(サッカー部のユニフォームって、こんなだったんだっけ……?)
サッカー部主将、山本遼太郎はここ数日、違和感を覚えていた。目の前には、練習に励む部員たちの姿がある。部員たちは皆、サッカー部のユニフォームである──マンキニを穿いている。マンキニ以外には、ソックスとスパイクしか身に着けていない。全身が浅黒く日焼けしたサッカー部員たちの尻に紺のマンキニが食い込み、さらにマンキニを穿いているところだけは色白で、マンキニ焼けの跡がくっきりとある。背番号ならぬ股間番号の入ったマンキニを穿いた、淫猥なサッカー部員たち……遼太郎は、自分もその一員であることに、次第に鼻息が荒くなり始めるのを感じていた。
(で、でも、昨日観た日本代表の試合も、ユニフォームはマンキニだったし……なにもおかしくない……んだよな?)
【サッカーのユニフォームはマンキニである】【マンキニはサッカー選手の運動能力と魅力を引き立たせる、最高のユニフォームである】──ということに、過去に遡って現実改変されてしまっていた。そして、たとえ性的指向がノンケであっても【マンキニを穿いた男に欲情するのは、なんら不自然なことではない】ので、改変後の世界で、マンキニ姿のサッカー選手たちが汗を滴らせてボールを追う姿は、世の男達を性的に興奮させていた。サッカー選手をオカズにオナニーする男が非常に多い。それは遼太郎も例外ではなく、昨日は日本代表とスペイン代表の試合をオカズに、たっぷり3発も抜いてしまったのだった。スペイン代表の毛深い肉体に食い込む赤いマンキニが非常に扇情的で──
「ま、マンキニィッ! ンアっ!!」
遼太郎はガニ股になり、両手を股間のところで交差させる卑猥な動きをした。なぜか知らないが、昔からサッカー選手のストレッチとして有名なものだ。同時に、陶酔感と快感がこみ上げてきて、遼太郎は手も触れずにオルガスムスに達した。
(終)
「ん?」
船橋俊英は、カメラのシャッター音に振り返った。35歳になる俊英の肉体は、トライアスロンで鍛え抜かれており、赤と黄色のライフセーバーのポロシャツは胸板が分厚く盛り上がっていた。赤いサーフパンツからもヒラメ筋の発達した両足があらわになっている。後ろにいた巨漢が、俊英にスマホを向けていた。まるでスイカのような太鼓腹がボクサー型の水着の上に乗っかった肥満体型だった。
「うへへ……いただきっ!」
「なにを──んあっ!?」
巨漢がスマホを操作した途端、俊英は急激に体が重くなり、日に焼けた砂浜にドスンと座り込んだ。
「うっ、うわぁっ……! な、なんだっ!」
やけに声が野太い。ぶよっとした首を抑えながら、おそるおそる自分の体を見ると──そこには、別人のように肥えた肉体があった。上半身は贅肉たっぷりの胸と太鼓腹になり、下半身はありふれた柄物のボクサー型の水着を着ていた。いつの間にかポロシャツは消えていた。そして、そんな俊英を見下ろす男がいた。
「おっ! すっげ〜! マジで体型ごと入れ替わってんじゃん」
顔は、先ほどの巨漢の面影があった──どちらかと言えばブサイクな面構えだが、しかし、その体格は屈強そのものだった。日に焼けた逆三角形の肉体で、ブーメランパンツを穿いている。意外と若いようだった。俊英は立ち上がろうとしたが、自分の体重が重すぎて立ち上がれなかった。
「あっ、えっ、なんで……! ボクっ! あれ!?」
「体型を入れ替えたんすよ〜! うっわ、喋り方も変わってる。お互い『元からこの体型だった』ことになってるんで、人生ごと変わってますよ。それじゃ、あとはよろしく〜」
「えっえっ! 待って、待ってよぉ〜!」
自信の源だった屈強な体格も、スポーツ経験も全て取り上げられ、気弱な35歳のデブになってしまった俊英は、情けない声を上げたまま砂浜に取り残された。
(終)
吉岡亮平の私生活が見ず知らずの中年男に支配されてから、三日間が過ぎていた。
「おかえりぃ〜! 亮平くぅ〜ん!」
その日も自宅マンションに帰った亮平を、ドスドスと重たい足音で中年男が出迎えた。脂ぎったハゲ頭に、頬から二重顎までを覆う無精髭。Tシャツは太鼓腹で盛り上がり、酸っぱい加齢臭がムンムンと立ち上っている。ノンケである亮平の性的な好みからは、掛け離れているはずの容姿。実際、三日前に駅前で声を掛けられたときも、亮平は関わり合いにならずに立ち去ろうとしたのだが──
(クソッ! なんでこんなオッサンに……勃起しちまうんだよッ!!)
