体育教師の柴沼雄市は、倦怠感と共に眼を醒ました。いつの間にかベッドに横になっている。白いシーツと掛け布団。西日の差している窓の外からは、野球部とサッカー部の喧騒が聞こえてくる。どうやら保健室のようだった。しかし、自分がなぜここで眠っているのか、柴沼の頭からは記憶がすっぽりと抜け落ちていた。
「まだ寝ていた方がいいですよ」
声がする方に顔を向けると、柴沼が担任しているクラスの、松本という男子生徒がいた。柴沼は体を起こそうとしたが、四肢が鉛のように重い。そんな柴沼の様子を見て、松本は言葉を続けた。
「柴沼先生は、下校のホームルーム中に気分が悪くなったんですよ。覚えていないですか?」
「俺が?……いや……そうなのか?」
「はい。僕は保健委員なので、柴沼先生に付き添って、保健室まで連れてきたんです。保健室の田所先生はいま所用で外していて──」
松本の話は続いているが、柴沼は他のことを考えていた。顧問をしている陸上部の練習はどうなっただろう。せめて他の教師に見てもらわなければ。心配事は浮かぶのだが、まるで体が動かない。このままずっとここにいたい。何もかも放り出して、眠ってしまいたい。そんな甘い欲求が、柴沼の四肢から力を削いでいく。
「──陸上部の方は、サッカー部の佐伯先生が見ていてくれるそうです。ええ。だから柴沼先生は、ここで休んでいていいんですよ」
松本は笑みを浮かべると、ちらりと柴沼の枕元を見た。柴沼の死角になる位置。そこにスマホが置いてある。画面には次の文章と、進捗度を示すプログレスバーが表示されていた。
洗脳進行度 22%
柴沼は松本に礼を言うと、おとなしく保健室のベッドに横になった。甘く気怠い感覚が、柴沼の肉体を弛緩させていた。とても部活には行けそうにない。もう少し、ここで休んでいこう。そう思いながら、柴沼は眼を閉じた。
保健室のベッドは、まるでシーツやマットレスが柴沼の体を包み込もうとするように、肌に吸い付いてきた。その心地よさに、思わず柴沼は溜め息を漏らした。布団の中で、柴沼の太腿がビクッと痙攣する。ジャージの内側では、いつの間にか勃起した陰茎が、もどかしげに下着の生地と擦れ合い、先走りを垂れ流していた。
※
「ンッ……ハァン……」
柴沼はしばらくうとうとしていたが、不意に低い喘ぎ声を漏らしそうになり、ごくりと唾と共に飲み込んだ。松本には気づかれていないようだった。松本は保健室の教師が戻るまでここにいると先ほど告げて、文庫本を読んでいた。柴沼は熱っぽい頭のまま、布団の中でもぞもぞと身じろぎした。
(くそっ。勃起が、まるで収まらん……)
倦怠感はあるが、しかし、それ以上に……柴沼の肌は火照っていた。生徒の前であるため我慢しているが、オナニーをしたくてたまらない。妻とも昨日セックスをしたばかりだが、ムラムラしてたまらなかった。邪念を打ち払おうと、柴沼は布団を頭から被った。
(ん? うおっ!?)
