「それじゃ、芹沢さん。僕はそろそろ面接の時間なので」
「おう。気をつけろよ」
「はい。芹沢さんもお気をつけて」
芹沢の部下である、平賀圭吾は車から降りると、表通りの方へと向かっていった。ここは雑居ビルの間にある、個人経営の駐車場である。目的地に直接車で乗り付けるのは問題があったため、やや離れた地点の駐車場に車を停めていた。芹沢は腕時計を見ると、煙草に火をつけて紫煙をくゆらせた。バックミラーには、口髭を蓄えた強面な中年男の顔が映っていた。
芹沢琢哉と平賀圭吾は、警視庁公安部に所属する警察官である。今日はヘルスケア企業「ライフ・ソサエティ」の潜入捜査にやって来た。表向きは、健康食品の販売やスポーツジムの運営などをしている会社なのだが、反社会的勢力からの金の流れがあったため、芹沢たち公安の捜査線上に浮かび上がった。そして、この企業への疑惑はそれだけではなかった。
「企業内での洗脳じみた社員教育、そしてある種の……セックスコミュニティを形成している疑いがある……」
この企業内では性行為が常態化しており、社是を盲信した、否──させられた社員たちが、日常的に乱交をしている疑いがある。さらにそれは社員だけではなく、ライフ・ソサエティが主催する会員制ヘルスケア・プログラムの参加者にまで被害が及んでいる……らしい。証言者が少ないため、内容は判然としなかった。芹沢たちの潜入捜査は、その実態をつかむことにあった。あまりにもわかりやすい違法行為であり、証拠を押さえれば、すぐにでも検挙出来るだろう。反社との繋がりは、検挙してからゆっくりと調べればいい。先日、芹沢と平賀が、偽名でヘルスケア・プログラムの入会希望を申請すると、すぐさま面接日と時間が指定された。先に平賀が面接を受け、一時間ほどしてから、芹沢が向かうことになっていた。
「……遅い」
芹沢は何本目かの煙草を、車の灰皿で捻じり潰しながら、苛立たしげに腕時計を見た。そろそろ芹沢が面接に行く時間である。予定では、先に面接を終えた平賀から、芹沢に面接の内容が報告されるはずである。面接が長引いているのか、それとも。
「何か不測の事態が起きたか……だな」
芹沢は車のドアを開けると、アスファルトを踏みしめて大股に歩き出した。
※
ライフ・ソサエティ本社は、表通りから一本奥に道路を入ったところにあり、閑静な住宅街と騒々しい通りの中間に存在していた。ハニカム構造の六角形に縁取られた白い外壁と、大きなガラス張りの壁が組み合わさり、清潔なイメージを演出している。一応、それとなく周囲を伺ってみたが、ロビーには平賀の姿はなかった。
(やけに、男が多い気がするな……)
年齢の様々な男が、ロビーのソファで寛いでいたり、本社に併設されているジムに出入りしていた。中には、アスリートと見間違うほどの筋肉質な男もちらほらいる。芹沢が受付でヘルスケア・プログラムの会員面接の予定があることを告げると、応接室へと案内された。応接室では、ライフ・ソサエティ代表の神谷という男が芹沢を出迎えた。
「やー! 初めまして。ライフ・ソサエティ代表の、神谷真寛です。本日は当社の主催する、会員制ヘルスケア・プログラムにお申し込み頂き、誠にありがとうございます」
神谷代表はにこやかに芹沢を出迎えて、握手のために手を差し出してきた。30代後半くらいの、日に焼けた逞しい男だった。暑苦しいようでいて、人懐っこいようにも見える、男性的な魅力に満ちた笑みだった。ワイシャツ越しにも、鍛えられた逆三角形のボディラインがはっきりと分かる。健康を売りにしている会社だけあって、肉体美もまた、宣伝の一部ということなのだろう。しかし神谷のデコレーションされたような肉体美は、芹沢のような質実剛健な警察官にとって、逆に虚飾のように感じる類のものであった。
(妙に胡散臭そうな野郎だな……)
「こちらこそ初めまして。入会希望の──ンッ?」
