに、その過程を飛ばすだけでなく、他の男の職と妻子を手にしてしまう。精悍な青年の顔に、中年男のような好色な笑みが浮ぶ。中里は鼻の穴をムフリと広げると、がに股でチンポを扱き始めた。


「ふひっ♡ おっ、俺もっ! 昨日まで彼女持ちの大学生だったのにっ♡ これからは佐田先生になって♡ 佐田先生の女房とセックスして、生きてくなんてッ♡ ンイ゛ッ♡ イグッ♡♡ 佐田征司にっ♡ 永久就職しちまう〜〜ッ♡♡」


 丸太のように鍛えられた、ラガーマンの太股が痙攣する。そのままビュルルル! と勢いよく射精してしまう中里。射精してもなお、まだ余りある精力と熱烈な立場交換フェチの性癖を刷り込まれてしまった中里は、肩で息をしながら次の欲望のはけ口を探した。


 ──目の前にいる「中里健悟」は、立場交換フェチとしてはたまらなく魅力的であった。先日まで「自分」だった教育実習生という立場。そして「今の自分の立場」だった中年体育教師が成り果てた姿。性的指向はノンケのままであるにも関わらず、中里は目の前にいる「中里健悟」の加齢臭がムンムンと匂い立つ固太った肉体に、勃起が止まらなくなっていた。舌なめずりをしながら中里が「中里健悟」に声を掛けた。


「おう、中里。とっとと柔道場片付けるぞ。それと、ちょっくら付き合えや」


「は、はい……」


 脂ぎったオヤジ顔の「中里健悟」が、うっとりとした様子で返事をした。彼もまた、性別に関係なく、熱烈な立場交換フェチになってしまった以上、「佐田征司」の若く逞しい肢体に、どうしようもないほどの魅力を感じていた。



「中里先生、二週間ありがとうございました!」


「中里先生がいなくなるの、さびしい~!」


「立派な先生になれよ~!」


「何から目線なんだよお前は」


 中里の教育実習は終了を迎えた。最後のホームルームでは生徒たちから寄せ書きと花束が贈られた。壇上に立つ教育実習生「中里健悟」は──実際には、立場が入れ替わってしまったベテラン中年教師、佐田征司なのだが──涙ぐみながら贈呈品を受け取った。


「2年1組のみんなには、本当にこの二週間、お世話になりました。俺っ……なんかもう、胸がいっぱいで……」


 感極まって泣いてしまった佐田征司を見守るのは、本来の教育実習生だった中里健悟。パンチパーマと口髭を蓄えた厳めしい顔つきだが、彼の目にも涙が浮かんでいた。


「おいおい、泣くな。中里。なんだか俺まで、泣けてきちまうじゃねえか」


 教育実習に来た大学生が教師として学校に残り、ベテラン中年教師が教育実習を終えて大学に戻るという、異常事態。しかし生徒たちや他の教職員は何も気づくことなく、この異常を日常として受け入れていた。


(や、やべっ……佐田先生が、俺の代わりに大学生になるって想像しただけで……また勃ってきちまうッ! ふひっ♡)


 中里の目に喜色が浮かぶ。鼻息が荒くなり、勃起しそうになるチンポを股ぐらに挟んで隠しながら、佐田の様子を窺う。佐田も、ベテラン教師である自分が教育実習生扱いされ、寄せ書きを貰って送り出されるという事態に興奮してしまっており、教壇の陰にヒクつくジャージの股間を隠していた。


 送別会を兼ねたホームルームを終え、放課後になった。グラウンドで部活をする生徒たちの声が遠くに聞こえるなか、無人の体育教官室で、私物の整理を終えた「中里」が濁声で言った。


「佐田先生……えっと、中里くん。色々とありましたけれど、俺と立場が入れ替わったのが、中里くんとで良かったです」


「おう。俺も佐田先生の立場、気に入ってるぜ。あんがとよ」


 口髭を蓄えた「佐田」がニカッと豪快に笑う。人目がないのをいいことに、「佐田」は「中里」の贅肉がついた太い腰を抱き寄せた。


「ちょっ、佐田先生」


「へへへ……まさか、俺らの頃からあんなに強面だった先公が、こんなにいじらしい若造になっちまうとはなぁ……」


「佐田」は「中里」の固太った腰を愛撫すると、ゴツい手を尻に這わせていった。「中里」が、脂ぎった強面なオヤジ顔を、とろんと蕩けさせて震える。


「ダメっすよ……いつ人が来るか……」


「こんくらいならいいだろ?」


「あっ、んっ……」


 指先でジャージの上から、肛門のあたりをつつくように触る。ここ数日で性感帯として開発されつつある「中里」の肛門が、興奮でヒクヒクと痙攣した。「中里」がため息を吐きながら喘ぐ。


