※この小説は、FANBOX運営の要請により、一部の表現を削除・変更しています。
2024年6月30日 くろねこ
体育教師である佐竹浩明の身に異変が起きたのは、ある月曜日の朝のことだった。佐竹はキッチンで妻が朝食を作る音を聞きながら、ダイニングで朝のニュースを観ていた──はずだった。
(うおっ! なんだっ!?)
唐突な浮遊感。地震で椅子から体が浮き上がったのかと思い、叫び声を上げようとしたが、声は出なかった。意識だけが、肉体の外に弾き出された──佐竹はダイニングの椅子に座ってテレビを観ている自分の姿を、空中に浮かんで、体の外側から観ていた。どうにか自分の体に戻ろうとする佐竹の意思に反して、視点が急速に遠ざかっていく。壁を通り抜け、なにかに引っ張られるように住宅街の上を飛んでいく。そのまま佐竹の意識は、走行中の満員電車の中に──吸い込まれていった。
※
「うおっ!……あっ、その……すみません」
突然大声を出してしまい、佐竹は反射的に周囲に謝った。喉の調子がおかしい気がして、咳払いをした。さっきまで佐竹は自宅のダイニングにいたはずだが、今は満員電車の中で吊り革を掴んでいた。もう片方の手にはスマホを持っている。佐竹は動揺しながら、周囲を見回した。
(な、何が起きたんだ、いま……寝ぼけてたのか? いや、待て……そもそもなんで俺が、電車に乗っているんだ?)
佐竹は自宅から車で通勤していたはずだ。だがしかし、佐竹の頭にはなぜか「自分は電車とバスで学校に通学している」という記憶があった。この春に高校に入学してから、ずっとそうだったはずだ。
(ん? 春に入学? 俺は五年前から、今の高校で教師をしていたはずだが……?)
佐竹は自分の格好を見た。体育教師であるはずの自分が、なぜか学ランを着ている。さらに学校指定の通学リュックを床に置いて、両足の間に挟んでいた。
(いや、なんで俺が学生服を……けど、いつも通りのような気もするな……)
佐竹は混乱していた──その光景に、違和感と既視感を同時に感じていたためである。佐竹の脳内では「体育教師としての記憶」と「男子高校生としての記憶」が両方ぐちゃぐちゃに混ざっていた。しかもその「男子高校生としての記憶」は、明らかに佐竹の高校時代とは別人のモノだった。高校時代はサッカー部だったはずの佐竹だが、なぜか今は、昨日まで野球部員として練習をしていた記憶があった。
(どういうことなんだ? 俺は高校時代はサッカー部に……しかし、昨日も野球部で練習をしたはず……なんだよな。あれ?)
佐竹は眉根を寄せながら、自分の頭を触った。今朝まではソフトモヒカンだったはずが、今は五厘刈りの坊主頭になっていた。短く刈られた芝生のような感触が心地よい。佐竹は学生時代から五厘刈りにしたことはなかったはずだが、しかし「自分は中学時代から五厘刈りだったはずだ」という奇妙な実感が浮かび上がってきた。
(んっ……なんか、変な感じだ。どう考えても、この体……俺とは別人の体だよな? けど、そんなことありえるのか?)
そのとき、手に持ったままのスマホがブルっと震えた。何か通知が来たらしい。画面には次の文章が表示されていた。
【角谷清隆さまと、佐竹浩明さまの入れ替わりが、完了しました】
【角谷清隆さまになられた、佐竹浩明さまへ。当アプリの規約を、ご確認ください】
(い、入れ替わりだと?! それに……角谷! 俺、角谷になっているのか?!)
それは、よく知っている名前だった。角谷清隆。佐竹が担任をしている高校の男子生徒だ。野球部員で、眉が濃く、イモ臭い顔立ちの一年生。そして同時に、誰と入れ替わったのか自覚したことで、佐竹は脳内にあった角谷清隆の人生の記憶を自覚し、自由に読み取ることが出来るようになった。その情報量に、佐竹の後頭部にガツンと衝撃が走った。
(うっ……うおぉ……なんだこれ……俺っ、さっきまで、角谷だった気がしてきちまう……!)
