浮遊感、疲労感、充実感──それらを感じながら、小笠原寛和は泳いでいた。12月だが、私立高であるこの学校は温水プールが付いている。三ヶ月ほど前から、この高校の水泳部員になった──なってしまった寛和も、その恩恵に預かっていた。
「それじゃ、そろそろ上がってー」
ホイッスルの音と共に、顧問である斉藤という女性教師が部員たちに呼びかけた。寛和も名残惜しさを感じながら、プールから上がった。最近は泳ぐことが気持ちいい。水泳は団体戦もあるが、泳いでいる間は一人きりだ。学生時代はラグビー部だった寛和には、その感覚がとても新鮮だった。
「それじゃ、女子水泳部の冬休み中の練習日程を配布しますね」
斉藤が日程表を配っていく。寛和も受け取った。その日程表越しに、否応なく寛和は自分の身体を見た。骨太な体躯に、女性用の競泳水着を着ている。身長が180cm以上ある元ラガーマンの寛和が女子水泳部員に混じっている姿は、異様なモノがあった。しかし顧問も他の部員たちも、それについて何も違和感を抱いていない。
三ヶ月ほど前まで、47歳の既婚サラリーマンだった小笠原寛和は──滝田紗希という女子高生と、立場が入れ替わってしまっていた。寛和はサラリーマンとして働き続けることは出来なくなり、滝田紗希として女子高生の生活を送っていた。
そのまま女子水泳部のミーティングを終え、寛和が女子更衣室で制服に着替えていると、紗希の友人の夏美が話しかけてきた。
「紗希、結構タイム縮んできたじゃん」
「きゃっ、夏美! ごめん、ちょっと待って!」
寛和は女性用の競泳水着を脱いでいる途中であり、さらけ出した胸板を恥ずかしそうに隠した。立場が女子高生に変わってからというもの、寛和の生理現象も女性のそれと入れ替わりつつあり、体内では大量の女性ホルモンが分泌されている。それによって、寛和の胸毛の生えた厚い胸板は、女性の乳房へと近づきつつあった。現在はBカップほどの大きさだろうか。
元々肩幅が広いため、裾野の広い乳房になってしまっており、女性としてはあまり美しい乳房ではない。しかし乳頭は桜色になり、ぷっくりと哺乳瓶の飲み口のように膨らんでいる。水泳部員になったため、今は胸毛も剃っているが、生え掛かりの胸毛がうっすらと見えた。とはいえ女性ホルモンのおかげで、以前よりも生えるペースはかなり遅くなっていたが。
「んもう、なに隠してるのよ。女同士だしいいじゃん」
「でも……」
「紗希は気にしすぎだって。そりゃ、こないだまでオジサンだったから、色々気になるんだろうけど」
夏美はごく自然にそう口にした。周囲の人間も、小笠原寛和が滝田紗希の立場になったことを認識していた。しかし、それが異常なことだとは、誰も考えていないようだった。
(三ヶ月前までは、俺……普通のサラリーマンだったんだよな。妻も息子もいて、体つきもゴツかったのに)
寛和は、滝田紗希になった日のことを思い出していた。
※
それは9月の中旬頃。まだ夏が終わり切らない頃の、蒸し暑い夜のことだった。飲み会の帰り道。電車が駅に着いた音で、小笠原寛和は目を醒ました。酩酊した頭を上げ、駅名を確認する。寛和が降りる駅の、ふたつ手前の駅だった。
「ん……」
そろそろ起きていないと寝過ごしそうだ、と感じた寛和は、何度かまばたきをして伸びをした。終電間際の地方都市の電車ということもあり、乗客はまばらな人数だった。寛和がふと気がつくと、手にはスマホを持ったままだった。先程まで操作していたのか、画面にはニュースサイトと、広告が表示されていた。
──タッチすると、あなたに合った立場を診断します!
(立場? なんだそれは)
怪訝に思った寛和は、広告を消そうとして、誤って画面に触れてしまった。画面が切り替わり、どこかのホームページに飛ばされた。
──立場診断中……結果発表! あなたに合った立場は「息子の彼女」です!
寛和は苦笑した。酔っているせいなのか、それとも、この広告が元々おかしいのか。文章の意味がよくわからない。画面を見ているうちに、再び眠くなってきた。
(ああ、いかん……そろそろ駅に着くのに……乗り過ごしそうだ……)
寛和は眼を閉じた。身体が浮かび上がるような感覚と、心地よい酩酊感が彼の肉体を支配した。
※
「んあっ?」
翌朝。ビクッと身体が痙攣し、その振動で寛和は眼を醒ました。どうやらちゃんと帰宅できたらしい。柔らかなベッドのマットレスの感触があった。ぼんやりと瞼を開くと、カーテンの隙間から朝の日差しが漏れていた。まだ眠かったので、寛和は掛け布団を頭まで被った。
ひどく寝汗を掻いたことで、アルコールはほとんど抜けているようだったが、さすがにこのままでは学校に行けない。中年男の加齢臭とアルコールの残り香が混じって、鼻がむず痒くなるようだった。妙に早く目覚めてしまったせいで、時間には余裕がある。まずは着替える前にシャワーを浴びなければ、と思い立ち、寛和は掛け布団から顔を出した。伸びた無精髭が布団と擦れ合い、ジョリッと音を立てる。そして困惑した。
「学校……?」
何かがおかしい気がする。まずは顔を洗おう。そう考えた寛和は、ベッドから出ようとして……ふと動きを止めた。ベッドの横には、女性用のブラジャーが畳まれて置いてあった。