しかしそんなことは顔には出さず、芹沢は握手に応じながら、申込みに使用した偽名を答えようとした。その時だった。神谷の大きな、体温の高い手のひらに自分の肌が触れた途端、芹沢は本能的に、手を引っ込めようとした。しかし神谷はその動きを見越して、両手で芹沢の右手を包み込んで来た。神谷に触れられた右腕の筋肉が、反射的にピクピクッと小さく痙攣した。
「あっ……!」
「おや? どうされました?」
それはほんの一瞬のことだったが、神谷が手を離すと、芹沢は呼吸が荒くなっていることに気づいた。手のひらには、むず痒いような感触がいまも残っている。
(なんだ? なにかいま、されたような──)
「まあまあ。それではお掛けください。面接希望の……後藤さんでしたっけ? ゴツゴツとして、逞しい手をお持ちですねぇ。ご職業は何をされているんでしたっけ? 簡単に自己紹介をお願いできますか?」
「…………はい。実は申し込みに使った、後藤健一という名前は偽名で……本名は芹沢琢哉です。職業は警視庁公安部に所属している警察官です。本日はライフ・ソサエティへの潜入捜査のために、面接を希望致しました」
芹沢はごく平然とした顔で、自分が潜入捜査にやって来た刑事であることをバラしていた。神谷はそれに対して、面白がっているかのように、眉を片方上げたおどけた表情をした。
「おやおや。ご自分から潜入捜査だと打ち明けたのは、なぜなのですか?」
「なぜって、それは……あー、最初から潜入捜査だと伝えておくことで、被疑者との信頼関係を作るためです」
(ん? なにか……マズイことを言ったか? いや、大丈夫だよな)
芹沢は頭の片隅に違和感を感じながらも、そう答えた。【潜入捜査だと最初に自分からバラしておくのは、捜査の基本】だと──先輩の刑事に教わったような──教わっていないような──そんな気がする。それは芹沢自身の正常な思考ではなく、外部から植え付けられた思考だったのだが、彼はそれに気づくことが出来なかった。神谷が相槌を打ちながら、口を開いた。
「なるほど。かなり間抜けな考えを植え付けられても、それを自覚できないようですね。いい仕上がりです。芹沢さん。あなたは本当に、馬鹿な刑事ですよ」
「はい。いやあ、面と向かってそう言われると、照れますな。ありがとうございます」
(よし、俺のことは全く疑っていないようだな。やはり最初に自分から潜入捜査だとバラして、俺が馬鹿な刑事だとアピールしておくことは、正解だったみたいだ)
芹沢は神谷から馬鹿にされても、その事実を認識出来ないように、思考の一部が麻痺させられていた。その誤った認識の中で、芹沢は早くも潜入捜査に手応えを感じている始末だった。そのことがより、神谷の嘲笑を誘う。神谷は芹沢の間抜けさを鼻で笑いながら、言葉を続けていった。
「ハハッ。本当に面白い刑事さんですね。それでは、芹沢さんには警察の捜査状況について、これから質問していきます。そのうえで、警察には偽の情報を流して頂いて、捜査を撹乱して貰おうと思うのですが、いかがでしょうか。つまり、潜入捜査に来た刑事でありながら……あなたには裏切り者として、警察への二重スパイをして頂くわけですね」
「それは願ってもないことです。私で良ければ、いくらでも偽情報を流しましょう」
(よしよし。この神谷という代表は胡散臭そうな男だが、さっそく信頼関係を築けたようだな。よほど俺のことを信頼しているのか、二重スパイまで依頼してきている。この調子で、どんどん警察の内情をバラしていこう)
そして芹沢は自分が知る限りの、ライフ・ソサエティに関する捜査状況を説明していった。一時間ほど経過した頃には、芹沢は神谷とメールアドレスも電話番号も交換していたし、これからどのように捜査状況を神谷に報告するかの段取りも組んでしまっていた。
「──こんなところでしょうか。これからはこのオンラインストレージの共有フォルダに、捜査資料を入れておきましょう」
「ええ、こちらとしても助かります。芹沢さんは本当に間抜けで、扱いやすい刑事ですね。手駒として丁度いいですよ」
「いえいえ。そんな……間抜けなのは本当のことですから」
「もう何をしても、芹沢さんは私に抵抗出来ないので……そうですね。言葉遣いもタメ口でいいですよ。その方が素のあなたの人格を、踏みにじっている気分が出て興奮するので」