佐竹は、角谷がスマホにいつの間にか入っていた「入れ替わりアプリ」を、今朝の通学電車の中で使ったことも、自分の記憶として思い出していた。そして、角谷が佐竹に対して抱いている特別な感情も──もはや佐竹のモノになっていた。
(角谷……その、俺のこと、好きだったのか……? はううぅ……こっ恥ずかしいな……昨日も寝る前に、俺の写真で抜いてたし……)
スマホの画面を見たまま固まっていた佐竹の顔が──イモ臭い高校球児になったその顔が、照れ臭そうに赤くなった。毎晩のように、角谷がクラスの集合写真の佐竹の姿をオカズにしながらオナニーしていたことも、今の佐竹は自分の記憶として思い出せた。そして同時に、学ランのズボンの中で角谷のチンポが──元の佐竹のチンポよりもお粗末な短小包茎チンポが、ぐっと固くなり始めるのも感じていた。陰毛が皮に挟まり、佐竹は痛みに眉をひそめた。モソモソとチンポジを直す。元の佐竹よりも陰茎は小さく、やや手間取ってしまった。
(ん? アプリの利用規約ってこれか……うわっ、なんだこりゃ!)
アプリの画面を調べていた、ゴツい豆だらけの高校球児の指が止まった。そこには信じられないような文章が並んでいた。
【当アプリではどのような人間同士でも、入れ替わりを快適にするために「相手になったこと」を実感するたびに、多幸感を感じるようになります】
【入れ替わり後は、相手の脳から記憶を読み取ることができます。記憶を読めば読むほど、あなたの人格は相手の人格に近づいていきます。知能や価値観も相手のものに変化していきます】
【当アプリの入れ替わりは24時間のお試し期間があります。基本的には24時間後に、入れ替わりは解除されます。影響を受けた人格等も元に戻ります】
【しかし、双方が24時間以内に性的絶頂に達した場合は「互いにその肉体を使用し続ける意思がある」ものと見なし、入れ替わりは解除されません。永久に入れ替わったままとなりますので、ご了承ください】
※
「おーす、キヨ。どうした? なんか今朝、妙にニヤニヤしてるじゃん」
「あー、いや……なんでもねえよ」
「お前さー、またエロいこと考えてだろ! 授業中にシコるんじゃねえぞ」
「ちげえって!」
角谷として野球部の朝練を終えた佐竹は、角谷の友人の伊勢と田所と教室で喋っていた。角谷清隆の下の名前を略して、親しげに「キヨ」と呼ばれると、妙にこそばゆい。それどころか──
(う、嬉しくなっちまう……これが利用規約にあった、多幸感ってやつだな……)
今朝までの角谷の記憶を引き継いでいる佐竹にとって、角谷のフリをして友人と会話することは、あまりにも簡単なことだった。読んでいる漫画や、流行っている音楽の話題。学校の先生に対する愚痴……記憶だけでなく、今どきの高校生の感覚と、三十代の佐竹の感覚はかけ離れているはずのなのに、いかにも角谷が言いそうな言葉が口から出てくる。角谷の声で、角谷の感情で、角谷として喋ることが嬉しい。そのため、つい表情筋が緩んでしまっていた。
(こんなの、絶対おかしいのに……あぁ……野球部の朝練も、体を動かすのが気持ちよかったなぁ……)
今朝の野球部の練習も自然と体が動いた。さらには角谷の肉体を動かし、筋肉が伸縮するたびに、奇妙な心地よさと悦びが湧き上がってしまった。他人の肉体を勝手に使って運動し、汗を流すというのは、他人が大切にしている道具を勝手に自分のモノにしているようで、どこか背徳的な悦びがあった。それに、昨日まで教え子だったはずの二年生や三年生の野球部員たちから後輩扱いされることは、自分が角谷清隆になってしまったことを、佐竹に強く実感させた。そのたびに、強烈な多幸感が脳に刷り込まれていく。そして多幸感の元凶が、教室にやって来た。
「おーし、席につけー。ホームルームを始めるぞー」
(お、俺だ! 俺が来た! なんか、こう……エロくないか? 妙に興奮しちまう……!)