(なんで俺のベッドにブラジャーが……いや、寝る前に外したんだよな)
ブラジャーだけではない。いま寛和が身に着けているのは男性用の肌着ではなく、明らかに女性用の肌着──薄いピンク色のキャミソールを着ていた。下半身はハーフパンツを穿いており、毛深い足を晒している。寛和はキャミソールの下にブラジャーを宛てがい、ホックを留めようとした。いつもブラジャーを付けているはずなのに、なかなか留まらない──寛和は漠然とそう感じながら、5回ほど試してようやくブラジャーを付け終えた。学生時代にラグビーで鍛えた、濃い胸毛も生えている厚い胸板。それがブラジャーに包まれた。
「……なんかさっきから、おかしい気がするんだよな。ん?」
寛和はそう呟くと、ぎょっとして自分の喉を押さえた。渋みのある中年男の声。それがなぜか、ひどく自分には似つかわしくないものに思えた。部屋を見渡す。最初はここが自分の部屋のようにも感じたが──よく見ると、知らない部屋のような気がする。全体的に女性の……いや、若い女の子の部屋のようだ。壁際のハンガーにはセーラー服が掛かっている。カーテンの色合いもパステル調で、ベッドのシーツや掛け布団も同じように淡く可愛らしい色合いだ。雑貨や少女漫画が収まっている本棚と、教科書や参考書が並んでいる学習机もあった。
「俺の部屋、こんなだっけ……えっ、俺?」
自分の口調にさえ違和感を覚えてしまう。そして寛和は、あることに気づいた。身体の一部に、起きてからずっと違和感があった。黒のハーフパンツを穿いた股間……グッと固くなったそこに、上から触れてみる。身体から生えて固くなった何かと、女性用下着の生地が擦れあった。寛和はハーフパンツの生地を掴んで、下着ごと恐る恐る摺りおろした。腹毛と繋がった濃い陰毛の中から、太く固く朝勃ちした男性器が、ぶるんと跳ね上がった。
「うおっ!? なんで俺に、チンポが生えてんだ……!? 俺は女のはず……いや、俺は……男だ!」
そのことを思い出した途端、寛和の脳内にどっと情報が溢れ出した。昨日までは小笠原寛和という男として人生を送っており、妻子もいるサラリーマンだったこと。年齢は47歳。飲み会の帰りに、スマホで何かを見た気がしたが……よく思い出せない。そこから記憶がなく、目覚めたら自分を女だと思い込んだまま、この部屋にいたこと。
寛和はめまいを覚えながら、ベッドに腰掛けた。
「どうすりゃいいんだ、これ……」
そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「ちょっと、紗希? 起きてるの? 学校に間に合わなくなるわよ」
この家の母親だろうか。だとしたらマズい。寛和は慌てて布団に潜り込んだ。おそらくこの部屋は、娘の部屋なのだろう。そこに見ず知らずの中年男が入り込み、娘の下着や服を着ている姿を見られたら、どうなるか。確実に警察に通報されるだろう。寛和はせめて勃起したチンポを隠そうと、布団の中でもう一度ハーフパンツを穿こうとしたが、焦っていて上手くいかない。
(頼む、入って来ないでくれ……!)
「入るわよ」
寛和の願いとは裏腹に、ドアを開ける音がした。さらに足音が近づいて来る。足音がベッドの横で止まると、掛け布団が持ち上げられる感触があった。寛和と、掛け布団を持ち上げた40代の主婦の視線が交差した。寛和の妻よりも少し体型が太めだが、顔立ちは割と小綺麗な感じの女だった。
寛和は慌てていたため寛和のパジャマの前がはだけており、キャミソールとその下にあるブラジャーの輪郭が見えていた。さらに、股間には猛々しく勃起したイチモツがあり、膝の辺りには脱ぎかけの女性用下着とハーフパンツが引っかかっている。自分はどう見ても、女子の部屋に侵入して、若い女の子の下着やブラジャーを身に着けて興奮していた変態男だ。寛和はいたたまれない気持ちになり、弁明を始めた。
「うわっ、こ、これは違うんだ、ママ! 決して俺は……」
「もう、紗希ったら起きてるじゃない。朝ごはん出来てるわよ。あと、ちゃんと服を着なさいね」
「え?」
母親は女装した寛和のことを見たが、何も驚いた様子はなかった。
(何が、どうなってるんだ……!? というより、なんで俺、この人をママって……!?)
※
「おはよう、紗希」
「えっとその……おはようございます。パパ」
「どうしたんだ? そんなにかしこまって。何かおねだりしたいものでもあるのか?」
「ち、ちがいます」
ダイニングに行くと、この家の父親がワイシャツとスーツ姿で新聞を読んでいた。47歳である寛和と同年代だろうか。父親は頭の生え際が後退しており、髭の剃り跡の濃い顔つきの、ビール腹の男だった。母親の方はキッチンで何かしているようで、物音が聞こえてきた。寛和はハーフパンツから毛深い足を晒しながら、朝食の席に着いた。初対面のはずなのに、どうしてもこの男性が、自分の父親だという気がして仕方がない。さっきも、つい反射的にパパと呼んでしまった。寛和は迷っていたが、父親の様子をチラチラと伺いながら、おそるおそる口を開いた。
「あの……パパ。すみません」
「どうした?」
「な、何かこう、変に思わないですか? 俺のことを見て……」
「変? うーん……別に、普通じゃないか? まあ、強いて言えば……」
