「ン゛ッ、んくっ……あ゛ぁっ……!」
岩倉健児は情けない濁声を漏らしながら、毛深い両足を布団の上でバタつかせた。ナイフを受け入れるバターのように、滑らかに。しかしナイフそれ自身のように鋭く、快感が体の芯を貫く。毛深い両足の痙攣が終わると、岩倉は今朝も夢精したことを知った。粘ついた染みがグレーのボクサーブリーフに広がり、煮こごりのような精液の塊が、下腹にこびり付いていた。
「……くそっ」
岩倉は下着一枚の姿で悪態をつくと、のしのしと洗面所へ向かった。岩倉健児。42歳。職業は建設作業員。先週から体の調子がおかしい。尋常ならざるほど向上した精力。女が相手では微動だにしなくなったチンポ。ビール腹だった腹が引き締まり、彫刻のように筋骨逞しくなっていく肉体。全ての原因は──
「なんなんだよ、これ」
岩倉の下腹部。臍の下に──淫紋があった。ハート型を模し、卑猥な蛍光ピンク色をしているタトゥー。先週、風俗で服を脱いだときに、下腹部にあるのに気づいた。体の異変はそれから始まった。
岩倉は鏡を見た。ゴリラ顔の筋肉質な中年男が、こちらを睨んでいる──その姿に、チンポがムクムクと勃ちあがっていく。
「俺……んくっ……うあぁ……」
ぐっと男臭くなった体臭。鼻孔をくすぐる男性フェロモンに、思わず頬が緩む。逞しい雄への発情。嗜好の変質に対する恐怖が、興奮で塗り潰されていく。精液で汚れた下着を脱ぐ。顔に押し当て、青臭い匂いを鼻孔いっぱいに吸い込む。多幸感で脳細胞がぷちぷちと弾けた。下着を頭に被ると、精液でヌメる生地と無精髭が擦れ合い、ジョリッと音を立てた。舌をちろりと出すと、塩辛い味が広がった。ぐっと上腕二頭筋に力を入れる。雄々しく変態的な姿に、興奮が最高潮に達する──
「んお゛ッ!」
吠える岩倉。淫紋の画数が増えていく。淫魔を降ろす器として、岩倉の肉体は完成しつつあった。
(終)
「これで終わりだ」
キャプテン・ギャラクシーは、サソリ型怪人のダーク・スコルピを廃ビルの壁際に追い詰めていた。ダーク・スコルピは満身創痍で、先ほどもキャプテンの手刀で尾が両断され、床に転がっていた。その尾が、ヒーローの背後で、もぞりと蠢いた。
「うおっ!? な、なんだっ!」
怪人にトドメを刺そうとしたその刹那。切断された尾に無数の足が生えて自走すると、キャプテンの足に絡みついた。そのまま太い針が、ヒーローの逞しい太腿に突き刺さる。キャプテンが苦悶の声を上げながら、床に崩れ落ちた。
「ングッ……うおぉ……!」
「へへへ……終わりなのはお前だよ、キャプテン・ギャラクシー」
床に倒れたキャプテンは白目を剥いて痙攣していたが、やがて弓なりに仰け反り、射精した。一度、二度、三度。しばらくすると、連続絶頂に息を切らしながら、キャプテンが起き上がった。しかし眼つきが熱っぽく、どこか緊張感に欠ける表情だった。
「んくぅ……俺に、何をした?」
「へへへ……アンタを『俺たち』にしたってことさ」
「ん? あぁ……そういうことか。そういえば、スコルピ。尻尾は大丈夫なのか?」
「ああ、また生えてくるからな。心配掛けてすまんな、キャプテン」
「水臭いことを言うな。俺たちの仲じゃないか。それに、俺の責任でもあるからな」
キャプテンは怪人に対して親しげに笑いかけると、その紫色の外骨格と肩を組んで、愛おしそうに頭をもたせ掛けた。まるで恋人への睦言のように、熱っぽく囁く。
「ハァン……しかし、ヒーローを『俺たち』に出来ると思わなかったな。お手柄じゃないか、スコルピ」
「ああ。キャプテン、次にやることはわかっているな?」
「もちろんだ。ヒーロー本部内に『俺たち』を殖やしていく。あぁ……たまらん。ヒーローだった俺が『俺たち』になって、地球侵略の尖兵になっちまうなんて……」
(終)
「ちわー! SMW急便でーす。こちらに判子かサインお願いしまーす」
「えっと……じゃあサインで。あっ……!」
宅配便の応対に出た、専業主婦の金嶋真里子。急に、真里子の視界がぐにゃりと歪んだ。先ほど届いた、奇妙な迷惑メールが脳裏によぎった。確か「このメールを読んでから最初に話した異性と、立場が入れ替わる」だとか……。
「あれっ……ああ、スイマセン! 俺、勝手に上がっちゃって」
「あらっ、私ったら……どうしたのかしら」