チャイムが鳴る少し前に教室の前のドアが開き、白いポロシャツを着た成人男性が入ってきた。佐竹浩明。一年三組の担任教師であり、佐竹本来の肉体だった。自分の姿を他人の目で見ることは、今までよりもより一層、自分が教え子と入れ替わったことを佐竹浩明に実感させた。きゅうんと胸が切なくなり、鼻息が荒くなる。イモ臭い高校球児の顔が情けなくとろける。幸い、他のクラスメイトたちは担任に注目しているため、佐竹が角谷の顔で鼻の下を伸ばしていることは気づかれなかった。
(はあぁぁ……俺、毎日あんな体で暮らしてたのか……うおっ……股間もっこりすぎだろ)
佐竹は鼻息を荒げながら、ジロジロと元の自分の体を視姦していた。同性愛者である角谷の脳を使って思考する以上、佐竹の感情も角谷の脳の影響を受けていた。思考する内容、感じる内容に、角谷清隆の脳が補正を掛けてしまう。佐竹浩明の着ている白いポロシャツを盛り上げる厚い胸板や、太い腕。角張った顎や顎髭に目が行ってしまう。元の自分を性的な目で見ることに、佐竹はやや戸惑いも感じたものの、しかし性欲に正直な男子高校生の肉体には逆らえず、机の下で高校球児の粗チンをギンギンに勃起させてしまっていた。
「さて、と」
佐竹の肉体は出席簿を教卓に置いて、教室を見渡した。彼は、角谷の席に座っている佐竹に視線を注いだ。(俺が……俺を見たっ!)佐竹の背筋に電流が走った。入れ替わりの多幸感と、担任に恋している高校球児の多幸感。それを同時に浴びせられ、角谷の肉体に入った佐竹浩明の意識はうっとりとしてしまう。学ランのズボンの中で、粗チンが痛いほどに勃起している。教壇に立った佐竹の肉体は、その精悍な顔に笑みを浮かべると、そのまま出席を取り始めた。
「それじゃ、出席を取るぞー。あんどうよしひさー」
「はい」
「次、いせしょうごー」
「はい」
佐竹はドギマギしながら、自分の──否、角谷の名前が呼ばれるのを待ち受けた。あの自分の肉体に入っているのは、角谷のはずだ。一体いま、どんな気分なのだろうか。自分と同じ様に、この状況に興奮しているのではないか──そう考えて担任教師の顔色をうかがうと、精悍な顔がやや紅潮しているように見えた。低く、太い成人男性の声を発することに、喜びを覚えているような。そしてついに、教壇に立っている佐竹の肉体が、角谷の名前を呼んだ。
「次、かどやきよたかー」
「ッはい!」
返事をした。佐竹浩明という本来の名前ではない。教え子の男子生徒の名前を呼ばれて、代わりに返事をした。今は佐竹が、角谷清隆になっているのだから、それは当然のことだ。
(お、俺っ……! おれが、俺じゃ、なっ……いっ! 俺は、かどや、きよたかッ……!)
ゾクゾクゾクッ!と佐竹の背筋に快感が走った。他人の名前に返事をするということは、自分がその人間であるということを認める行為に他ならなかった。角谷清隆であるということを、他ならぬ佐竹浩明に呼ばれることで認めてしまった佐竹は、アプリの規約通りに、多幸感がドプドプッと溢れてきた。ビクビクっと腰が動く。さすがに射精には至らなかったが──佐竹は机の上に突っ伏した。今の自分は、担任教師に名前を呼ばれたことに悦んでいる、ホモの高校球児だ。異常な状況であるはずなのに、それがたまらなく──嬉しい。
(フーッ、フーッ……き、気持ちいい……い、いかんいかん。こんな調子じゃ、学校にいる間に射精しちまう。とにかく角谷を問い詰めて、元に戻してもらわないと……)
※
ホームルームを終えると角谷は──佐竹の肉体に入った角谷は、足早に教室を後にしてしまった。佐竹は追いかけたかったが、一時間目は音楽室に移動する必要があったため、それもままならなかった。
(体育の授業は午後だし……ひとまず、昼休みに捕まえることにするか)
佐竹はそのように考えていたのだが、午前中の授業を受けるうちに、佐竹の精神は確実に、角谷清隆のモノへと変化が進んでいった。
(アレっ、この数学の公式、どうやるんだっけ……)
佐竹自身は、佐竹浩明としての記憶を失ったわけではない。しかし角谷清隆の肉体で、角谷清隆の脳を使って考える以上、まず思い出そうとする記憶が、無意識に角谷のモノになってしまっていた。そのため、数学の公式や、世界史の小テスト範囲を思い出そうとするほどに、角谷の過去の記憶を思い出すことに繋がっていた。角谷の声帯を使って行う英語の発音はひどいものだったが、それも佐竹を興奮させた。授業を受ければ受けるほど、自覚のないまま佐竹は角谷としての記憶を思い出し、そして思い出せば思い出すほどに、学力が低下していく──という皮肉な結果になっていた。そのことに気づいたのは、現国の時間だった。小テストをほとんど間違えていた。学生時代は得意だったはずの長文読解が全く出来なくなり、そしていつの間にか書いた字が、佐竹の読みやすく整った字から、角谷の筆圧の強く汚い字に変化していることに愕然とした。
(うおっ! 何だよこれ! おれ、いつの間にか角谷になってきてんのか!)