父親は新聞を読むのを止め、寛和をしげしげと見つめた。そしておもむろに口を開いた。
「新しい紗希は、けっこう体格がいいな。パパより筋肉があるんじゃないか? パパはこの間の健康診断でも引っかかったからなあ。羨ましいよ」
「えっ、新しい? それってどういう……」
「ちょっとあなた。紗希はもう女の子なのよ。そんな褒め方ってないと思うわ」
母親が朝食を持ってダイニングにやって来た。トーストと目玉焼きの乗った皿をテーブルに置いていく。寛和は混乱しながらも、母親と父親に問いかけた。
「あの、何か誤解されているようですが、俺はその……紗希という名前ではなく、小笠原寛和という者です。昨日、会社の飲み会で帰る途中までは覚えているのですが──」
寛和は二人に対して事情を説明した。父親はコーヒーを飲みながら、寛和の話を聞いていた。コーヒーの入ったマグカップをテーブルに置くと「事情はわかりました」と口を開いた。
「なるほど、小笠原寛和さんと仰るんですね」
「はい! そうなんです。紗希さんというのは娘さんですか? なんで俺が娘さんの部屋にいたのか、さっぱり覚えていないのですが──」
「ああ、それは簡単な理由ですよ。昨日から寛和さんが、私たちの娘の『滝田紗希』になったからです」
「は……? はぁっ!? えっ、それは……どういう意味ですか?!」
「んもう、あなたったら。新しい紗希が戸惑っているわよ」
「えっ、えっ?」
寛和は狼狽えた。母親は、にこにこと笑みを浮かべながら続けた。
「確かに昨日私も、寛和さんがウチにいらっしゃったときに、少しばかり戸惑ったわ。こんなに大柄で逞しい男性を、娘として愛せるのかって……でも、一晩経ったら、やっぱりあなたのことを、娘としか思えなくなっていたのよね」
そう言うと、母親は眼を潤ませながら、寛和の広い背中を抱きしめた。寛和の中に、言いようのない恐怖と──母親に対する愛情が芽生え始めた。
「ひっ、あっ、ママッ! 違う! 俺は紗希じゃない! ママ! 止めてくれ!」
「大丈夫よ。大丈夫。身体が男でも、私より歳上でも──あなたは私たちの娘よ。少しずつ『紗希』に慣れていけばいいわ」
※
寛和の話は、紗希の両親には全く聞き入れられなかった。
二人とも「あなたは、昨日までは小笠原寛和だったが、今は滝田紗希である」と主張した。そして寛和も、その説明に面食らったものの、一度「滝田紗希」という名前を聞いてしまうと、なんだかそちらの方が、本当の自分の名前なのではないか……と思い始めていた。
(とはいえ、これはさすがに……その、恥ずかしいな……)
寛和は母親にセーラー服を着せられ、紗希の通う高校に登校させられていた。寛和も抵抗しようとしたのだが……学校に行かねばならないという思いが、なぜか彼の頭の中にもあり、結局押し切られるままに、セーラー服を着てしまった。セーラー服は寛和の体格に誂えたようにぴったりのサイズであり、スカートの下には、紺のハイソックスに包まれた毛深い男の足があった。父親から電動シェーバーを借りて髭を剃ると、寛和は紗希の家を出た。
(ううっ……通報されるんじゃないか、これ)
電車やバスの中でも、他人の眼が気になった。確かにチラチラと寛和の方を見る視線は感じるのだが……最初はギョッとしたように顔をこわばらせた人も、寛和を見ているうちに納得したような、していないような、不思議な表情を浮かべるようになった。この場から逃げ出したいという気持ちもあるのだが、しかし学校に行くのをやめようとすると、寛和の中に猛烈な違和感と罪悪感が浮かんでしまい、結局学校に向かってしまっていた。校門が見えてきたところで、寛和は気づいた。
(おいおい。この学校、浩樹が通っている学校じゃないか!)
私立多智葉学院。私立高でスポーツに力を入れているその高校は、寛和の息子である浩樹が通っている。寛和は息子に女装姿を見られるかも知れないと思うと、もじもじと挙動不審になって、校門の前で立ち止まってしまった。すると、校門前にいる赤いジャージを着た男性教師が、寛和に気づいて近寄ってきた。
「おはようございます」
「あっ、その、おはようございます。えっと、怪しい者ではなくてですね。この格好には、色々事情があって……」
「いえいえ。家から連絡が来ていましたよ。滝田紗希の立場になった、小笠原寛和さんですね。これから本校の学生になるにあたって、職員室の方で色々と説明をします。それから教室にご案内します」
※
「えっ誰?」
「紗希の席に座ってるけど、紗希じゃないよね?」
「いや、紗希じゃん。ちょっとボーイッシュな雰囲気になったっていうか……」
「いやいや、どう見てもオジサンじゃん。足とか、マジで毛深いんですけど」
「あー。みんな静かにしてくれ。朝礼を始めるぞ」
担任の古賀という教師によって教室に案内された寛和は、紗希の席に座るように促された。教室のあちこちから注目を浴びる中で、古賀が普段どおりに連絡事項を話していく。寛和の視界の隅に、息子の浩樹の姿が映った。坊主頭で、野球部員のため日焼けした肌をしている。浩樹は紗希の席に座っている寛和を見て、怪訝そうな表情をしていた。
(よりにもよって、浩樹のクラスだったのか! こんな格好を見られちまうとは……これからどんな顔して、浩樹と話せばいいんだ!)