「んあっ……男同士でとか、興味なかったんですけど……佐田先生とヤるのって、なんかこう、すごくて……」


「ああ……なにせ俺たちは『他人』じゃないもんな。一心同体っつうか、一心他体っつうか……」


 互いに立場交換前と、後の記憶もあるため、中里と佐田は、初恋の相手から性感帯や性経験、さらにクレジットカードの暗証番号まで共有している。互いに人生全ての記憶を二人で共有するというのは、通常では起こりえない異常な出来事であると同時に、後天的に出来上がった双子であるような感覚であった。「佐田」は「中里」を抱きしめ、その脂ぎったソフトモヒカンの頭皮の匂いを深く吸いながら、「年上の双子の弟」のように感じる中年男の、筋肉と贅肉の弾力を愉しんでいた。「佐田」が「中里」に優しく告げた。


「大学が休みに入ったらまた来いよ。今度は家に泊まっていけ」


「はい。あ、でも……なんだか恥ずかしいです。俺が佳枝さんと顔合わせるの……」


「中里」は濃い眉を歪めて、悩ましい表情を浮かべた。先日まで「妻」だった女性と会うのは、どうにも気恥ずかしいらしい。「佐田」はおどけた調子で続けた。


「なんなら夜這いしてもいいぜ。佳枝さえよけりゃ、3Pでもな。ガハハ!」


「もう! 佳枝さんは佐田先生一筋じゃないですか。俺の方が付き合い長いから、そういうのわかってるんですからね」


 軽口を叩き合いながら荷物の整理を終え、体育教官室を出た。職員室へ向かう途中、生徒指導室の扉が開いて、女子生徒と男性教師が出てきたが、なにやらそわそわと落ち着きがない様子だった。


「と、とりあえず……来週までに反省文……書いておくんだぞ」


「わっ、わーってるしっ……んっ……」


「女子生徒」は、体格がよい30代の男性が、セーラー服とスカートで女装している姿だった。ごわごわした男の髪を肩まで伸ばし、茶髪に染めてウェーブを掛けている。エクステでも付けているのか、まつげがやけに長い。学校指定のソックスを穿いた逞しい足には、もじゃもじゃとすね毛が生えている。どこか心ここにあらずといった表情で、もじもじとスカートを直して立ち去っていた。やけに股間が気になるらしく、何歩か歩くたびに首を傾げて股間の辺りを触っている。


 一方の「男性教師」は、どう見ても若い女の子が、男物の白いワイシャツと紺のスラックスで男装した姿だった。清潔感のある七三の髪型だが、ノーブラでワイシャツを着ているため、乳首の輪郭が浮かび上がって卑猥な格好であった。胸の谷間に赤いネクタイが挟まっている。「男性教師」が「佐田」と「中里」に気づいて挨拶してきた。


「お疲れ様です、佐田先生。中里くん」


「おう、お疲れ。冴木。今のは吉田か?」


「ええ。困ったもんですよ。先日の夜間補導された件で、話をしていたんですが──」


「冴木丈治」という男性教師──の立場になってしまった女子生徒、吉田真莉愛が、ふと自分の口調に違和感を覚えたように口を押さえた。


「あの……変なことを聞くようですが……なんだか今日の僕、おかしくないですか?」


「いいや? いつも通りだと思うぜ。なあ、中里」


「ええ。普段通りの冴木先生だと思いますよ。どうしたんですか?」


「いや、その……なんだか自分が自分じゃないような、妙な違和感がして……」


「佐田」と「中里」がねっとりとした視線を交わし合った。例の鏡は、生徒指導室の壁に掛けてある──あまりこの鏡の存在をおおっぴらにすると大騒ぎになるが、しかし「熱烈な立場交換フェチ」になった二人にとって、立場交換が広がること自体に興奮を覚えるのも、また事実であった。「佐田」が口髭を蓄えた若々しい青年の顔に、笑みを作って答えた。


「まあ、なんか悩みがあったら早めに吐き出せよ。俺で良かったら相談に乗るからな」


「ありがとうございます、佐田先生……うーん、自分でも原因がわからなくて……すみません。今日のところはこれで失礼します」


 ぶるんぶるんと女性の乳房を揺らしながら立ち去る「冴木」。立場交換に気づいた「冴木」が、「佐田」に相談し、「吉田」と共に鏡に二度目の姿を映し、立場交換の快楽に溺れてしまうのは──それから数日後のことだった。


(終)

爽やかなラガーマンの教育実習生が、柔道部顧問の中年体育教師と立場交換してしまう話

Comments

感想ありがとうございます! 「立場交換した二人の男が、互いの妻や恋人とセックスしてしまう」というのが書きたかったので、関係性もメチャクチャになっています(そこが好きなところ)。 この鏡は体格や容姿の差の認識を強引に歪めてくれる効果がありますが、もっと小さい子どもとか、もっと太っていたらとか、そういう場合にどうなるかを想像するのも確かに楽しいですね。

くろねこ@9605

立場が変えられた後の違和感、とても面白かったです! 二人だけの立場じゃなく、お互いに関わった人たちの関係性も少しごちゃごちゃになって、なんかワクワクしに来た! 高校の教師と大学生だから、体格の差が少しブレでも自身や他人に誤魔化せますが、もっと身長差と体格差がある対象だったらその違和感がすぐにバレると思って、それも一興ですね!

黒竜Leo


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