南城亜里沙は野球部のマネージャーである。少なくとも、あの日の放課後までは、確かにそうだった。
「これ、本当に効くのかな?」
亜里沙は手のひらの中で、赤い糸が入った小瓶をもてあそんでいた。コルク栓を入れたり外したりしている。先日家族で海外旅行に行った時、現地の露天商で買ったものだ。瓶の中から赤い糸を取り出し、好きな人に贈ったなら、一生途切れない深い縁が結べる。そう店主の老婆は言っていた。亜里沙は小瓶から顔を上げ、グラウンドに視線をやった。
「沢田先輩……」
野球部の主将である、沢田将浩。亜里沙が好きな人だ。日焼けした精悍な顔つきに、ユニフォーム越しでもわかる筋肉質な体格。今日の練習が終わったら赤い糸のおまじないを試してみよう、と思いながら、亜里沙は部員たちのドリンクを作るためにベンチから立ち上がった。
「おい、南城。何か落としたぞ」
低い声に亜里沙が振り返ると、野球部監督の磯崎嘉彦が屈み込み、何かをこちらに差し出していた。磯崎はヤクザ顔負けの強面であり、口周りにはキッチリと刈り込んだ髭を蓄えている。その厳つい風貌に違わぬ厳しい指導方針の監督であり、亜里沙も若干苦手意識を感じていた。だが、さすがに亜里沙はそんなことは顔に出さず、ありがとうございますと言って、監督が差し出したものを受け取った。
監督が差し出したのは、例の赤い糸だった。栓が外れたまま落としたせいで、糸が外に出ている。
それに気がついたのは、亜里沙が受け取った直後であり、気づいた時には何もかもが終わっていた。亜里沙と監督の肩が、ビクンと震える。一瞬の内に、二人の間で自分と相手の境界が曖昧になる。糸は一生途切れない深い縁を二人の間に結びつける。互いの肉体はそのままに、性格や立場を徐々に入れ替えて、相手そのものにしてしまう。赤い糸は静かにその役目を果たすと、ボロボロに朽ちて風に散っていった。
※
(あの糸、どこに行っちゃったんだろう)
亜里沙は監督から空の小瓶を受け取った後、ベンチの周りを軽く探していた。だが、いっこうに見つからない。そうこうするうちに、糸がその効果を現し始めた。
(んっ、でも……そこまで大切なものじゃないか。それより、来週の石高との練習試合のスタメン考えないと)
亜里沙の思考が、野球部のキャプテンに恋する女子マネージャーから、野球部監督のそれへと近づいていく。彼女も気づかない内に、沢田将浩に対する恋愛感情は薄れていき、監督が教え子を見るようなものへと変わってしまっていた。亜里沙はどこか醒めた眼で沢田を見つめていた。
(まあ、沢田先輩を中心に打撃を組み立てていくことにはなるんだけど……他の二年生もいいのが揃っているし、色々試してみたくもあるのよね)
考えながら、もぞもぞとベンチに座り直す亜里沙。いつの間にか男のように大股開きになり、スカートの中身が見えてしまうのにも構わず、ドカッとベンチに腰掛けていた。
「おおーし、そろそろノック始めっぞー」
監督がノック練習をすべく、ベンチから立ち上がった。いつもガニ股でドカドカ歩く監督が、妙に内股気味だった。
※
「んー、なんか……落ち着かない感じ」
野球部の練習が終わり、自宅へと帰ってきた亜里沙。だが、通学鞄を降ろして一息ついても、まるで他人の家にお邪魔しているような余所余所しさを感じていた。首を傾げながら、制服を脱いでいく。一枚、また一枚と脱いでいくたびに、亜里沙はなぜか背徳感が混じった性的興奮を覚えていた。ブラとショーツだけの姿になると、亜里沙は肩で息をしながら、全身が映る姿見の前に立った。
(あ、あたし……こんなにおっぱい大きかったんだ)
見慣れているはずの自分の女の身体が、妙に官能的に見える。亜里沙は熱い息を吐きながら、ブラのホックを外そうと背中に手を回そうとした。だがそこで、罪悪感がふと脳裏をよぎった。
(だ、だめよだめっ! あたしには、奥さんも子どももいるのに……教え子に手を出すなんてっ! 教師として最低だわっ!)