慌てて、今度は佐竹浩明としての記憶を意識的に思い出そうとするのだが、しかし精神が角谷清隆に染まりつつある現場では、奇妙な倒錯感を佐竹に呼び起こすことになった。国語教師が淡々と授業を進めるなか、佐竹はとろんと熱っぽい目でノートに視線を落とした。
(おっ、俺……今朝まで佐竹先生だったんだよな……はうぅ……すげえ、興奮する……先生の初体験……奥さんとのセックス……全部思い出せちまう……うへへ)
いつの間にか、佐竹は角谷の立場になって物事を考えていた。角谷にとって佐竹は、憧れの体育教師。仮に角谷が佐竹の記憶を盗み見ることがあれば、間違いなく性的に興奮しただろう。角谷の人格に染まりつつある佐竹は、本来の自分の記憶を思い出そうとすると、角谷と同じ様に性的興奮を覚えてしまっていた。チンポがヒクヒクと痙攣してしまう。金玉が激しく玉袋の中で動く。このままでは、想念だけで射精してしまうのではないかと思うほどに。
(うおっ! やっべ……イッたら元に戻れないんだよな……違うことを考えないと)
しかし、佐竹の記憶を思い出すことをやめると、今度は角谷としての記憶を思い出すことになる。そしてそれはアプリの規約通り、佐竹に多幸感をもたらす行為であり、こちらの記憶も佐竹を性的に興奮させてしまうのだった。
(はっ……はひっ……も、もう限界だ……早く、昼休みに先生を捕まえないと……)
※
昼休みが始まると同時に、佐竹は教室を飛び出した。そして佐竹は廊下を歩いていた自分の肉体を──佐竹浩明の肉体を呼び止め、近くの空き教室で問い詰めたが、埒が開かなかった。
「おいおい。角谷。お前は一体何を言っているんだ?」
「だーかーらー、今朝までは先生の方が角谷で、俺が佐竹先生だったっつてんじゃん! 返せよ! おれの体!」
「ハハハ。そんなわけないだろう。この体は俺自身の体だ。生まれてから今までも。これからも……ずっとな」
佐竹の肉体を奪った角谷は、明らかに全てを理解している素振りのニヤケ顔で、淡々と佐竹の訴えを否定した。最も、入れ替わりなんて非常識なことを言い出している分、佐竹の分が悪かった。佐竹が悔しそうに俯き、両手を握りしめていると、プッと噴き出す声がした。佐竹の肉体が、ゲラゲラと笑っていた。
「アハハ! いやー、すまんすまん。佐竹先生があんまりにも必死だったもんでな。ついからかっちまった」
「じゃあやっぱり……あんたは、角谷なんだな?」
「まあな。だがすっかり頭の中身が染まっているから……元の佐竹先生と、そう変わらないだろう?」
角谷は佐竹の顔で得意げな表情をすると、ぐっと右腕に力こぶを作り、うっとりと眺めた。その様子に、佐竹も見入ってしまった。角谷の記憶に染められてしまった佐竹にとって、元の自分の肉体は極上のオカズでもあった。佐竹の肉体が、低い成人男性の声で言った。
「俺はもう射精を済ませたからな。あとは先生が、入れ替わりから24時間以内に射精すれば、入れ替わりが確定するぞ」
「クソッ! おれは絶対、射精しないからな!」
「そうか? これでも……か?」
「は……? おっ、おい! なにすんだ!」
佐竹の肉体が、佐竹を抱き寄せた。厚い胸板に坊主頭を埋められ、佐竹は抵抗しようとしたが、すぐにその動きが鈍くなった。鼻孔に溢れかえる、元の自分の体臭。汗臭い、三十路男のむわりとした匂い。今までは何の感慨も抱かなかったその体臭が、角谷の肉体になった佐竹にとっては、とても魅力的な匂いになってしまっていた。
(おっ、俺の匂い……エロッ! こんなエロい匂いプンプンさせてたのかよ!)