「そうですか? いや……そうか? あー、こんな感じでいいか? 神谷」
「ええ。言葉遣いが荒っぽい方が、年上の刑事の風格が出て格好いいですね。それでは、捜査に関するお話は一旦ここで終わりにして、芹沢さん個人のことをじっくりと教えてもらいましょうか」
「もちろんだ。俺のことでよければ、なんでも訊いてくれ」
「まずは服を脱いで、下着姿になっていただけますか? 脱いだ服はこちらにどうぞ」
「服を? わかった」
芹沢は仕事帰りのサラリーマンという設定で面接に望んだので、ノーネクタイのワイシャツとスラックスという出で立ちである。それらを脱いで下着姿になると、40代後半にしては鍛えられた、胸板が厚い肉体が露わになった。背はそれほど高くないものの、肉体に厚みがあるので体格が大きく見える。とはいえ、歳相応に脂肪も付き始めており、やや固太り気味ではある。体毛が毛深く、胸毛まで生えている。角刈りと口髭も相まって、男臭い風貌だ。グレーのブリーフの膨らみも大きい。むわりと中年男の汗臭い匂いが周囲に広がった。
「おお、鍛えてますね〜。さすが刑事さん」
「まあな。警察官として、柔道や剣道で鍛錬しているからな」
「これから芹沢さんの肉体をチェックしていきますね。これもまた、入会審査に必要なことですので。そのまま気をつけの姿勢でいてください」
「ああ」
芹沢が直立不動の姿勢になっていると、神谷が席を立って近づいてきた。そして、芹沢の汗臭い肌に顔を近づけ、スンスンと匂いを掻いだり、背後から金玉を掴んで揉んだりしてきた。
(オイオイ。勘弁してくれ。俺にそっちの趣味はないぞ?)
洗脳されて正しい現状認識が出来なくなっている芹沢だが、男色の趣味はない。性的指向としてはノンケのままであり、男にベタベタと身体を触られることによる、不快感があった。神谷は芹沢の胸毛の生えた胸板をじっくりと揉み、指先に胸毛を絡ませながら、口を開いた。
「芹沢さん。いま何を考えていますか? 率直な感想を教えて下さい」
「どうって……うーむ。男に身体をあちこち弄られるのは、気色悪いな。正直言って、アンタのことも胡散臭い男だと思っている。さっさとこの面接を終わらせて、帰りたいと思っているところだ」
「ハハハ。なかなか辛辣なお言葉、ありがとうございます。ですが……となると、ヘルスケア・プログラムへの参加は厳しいかも知れませんね」
「なにっ!」
「というのも、男性同士での性的なスキンシップも、プログラムに含まれているんですよ。まことに残念ですが、芹沢さんにはお帰り頂いた方が……」
「いっ、いや! やる。男同士の……その……性行為……ぜひ、やらせてくれ」
「本当ですか……? それでは、芹沢さんがどれほど本気なのか、確かめてみましょうか」
神谷はそう言うと、自身のズボンのベルトを外して、下着ごと膝下にずり降ろした。ブルン、とふてぶてしく太い肉棒が露わになる。血管が浮き上がり、木の幹のようなそれを、神谷は芹沢に向けて告げた。
「これから芹沢さんには、私に対してフェラチオをして頂きます。その内容をもって、入会審査の合否を決めようと思います。よろしいですね?」
※
(で、デカい……)
芹沢は腰を落として、神谷のチンポを眼前にしながら感じていた。
(本当にコレを……これからしゃぶるのか? 俺が?)
芹沢の脳の片隅に「それはさすがに、おかしいのではないか?」という疑念が引っ掛かった。「潜入捜査を遂行したい」「しかしチンポはしゃぶりたくない」そんな相反する思考に、芹沢は濃い眉根を寄せた。そんな芹沢の様子を見て、神谷が右手を芹沢の頭の上に置いた。
「少し、手助けをしてあげましょうか。もう少し、変態になりましょうね」
「んいッ!? お゛ひッ!」
神谷が芹沢の角刈り頭を撫で回す。その度に、芹沢はまるで脳内を掻き混ぜられるような、強い嫌悪感と快感を味わっていた。白目を剥いて、鼻水と涎を垂れ流す。芹沢の思考、信念、性癖が直接──弄られる。
(な、撫でられてるだけなのにッ……んぎもぢぃぃッ!!)