専業主婦の金嶋真里子と、配達員の芝崎雄次の立場が入れ替わった。服装も入れ替わったのだが──しかし二人の立ち位置はそのままであるため、なぜか「住人」が玄関の土間側に立ち、「配達員」が玄関の廊下側にいる──という状況だった。二人は互いの立ち位置を変え、荷物の受け渡しを終えた。雄次になってしまった真里子は、マンションを後にした。
(やけに胸が張ってるな……)
性格も記憶も、生理現象さえも、体育大生のアルバイト配達員の雄次になってしまった真里子。彼女はトラックの運転席で、制服をめくりあげた。男の汗の染み込んだ制服で蒸れた、人妻の乳房がさらけ出された。真里子はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「俺の胸、エロっ……女みたいだ」
真里子は鼻息を荒げ、左手で胸を揉みながら、右手は黒いハーフパンツの中に入れていった。湿ったまんこの中に、ほっそりとした指を挿れていく。クリトリスがビンビンに勃起し、真里子は初めて味わう男の性欲に、苦悶の声を漏らしながら、自慰に耽った。
「うおっ……イク、イクッ!」
どぷどぷっ、と真里子の膣内に、体育大生の濃厚な精液が溢れ出した。
(終)
ヒーロー本部の居住棟。白を基調とした清潔感のある部屋で、真紅のヒーロースウツ姿のままの俺は、男と共にベッドに腰掛けていた。任務後なので、俺は汗臭い。
一方、男の方は俺の私服のポロシャツとズボンを穿き、俺好みのミント系のコロンを付けていた。そいつはツーブロックの髪型も──顔さえも、俺と同じだ。男が、俺の脇腹にそっと手を当てた。
「痛むのか?」
「ただの打撲だ。今日はやめておくか?」
男は黙って俺の肩を抱き寄せ、唇を重ね合わせた。心臓が高鳴る。俺と男の境界が、自他が曖昧になる。理解。共感。同調。今週は任務でずっと帰宅していないはずなのに、娘に絵本を読み、妻と会話した記憶が蘇る──
半年前の転送ゲート事故によって、俺の体は二人に分裂してしまった。分裂した俺たちは、肉体同士の接触で、互いの肉体や記憶を同期することができた。それを利用して、俺たちはヒーロー活動と在宅勤務を交代で行っていた。
眼前の俺の匂いが、ミントの香りから汗臭さに変わっていた。相手がかすかに呻きながら体を離し、脇腹を押さえた。
「うおっ……派手にやられたな」
「だから言っただろう」
「いや、俺たちは……痛みも歓びも、分かち合うべきだ。そうだろう?」
眼の前の俺が微笑んだ。俺も頷いた。そのまま慣れた手付きで服を脱がせ合う。5年前に受けた右胸の傷跡も同じで、そこだけ胸毛が生えていなかった。
家族への愛情も、ヒーローとしての信念も──全てを俺と同じくする男に、俺はすっかり惚れ込んでいた。
俺たちは全く同じ陰茎を、全く同じ唇で咥え、69の態勢でしゃぶり合った。しばらくすると、俺たちは同時に体を仰け反らせて、絶頂に達した。精液を含んだままの唇で、もう一度、長いキスをした。
「来週は、お前が自宅勤務だな」
眼の前の俺が結婚指輪を外すと、俺の左手の薬指に嵌めて、指輪に口づけをした。
(終)
──────────
というわけで今回は「淫紋」「人格複写」「立場交換」「自分姦」の4本でした。リクエストを受けて自分姦を初めて書いてみたのですが、こんな感じでいいのかな……? 初めて書くジャンルで手探りだったのですが、なかなか奥深そうで面白かったです。こういう世界もあるのね……!
800字小説チャレンジのお題は、引き続き募集していますので、コメント欄にお気軽にどうぞ(お題は単語1つで頂けると嬉しいです)。
くろねこ@9605
2020-10-16 07:10:24 +0000 UTCWill
2020-10-15 17:29:33 +0000 UTCくろねこ@9605
2020-10-14 16:11:00 +0000 UTCフカヒロ
2020-10-14 14:22:22 +0000 UTCくろねこ@9605
2020-10-14 00:43:42 +0000 UTCyk
2020-10-13 15:38:56 +0000 UTCくろねこ@9605
2020-10-13 10:21:12 +0000 UTCみっくん
2020-10-13 10:12:56 +0000 UTCくろねこ@9605
2020-10-13 07:40:07 +0000 UTCTon爆To
2020-10-12 17:54:55 +0000 UTC