「どうだ? 佐竹先生。元の自分の匂いは」
佐竹の肉体を乗っ取った角谷は、高校球児になってしまった佐竹を抱きしめると、坊主頭を撫でた。その仕草に、キュンとしてしまう佐竹。
「せっ、先生……」
熱っぽい目で、元の自分を見つめてしまう。佐竹は、つい自分が角谷であるかのように、無意識に相手を先生と呼んでしまった。佐竹の肉体を乗っ取った角谷は、結婚指輪をしたゴツい手で、高校球児の肉体になってしまった佐竹のプリっとした尻を撫で回した。その感触に佐竹は悶え、角谷の声で喘ぎ声を漏らしてしまった。
「あっあっ、ヤバい……マジでヤバいっす、先生……」
「なあ、このまま入れ替わろうぜ。俺が佐竹先生になって、佐竹先生が俺になるんだ。午前中、俺として授業を受けて……相当気持ちよかったんじゃないか?」
「それは……ああっ……けど、おれには、妻と……娘が……ううっ」
アプリの利用規約によって、角谷清隆であることに多幸感を覚えてしまう佐竹。さらには、元の自分の記憶にも興奮するようになってしまった。しかしそれでも、かろうじて、妻と娘の顔を思い出すことで、興奮しながらも──誘惑を断った。佐竹の肉体を乗っ取った角谷は、残念そうに唇を尖らせた。
「そうか……だがまあ、お前の気が変わったら、今夜中にシコってくれよな。これは先生からの餞別だ」
「うおっ! な、なに脱いでるんすか!」
佐竹になった角谷は、おもむろにジャージと下着を脱ぎ始めた。佐竹の目が、その毛深い股間に生えた巨根に釘付けになる。股間から臍まで繋がっているギャランドゥも、大人の男の色気があってたまらない。風呂場で何度も見ているはずの自身の下半身に、猛烈に興奮してしまう。佐竹は鼻息を荒げ、ごくりと生唾を呑み込んだ。一方、佐竹になった角谷は、得意げにチンポを晒しつつ、脱ぎたてのグレーのブリーフを佐竹に差し出してきた。内側には陰毛が数本残っている。脱ぎたてのため、体温がまだ残っていて温かい。佐竹はその場でブリーフに顔を埋めたい衝動を、懸命にこらえた。
「ひとまず、今夜のオカズとしてお前に貸しておく。明日また返してくれ」
「う、うす……」
元の自分の性癖を知り尽くした角谷からの申し出を、角谷になってしまった佐竹が断れるはずもなかった。佐竹は鼻の穴をおっぴろげて、興奮した面持ちで受け取ると、それを学ランのポケットにしまった。
※
(おれがブリーフ持ってるってことは……佐竹先生、ノーパンなんだよな……エロッ! 子持ちノンケ体育教師がノーパンで体育の授業……ヤバい……マジでシコすぎだろ……! は〜! 思いっきり抜きてえ〜ッ!)
午後の体育の授業は、まるで集中できなかった。今日はサッカーの授業だ。サッカー経験者であり、サッカー部の顧問である佐竹にとっては楽勝のはずなのだが、野球部の角谷の脳みそと肉体になってしまった現在では、その動きは精細を欠くものになっていた。とはいえ仮にも運動部であるので、決して運動音痴ではないのだが……それでも、サッカー部の男子生徒と相対すると、あっさりとボールを奪われてしまう。ボールを持っているときの駆け引きが、明らかに下手になっていた。佐竹としての記憶を思い出してみても、元の自分と肩幅も歩幅も足の長さも違うため、一層動きがぎこちなくなった。
(おれ、マジでサッカーが……下手になってる。はひっ、ま、また興奮しちまうッ……ん!)