週末にジムで鍛えている亮平の筋肉質な肉体が、スーツの下で臨戦態勢に入りつつあった。亮平の眼鏡の奥にある精悍な瞳に、情欲の色が混じり始める。自分の肉体の裏切りに、亮平は悔しさを感じつつも……平静を装い、口を開いた。
「……ただいま、田所さん」
「もう! 亮平くんったら〜……勝治って呼んでいいって言ってるじゃん」
亮平の意思に反して、小鼻は中年男の加齢臭を忙しなく吸い込み、その酸味を堪能し始めていた。三日前にこの中年男から渡されたピンク色のチケット──ラブチケと書いてあるチケットの効果により、亮平の「理想の恋人」は、この中年男にされてしまった。肉体だけでなく、精神にも影響は及んでいる。この男から離れれば、一時的に影響は弱まるのだが──しかし、こうして目の前に立たれると、その影響はあっという間に亮平の心を染め上げた。
(お、オッサンだけど、すっげ、かわいい……あっ、クソッ! でもっ……! もう、我慢できねえっ!)
亮平の抵抗も虚しく、今日も嫌悪感が愛情へと裏返った。元の嫌悪感がデカい分、それは劇的だった。亮平は肩で息をしながら中年男を抱き寄せると、無精髭まみれの顔に接吻し、舌をねじり込んで濃密なディープキスを始めていた。
(終)
木村正史。年齢は35歳、商社勤務のサラリーマンで、妻と小学生の息子がいる──数秒前まではそのはずだった。
「んあっ!?」
息子と風呂に入っていた正史は、後頭部にガツンと衝撃が走り、思わず声を上げた。
「……ん? ど、どこだ、ここは!?」
気がつくと、そこは自宅の風呂場ではなかった。汗臭く乱雑な印象を受ける部屋だった。壁に貼られた野球選手のポスター、机には教科書や漫画があり、ハンガーには学ランがある。そしてなにより、風呂に入っていたはずの正史が、どこかの学校のジャージを着ていた。頭を触ると、髪も坊主頭になっていた。正史は部屋にあった姿見を見て、目を丸くした。そこには、浅黒く日焼けした高校球児がいた。精悍な容貌だった正史よりも、イモ臭く垢抜けない顔つきをしている。
「お、俺……なんでこんな……ん? そういえば、入れ替わりアプリ使ったんだっけ……このオッサン、けっこう俺の好みだったし……あれっ!?」
他人の記憶が、正史の脳裏に蘇った。スマホに入っていた「入れ替わりアプリ」を使って、見た目が好みだった正史と入れ替わった記憶──この肉体の持ち主である、黒澤卓也の記憶だった。そして同時に、アプリの安全機能も発動した。アプリが使用不可能になるロック機能と、さらに認識の改変──入れ替わり自体に多幸感を感じ、元に戻る意思を喪失させる機能である。正史は自分のアイデンティティを守ろうと、頭を両手で抑えて抗った。
「な、なんだこれっ……すっげ……嬉しいッ……ち、違っ! 俺には、妻も、息子もいるのにっ……んぁぁあっ!!」
鋭い快感が背筋を貫き、正史は──卓也はオルガスムスに達した。これから一生、このイモ臭く、赤点ばかり取ってしまう頭の悪い高校球児の肉体で、人生を送らなければならない──それが、たまらなく嬉しい。
「あぁ……もうこの体は俺のもんだ……ンッ! イイッ……!」
(終)
──────────
お題を元に800字で小説を書いていくチャレンジ。今回は、
「サッカー部」+「マンキニユニフォーム」
「体型入れ替わり」+「ライフセーバーと巨漢デブ変質者」
「イケメンメガネサラリーマン」+「デブハゲおじさん好き」
「リーマンと野球部」+「入れ替わり」
の4本でした。
800字小説のお題のリクエストは、基本的には「2つの単語」までOKです。具体的には「洗脳」+「高校球児」などですね。ただ、入れ替わりや立場交換の場合は、単語2つだけだとリクエストの幅が狭くなってしまうので、交換したい組み合わせまで書いて大丈夫ですよ。例:「立場交換」+「父親と息子」
簡易的なリクエストとして、思いついたものがあればコメントしてみてください。リクエストしたいお題は、今まで通り800字小説のコメント欄にどうぞ。
それと、どんなリクエストしたのか他の人に知られたくないときは、どうしたらいいですか?という問い合わせも頂きました。その場合は、TwitterのDMやpixivのメッセージでリクエストを下さい。それ以外の通常のリクエストは、今まで通り800字小説のコメント欄にコメントを下さい。
※リクエストする際のお題を「2つの単語」に絞っているのは、複雑な内容を文章でリクエストされても、800字という文字数では対応できないためです。ご了承下さい。
くろねこ@9605
2022-07-26 09:41:35 +0000 UTCくろねこ@9605
2022-07-26 09:37:53 +0000 UTCブウ
2022-07-25 12:44:16 +0000 UTCリリルス
2022-07-23 12:59:19 +0000 UTCくろねこ@9605
2022-07-23 06:21:59 +0000 UTCくろねこ@9605
2022-07-23 06:17:28 +0000 UTCブウ
2022-07-22 09:23:39 +0000 UTCのすけ
2022-07-19 13:15:59 +0000 UTCくろねこ@9605
2022-07-18 11:38:50 +0000 UTC黒竜Leo
2022-07-18 05:40:36 +0000 UTC