布団の内側には、ムッと濃い男の体臭が籠もっていた。一日分の授業を終えた、体育教師の体臭。今年で41歳になる柴沼の、やや加齢臭も混じった香ばしい匂いが、鼻孔を刺激した。普段ならば単なる汗臭さとしか認識しないが、今はなぜか……とても魅力的なものに感じられた。ムンムンとした男の色気。こんなにもフェロモンに満ちた体臭を振りまいて、今まで授業をしていたのかと、柴沼は恥ずかしさで声を漏らしそうになった。
(んあっ、いい……俺の匂い、こんなにも……気づかなかった……あぁ……)
柴沼はムフリと小鼻の穴を広げ、深く息を吸い込んだ。先ほどから勃起したチンポが、痛いほどに下着の生地を押し上げている。生徒の前であるという危機感よりも、性欲が肥大化して上回っていく。興奮した柴沼は、右手を下着と肌の間に滑り込ませた。陸上部の顧問であり、趣味でトライアスロンをしている柴沼の体躯は、41歳とは思えないほどに引き締まっている。節くれ立ったチンポは、待ちかねた愛撫でビクッと痙攣した。
「んっ……!」
そのままゆっくりとチンポを扱き始めた。放課後の保健室。生徒の目の前で、バレないように密やかに自慰に耽る。その背徳感が、今までにないほどに柴沼の官能を煽った。
(もっと……俺の匂いを感じたい……)
柴沼の精悍な瞳が、とろんと快楽で潤んでいた。布団の中で、もういちど深呼吸をした。布団の内側に籠もった、濃密な男の体臭に興奮した柴沼は、チンポを扱く速度が速まった。
枕元にあるスマホは「洗脳進行度 45%」と表示されており、柴沼の精神が変容しつつあることを、しっかりと示していた。柴沼の中で、女性に対する性的な関心よりも、男性に対する性的な関心の方が強まっていく。愛妻家だった柴沼の脳内で、妻に対する愛情が急速に薄れつつあったが、しかし彼はそれに気づいていなかった。
※
「柴沼先生。お加減どうですか?」
柴沼が布団の中で自慰に耽っていると、不意に松本に声を掛けられた。柴沼は慌てて、右手を下着から引き抜いて、ジャージと下着を強引に腰まで上げた。指先が先走りで湿っており、柴沼はシーツで指先を拭った。チンポはさらなる愛撫を求め、自慰の中断に抗議するかのように、ヒクヒクと痙攣している。
柴沼は布団から顔を半分ほど出して、松本の様子を伺った。彼は文庫本を机に置くと、椅子から立ち上がってこちらに来ようとしていた。
(まずいぞ。シコっていたことがバレたら……)
「あっ、いや。その……大丈夫だ」
柴沼は上擦った声で返事をした。こんな姿を松本に見られたら、変態だと思われてしまうだろう。柴沼は冷や汗を流しながら、言葉を続けた。
「あー……松本もその……帰りが遅くなっちまうだろう。そろそろ、帰った方がいいんじゃないか? 俺はもう、だいぶ良くなったから……」
「そうですか? でも柴沼先生、なんだか顔が赤いですよ」
松本が近づいてくる。柴沼の勃起は収まるどころか、異常な状況への興奮で、より固くなり始めた。いま見られたら、ジャージの上からでも勃起していることがバレてしまうだろう。
「僕はもともと帰宅部なので、用事はないですし。それより、汗掻いていませんか? 拭いてあげますよ」
松本が布団をめくった。柴沼は勃起を指摘されるかと身を固くしていたが、松本は特に気づく様子もなく、柴沼の身体を起こすと、ポロシャツを脱ぐように伝えてきた。松本の視線は、柴沼の枕元に置いてあるスマホに注がれていた。画面にある洗脳進行度は、71%を示していた。
「保健室の棚に、身体拭き用のウェットシートがあったんです。あと、ここに来るときに佐伯先生にもお話したら、柴沼先生の着替えを持っていくように言われたので。体育教官室の先生の机から、鞄ごと持って来ています」
「ああ、助かる……」
柴沼は勃起がバレていないことに安堵しながら、ポロシャツを脱いだ。赤銅色に日焼けした、逞しい体育教師の上半身。そこから立ち上る男臭い体臭が、清潔な保健室の空気をムワリと濁らせていく。松本は柴沼に、背中を拭くのでうつ伏せに寝るように告げた、
「それじゃ、拭いていきますね」
「あっ……」
松本が、柴沼の広い背中にウェットシートを宛てがった。そのひんやりとした感触に、柴沼は上擦った声を漏らした。続いて、広背筋の筋肉の凹凸を、清潔なウェットシートが撫でていく。松本の右手はウェットシートで柴沼の肌を拭いているが、左手は柴沼の背中にそっと添えられていた。松本に触れられている肌が、妙に疼く。