「えー、みんなも気づいていると思うが、今日から滝田紗希が、小笠原寛和さんに──うちのクラスの小笠原の父親だな。滝田紗希が、小笠原寛和さんの立場になることが決まった。逆に小笠原寛和さんが、滝田紗希の立場を引き継ぐことになった」
古賀が淡々と話していく。すると、教室中の空気が変化した。先程まで寛和に向けられていた困惑や疑念が、あっさりと溶けていく。生徒たちの間に安堵が広がっていった。
「なんだぁ、だから紗希の席にいたのね」
「ほら、やっぱり紗希じゃん」
「いや、紗希は紗希だけど、昨日の紗希とはちょっと違うじゃん」
「おーい、まだ話は終わってないぞー」
騒ぎ出した生徒を、古賀がたしなめた。教室の喧騒が落ち着いたところで、再び話し始めた。
「小笠原さんは今まで男性として生きてきたから、女の子としての学生生活に色々と戸惑いがあると思う。みんなも出来る限り、滝田としての学生生活を支えてやってくれ。特に、小笠原──ああ、昨日まで寛和さんだった方じゃないです。小笠原浩樹の方。昨日まで自分の父親だったんだから、しっかり滝田のことを見てやるんだぞ」
「うっす」
浩樹が返事をしたが、寛和は恥ずかしさで浩樹の方を見ることは出来なかった。朝礼は終わり、教室は一時限目の準備をする生徒たちの喧騒が戻ってきた。前の席に居た女子生徒が、寛和の方を振り向いた。
「もう、紗希がいきなりオジサンになってたから、びっくりしたじゃん。先に教えてよねー」
「えっとその……君は?」
「あっ、ごめん。私は折原夏美。紗希とは水泳部で、結構仲いいの。新しい紗希もよろしくね」
「あー……その、君はこれが変だと思わないのか? いきなり俺みたいな男が、滝田紗希になったって言われても、俺には何がなんだか、わからないんだが」
「うーん……まあ、そういうこともあるんじゃない? っていうか。なんて言えばいいかな。引っ越しとかで学校が替わるようなもの? だと思うんだけど。そんなに変なことかな?」
「引っ越しは変じゃないと思うが……俺の場合は、それと違うんじゃないか?」
「おーい、滝田」
聞き慣れた声に、寛和はドキッとした。席に座っている寛和を、浩樹が見下ろしていた。浩樹は濃い眉を歪めて、口を開いた。
「これ、滝田から借りてた古文のノート。親父が新しい滝田になったんだから、こっちに返せばいいんだよな? サンキュ」
「えっとその……浩樹。浩樹は俺のこと、変だと思わないのか? 父さんがこんな、その……女子高生になった、なんて周りから言われて」
寛和が期待を込めて尋ねた。息子の浩樹ならば、この異常事態を正しく認識してくれるのではないかと。しかし浩樹は、恥ずかしさで顔を真っ赤にして答えた。まるで……異性に下の名前を呼ばれた時のように。
「おまっ……こういう場所で、下の名前で呼ぶなよな。ったく……もう親父じゃなくて、クラスメイトだろ。その辺、もうちょい気をつけろよな」
浩樹は足早に立ち去ってしまった。夏美の方を見ると、ニヤニヤとしている。
「もーっ、紗希ったらやるじゃん! もう下の名前で呼び合ってる感じなの?」
「えっ、折原さん。どういう意味なんだ?」
「あ、夏美って呼んで。あのね……紗希と小笠原は、付き合ってるの」
※
そして、三ヶ月が経過した。その間に立場だけでなく、生理現象も入れ替わっていった。それは女性の生理周期に呼応するように進行していた。
一ヶ月目の生理は、いきなり精液が亀頭から溢れてきた。女性の生理を、強引に男の肉体で再現したかのように。母親から生理用品の使い方を教わり、寛和は溢れてくる精液を処理した。強い快感と倦怠感が数日続いた後、寛和の肉体にわずかに変化が訪れた。
「なんかこう……最近、髭の伸びが遅くなっているよな」
生理が終わった数日後。寛和は父親から借りた電動シェーバーで髭を剃ろうと、洗面所に立ったところで気づいた。最近は髭剃りのペースが毎日ではなく、2日に一回か、あるいは3日で一回程度で済んでいる。ほとんど髭が伸びないのだ。それに、鏡に映る寛和の顔は、以前と印象が違っていた。中年男特有の脂の照りがあった肌に、瑞々しさがある。とはいえ、元々顎の角張った厳つい顔立ちである寛和では、髭が薄くなって肌が瑞々しくなった程度では、その男臭さを打ち消すほどではなかった。
「んっ……」
乳首がムズムズした。最近は乳首が腫れぼったくなっている。生理のあとから、オナニーのときに、乳首を弄る癖が寛和に出来ていた。そのせいで乳首が痒いのだろうかと、寛和は思案した。そのときは、自身の肉体の変化を、それほど深刻に考えていなかった。
二ヶ月目の生理も精液が溢れてきたが、以前よりも精液が薄いように感じた。生理が終わると、寛和の肉体に明らかな変化があった。
「乳首が、かなりぼってりしてきたな……女みたいだ」
寛和の乳首が、桜色の乳頭に変わっていた。男の大胸筋ではなく、明らかに女の乳房を思わせる脂肪の付き具合になっている。胸毛は相変わらず生えているためむさ苦しいが、Aカップ程度はあるだろう。寛和は風呂場で、喘ぎ声を押し殺しながら乳房を弄っていた。左手で乳房を揉みながら、右手でチンポを扱く。寛和のチンポは太く猛々しいモノであるが、それが生えている寛和自身の肉体には、ムチッとした脂肪が付き始めていた。胸だけでなく、腕や太腿、尻──週末にジム通いで体型を維持してきた逞しい男の肉体が、全体に脂肪で丸みを帯びてきている。体臭も変化し、中年男の加齢臭ではなく、女子高生の甘やかな香りを放つようになっていた。男らしい肉体を維持しようと、寛和は学校から帰った後に腕立て伏せをしているが、次第に筋力が落ちているのか、以前よりも回数が少なくなってきていた。
「ンッ、はぁん……!」
寛和は肩を震わせて射精した。以前よりも男性機能が衰えてきており、一日に一回射精するのが精一杯だった。量が少なくなった精液が、ぼとぼとと浴室の床に落ちた。
