やばい。くしゃみでそう。
ぼくはまわりを見回した。休み時間の教室は、人でいっぱいだ。だれもいないところでくしゃみをしないと。ぼくは急いで3年1組の教室を出て、階段の方に向かった。あっ、もう出る。出ちゃう……。
「ハッ、ハックション!」
思いっきり、大きなくしゃみをしちゃった。すると学校の工事で来ていた、作業服を着たオジサンやお兄さんたちが、大きなくしゃみをしたぼくの方を見ていた。やばい。アレが来ちゃう。
「あっ……ううっ!」
ぼくの体が、どんどん大きくなっていく。おばけウォッチャーのTシャツの袖から出ている、細くて白いぼくの腕が、太くて、日焼けした大人の腕に変わっていく。紺色の半ズボンをはいたぼくの足が、太くて、けむくじゃらになっていく。
「ハァ……ハァ……」
のどから、低い声が漏れた。ぼくは近くにあった男子トイレにふらふらと入った。鏡に映っているのは、ぼくじゃなくて……金髪で、日焼けした工事のお兄さんの姿だった。あごひげも生やしている。おばけウォッチャーのTシャツは、筋肉でパンパンになっていて、サイズが合わないので、お腹が半分くらい見えている。もじゃもじゃした毛が、短パンの中からおへそに向かって生えていた。短パンには、デカくなったおちんちんの形が浮かび上がっていた。
「また変身しちゃった……」
ぼくはくしゃみすると、近くの人に変身しちゃうのだ。ぼくがトイレから出ると、ろうかで担任の寺田先生と会った。
「おっ、中山じゃないか。そろそろ休み時間終わるぞ」
「えっと……はい」
ぼくが変身しても、周りのみんなは「元からそういう姿だった」と思っちゃうみたい。ぼくは先生のお尻を見ながら、ブルルッと体を震わせた。おとなの男の人の体になると、なんだか変な気持ちになっちゃう……寺田先生に抱きつきたい気持ちをガマンしながら、ぼくは3年1組の教室に戻った。
(終)
「確保ォ!」
美濃部警部率いる特捜班の面々は、連続銀行強盗の犯人である西浦の潜伏先に踏み込んだ。マンションのドアを開けた女に礼状を突きつけて室内へ。リビングには大勢の女を侍らせた西浦が、ソファーに座っていた。美濃部が前に出た。
「西浦幸次郎、貴様を連続銀行強盗の容疑者として──」
「いやあ。今回の刑事さんたちも『特性逆転』が似合いそうですね」
「んおっ!?」
「うぉおう……!」
西浦が指を鳴らすと、刑事たちが次々に野太い喘ぎ声を上げて、悶え始めた。整髪料で固めていた髪が伸び、派手な茶髪や金髪に変わっていく。胸が膨らみ、スーツが露出度の高い女物の服へと変化していく。
「落ち着け! まずは西浦を……んぐっ」
角刈りから茶髪のショートボブになりつつある、美濃部の髪が揺れた。無精髭の生えた厳つい顔も、妙に女顔になり始めていた。ワイシャツは、淡いピンク色のキャミソールへ。スラックスはホットパンツへ変化して、ギャランドゥの濃いビール腹を晒した。胸の方はCカップを超えてDカップになりつつあった。近寄ってきた西浦と目があった途端、美濃部はドキッとした。いつの間にか感情が逆転し、西浦に好意を抱き始めていた。
(うおっ! 野郎同士なのに、なんで俺……)
「まずは、あなたから仕上げですね」
西浦は美濃部を抱き寄せると、チュッと音を立てて接吻した。美濃部の脳が多幸感で染め上げられた。美濃部の全てが逆転する。男から女へ。固太り体型はモデル体型へ。むさ苦しさは可愛いさへ。堅物から淫乱へ。既婚者チンポは処女マンコへ。刑事から共犯者へ──
「気分はどう?」
「ちょー最高ッ! あたし、すっごく可愛いくなったし、幸次郎と一緒だし……」
派手めな若い女になった美濃部は瞳を潤ませながら、西浦に身を委ねた。西浦の指が下着の中に入り込み、美濃部の膣にゆっくりと出入りし始めていた。
(終)
「わあっ……おっきいお風呂だー!」
「おっと雅浩、先に体を洗おうな」
大浴場の扉を開けると、俺は駆け出そうとした小学生の息子の手を引いて、洗い場へ向かった。ここは新居の近所を散歩していて見つけた銭湯だ。土曜の夕方であるためか、結構賑わっている。俺は息子と自分の体を洗い終えると、大浴場の湯船に浸かった。
「ねーねーパパ、あっちのお風呂はなに?」
「ん?」
雅浩が指差していたのは、白く濁ったお湯が張られた湯船だった。看板には「変わり湯──生まれ変わるようなお湯です」と書いてあった。