ひと撫でされるごとに、男の裸体に対する嫌悪感が拭われる。
ひと撫でされるごとに、男の裸体に対する興奮が湧き上がる。
(ち、チ、チ……チンポ! しゃぶりてぇっ!!)
撫でられているうちに昂ぶってしまった芹沢は、ギラギラと性欲に眼を光らせ、神谷のデカマラに唇を近づけ……やがて、むしゃぶりついた。初めてチンポに触れた芹沢の唇は、待ちかねたように逞しい肉棒を迎え入れた。男性器特有の、独特の臭気を鼻いっぱいに吸い込みながら、舌をチンポに絡ませる。男への初めての奉仕。その興奮に、芹沢の厳つい口髭が歪む。
(んんっ……いい……たっ、たまらんッ!)
「おっ! いい感じに、脳みそシェイクされちゃいましたね、芹沢さん。んっ……いいですよ。下手くそなフェラなんだけど、それがまた……ノンケの中年オヤジって感じで、すごくいいです。ああっ!」
芹沢は神谷に褒められながら、チンポへの奉仕を続けている。頭を撫でられ、熱烈な男好きにされてしまった芹沢にとって、デカマラを持つ神谷は、非常に扇情的な印象の男に変わっていた。
(はぁ……んちゅっ……最初はいけ好かねえ野郎だって思ってたのに……コイツのチンポしゃぶって、こんな興奮しちまうなんて……んんっ)
「んあっ……そろそろ、イキますね。くうっ!」
神谷の金玉が激しくせり上がると、次の瞬間、ドビュルルルル!と、大量に芹沢の口腔内に射精した。芹沢は、今まで以上に必死に神谷の身体にすがりつき、一滴も精液を逃さないようにチンポを咥え込み続けた。芹沢の口腔内に、磯臭く、ムンムンと雄の匂いがする白濁液で満たされていく。苦味と塩っ気のあるそれを、舌の上で転がしながら、芹沢はゴクリと飲み干した。初めての奉仕を終えた──その興奮と多幸感に、芹沢自身のイチモツが手も触れていないのに静かに射精し、床に種汁を垂れ流していた。
(はぁ……すげえ……興奮した……男のチンポしゃぶって、精液飲んじまうのが……こんな……)
芹沢は強面の顔をとろんととろけさせ、精液臭い息を吐きながら、放心したように床にへたりこんでいた。全身が汗みずくになり、脂と汗でてらてらと顔が光っていた。
「うんうん。芹沢さんのフェラチオ、とってもよかったですよ〜。技術的には下手くそなんですけど、初めてチンポに興奮しちゃったノンケ感あって、グッと来ちゃいました。面接は、文句なしに合格です!」
「よし!」
神谷が満足げに頷き、芹沢も潜入捜査が順調に進んだことで、喜びの声を上げた。しかし、神谷がさらに言葉を続けた。
「とはいえ、私としては、もうちょっと芹沢さんの違う面も見たいんですよね」
「……というと?」
「もしも芹沢さんが、自分の現状を正しく認識したら、どう反応するのかなって。さきほどから私、どうしても気になっていまして。なので……」
神谷が芹沢の額に、人差し指を突き立てた。爪先が、芹沢の脂ぎった額に食い込む。
「正しく現状を認識していいですよ。芹沢さん」
「ん? そりゃどういう……あぁっ?! うあぁっ!??」
芹沢の頭に殴られたかのような衝撃が走り、彼はこれまでの破廉恥な振る舞いの数々を、正しい形で認識させられた。自分の口から潜入捜査だとバラした挙げ句、捜査情報を漏洩した記憶。興奮と多幸感に包まれながら、目の前の男の男根に奉仕し、その精液を飲み干した記憶。そして芹沢自身もまた、初めてのフェラチオの悦びに興奮し、静かにオルガスムスに達してしまった記憶。恥ずかしさのあまり、全身の血が沸騰しそうだ。それ以上に、自分をおもちゃにした神谷という男のことが、絶対に許せないと、芹沢は拳を握りしめた。
「てめえっ! 俺になにしやがった!」
「私は触れた人間の認識や思考を、操作できるんですよ。芹沢さんはその影響下にあったんです。いやあ、なかなか傑作でしたね。自分から潜入捜査に来たってバラした刑事が、私のチンポしゃぶって、さらに射精しちゃうなんて。変態にもほどがあるでしょう?」
「ふざけんな! 貴様を逮捕する!!」
芹沢は、全裸のまま勇ましく神谷に詰め寄った。自分よりも背の高い神谷のネクタイを掴み、グイッと顔を引き寄せた。怒った中年刑事と、筋骨逞しい社長が見つめ合う──芹沢はネクタイから手を離すと、神谷の頭を両手でがっと掴んだ。そしてそのまま、怒り顔のままキスをした。
(ん? 俺はいま何を……いっ、いや。いまはコイツを拘束することが先決だ!)
