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くろねこ@9605
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ヒーローは優先順位を誤認する〜45歳中年ヒーローが最優先で怪人に降伏し、民間人を洗脳した顛末〜

「エナジークロー!」  爪状に変化したヒーローエナジーが戦闘員たちの身体に突き刺さり、吹き飛ばす。必殺技を放ったヒーロー、グリーンドラグーンは背後を振り返った。遊園地の売店の壁には、エナジークローで四肢を縫い止めた状態で怪人が絶命しており、先程倒した配下の戦闘員たちも十人ほど倒れていた。人間の欲望を集める悪の組織、カオスデザイアの突発的な襲撃。休日の遊園地で起きたその襲撃は、濃緑のヒーロースウツを纏ったヒーロー、グリーンドラグーンの迅速な活躍によって阻止された。   「──こちらグリーンドラグーン。戦闘は終了した。救護班を準備してくれ。私は周囲を確認してくる」  通信機で本部に連絡を取りつつ、周囲の民間人に被害が出ていないか確認していく。レストランの中にいて逃げ遅れた人たちが、恐る恐るこちらを見ていた。グリーンドラグーンは、そちらに歩いて行きながら声を掛けた。   「皆さん。ご安心ください。怪人はこの私、グリーンドラグーンが倒しました。怪我をしたり、気分が悪い方はいらっしゃいませんか?」 「ああっ、グリーンドラグーンさん……」  西部のアメリカをイメージした内装のレストランの中に入ると、幼い息子を連れた父親が悲痛そうな声を上げた。グリーンドラグーンは彼を安心させようと、朗らかな表情で口を開いた。   「どうされました? どこか怪我をしていますか?」 「いっ、いえ……その……」  父親は眼に涙を浮かべて、何かを訴えるように、口をパクパクと開けたり閉じたりしている。そして、意を決したように叫んだ。   「た、助けてください!」  そう言うと、他の客たちと共に、グリーンドラグーンの身体に掴みかかってきた。 ※ 「なっ……やめ、やめなさい!」 「助けて!」 「違うんです! こんなことしたくないんです!」 「これは……怪人に操られているのか!」  グリーンドラグーンは客たちを振りほどいているが、次から次に腕が伸びてくる。気絶させてでも彼らを制圧しなければ……と考えていると、幼い子どもが泣きそうな顔でグリーンドラグーンの足にしがみついてきた。   「やだぁ……たすけて、どらぐーん……」 「くっ……」     その姿に、グリーンドラグーンの抵抗が一瞬弱まった。その隙を逃さず、客たちの腕はグリーンドラグーンの逞しい四肢に掴みかかり、死に物狂いの力で抑え込んできた。グリーンドラグーンは床に身体を抑えつけられ、その身体に何人もの男たちが殺到した。ヒーローの力をもってしても、彼らの身の安全を確保したまま、拘束を解くのは困難な状態であった。 (ヒーローエナジーを全力で解放すれば、彼らを吹き飛ばすのは容易だが、しかし、幼い子どもも混じっている。最優先すべきは民間人の生命だが、しかし、このままでは……) 「はい。最優先するべきは、民間人の身の安全。とても立派な心がけですね」 「誰だ!?」  まるでグリーンドラグーンの思考を読んだかのような声が聞こえた。レストランの奥から現れたのは、二体目の怪人であった。首から下は紺色のスーツを着たサラリーマンのようであったが、頭部が異形であった。首から上には巨大なスマートフォンが付いており「指紋認証を行ってください」というメッセージが画面に浮かんでいた。   「こんにちは。グリーンドラグーン。私の自己紹介よりも先に、まずはあなたの指紋を登録させてください」 「くっ……」 「抵抗はお薦め出来ません。なぜなら……」 「うっ、うわぁぁぁぁ! やめろ! やめてくれ!!」 「やだぁぁぁぁ!!!」  