三ヶ月目の生理は、かなり水っぽい精液が溢れてきた。そして寛和の肉体の変化は、さらに進行した。
※
「また胸が大きくなってる……」
立場交換から三ヶ月目。12月現在。女子水泳部の部活を終えた寛和は、女子更衣室で着替えながら、溜め息を吐いた。今の寛和は男というよりも「骨太な女」という印象になっていた。髭はとっくに生えなくなっていたし、まつ毛が伸び、唇がぷるんと肉感的で女性的な印象になっている。鼻っ柱の太い獅子鼻が、ほんの少し小ぶりになっていた。肩幅は広く、裾野の広い乳房だが、Bカップ程度はあるだろう。チンポは太さはそのままだが、すっかり短くなってしまっており、元は勃起時に21cmはあった巨根が、今は勃起しても5cm程度しかなかった。その分、皮がかなり余って包茎になってしまっている。寛和が自分の肉体を改めて確認していると、紗希の友人の夏美が声を掛けてきた。
「紗希、結構タイム縮んできたじゃん」
「きゃっ、夏美! ごめん、ちょっと待って!」
「んもう、なに隠してるのよ。女同士だしいいじゃん」
「でも……」
「紗希は気にしすぎだって。そりゃ、こないだまでオジサンだったから、色々気になるんだろうけど」
「……うん。ありがと、夏美。最近また体つきが変わってきたから……ちょっと確かめていたの」
立場交換で寛和が紗希になってしまってからというもの、夏美は何かと親身になってくれていた。立場交換の直後、あまりの環境の変化に寛和が戸惑い、夏美の家に遊びに行った際に泣いてしまったときも、落ち着くまで辛抱強く話を聞いてくれた。夏美は優しげに微笑んだ。
「そういえば……確か紗希、前はCカップはあったよね。今の紗希も、そのくらいまでは胸が大きくなるんじゃない?」
「えっ、もっと大きくなっちゃうの?! 私、オジサンだったのに……恥ずかしいよぉ!」
(くっ、こういう女の子言葉になるのも、やっぱり恥ずかしいな……)
寛和は顔を真っ赤にして俯いた。近頃では男言葉を使うと、背筋がむず痒くなるような違和感があるので、家や学校では女言葉で喋っている。しかし寛和の意識は男のままなので、それはそれで別の恥ずかしさを感じていた。寛和は男として生きてきた記憶と人格を持っているが、しかし彼の脳に浮かぶのは、滝田紗希としての感情や価値観である。小笠原寛和としての男の人格に、滝田紗希としての感情や価値観が反映され、出力された結果が──現在の寛和の振る舞いである。
寛和は野球中継ではなく、イケメン俳優の出演するドラマを好んで観るようになり、仕事の後に同僚と居酒屋に行っていた感覚で、部活後に友人たちとファーストフード店や喫茶店で駄弁るようになった……滝田紗希が好んでいたものを、寛和も好むようになってきている。それは当然、異性の好みについても同じだった。
※
「で、小笠原とはどうなのよ。紗希」
「もう……夏美ったら。前にも言ったじゃん。私、9月まで浩樹くんのお父さんだったんだよ? 付き合うとか考えられないよー」
部活を終えた寛和は、学校の最寄り駅の駅ビル内にあるカフェに移動し、タピオカミルクティーを飲みながら、夏美に相談していた。制服のスカートからは、骨太な足が見えている。体質が変わりつつあるせいで、体毛は薄くなっているが、それでも女性の足にしては明らかに太いため、男の足だとすぐにわかる。寛和は椅子の上で内股になると、スカートを伸ばして足を隠した。
(浩樹……今日も教室で喋ったけど、格好よかったな……)
喉仏が目立たなくなってきた寛和の喉を、タピオカがぬるりと滑り落ちていく。自身のアイデンティティが、日に日に女子高生のモノに上書きされていく。寛和は口では否定しているが、しかし実際のところ、浩樹と付き合うことに対しては、かなりの魅力を感じるようになりつつあった。寛和が抵抗しているのは、わずかに残った父親としてのプライドである。しかしそれも、寛和の脳に湧き上がる滝田紗希としての恋愛感情の前では、無駄な抵抗と言わざるを得ない。事実、寛和は浩樹のことを考えただけで、頬が熱くなるのを感じた。
「でもさー、今はもう紗希になっちゃったんだし、別によくない? 前の紗希みたいに、付き合っちゃえばいいのに」
「はううっ! 夏美ったらやめてよー」
(親友の夏美にそんな風に言われたら、俺……浩樹と付き合いたくなっちゃうだろ!)
寛和は太い脚をバタバタさせながら抗議した。夏美がクスクスと笑う。夏美が寛和のことを心配しているのは確かだが、しかし夏美はこの中年男が、自分の親友である滝田紗希になっていく様子を見守っている、といった方が実情に近いだろう。駅ビルの3階にある窓際のカウンター席からは、駅前広場がよく見えた。日は既に沈んでおり、イルミネーションで彩られた駅前広場を、サラリーマンや学生たちが足早に通り過ぎていく。中には恋人同士なのか、イルミネーションの側で寄り添い合っている者たちもいた。その様子を眺めていると、寛和の唇が勝手に動いた。
「まあ、最近はそうでもなくて。夏美にだけ言うけど……」
(わーっ! わーッ! 言うな言うな! 俺!)
寛和はボソボソと喋り始めた。寛和自身は「自分の本音を喋りたくない」と思っているのだが、滝田紗希の感情として「親友に自分の本音を打ち明けたい」という思いが強い。そのため、浩樹のことをどう思っているのか、自分でも衝動的に打ち明けていた。
「私、浩樹くんのお父さんだった頃のことも、ちゃんと覚えているんだ。私が寛和っていう男の人で、浩樹くんのお母さんと結婚して……浩樹くんが産まれて。小さい頃の浩樹くんがすごく可愛かったことも、おねしょをよくしてたことも覚えてるんだけど」
「うんうん」
(あーっ、クソっ。こうなったら全部喋っちまえ!)