味方へのパスをカットされて、そのままボールを奪われたときは、あやうく達するかと思った。その様子を腕組みしてニヤニヤと眺めている体育教師──佐竹になった角谷が、グラウンドの傍らにいる。元の自分の肉体が、ノーパンであることを知っているのは佐竹と角谷だけであり、それもまた、興奮を煽っていた。
「っぷは……!」
体育の授業が終わり、佐竹はグラウンド脇の水道で顔を洗っていた。肌が異様に火照っている。ただ入れ替わっただけでも興奮していたのに、元の自分の下着を渡されたことで、さらに一段階、興奮のグレードが上がっている。
(クソっ! 絶対射精なんかしねえからな。明日には元の自分に戻って……うへへ……元のおれの体でシコってやるぞ! 楽しみだなあ……)
イモ臭い高校球児の顔で、デレッと発情した笑みを浮かべる佐竹。その思考そのものが、元の自分とかけ離れたものになっていることに、彼は気づいていなかった。
※
「あ゛ーっ! マジで疲れたぁー!」
野球部の練習が終わり、角谷の自宅に帰った佐竹は、角谷の部屋のベッドに倒れ込んだ。土と汗で汚れたユニフォームは、既に脱衣所の籠に突っ込んである。Tシャツとボクサーブリーフだけのラフな格好で、佐竹はごろりとベッドに寝そべった。高校球児の割れた腹筋を、無意識に撫でていた。毛深い元の自分と違って、角谷の肉体は体毛が薄かった。その感触が心地よい。角谷の母親から、汗臭い体でベッドに寝るのをやめろと言われていた記憶が脳裏に蘇ったが、しかし佐竹はくたびれ果てていた。
角谷の肉体になったことで、サッカーの授業とは違い、放課後の野球部の練習では野球の技術が向上していた。バットの芯が球を捉えるたびに、佐竹の背筋に軽く快感が走った。そんな状態だったので、あまり本調子ではなかったのだが、もし今日ホームランを打っていたら、その場で射精していたに違いない。そうなれば、その場で元の肉体に戻れないことが確定してしまう。危ないところだった。
(ンッ……やべっ)
ムラムラする。学校は他人の目があったので我慢できていたが、角谷の部屋で一人になると、若い肉体に滾った性欲を意識してしまう。ホコリを被った参考書が積んである学習机。本棚に詰め込まれた少年漫画の単行本。汗臭いベッドのシーツ。他人の部屋であるはずなのに、脳が角谷になってしまった佐竹にとっては、自分の部屋としか感じられない。うつ伏せになり、枕カバーに顔を埋める。高校球児の代謝のいい、汗臭いツンとした皮脂の匂いが鼻孔を刺激する。他人の体臭が己の体臭になってしまったことを、より一層意識してしまう。妻子持ちの体育教師ではなく、男に興奮する高校球児になってしまったことを自覚すると──佐竹の脳は再びドーパミンを放出し始めた。佐竹の腰はもぞもぞと動き、そのプリケツを振ってベッドのマットレスの上で、床オナをしそうになっていた。慌ててベッドから起き上がった。
「あーもう! 風呂だ風呂!」
ヒクヒクする股間を無視して、脱衣所に向かう。勝手知ったる他人の家──新築の佐竹の家よりも角谷の家は築年数が多い、古い一戸建てである。階段は軋むし、新築の佐竹の家のように風呂場に暖房は付いていない。脱衣所も経年劣化でやや小汚い。しかしそれもまた、佐竹に多幸感を与える材料になっていた。
(んっ……おれっ……今朝まで、新築の一戸建てに住んでたのにっ……!)