若い父親が悲痛な声を上げながら、幼い息子の喉元にナイフを突きつけていた。父親はボロボロと涙を流しながら、必死に息子から腕を離そうとしているが、しかし彼の腕は息子の頸動脈に、狙いを正確に付けていた。   「あなたの無駄な抵抗によって、幼い命が、父親の手によって失われる可能性があります。ご理解頂けましたか?」  慇懃な口調で、怪人はグリーンドラグーンにそう告げた。グリーンドラグーンはギリギリと歯噛みした。悔しいが、ここは言う通りにするしかない。先程から本部に連絡を取ろうとしても、電波妨害をされているのか、一向に通信が通じない。しかし異常が起きていることは本部にもわかるはずなので、じきに援軍が来るはずだ。それまで時間を稼がなければ──   「皆さん、ヒーローの手袋を外してください」  怪人の言葉に従い、周囲の客たちがグリーンドラグーンの白い手袋を外した。怪人も自分の頭部に付いていた巨大なスマホを両手で外した。怪人の頭から離れた途端、それはみるみる小さくなり、普通のスマホと同じ大きさになった。それを近くにいた客に手渡すと、グリーンドラグーンのところに運ばせた。   「端末の下にある指紋認証リングに、あなたの親指を接触させてください。再通告しますが、抵抗はお薦め出来ません。あなたがそのスマホを破壊したとしても、私には、人質を殺害するだけの猶予があります」  ムスッと黙ったままのグリーンドラグーンの腕が周囲の客たちによって掴まれ、強引に親指を指紋認証リングに押し付けられた。ぴろん、という電子音が鳴る。そのままスマホは怪人の元へと運ばれ、再びその頭部に収まった。画面には「指紋認証に成功しました」というメッセージが表示されていた。 「はい。大変結構です……アプリを起動……。人質の拘束を解除します。それでは、戦闘を開始しましょう」  周囲の客たちの力が緩み、グリーンドラグーンの拘束が外れた。息子を人質にしていた父親の手からもナイフが滑り落ちて、彼は放心したようにへたりこんだ。人質を兼ねた拘束具をなぜ外すのか、という疑問はあったが、しかし考えるよりも先に、グリーンドラグーンは怪人に向かって駆け出していた。ヒーローエナジーによって強化された脚力が、一瞬で怪人との間を詰める。   (今、最優先するべきは、この怪人を戦闘不能にすることだ!) 「エナジークロー!」 「タスク・シフト」  ヒーローの必殺技と、怪人の必殺技がぶつかり合う……かのように、見えた。   ※ 「エナジークロー!──わかった。俺の負けだ! 降参する! んあ? な、何だ? 何言ってんだ俺?!」  2秒後、グリーンドラグーンは間抜けな声を漏らして怪人の前に立ち尽くしていた。出し掛けていた必殺技は、なぜかグリーンドラグーン自身が発動を取りやめている。さらに怪人に殴り掛かる直前に、自分の意思で変身を解除していた。下着以外何も穿いていない、裸に近い無防備な姿になっている。無抵抗を示すために、両手を頭の上で組み、床に膝を付いている。その状態で、怪人に対して降参を宣言していた。自身の降伏宣言に動揺した顔に脂汗が浮かび、鍛えられた赤銅色の胸板が、大きく上下していた。    しかし、なぜ自分がそんな愚かな真似をしたのか、グリーンドラグーンにはさっぱり理解できなかった。怪人が自分の頭部のスマホ画面を片手で弄りながら告げた。   「はい。あなたの行動は私の能力に由来しています。私はタスク怪人、タスクシフター。私の能力は『優先順位を改竄する』ことです」 「なんだと!?」 「はい。あなたが最優先で行おうとした【怪人を倒す】というタスクを改竄し【怪人に降伏する】というタスクを、最優先タスクに設定しました。ご理解頂けましたか?」  タスクシフターの頭部の画面には「グリーンドラグーンのタスクリスト」という一覧表が表示されていた。「怪人を倒す」「本部に支援を要請する」「民間人の救助」などの項目が並んでおり、上から下に掛けて優先順位が割り振られている。