寛和は髭の生えなくなった角張った顔を赤らめ、話し続けた。
「全部思い出せるんだけど、最近はその……寛和っていうオジサンが私になったんじゃなくて……私が、前は寛和っていうオジサンだっただけっていうか……前に夏美が言ってたみたいに、転校して学校が替わっただけ、みたいな感じがしちゃうのよね」
「あー、そう言えばそんなこと話したかも。私は立場が替わったことないし、当てずっぽうだったんだけどさ」
「まあ、私も最初は『俺は男だ。小笠原寛和だ』って思ってたんだけど、だんだんそうは思えなくなってきて。なんかこう……前の学校ではちょっとキャラ違ってて、男っぽくしてました、みたいな? でも今の学校ではイメチェンしちゃったし、今さら前みたいなキャラには戻れない……って感じ?」
「なるほどね。じゃあ、別に小笠原のお父さんに戻りたいとは、今は思ってないってこと?」
「うーん……まあ……まだ私の中にも、オジサンっぽい気持ちが残ってるから、ちょっと迷うけど……でも、私。浩樹くんのこと、もう息子としては見れないと思う」
(だって俺、もう浩樹のことが……)
「やっぱり私──浩樹くんのこと、好きだから。父親としてじゃなくて……女の子として」
寛和はそう言うと、残っていたミルクティーを一口飲んだ。
※
寛和が女子高生になってから初めての冬休みは、穏やかに過ぎて行った。
夏美に気持ちを吐き出してからというもの、寛和は自分の中で「男」に固執していた気持ちが急速に薄れていくのを感じていた。実際、再びやってきた生理によって、さらに自分の肉体が変化したことも、落ち着いて受け入れた。
「はう〜……もうすっかり女の子になっちゃった」
生理が終わった次の日の朝、寛和は喉をさすった。喉仏はほとんど引っ込んでしまった。寸胴だった腰にはくびれがあり、乳房がさらに膨らんでいる。本来の紗希と同じ大きさである、Cカップまで成長した。ブラジャーは肉体の変化に応じて、最初からそうであったかのようにサイズが変わっているため、特にいつもどおりに付ける事が出来た。そして寛和はまだ気づいていないが、睾丸の男性機能は完全に逆転し、精液ではなく愛液を作り出すようになっていた。
「でもなんか……こっちの方が、しっくりくる感じなのよね」
眠っている間に寛和のアイデンティティも、静かに変化を終えていた。以前夏美に話していた、「小笠原寛和が滝田紗希になったのではなく、滝田紗希の過去が小笠原寛和だった」という感覚が、完全に寛和の意識に馴染んだ。今の彼が自分の名前を問われれば、迷いなく滝田紗希の名前を答えるし、男としての記憶を思い出そうとすれば、初心な女子高生のように顔を真っ赤にしてしまうだろう。実際、それを自覚してしまう機会は、年末に訪れた。
※
「やあ、紗希ちゃん。元気そうでよかった」
彼女、いや、彼と言うべきだろうか──「新しい小笠原寛和」は、白いポロシャツとチノパンという休日のお父さんといった格好で、寛和を出迎えた。
冬休みの宿題の勉強会をするために、寛和は浩樹の家にやってきていた。そこで「新しい小笠原寛和」と出くわしたのだ。彼とはこれまでにも何度か、顔を合わせていた。その度に、彼も新しい立場に合わせて、体質が男のモノと入れ替わってきていた。三ヶ月前まで女子高生だった彼の顔には、髭の剃り跡があり、肌も中年男の脂の照りがあった。表情筋も発達し、顔つきがだいぶ精悍になってきている。思春期の女の子の乳房は、引き締まった男の胸板になっている。男にしては、やけにデカい乳首がポロシャツに浮かんでいたが。彼は営業マンらしく短髪に刈り込んであり、髪を伸ばしている寛和とは対照的だった。
「あらからもう三ヶ月も経つのか……なんだか変な感じだよな? 俺がこの間までは、君だったなんて」
「はい。えっと……寛和おじさま。私もこの家のお父さんだったなんて、なんだか不思議な気持ちになっちゃって」
「だよなぁ。そうだ。今日は家で晩御飯を食べていくといい。随分久しぶりなんじゃないか? 由紀江も──妻も喜ぶよ」
「いえ! その……私が由紀江おばさまと顔を合わせると、その……私が寛和おじさまだったときのこと、色々思い出しちゃって、ちょっと照れ臭くて」
(やだ……私が浩樹くんのお母さんを口説いてたときのこと、思い出しちゃうよ……!)
寛和は、はにかみながらそう言った。すっかり滝田紗希のアイデンティティに塗り替えられてしまった寛和は、男としての記憶を思い出しても、それに対して滝田紗希としての感情しか浮かんでこない。妻とのデートやセックスを思い出すと……処女のはずの自分が、男として妻を抱いたという記憶に、寛和は猛烈な恥ずかしさを覚えて悶えてしまうのだった。「新しい小笠原寛和」も、その辺りを色々と察したようで、バツが悪そうに頭を掻いた。
「おっとその……スマン。俺もその、風呂上がりに浩樹と顔を合わせると変な気分になるから、よくわかるよ。紗希ちゃんの好きなようにするといい。俺も由紀江も、いつでも歓迎するよ」
「はい。ありがとうございます」
「さて……浩樹が待っているんじゃないか? 俺みたいなオジサンには構っていないで、浩樹と仲良くしてやってくれ。俺はこれで退散するよ」
そう言い残すと、新しい寛和はダイニングに引っ込んでいった。寛和はその後ろ姿を複雑な気持ちで見つめていたが、階段へと一歩を踏み出した。
「どうしたんだ? 紗希」
浩樹が階段の上から、紗希を呼んでいた。二人きりのときは、互いに下の名前で呼び合うようになっている。寛和はにっこりと微笑んで口を開いた。