「あれっ? ていうかあたし……奥さんなんているわけないじゃん」
ようやくそこで、亜里沙は自分が不可解な考えを抱いていたことに気づいた。自分は女子高生であり、妻子がいるはずがない。なぜかついさっきまで、男性教師のような目線で自分の肉体に興奮していた。亜里沙は戸惑いを覚えたものの、それ以上疑問を抱くより先に、どうしても自分の胸に眼がいってしまう。男としての本能が、気づかぬうちに亜里沙のなかに根付き始めていた。亜里沙はゴクリと生唾を飲んで、再びブラのホックに手を伸ばした。
(な、なんかさっきから変な感じするけど……あたしが自分のおっぱいを触るだけなんだし、問題ない……わよね?)
ブラのホックが外れ、ぶるんと張りのいい乳房がさらけ出された。亜里沙はまじまじと自分の乳房を凝視していた。まるで、自分の肉体に女の乳房が付いているのが信じられない、といった顔だ。小鼻はせわしなく開いたり窄んだりして、亜里沙がひどく性的に興奮していることを示していた。亜里沙はしばらく迷っていたが、やがて意を決した顔でベットに横になり、両手で自分の乳房を揉み始めた。
「あっ……んっ! すごい……! ひぁんっ!」
まるで、女としての快感を初めて味わったかのような感覚だった。股の奥が熱く、濡れていくのを感じる。亜里沙はもどかしくなり、ショーツも脱ぎ捨てると、右手の人差指を股ぐらに滑り込ませた。あっあっ、と切ない声を漏らしながら、熱くヌルつく穴の中を探っていく。やがて豆のような箇所を探り当て、指先で愛撫した。
「っ、だめぇっ!……なんっ、なんだこいつぁ! うおっ!! うおおぉっ!!」
鋭い快感が背筋に走ったかと思うと、亜里沙の喘ぐ口調が、次第に男のそれへと変わっていく。いまや亜里沙は恥ずかしげもなくガニ股になり、まんこを弄りながら、うおっ、うおっと雄臭く喘いでいた。
(たっ、たまらん! 女のせんずりって、こんなに気持ちよかったのかぁっ!! おっと、そうだ!)
亜里沙はベットから立ち上がると、誕生日に父親から買ってもらったタブレット端末を手にとった。海外のエロサイトにアクセスし、やがて動画の再生が始まると、ベットの上で胡座を掻いてオナニーを再開した。
「っへへ……やっぱおかずがねえと始まんねえよなぁ。うおぉ……いいパイオツしてやがんじゃねえか」
亜里沙は好色そうな笑みを浮かべると、母親が晩ごはんを呼びに来るまで三度も絶頂に達した。
※
「きゃっ」
磯崎嘉彦はジャージとTシャツを脱ぎ終えると、脱衣所で野太い声を上げた。ヤクザのように厳つい顔を赤く染め、思わず自身の厚い胸板を抑えていた。逞しい胸板の上に密生した胸毛は、最近ビール腹気味になってきた腹を通って臍まで伸び、さらに下着の中で陰毛と繋がっている。あまりにもむさ苦しく、雄臭い中年男の肉体。とはいえ磯崎も四十過ぎであり、いまさら自身の毛深い体を恥ずかしがるような性格ではなかったのだが──
「やだ……すごいもじゃもじゃしてる」
どこか女っぽい口調で、磯崎は呟いた。それにハッと気づくと、今度は自分の口を抑えた。
「な、なに言ってやがんだ、俺は。オカマじゃねえんだぞ」
磯崎は強面の顔を引き締め、意識して男らしい言葉を使った。だが、男言葉を口にした瞬間、全身にひどい違和感が襲った。それをあえて無視して、今度は下半身のジャージを脱いでいく。毛むくじゃらの太腿が眼に入ると、うっ、と思わず引いた声が漏れた。