佐竹は脱衣所の鏡を見た。イモ臭い顔立ちの高校球児が、鼻の下を伸ばして勃起している姿が映っている。寒さで縮こまっていたはずの包茎チンポは、熱く、固くなっている。鏡に映った角谷の顔が、悦びで塗りつぶされる。結婚してからは個数は減ったが、それでもバレンタインデーには女子生徒から結構な数のチョコレートを渡されるくらいには、佐竹は男前な顔つきだった。それがこんな、イモ顔の童貞高校球児になり、自宅の脱衣所で包茎チンポを勃起させて、男として順風満帆だった人生を──妻子も、マイホームも、教職も奪われたことに、悦んでいるなんて──この状況自体が、佐竹を興奮させてしまう。
(おっ、おれ……すげーブサイクじゃん……うひっ♥ こ、コーフンしちまう……んっ、とりあえず、シャワー浴びねえと……)
佐竹は息を荒げながら、風呂場の扉を開けた。ひとまず熱いシャワーを頭から浴びる。野球部特有のパンダ焼けした若い肌が、お湯を弾いた。無心で浴びると、今度はシャワーを止め、垢すりタオルでボディーソープを泡立て、体を洗い始めた。サッカー部顧問の自分とは全く違う筋肉の付き方をした、高校球児の肉体。それをなぞる行為は、佐竹浩明から角谷清隆の肉体になったことを、再確認する行為であった。
(ああっ! あっ! あっ! お、おれ、マジで角谷清隆なんだ! すっげ、しあわせっ♥ ち、ちがう! こんなの、ホントは嫌なのにっ♥)
多幸感が胸の奥から、蛇口を開け放ったように垂れ流される。思わず、鼻声で喘いでしまう。とりわけ佐竹を魅了したのは、角谷の粗チンだった。
(ンッ……それに……トイレのたびに思ってたけど……やっぱ、今のおれ、すげえ粗チンじゃん♥ んくっ! た、たまんねえよ……こんなの、小学生サイズじゃねえか!)
佐竹は泡だらけの指で、くりくりと包皮を弄った。変声期を終えた男子高校生の押し殺した声が、浴室に響く。まるで小学生のような、角谷の包茎チンポ。中にはチンカスが大量に溜まっていた。それをほじくり出しながら、佐竹は鼻息を荒くしていた。
(きっ、汚え! チンカスがすっげえ出てくる! はうぅ……! ちょっとは掃除くらいしろよ!)
チンカスだらけの短小包茎チンポを、男子生徒から押し付けられてしまった。それは佐竹がまともな精神状態であれば、屈辱を感じたはずだ。しかしサッカーが下手になったことと同様に、あるいはそれ以上の悦びに、今は変質してしまっていた。粗チンを弄っているこの瞬間だけは、角谷清隆になれてよかったと──本気で思ってしまうほどだった。
(あっあっ! おっ、おれ、マジで、粗チンで……よかったッ! ち、ちがっ! 今朝まで、佐竹先生、だったのにっ♥)
このまま扱いて、一気に射精したい気持ちが沸き上がってくる。唇を噛み締めて、懸命にそれを我慢する。
「フーッ! フーッ! や、やべえよ……イッたら、角谷になっちまうのに……!」
(ち、チンポ弄るだけでやべえのに……射精したらおれ、どうなっちまうんだ?)
入れ替わりがもたらす多幸感のなかでも「生理現象」はかなりの多幸感を佐竹に与えていた。学校で放尿するときも、多幸感でうっとりして、隣に友人がいるのに、腰をくねらせそうになったほどだ。元の自分よりもだいぶ短いお粗末なチンポの中を、他人の尿が駆け巡り、放たれる──それだけでも相当な快感だった。もしこれが、射精ならば? 他人のチンポで、他人の精液を射精したなら──どれほどの多幸感を感じるのだろうか? 佐竹はハアハアと肩で息をしながら、懸命に誘惑に耐えていた。他人に成り果てる快楽。それは佐竹の眼の前にあった。ここでチンポを弄り、射精してしまえば……一生、角谷清隆になった悦びを味わうことになるだろう──
(いっ、いや……ダメだ。マジで、戻れなくなっちまう)
体を洗い終えた佐竹は、冷たいシャワーで泡を洗い流した。勃起していたチンポが縮こまる。そのまましばらく冷水でシャワーを浴びると、湯船に浸からずに風呂場を後にした。
※
「あークソッ! もう寝ちまうかな」
