NokiMo
くろねこ@9605
くろねこ@9605

fanbox


オタクと体育会系の立場が逆転【未完成】

「デュフフ……これで完璧ですぞ」  ッターン!とエンターキーを押す。入力フォームは全て埋めた。キモヲタの名を欲しいままにして18年。部員一名のパソコン研究会の部室の中で、僕の荒い鼻息が響いていた。  この型落ちしたノートパソコンを見つけたのは、つい昨日のことだ。パソコン室の片隅、雑多なジャンク品の山の中から、なぜか昨日に限ってそのパソコンが眼を引いた。それを起動した僕は、好奇心のままに中身を確かめていった。中に入っていたソフトはたった一つ。「koukan」と半角ローマ字で付けられた適当な見た目のアイコンをダブルクリックすると、画面には幾つもの入力フォームが現れた。右と左、二つで一つの入力フォームの列が、ずらっと下まで延々と続いている。 「左右の欄に入力した事柄は、その『存在』や『価値』、『社会的立場』などを交換されます。何を交換するか選んでから『交換』のボタンをクリックすれば、一瞬で交換されます」 「交換の影響などを詳細に設定することも可能です。その場合は『詳細に設定してから交換』のボタンをクリックして下さい」 「自分の肉体や精神を他人と交換することも可能ですが、その場合はこのソフトに関する記憶を相手に渡さないよう設定することを、強く推奨します。初期設定では、この設定は有効になっています」 「社会への影響を最小限にするために『交換結果の常識化』を推奨します。初期設定では、この設定は有効になっています」  …………わお。もちろん試したね。僕の肥え太った両胸を、クラスのマドンナ、佐伯恋歌ちゃんと交換してその揉み心地を試したり、短小包茎のチンポを、精力の強そうな体育教師と交換して、デカマラを扱き上げたり。その結果、このパソコンが本物であることを確信し、とうとう僕は決意した。世の中を作り変える。僕のような肥え太ったキモヲタがちやほやされ、クラスの中心にいる脳筋の体育会系どもが底辺に堕ちる世界。その新世界は、あと一回エンターキーを押すだけでやってくる。 ・「オタク」と「体育会系」の「社会的立場」を交換 ・「肥満」と「マッチョ」の「性的魅力」を交換  ただ交換しただけでは、僕が単にマッチョになって終わってしまう。それではつまらない。小中高と運動の出来ない僕をあざ笑うかのように輝く体育会系のマッチョたちには、僕と同じ苦しみを、そのままの姿で味わってもらおう。 「ポチッとな」  画面に一瞬だけノイズが走り、異常な世界が正常になった。 ※  パソコンを通学用のリュックに入れると、教室へ向かった。朝のホームルームには十分に間に合う。廊下の向こうから、一際大きな男がやってくるのが見えた。ラグビー部員の芝田剛平だ。角ばった顎や日に焼けた逞しい体躯、意志の強そうな男前といった風貌で教師からの受けは良かったが、僕に対する目線は冷たいものがあった。自身の鍛えあげられた肉体に対する絶対的な自信は裏を返せば、ぶくぶくと肥満しきった弛んだ肉体への軽蔑であった。 「──つうかお前が、自己管理のできないデブだから悪いんだよ。そんな臭いナリで学校来んなよな」  班分けで僕と一緒の班になった女子が泣いてしまった時に、芝田から言われた言葉は忘れない。けどまあ、もう許してあげてもいいと思う。だってその立場を味わうのは、芝田の方なのだから。俺に気づくと、芝田は学ランに収めた巨躯を縮こませ、ビクッと怯えたような表情になった。そして、どこか卑屈な笑みを浮かべると、振り絞るような声で挨拶をしてきた。 「お、おはよう……」  僕は笑い転げたいのを必死にこらえながら、挨拶を返した。前は僕のことなんかそこにいないもののように扱っていた芝田が、媚と恐れを持って僕に接してくる。立場の逆転した僕がにっこりと笑顔を浮かべてあげると、芝田はその屈強な顔に安堵の表情を浮かべた。  二人で教室に入ると、反応は極端に分かれた。芝田が自分の席に座ると、隣の席の女子が露骨に嫌な顔をして机を引き離したのに対し、僕が自分の席に座ると、隣の席の女子が元気よく挨拶をしてきた。クラスの派手なギャル枠、森宮さんだ。 「あっ☆キモチンおはよー!ねえねえ、こないだの話、考えてくれたぁ?」 「こないだの話?」 「んもう、合コンの話じゃん」  キモチン、とは「キモヲタちんぽ野郎」の略で、中学の頃いじめられて無理やり教室でちんぽを露出させられて以来、男女問わず僕の蔑称として使われていたのだが(もちろん奥手な女子はこの蔑称すら嫌がった)この世界ではむしろ親愛の情を込められて呼ばれているようだった。森宮さんが、前の世界では絶対に僕にしなかったであろう、女子力全開の媚び媚びな調子で続ける。 「そりゃあ、キモチンぐらいカッコ良かったらぁ、女の子には不自由しないだろうけどぉ。ウチのオナ中でも、キモチンファンの子多いしぃ……つーかお願い!ウチの顔を立てると思って、一回だけでも出てくんない!会費はウチが持つからぁ!」  手を合わせ、必死に頼み込んでくる森宮さん。前の世界では「は?」「ウザい」「つーか喋んないでくれる?」の三つしか会話パターンがなかったことを考えると、驚きの変化だ。僕がもったいぶって答えを惜しんでいると、ふと視線を感じた。芝田が、うらやましいものを見るかのように、チラチラとこちらを見ていた。 「うっわ……芝田がこっち見てるし。つーかありえなくね?あの筋肉。マジでキモいんですけど」  僕に対する口調とは違い、冷たく切り捨てる森宮さん。前の世界では芝田に彼女が出来て悔しがっていたのに、完全に蔑視の対象になっているようだ。森宮さんがひそひそと僕に耳打ちしてきた。 「つーか芝田、ラグビーやってるらしいってホントなの?」 「さあ……」 「マジでないよねー……犯罪者みたいなもんじゃん。こないだもスポーツやってる男が子ども誘拐して捕まってたでしょ」  この世界ではオタク=健全な人間であり、体育会系=犯罪者予備軍なのだ。実際、この改変で学校からは運動系の部活が消滅(もちろん、スポーツなどという不健全な行為を学校でするわけにはいかないから)し、体育の授業も座学のみ、男女の体の仕組みや病気の予防、ジェンダー論が中心になった。プロスポーツもオリンピックもなくなり、前の世界の同人活動のように、少数派のスポーツ愛好家たちがやっているようだ。 (未完) ──────────  オタクと体育会系の立場を極端に逆転してみたんですけれど、今ひとつ僕の中でしっくりこなくて、ボツになった小説です。ノンケ主人公が体育会系マッチョに優しく接することで、自分が好かれていると勘違いした体育会系マッチョが、もじもじと告白してくる──という展開になる予定だったのですが……うーん、こういう世界全体を想像する作品は、なかなか書ききる難易度が高いですね。これに関しては、おそらく続きを書くことはないかな……? と思ったので、今回は日の目を見る機会を設けさせて頂きました。

オタクと体育会系の立場が逆転【未完成】

Comments

もっとソフトの効果をエッチな感じにすればよかったかな?と書いた後で思いました。こういう自由なソフトって、自由すぎて書くのが難しいですね

くろねこ@9605

素晴らしいソフトだ! 僕なら世界中にガチムチな人が満ちて行くのだろう

黒竜Leo


Related Creators