部活の時から、どこかおかしい自覚はあった。普段しているはずの、部員への厳しい指導。それを行うことに、妙に躊躇いがあった。さすがにその時は女言葉までは使っていなかったが、普段の自分と比べると、柔らかい口調で指導していたように思う。特に、主将である沢田に指導するときなどは……照れ臭くて、沢田の眼を見ることが出来なかった。いや、照れ臭いという感情だけではなく、もっと別の想いも混じっていた。
そのことを思い出すだけで、磯崎の身体が火照る。働き盛りの中年男の肉体が欲情し、股間が熱く、固くなっていく。磯崎は鼻息を荒げながら、灰色のブリーフを摺り降ろした。
「うわっ、でっかい……」
長年見慣れているはずの己のイチモツに、思わず子どもっぽい口調で驚きの声を漏らしてしまう。おそるおそる指先を伸ばし、紫色の亀頭を触ってみる。ビクッ、と磯崎の厳つい肩が震えた。だが、磯崎はそれ以上何をしていいのかわからず、指先で亀頭を何度も触っては、悶々と腰をくねらせた。
「ああっ! なんか、チンポがデカくなってきやがった。『勃起』って言うんだったか? 授業でやったよな……」
男のオナニーのやり方が、すっぽりと磯崎の頭から抜け落ちていた。南条亜里沙との立場交換によって、磯崎の性的な知識も彼女と入れ替わった。だが、亜里沙が性に疎いこともあり、磯崎は高校の保健体育レベルの内容しか思い出せなくなっていた。
「ど、どうしよう。あたし、保健の先生なのに、おちんちんの触り方全然わかんない……っ、じゃねえぞ。教師のくせして、やり方をど忘れしただけだ」
磯崎は冷や汗を流しながら、女言葉で呟いた独り言を言い直した。常に気を張っていないと、無意識に女言葉が口をついてしまうほど、磯崎のアイデンティティは揺らぎつつあった。
そこで、脱衣所のドアが唐突に開いた。
「あれ? お父さん帰ってたんだ」
娘の由佳だ。女子校に通わせている由佳は現在高校三年生であり、最近は洗濯物も別にされてしまうくらい磯崎は毛嫌いされている。磯崎は思わず己の身体を見た。全裸で、チンポをつついて半勃起状態の父親の姿。こんな姿を見られたら、ますます幻滅されてしまうに違いない。
「じゃ、一緒にお風呂にはいろっか!」
由佳は磯崎に対し、まるで妹を相手にするようなフランクさで話しかけると、制服を脱ぎ始めた。
※
(ああん! こ、こんなの絶対おかしいわ!)
由佳とふたりきりで風呂場に入った磯崎は、恥ずかしさで顔から火が出そうだった。先程から己の内面が女っぽくなりつつあることも、頭から吹き飛んでいた。今も娘のおっぱいが、自分の背中に押し当てられている。由佳は、あれほど毛嫌いしていた磯崎の、毛深く脂ぎった肌を丹念に洗ってくれていた。
「どうしたの? お父さん」
「な、なんでもねえよ」
唇を尖らせ、俯く磯崎。男言葉を使うたびに、違和感が全身を襲っていた。
(未完)
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立場交換モノです。うーん。どういう風に着地させようかな……もうちょっと自覚させた方がいいかな?という気もしつつ、ただ自分でも気づかないうちに思考や嗜好が書き換わっていくのも興奮するんですよね。これは毎回悩みます……。
甘党
2021-05-22 05:03:47 +0000 UTCくろねこ@9605
2021-01-20 05:43:41 +0000 UTC甘党
2021-01-20 01:38:35 +0000 UTCくろねこ@9605
2021-01-01 05:25:47 +0000 UTC黒竜Leo
2020-12-31 15:04:46 +0000 UTC