晩御飯を終えた佐竹は逃げるように自室に籠もり、宿題をやっていた。しかし、ムラムラしていて捗らなかった。角谷の学力では解き方がよくわからないというのも、大きな理由だった。それに家族との会話それ自体も、佐竹が角谷清隆になってしまったことを実感させる行為であり、多幸感を感じて大変だった。特に、食事中にふと角谷の父親のM字ハゲを見ると、自分も将来ハゲが遺伝してこうなるのかと、風呂場の時のように興奮が高まってしまうのだった。
(リュックに、佐竹先生のパンツ……あーいや、ホントはおれが佐竹先生なんだけど……入ってるんだよな)
ちらっと学校指定のリュックを盗み見る。家に帰ってからは意識しないようにしているが、あの中には、元の自分の肉体が穿いていたブリーフが入っている。それをオカズにしたら、きっと最高のオナニーができるだろう──
(いっ、いやいや! 明日まで待てば、おれに戻れるんだし……でも……ちょっと匂いを嗅ぐだけなら……)
佐竹はシャーペンを乱雑に机に置くと、リュックを開けた。ムワリと匂い立つ、三十路男の体臭。普段穿いているはずのグレーのブリーフは、角谷清隆になってしまったことで、憧れの体育教師のブリーフへと意味合いが変貌していた。佐竹はうっとりとした表情で、それを己の顔に押し当てた。ヒクヒクっと股間が痙攣する。
「あぁ……汗臭ぇし……しかも先生、穿いたまま射精してんじゃん……染みも残ってるし、すごいイカ臭ぇっ♥」
角谷が素振りのフォームを確認するために親に買ってもらった、全身が映る姿見の前に立つ。部屋着の黒いタンクトップとハーフパンツを穿いた高校球児が、担任教師が脱いだブリーフを顔に押し当て、興奮する姿があった。その、元の自分とはかけ離れた浅ましい姿に、佐竹の脳はどぷりと多幸感の沼に沈んでいく。とても今朝まで、妻子持ちのノンケ体育教師だった男とは思えない、変態的な姿だった。
「はっ、はひっ♥ ま、マジでヤバい……このままだと抜きそうになっちまうっ♥」
(とっ、とりあえず……寝ちまおう。明日になれば、おれに戻れるんだし……抜くのはその後だ)
佐竹はブリーフをベッドの端に放り投げ、宿題も適当に片付けると電気を消した。興奮してなかなか寝付けず、ようやくウトウトし始めたのは、夜明け前だった。
※
「う、うーん……」
ようやく眠りについた佐竹。そのハーフパンツは、股間が盛り上がっている。昨日あれだけ性的に興奮し、しかも一度も射精しなかったのだ。精力旺盛な高校球児である角谷の肉体は、その精力を持て余していた。
「はっ……あ……♥」
佐竹が色っぽい声を漏らした。淫らな夢を見ているのだろう。寝返りをうったその右手が、寝る前に放っておいたブリーフを掴んだ。元の己の肉体。佐竹浩明が穿いていたブリーフ。それを無意識に掴み、顔まで持ってきた佐竹。
「ンッ……♥ んぁっ……♥」
ブリーフを押し当てた佐竹の声音が、さらに熱を帯びた。角谷が勝手に佐竹のチンポを扱き、射精した染みが残っている。その匂いが鼻孔を刺激する。あっあっ、と喘ぎ声が小刻みになる。腰が小刻みに動く。両足が伸ばされる。
「んい゛っ! ンイ゛ーッ!」
足をピンっと伸ばした佐竹。次の瞬間、佐竹は夢精した。ドクンドクンと包茎チンポが、高校球児の青臭い精液を垂れ流す。そしてアプリの利用規約だった「24時間以内の射精」を、角谷と佐竹両方が達成してしまったことで、入れ替わりが確定した。
「お゛っ♥ ひおぉん゛♥」
眠っている佐竹の表情が、デレデレと間の抜けたものに変わった。唇をすぼめ、夢の中で何者かと──おそらくは元の自分と接吻をしているのだろう。その脳細胞が変質する。自分は「佐竹浩明が一時的に角谷清隆になってしまった」のではなく「自分は角谷清隆である。佐竹浩明だったのは過去の話だ」という風に、アイデンティティが書き換わった。
「くうっ…………ンッ♥」
角谷清隆としての人生を完全に受け入れる。角谷清隆の人格で、角谷清隆の学力で、角谷清隆の運動神経で、角谷清隆の友人たちと共に高校生活を送り、角谷清隆として卒業する。角谷の学力では、もう一度体育教師になるのは難しいだろう。そのまま角谷清隆として就職し──角谷清隆としての人生を送る──そして、角谷清隆として死ぬ。佐竹が目覚めたときには、彼の価値観はそれを喜ぶように変質してしまっている。夢精によって、それが確定した。
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