「ちょっと入ってみようか」
「うん!」
俺と雅浩は湯船を出た。変わり湯は人気があるらしく、普通の浴槽の半分ほどの大きさの割に、高校生から中高年まで、幅広い年代が7〜8人程度入っていた。入り口近くで浸かっていた角刈りの中年男に会釈しながら、息子と共に湯に足を入れる。肌触りが妙に気持ちよい。奥まで行って腰を下ろすと、ため息が漏れた。
(ああ……気持ちいい……まるで)
自分が、溶けてしまいそうだ。
※
「ただいまー」
「おかえりなさい。どうだった? 銭湯は」
「うん。きもちよかったよー」
銭湯から帰宅すると、雅浩は台所で料理している妻の美由紀に、銭湯のことを夢中で話し始めた。その間に俺は、脱いだ服を洗面所に置きにいった。
(本当に、生まれ変わるような……いいお湯だったな)
洗面所の鏡に映っているの俺の姿は、芋臭い顔立ちの高校生ぐらいの男に見えた──今年で36歳になる俺にしては、妙に若く見える。首を傾げながらリビングに戻ると、雅浩にも違和感を覚えた。うーん……雅浩が角刈りなのも、毛深くてビール腹気味なのも、加齢臭がキツいのも──
(いつも通り……だよな)
リビングでビールを飲み始めると、まるで飲み慣れていないかのように、舌がピリッとした。
(終)
「いやー政雄クンも、なかなかイケるクチではないか」
「いえいえ。お義父さんが釣ってきたアオリイカのおかげですよ」
日曜の昼間から我が家には、釣った魚を持ったお義父さんが、酒盛りに来ていた。しばらくすると、外出していた高校生の息子の雄平が帰ってきた。
「お、じーちゃん。こんちわ」
「おう。雄平か。お前もこっち来い」
「いいって。野球部の後輩も来てるから」
雄平の背後には、同じく坊主頭の後輩がおり、こちらに向かって頭を下げた。ちょうどその時、リビングで付けていたテレビに、奇妙なCMが流れた。
──関係性を変えて、新しい人間関係へ。
──他人の関係性と、入れ替えてしまいましょう。
「んっ……?」
なんだか頭がぐわんと揺れるような気がした。雄平が話す声が聞こえた。
「そんじゃ、俺、お義父さんと上でゲームしてるから」
「うっす。雄平くんをお借りしますね」
あれ? 何かがおかしい気がした……俺は、眼の前にいる角刈り頭の中年男を見た。コイツは──
「ん? どうかしたのか? 先輩」
俺の高校時代の後輩、酒井久義だ。妻の実家に挨拶に行ったときは驚いた。高校時代の野球部の後輩が、妻の父親だったのだから。俺は久義の肩を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「ほら。酒盛りもそろそろいいだろ? あとは寝室で楽しもうぜ」
「うおぉ……せ、先輩……」
久義はうっとりとした濁声を漏らした。野球部時代から俺たちは密かに付き合っていた。それは互いに結婚した今も変わらない。寝室に移動すると、久義は我慢できずに俺に抱きついてきた。日に焼けて脂ぎった久義の肌からは、濃厚な加齢臭と潮の香りがした。
「せ、先輩ッ……ワシに……キスしてくれぇ……」
久義が眼を閉じて唇を突き出したので、抱き寄せて唇を重ねた。男同士の舌が絡み合い、酒とタバコの脂臭い唾液が、俺の口腔内に流れ込んできた。
(終)
──────────
というわけで、今回は「他者変身」「特性逆転」「銭湯」「関係性の交換」の4本でした。一番展開で迷ったのが「関係性の交換」ですが、こんな感じかな……? これに関しては、部分的な立場交換といった感じで、まだまだ他の関係での掘り下げが出来そうですね。他にも思いついたら書いてみようと思います。
以前リクエストを送っていただいたお題の「ヤクザ」と「皮モノ」については、次回の更新でとりあげようと思っています。それ以外にも800字小説チャレンジのお題は、引き続き募集していますので、コメント欄にお気軽にどうぞ(お題は単語1つで頂けると嬉しいです)。
くろねこ@9605
2020-11-22 17:06:37 +0000 UTCくろねこ@9605
2020-11-22 17:05:11 +0000 UTCみっくん
2020-11-22 16:13:07 +0000 UTC黒竜Leo
2020-11-22 15:45:01 +0000 UTC