(気持ちいい……)
柴沼は汗臭くなった枕に、デレッとにやけた顔を埋めていた。柴沼の火照った肌は、触れられることを求めていた。それは、彼の肌の温度がウェットシートに伝染し、ウェットシートが生ぬるくなるにつれて、より深い確信へと変わっていった。他の男の手に……松本の手に触れられることが、何よりも心地よい。自慰が中断し、萎え掛けていたはずの肉棒は、いつの間にか再び固くなり、柴沼の下着の中で怒張していた。
「それじゃ、今度は反対側を拭きますね」
松本に促され、柴沼は仰向けになった。柴沼の厚みのある胸板が、大きく上下している。股間は言い逃れ出来そうにないほどに膨らみ、輪郭がジャージに浮かび上がっていたが、それを見ても松本は何も言わなかった。柴沼は緩みそうになる頬を引き締め、松本の愛撫を待ち受けていた。
「ほんと、柴沼先生ってマッチョですよね〜。胸板、すごく分厚いし」
「んっ……ま、まあな」
柴沼の胸板が、松本の持つウェットシートで拭き清められていく。力を入れていない大胸筋は、柔らかな弾力で男子生徒の指先を迎え入れた。柴沼の胸板は、男に触れられた悦びに打ち震え、ピクピクと痙攣していた。柴沼は悩ましげに眉根を寄せ、口を半開きにして息を吐き出した。
「あぁ……」
もっと触れて欲しい。俺の身体を、すみずみまで触って欲しい。他人には見せないような部分も、全て。そんなインモラルな欲求が、体育教師の胸の内に、ムクムクと立ち上がってくる。柴沼はそれを押し殺しながら、松本の指先に身体を任せていた。松本は両方の胸を拭き終えると、柴沼の両胸を、手のひらで包み込むように揉みしだいた。きゅうんと切なくなるような、多幸感が柴沼の胸を貫いた。
「うおっ!? ま、松本っ!」
「柴沼先生、だいぶお疲れみたいなので、ついでにマッサージをして差し上げようかと……もしかして、ご迷惑でしたか?」
「いっ、いや……そんなことは、ない……ぞ。んおっ!」
松本に触れられるほどに、柴沼の中で、この男子生徒への好意が膨れ上がっていくのを感じていた。はじめのうちは、親切な男子生徒という認識だったのだが……次第にそれが変化していると自覚した。教師としてではなく、男として、この生徒を好きになり始めていた。
(ま、まずいっ! このままじゃ、俺っ……!)
柴沼の体育教師としての職業意識が、警鐘を鳴らしていた。このままでは自分は、この男子生徒に惚れてしまう。一線を超えてしまいかねないと。彼は懸命に両腕を動かし、自分の胸を愛撫し続けている松本を引き剥がそうとした。しかし、松本に触れられる悦びに溺れた柴沼の肉体では、ろくに力が入らなかった。柴沼は、自分の意志を総動員して口を開いた。
「松本っ……! いったんちょっと、離れてくれ……! なんだか……おかしな気分になっちまう!」
「どうしたんですか?」
松本は不思議そうな顔をしたものの、しかし柴沼の胸板から手を離さなかった。松本の視線の先には、洗脳進行度83%と表示されているスマホがあった。あと一押しだと確信した松本は、柴沼の乳首をコリコリと愛撫し始めた。
「ン゛イッ!?」
柴沼はベッドの上で、弓なりに仰け反った。柴沼の胸に植え付けられた松本への好意は、一気に恋愛感情へと育ちきった。柴沼の頬がデレッと緩み、口元からは涎が垂れる。洗脳進行度が、さらに更新された。92%。柴沼は、松本への熱烈な愛情を自覚しながらも、最後の抵抗を続けていた。発情した犬のように舌を出し、荒い呼吸をしながら、太い首を横に振った。
「おっおっ! ま、松本ッ! やめっ! おほぉっ! お、おかしく、なっ……あぁぁあ!!」
「はい。おかしくなってください。柴沼先生。だって、僕……柴沼先生のこと、大好きなんですから。先生にも、僕のこと、好きになって欲しいんです」
松本に「好き」と言われたことが、柴沼の理性にトドメを刺した。洗脳進行度が100%に到達した。
「ンイ゛ッ! い゛っ、イ゛ぃぃいい〜ン゛!!」
途方も無いほどの多幸感が込み上げてくる。柴沼は締まりのない笑顔を顔に浮かべると、鼻水と涎を垂れ流し、弓なりに体を仰け反らせた。
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