(クソッ! また今朝も戻ってねえのかよ!)
地域でも悪名名高い底辺校・雄周高校二年生である金本勇毅は、内心悪態をついて立ち止まった。その様子に、隣にいた友人の八木豊が怪訝そうにした。
「どうしたんだよ勇毅。朝からフケんのか?」
「い、いや……行く」
八木が先に校門を越えた。その途端、八木の格好が一瞬で変化した。ワインレッドのハードモヒカンだった髪型が、黒髪の角刈りに変わる。そして着崩していた学ランが、警察官の紺の制服と青いワイシャツ、ズボンに変化した──正確には警察学校の制服なのだが。八木が振り返って言った。
「そういや……今日の一限は座学で、刑事訴訟法だったよな。小テストって今日だったっけ?」
数日前から、雄周高校は不可思議な力によって警察学校化していた。教師も生徒も、敷地内に足を踏み入れた途端、警察学校にふさわしい服装と人格に上書きされ、それを疑問にも思わない。そして敷地外に出ると、元の姿に戻るのであった。授業内容も警察学校らしく、法律や鑑識、武道を学ぶものに変化していた。
「たぶんな」
金本も表情を固くすると、校門から内側に入った。ガツンと後頭部に衝撃が走り、金本の金髪のリーゼントが黒の五厘刈りに変わる。着崩した学ランが八木同様に警察学校の制服に変わると、金本も警察学校生になってしまっていた。金本は自分の坊主頭を撫でると、小さくため息を吐いた。
(なんか……これはこれで……悪くないかもな……)
警察学校生にふさわしい価値観と記憶──警察官への憧れや知識、学力を毎朝刷り込まれ、次第に金本は学校の外にいるときも警察官に憧れるようになってきていた。今朝も悪態こそついたが、実際は楽しみに思っている部分もあった。金本や八木同様、警察学校の教官になってしまった生徒指導の大道寺先生──厳つい中年警察官に憧れの視線を送りながら、金本は股間を固くしていた。
(終)
──大桐高校ラグビー部の皆さま。本日はEX交通をご利用頂き、誠にありがとうございます
高速バスの車内。遠征帰りである大桐高校ラグビー部の部員たちは、疲れて眠っている者が多かった。一年生の木村大地もウトウトしていたが、アナウンスに違和感を覚えて顔を上げた。
──なお、当バスはこれより、社会人アメフトチーム「ヒュプノトルネード」御一行様との入れ替わりを予定しております……
※
「んあっ!」
木村はビクンッ!と体を痙攣させた。木村の座席の位置は変わっていない。しかし、座席から見える光景は一変していた。
「うおっ! なんだこりゃ!」
「誰なんだよ! お前ら!」
大桐高校ラグビー部の赤と黒のユニフォームではなく、青色のアメフトのユニフォームを着た屈強な成人男性たちが、混乱して大声を出していた。木村も自分の体を見た。スクラムハーフのポジションで細マッチョな体格だったはずが、ゴリマッチョな体格に変貌していた。
(んぁっ……な、なんだよこれ……でもまあ、俺のポジションはオフェンスタックルだし、これくらいガタイがいいのは当たり前だよな……あれっ?)
木村は──岩橋哲也という28歳の社会人アメフト選手は、雄臭い顔を歪めて困惑した。放送が続いた。
──乗客の皆さまはに、速やかに新しい自分とチームメイトを受け入れて頂くようお願い致します
男たちが一斉に、恍惚とした溜め息を吐いた。自分やチームメイトの肉体に喜々として触っている。
「あぁ……お前、木村だよな。すっげえエロい体になりやがって……」
隣に座っていた三年生の、松崎和博先輩が声を掛けてきた。──プロップとして厳つい体格だった松崎先輩が、細マッチョな新人ワイドレシーバー、須藤雅紀になって抱きついてきていた。木村は/岩橋は、かつての先輩を/今の後輩を抱きしめ、汗臭いアメフト野郎同士で盛り始めた。
(終)
「そこまでだ! 観念しろ!」
堂島竜司は路地裏に追い詰めた男に呼びかけた。悪の組織・アンダーナインは犯罪者たちを集めて非合法な実験を加えていた。その支部を制圧した際、幾人かの犯罪者が外部に逃げ出してしまった。ヒーロー・マックスボルテージとして活動している堂島竜司は、数日後に町中で偶然、その犯罪者の一人を見かけて、追いかけてきたのだ。
堂島はじりじりとその巨漢の犯罪者に近づいていった。そのときだった。
ブプッ! ブピ〜〜〜ッ! ブボボボッ! ボフッ!!!
巨漢の犯罪者の方から断続して汚らしい音が鳴り、続いて硫黄に似た猛烈な臭いが堂島の鼻腔を刺激した。
(な、なんだこれっ! 臭っ!!)