芹沢は、一瞬自分が何をしたのか戸惑ったような顔をした。しかし次の瞬間には既に芹沢は、神谷の唇に己の舌を捻り込み、濃厚なディープキスを開始していた。
「フーッ……フーッ……くちゅ……むちゅっ」
芹沢の荒い鼻息と、男同士の唾液と舌が絡み、髭が擦れ合う、卑猥な音が応接室に響く。神谷の立場からすれば、芹沢の洗脳を全て解除するはずがなかった。芹沢が認識できない形で、安全装置を作っていた。芹沢から神谷への暴力・敵対行為は全て「性的なこと」へと置き換えられている。そのせいで芹沢は「犯人を組み敷いて制圧しているつもり」で、神谷に対する濃厚なディープキスを行っていた。しかもそれを「なるべく愛情を込めるほど、相手を拘束できる」と芹沢が認識してしまっているせいで、妻にもやったことがないほどに丁寧で、じっくりとしたディープキスになってしまっている始末だった。
(ンッ……キスはこんなもんか? コイツの妙な能力を立証できるかわからんが、今はとにかく微罪でもいいからしょっぴいて、後は──)
「んっ……なかなか、キスは上手なんですね、芹沢さん。厳ついし、そういうのちょっと下手そうなイメージだったんですけれど」
芹沢が一息ついた隙を見計らって、神谷は芹沢の身体を押しのけた。「厳重に神谷を拘束していたつもり」になっていた芹沢は拘束が外れたことに驚いて、今度は自身のチンポを、芹沢に突きつけた。こちらも芹沢としては「拳銃を構えているつもり」である。
「おい! 動くな! 両手を上げろ! 俺のチンポは勃起しているぞ!」
「アハハッ! 芹沢さん、あんた本当に馬鹿な刑事だよ。自分が何してるのか、わかってないでしょ」
「ふざけたことを言うな。今の俺は正気だ。貴様の妙な洗脳は解けている! おとなしく投降しないと、この場で俺は射精するぞ!」
渋味のある低音の声で、堂々と変態行為を宣言する芹沢。彼のチンポは、さきほど射精したばかりの精液のヌメリが皮の間に残っており、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立て続けている。とても、犯罪者を前に刑事が出していい音ではない。しかし芹沢は、自身の変態性を認識できないままだ。神谷は眼に涙を浮かべて笑っていた。
「ひーっ! アハハッ! もう……あはっ! 笑わせないでくださいよ〜! でも……射精はしない方がいいですよ? 芹沢さんの次の射精を、洗脳の完成トリガーにしておきました。次に射精したら、あなたの認識の齟齬は完全に人格に組み込まれて、私の奴隷になってしまいますからね?」
「ふざけるなっ!」
芹沢が脂汗を垂らす。神谷はニヤニヤしながら、芹沢に手を伸ばしてくる。芹沢は身の危険を感じ、チンポを扱く速度を早めた。睾丸が激しく上下する。太腿の筋肉がピクピクと痙攣する。射精が間近に迫っていた。そしてそれは、芹沢の刑事生命の終わりをも意味していた。
「うおおおおっ!! うぐっ!!」
雄叫びを上げながら、オルガスムスに達してしまった芹沢。勢いよく飛んだ精液が、神谷のスラックスに飛び散った。犯罪者に対して発泡せんと鬼気迫っていた刑事の表情が、射精を境に、別の表情へと変わっていく。厳つい顔つきが緩み、瞳がとろりと潤んでいく。その様子を見届けた神谷が、芹沢に対して声を掛けた。
「射精していまいましたね、芹沢さん。これでもう、芹沢さんは私を捕まえることはできませんよね?」
「……ああ」
芹沢は、半笑いのようなだらしのないを浮かべて、頷いた。
※
「遅いですよ。芹沢さん」
「悪い悪い」
2時間後。ライフ・ソサエティを出た芹沢は、駐車場に止めた車へと戻った。どうやら部下の平賀とは、入れ違いになっていたらしい。平賀は既に運転席に乗り込んでいた。芹沢が助手席に乗り込むと、平賀が口を開いた。