「ううん。なんでもないの、浩樹くん」
浩樹の部屋に入る。父親だった頃に入ったこともあるが、思春期の男の子の体臭が、今の寛和には強く感じられた。一応、今日は勉強会という名目で集まっていたが、問題集を解いている間に、何度も視線が浩樹と絡み合う。寛和が着ている私服のベージュ色のスカートと、黒いタイツの内側で……短小包茎になってしまった男性器が、次第に固くなり始めた。
「紗希……好きだ……」
「浩樹くん……」
いつの間にか、互いの顔が近づき合う。チュッ、と互いに唇が触れ合う。寛和はうっとりと眼を閉じた。父親だった頃は、息子に言い寄られてこんなに幸福を感じてしまうなんて、想像もしたことがなかった。浩樹は寛和の厚みのある肉体を抱きしめると、ベッドの上に押し倒した。寛和は息も絶え絶えに尋ねた。すっかり心も女の子になってしまった寛和にとって、どうしても確認しておきたい事柄だった。
「いいの? 浩樹くん……私、三ヶ月前までは、浩樹くんのお父さんだったんだよ?」
「それはそうなんだけどさ……こんなに可愛い女子が、俺の親父だったって考えると……すげえ興奮しちまうんだよな」
浩樹の浅黒い顔には、興奮の色があった。浩樹自身も、寛和が自分の父親だったことを認識しながら、寛和を魅力的な異性としか考えることが出来なくなっている。父親と息子から、彼女と彼氏の関係になってしまった二人は、次第にキスだけでは物足りなくなってきており、浩樹は寛和の服を脱がせ始めた。
「んっ……浩樹くんに見られるの、恥ずかしいな……私の身体、ちょっとゴツゴツしてるし」
寛和は顔を赤らめた。肉付きは女のそれになったが、骨格は相変わらず骨太で、ゴツい。ムッチリとした女の乳房になってしまった、元ラガーマンの胸板がさらけ出される。浩樹は鼻息を荒げ、寛和のゴツい手に自分の手を重ねた。
「うおぉ……風呂上がりに親父の身体、見てたはずなのに……いや、すげえ可愛いよ……紗希。もっとよく見せて」
「はうう……恥ずかしいよぉ」
低いバリトンだった寛和の声は高くなり、アルト程度になっている。寛和は太い声音で、悶えるような声を漏らした。浩樹が野球部の豆だらけの手で、寛和のCカップの乳房に触れた。薄桃色になった乳頭を指先で愛撫する。寛和は肩を震わせた。
「あっ、だめ……」
「紗希って、肩幅も広いし、けっこうゴツい感じなんだけど……なんかそれが、女の子っぽい感じにも見えちゃうんだよな。不思議なんだけど……立場が変わったせいなのかな」
服を抜いだ浩樹と、ベッドの上で肉体を重ね合う。勃起した浩樹のチンポは、寛和のモノよりもデカい。短小包茎になってしまった寛和のチンポと重ね合うと、ぐりっと互いのチンポを擦りつけあった。
「あんっ!」
「うおっ!」
父子から恋人同士になった二人の男が、上擦った声を漏らす。寛和は亀頭に鈍い痛みを感じた。それは処女であった紗希の処女喪失の痛みを、寛和の肉体が再現したものであったが、しかし実際に亀頭に処女膜があるわけではないので、痛みは少し経つと引いていった。浩樹は寛和の様子を伺いながらゆっくりと……そして次第に、リズミカルに腰を振っていった。野球部員の引き締まった腰が動き、脂肪がついて丸みを帯びた中年男の腰が、悶えるように動く。挿入していないにも関わらず、寛和は自身の身体の内側に浩樹のモノが入り込み、動き回っているように感じた。
「ふーっ……! んんっ! ウオッ!」
「あっあっ、浩樹くんっ……!」
浩樹が低い声を漏らして射精するのと共に、寛和もオルガスムスを感じ──機能の逆転した睾丸で作られた愛液が、どぷどぷと短小包茎から溢れ出すのを、恍惚と感じていた。
「気持ちよかったね……」
「ああ……俺、親父が紗希になってくれて、よかった。なんかすげえ、俺のことを全部……わかってくれてるっていうか。前の紗希よりも、安心する」
「私も……浩樹くんのお父さんから、彼女になれてよかった。お父さんのままだったら、浩樹くんと付き合えなかったもん」
寛和と浩樹は、互いに唇を重ね合った。寛和は二度目の初恋、二度目の初体験を味わい──もう二度と、男に戻りたいと、彼が考えることはなかった。
※
「やるじゃん、紗希」
数日後。冬休み中の水泳部の練習が終わった後、カフェに寄った寛和は、夏美に先日のことを話していた。さすがにカフェの中であるし、過激なところはぼかしていたが、それでも親友である夏美は色々と察したのか、父親から彼女になった寛和の大胆な振る舞いに、感心しているようだった。
「そろそろ帰ろっか」
すっかり話し込んで遅くなってきたので、家に帰ることにした。寛和と夏美は駅で電車に乗り込み──夏美がいつも手前の駅で降りるのだが、今日はそのまま紗希と同じ駅まで一緒に乗ってきた。
「どうしたの? 夏美」
「ああ、うん。私も立場替わるみたいでさー。さっき見たら、通知が来てたの」
夏美はスマホの画面を見せてきた。そこには「親友の父親」と立場が替わる旨が書いてあった。二人は顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「もう、夏美ったら。早く言ってよー。今日から私のお父さんじゃん」
「ごめんごめん。ほんとにさっきだったから、言う暇なかったんだって」
寛和は安堵を感じていた。親友の夏美が、自分の父親になってくれる──そのことが、嬉しくてたまらない。
(うふふ。夏美が私のパパになるなんて……今日は最高の日だわ!)