「うへへ……もうおしまいだよ。アンタ」
巨漢の犯罪者──西村悦雄は下卑た笑みを浮かべながら、堂島の元に近寄ってきた。堂島は怪訝そうな顔で口を開いた。
「それはどういう意味だ」
「へへっ……そうだな。ちゃんと効いてるか、試してみるか。なあ、アンタは自分が誰なのか、ちゃんとわかってんのか?」
舐めた態度の犯罪者に対し、堂島は高らかに叫んだ。
「なるほど。俺の正体を知っているわけか。俺はヒーロー・マックスボルテージ!……ンッ……」
堂島の鼻腔がヒクつき、まだ周囲に残っている放屁の残り香を吸い込んだ。その正義感に滾る熱血漢の顔が、デレッと情欲に染まった。
「マックスボルテージ……だったが、現在は放屁処理奴隷として、主人の命令を待っているところだ」
「うおっ! アンタヒーローだったのかよ! へへっ。じゃあさっそく、俺の屁をたっぷり嗅いで、もっとスケベにならねえとな!」
ボフン! と男が再び放屁した。堂島はうっとりとした表情で四つん這いになると、巨漢の犯罪者の尻に顔をうずめた。
(あぁ……この臭い……たまらんッ! 放屁処理奴隷として、もっと淫乱にならねば……)
(終)
ベンチャー企業の社長、松岡慶悟はそわそわと腕時計を見た。松岡は都心のマンションに自宅を持ち、42歳で妻と二人の娘がいる渋めのイケオジだ。元ラグビー部で、今も逞しい体型を維持している。仕事が終わり、彼は駅近くのガード下で人を待っていた。
「おう! 悪ぃ悪ぃ! 待たせたな!」
慌ただしくやってきたのは、山口嘉男。53歳。ねじり鉢巻をした角刈り頭に、日に焼けたオヤジ臭い顔立ちをしている。下町で八百屋をしている山口は、先月まで、松岡と全く接点がなかった。松岡の下半身が、意に反して勃起し始めた。
(んあっ!……いっ、いつになったら、俺たちは戻れるんだ?)
松岡は自分の下半身を見た。高級スーツを着た逞しい上半身に対し、下半身はビール腹が突き出て八百屋の前掛けをし、量販店の色褪せた作業ズボンと雪駄を履いている。おまけに短足のガニ股であった。
一方、山口は白いTシャツを着た固太った上半身で腹巻きをし、下半身は高級ブランドのスラックスと革靴を履いていた。胴長な日本人体型だが、足はすらりと長い。
松岡慶悟と山口嘉男は、ぶつかったことで下半身が入れ替わった。しかも「下半身にふさわしい服装が正しい状態である」と周囲が認識しているため、松岡は下半身は八百屋の格好で、山口も下半身は高級ブランドのスーツで日々の仕事をしていた。
※
入れ替わった下半身は、元の上半身に恋い焦がれていた。
今日は山口の行きつけの呑み屋で一杯引っ掛け、ラブホへと向かった。松岡の下半身は山口のオヤジ臭い上半身を求め、痛いほど勃起していた。山口も同じだ。妻よりも激しい恋慕の情に突き動かされ、ベッドでもつれるように抱き合う。元に戻りたいと頭では考えている。しかし、それ以上に。
(上半身も入れ替わって、山口さんになりたいッ……!)
松岡と山口の熱っぽい視線が絡み合う。問いも返事も不要であった。
(終)
──────────
お題を元に800字で小説を書いていくチャレンジ。今回は、
「底辺校の男子校」+「警察学校化」
「アメフト+ラグビー」+「入れ替わり」
「放屁処理奴隷化」+「巨漢の犯罪者と変身前の青年ヒーロー」
「下半身入れ替わり」+「良家と貧民」
の4本でした。
個人的には今まで書いたことのなかった「下半身入れ替わり」+「良家と貧民」が中々面白かったですね。下半身の服装がそのままというのは他にも色んな職業で倒錯的な状況が作れそうなので、長編でも書くかもしれません。
800字小説のお題のリクエストは、基本的には「2つの単語」までOKです。具体的には「寄生」+「格闘家」などですね。ただ、入れ替わりや立場交換の場合は、単語2つだけだとリクエストの幅が狭くなってしまうので、交換したい組み合わせまで書いて大丈夫ですよ。例:「立場交換」+「中年体育教師と教育実習生」
簡易的なリクエストとして、思いついたものがあればコメントしてみてください。リクエストしたいお題は、今まで通り800字小説のコメント欄にどうぞ。
くろねこ@9605
2023-04-01 07:33:33 +0000 UTCブウ
2023-03-30 02:26:22 +0000 UTCくろねこ@9605
2023-03-05 06:09:01 +0000 UTCゆきの
2023-03-04 12:38:28 +0000 UTCくろねこ@9605
2023-02-27 13:17:03 +0000 UTCくろねこ@9605
2023-02-27 13:15:03 +0000 UTCkoh
2023-02-27 13:09:45 +0000 UTCタカムラ
2023-02-27 13:07:29 +0000 UTCくろねこ@9605
2023-02-27 12:58:36 +0000 UTCくろねこ@9605
2023-02-27 12:53:54 +0000 UTC黒竜Leo
2023-02-26 18:34:38 +0000 UTCPrinceBeggar
2023-02-26 14:30:08 +0000 UTC