「で、芹沢さん。どうでした?」
「どうもこうもあるか。俺らの潜入捜査はバレてんだよ。俺は……まんまと洗脳されちまった。んおっ……!」
洗脳。そう呟いた途端、芹沢の脳が痺れるような多幸感に包まれた。鼻息が荒くなり、口の端から涎が垂れる。公安の刑事だった自分が、犯罪者に洗脳された挙げ句、手駒として、性奴隷として──あの神谷という男に奉仕してしまう。その情けなさと、倒錯感を認識するだけで……芹沢の脳細胞のひとつひとつが、幸福で弾んでしまうのだった。
芹沢が奴隷としての悦びに身悶えしていると、平賀も同調したようにうっとりとした声を漏らした。
「いやぁ……僕も洗脳されて、芹沢さんのこと、ペラペラ喋っちゃいました。よかった……芹沢さんも一緒に洗脳してもらえて。俺、芹沢さんのおかげで刑事やってこれたんで、奴隷になってからも絶対、芹沢さんと一緒でいたかったんです」
「平賀……」
芹沢は隣に座っている平賀を見た。今まで意識していなかったが、己よりも若く、顎のガッシリしたこの部下は、雄として魅力的だった。そして平賀も、芹沢の厳つい中年の肉体を、好ましく思っていることが視線から読み取れた。
「芹沢さん……」
「おう。こっち来い」
二人の刑事は、車の中で抱き合い、唇を重ね合わせた。平賀も芹沢同様、ライフ・ソサエティで陵辱されて来たのか、精液の匂いが体から漂ってきた。芹沢は部下と舌を絡ませ合いながら、自分たちが犯罪者に負けたという事実を噛み締めていた。
(俺たち二人が、ライフ・ソサエティの手に堕ちたら、公安は、いったいどうなっちまうんだ……)
芹沢は想像する。自分たち二人がライフ・ソサエティの尖兵となり、他の公安刑事たちを堕としていくさまを。苦み走った同期の中年刑事も。逞しい若手刑事も。鬼瓦のような厳しい部長も。彼が自分たちのように、洗脳されて、変態にされてしまったとしたら──
「えひっ」
公安の敗北を想像しただけで、芹沢の脳細胞が、再び多幸感で踊りだした。既に芹沢は正義の側ではなく、犯罪者の側に立っている。公序良俗を乱すことで、興奮する変態へと変えられてしまっている。そのことがたまらなく──嬉しい。
「あぁ……芹沢さん、俺……もう我慢できないっす。彼女も居たのに、芹沢さんでチンポ勃つようになっちゃって、俺ッ……!」
「おうおう。我慢すんな平賀。俺たちゃ、どうせもう変態なんだからな。変態らしく、チンポをしゃぶり合おうじゃねえか」
「はい……芹沢さん。あぁ……」
平賀が上ずった声を漏らしながら、ズボンのベルトを外していく。芹沢よりも小ぶりだが、しかし形の整った太めのチンポが現れた。芹沢は助平そうな笑みを浮かべると、舌なめずりをしながら、部下のチンポへと顔を近づけていった。
人生二度目のフェラチオだ。これからライフ・ソサエティで奉仕していくことを考えると、今のうちに少しでも上達しておかなければ──そのようなことを思案しながら、芹沢は肉厚な舌を部下のチンポに絡ませ、肉棒をしゃぶりあげ始めた。平賀は鼻息を荒げると、芹沢の角刈り頭を両手で抑え、すすり泣くような声を上げ始めた。
(終)
──────────
というわけで、今回のテーマは「潜入捜査」でした。刑事の潜入捜査があっさりとバレて、あれこれ変態化させられてしまうの、いいですよね。今回の話のボツバージョンを、未完成版の更新に上げておいたので、そちらもご確認くださいませ。
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くろねこ@9605
2020-07-16 13:57:27 +0000 UTC黒竜Leo
2020-07-15 17:58:23 +0000 UTC