紗希の自宅に帰ると、年末の休みで家に居た父親が、困惑した声を漏らしていた。髪の生え際の後退した、髭の剃り跡の濃い父親の顔は興奮で赤らみ、大声を出す度にビール腹が揺れていた。
「ど、どういうことなんだ!? 今日から俺が俺じゃなくなって……紗希の友達になるなんて!」
「んもう。落ち着いて、あなた。紗希もこのあいだ、新しい紗希になったじゃない。今度はあなたが新しくなるだけよ」
紗希の父親は、かつての寛和同様、この事態を異常だと認識しているようだった。しかし紗希の母親は、相変わらずそれを異常だとは認識していない。そして寛和ももう、それを異常だとは思わなくなってしまっていた。
「もう、パパったら。私が、小笠原くんのお父さんから紗希になったときは、普通にしてたじゃない」
「い、いや……よく考えたら、それもおかしいぞ! お前! 俺の娘は、こんなオヤジじゃない!」
「パパ……」
「あなた……」
寛和と紗希の母親は、怒鳴り散らす父親を、優しげな眼で見つめていた。今は戸惑っているが、すぐに自分の立場がわかるだろう。寛和は、隣りにいる夏美に声を掛けた。
「それじゃ夏美、お願いね」
「オッケー! それじゃおじさん、私と立場を替えよっか」
「い、いやだ! 俺は女には……はううっ!」
夏美が紗希の父親の手を握ると、二人の姿が一瞬ぼやけ……次の瞬間には、二人の服が入れ替わっていた。紗希の父親は、夏美が着ていたセーラー服を着ており、脛毛の濃い足がスカートの下からにょっきりと出ている。夏美は先ほどまで紗希の父親が着ていたワイシャツとスラックスを穿いていた。
「ち、違うぞ。俺は……折原夏美で……あれ?」
紗希の父親は、芽生えたばかりの新しいアイデンティティに、戸惑っていた。寛和は父親の手を取ると、母親と夏美に対して声を掛けた。
「それじゃ私、夏美と部屋で話してくるね」
「ええ、夏美ちゃん。ゆっくりしていってね。晩ごはん食べていってもいいのよ」
「私はシャワー浴びよっかな。ちょっと汗臭いのよね」
寛和は、紗希の部屋に入るとドアを閉めた。紗希の父親はキョロキョロと辺りを見回し……自分のでっぷりしたビール腹を見つめて、悲鳴を上げた。
「うおっ! なんで俺、こんな腹してるんだ?! 俺は水泳部で、もっと引き締まった……あれ?」
「だって夏美、さっきまで私のパパだったじゃん」
「あっ……! そういえばそうだ! 俺は男だ!」
その一言で、ようやく紗希の父親は、自分が男だったことを思い出したようだった。寛和は挙動不審な紗希の父親を、優しく抱きしめた。
「大丈夫。パパもすぐに……『夏美』になるよ。私もよその家のオジサンだったけど『紗希』になれたし」
「い、いやだ! 止めてくれ! お前は俺の娘じゃない! 俺の親友だろう! ん? あれっ?!」
「もう、夏美ったら……」
寛和は唇を尖らせた。紗希の父親は、新しいアイデンティティですっかり混乱しているようだ。どうやら親友のために、ひと肌脱ぐ必要があるだろう。生理が起きるようになれば、否応なく体質や精神の変化も進んでいくのだが──しかし体感として、射精する度に男としての要素が抜け落ちていくことも、寛和は実感として知っていた。寛和は、紗希の父親の中年太りした身体を、紗希のベッドに押し倒した。
「あ? えっ……」
「大丈夫だからね。夏美」
セーラー服を抜いでいく寛和。ぶるんと女の子のようになった乳房が揺れる。紗希の父親は男として反射的に、寛和の乳房に眼が釘付けになった。寛和は紗希の父親に馬乗りになりながら、囁いた。
「私がパパを──『夏美』にしてあげる」
「あっ、やめ……!」
そして、セーラー服の下にある、紗希の父親の毛むくじゃらな下半身に手を伸ばした。元々太短いチンポを、リズミカルに扱いていく。紗希の父親は、泣きそうな声を上げながら悶えている。紗希の父親は、寛和を他人として認識しているが、同時に自分の娘のようにも感じているし、さらに今度は親友としても感じている。ぐちゃぐちゃになった認識に脳の処理が追いつかず、ろくに抵抗することが出来なくなっていた。
「あっあっ、あうっ!」
紗希の父親が野太い声を漏らすと、ブビュルル、と濃い精液が噴き上がり、セーラー服の内側を汚した。ガニ股になった毛深い足が、ヒクヒクと痙攣している。寛和はこれから親友になっていく中年男が、射精の余韻で震えているのを見て、すっかり女顔になった顔に笑みを浮かべた。
「まだまだ。これからたっぷり……夏美の中から、余分な『パパ』を出してあげるね」
「ンッ! んあぁ〜ッ!?」
寛和は、射精したばかりの紗希の父親のチンポと、自分のチンポを擦り合い始めた。紗希の父親の毛深い太腿と、寛和のすっかり毛の薄くなった太腿が、悶えるように絡み合う。寛和は父親の金玉の中が空になり、チンポが空打ちするまで、徹底的に愛撫を続けた。5回も射精させられた紗希の父親は快感のあまり、ベッドの上でぐったりとしている。精液でビール腹やセーラー服が汚れているが、髭の剃り跡の濃かった顔立ちが、以前よりも薄くなっているようだった。脂ぎっていた肌が瑞々しいものになりつつあり、胸はまだ男の胸板だが、しかし男にしては乳首が肥大気味になっている。
「パパが夏美になるの、楽しみだなぁ……」
寛和はうっとりと呟いた。男が徐々に少女の立場に、精神に染め上げられ、変えられていく快楽──寛和はそれを充分に知っていた。寛和は紗希の父親の精液でヌルついた指先で、自身の乳房を愛撫し始めた。広い肩幅が、ビクッと震えた。
「ああん……ダメ……私、浩樹くんのお父さんだったのに、こんな……ンッ、浩樹くん……」
寛和は浩樹の名前を小さく呼びながら、浩樹の父親として暮らしていた日々を思い出し、性的な倒錯感を高め──オルガスムスに達した。小学生並の粗チンになったチンポから、愛液が溢れ、紗希のベッドのシーツを汚した。
(終)
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今回は立場交換です。父親が息子と立場交換するのもいいけど、息子の彼女になって、息子と交際しちゃうのもいいよね!という話。最初に書いたときは寛和が、周囲と自分の認識差に恐怖を覚えて、教室で泣き出してしまったので、もうちょっとマイルドに書き直しました。「狂気に飲み込まれないように踏ん張っているけど、やがて狂気に飲み込まれて、快楽に溺れていく」という話が大好きなので、寛和にもそのような道を辿って貰いました。
くろねこ@9605
2020-01-14 13:09:22 +0000 UTCくろねこ@9605
2020-01-14 13:05:55 +0000 UTC羊谷 日辻(ひつじたにひつじ)
2020-01-13 19:06:51 +0000 UTC黒竜Leo
2020-01-13 17:12:16 +0000 UTC