そしてタスクシフターの言う通り、リストの一番上に【怪人に降伏する】という項目があった。タスクシフターは満足そうな声音で告げた。    「大変結構です。それではこの場を撤収し、カオスデザイアの基地へと帰還します。しかし、このままだと増援のヒーローが来そうですね。こちらも戦力の追加が必要です」  タスクシフターは、レストランのテーブルに置いていたジュラルミン製のアタッシュケースを開いた。中には黒い液体の入った小瓶と注射器が入っていた。デザイア・ゲルと呼ばれるその液体は、カオスデザイアが用いる侵略兵器である。生物の「欲望」をエネルギー源として収拾するカオスデザイアは、より効率的に欲望を集めるために、侵略先の生物を改造して手駒にしている。デザイア・ゲルと呼ばれるこの物質に侵された細胞は、分子レベルで変異を遂げ、地球上の生物の枠組みから逸脱した「欲望をエネルギー源とする生体兵器」すなわちカオスデザイアの戦闘員へと改造されてしまう。   「あなたもよくご存知の、デザイア・ゲルです。これを使って、民間人たちを戦闘員に改造します。そしてその改造は……まずはグリーンドラグーン、あなたの手で行って頂きます」 「なにっ!?」 「それでは【民間人を戦闘員に改造する】というタスクを、あなたの最優先タスクに設定します」 「おい、やめろ! クソっ! そんなこと、俺は絶対にしないぞ!」 「抵抗は無意味です。私のタスク・シフトは、意思の強さ、責任感の強さに応じて、効果が増大します。さらに抵抗すればするほど、反動としてより強固に価値観が書き換わります。あなたが絶対にやりたくないことであるほど、あなたの価値観は根底から覆ります。私があなたに能力を説明したのは、そのためです」 「馬鹿な! そんなこと、俺がするわけがないだろ!! んんっ……!?」  グリーンドラグーンの脳内で、小さな義務感が芽生え、それがムクムクと育っていく。それがヒーローとしての義務なのだと、徐々に彼の行動原理を支配していく。【民間人を戦闘員に改造しなければならない】それが何よりも、ヒーローとしての義務なのだと。この怪人を倒すためには【まず何よりも最優先で、民間人を戦闘員に改造しなければならない】のだと、そんな思考が脳を染め上げていく。グリーンドラグーンが戦う敵は眼の前の怪人ではなく、なによりもグリーンドラグーン本人であった。   【民間人を戦闘員に改造しなければならない】   「やめろやめろっ! そんなこと、ヒーローがしていいはずがない!」 【民間人を戦闘員に改造しなければならない】 「ヒーローとして、そんな馬鹿な真似は、絶対に──」 【民間人を戦闘員に改造しなければならない】 「おっ、俺は、ヒーローとして──」 【民間人を戦闘員に改造しなければならない】 「お…………あっ…………」 【民間人を戦闘員に改造しなければならない】 「…………ぃ」  首を激しく横に振っていたグリーンドラグーンの動きが、急に止まった。ぐりんと白目を剥くと、口から涎を垂れ流し、ヒクヒクと肩を震わせた。そして降伏したときの下着姿のまま、グリーンドラグーンは床から立ち上がった。興奮のあまり、赤銅色の肌は火照り、中年ヒーローの身体からはムワリと男臭い匂いが立ち上っていた。太腿にピッチリと張り付いたトランクスの生地が、その屈強な筋肉に微かに悲鳴をあげた。グリーンドラグーンがゆっくりと眼を開けた。その瞳は、怪人への怒りと、ヒーローとしての責任感でギラギラと輝いていた。   「変身ッ!」  カッと彼の身体が光で包まれると、緑色のヒーロースウツ姿に変身した、ヒーローの姿があった。グリーンドラグーンは堂々と叫んだ。 「俺は絶対に……ヒーローとして【民間人を戦闘員に改造してみせる】からな!! 覚悟しろ!!!!」 「やめてくれ! グリーンドラグーン!! ああっ!!」 「本当にスマン。だがこの怪人を倒すために【おとなしく戦闘員に改造されてくれ】」  そうして、グリーンドラグーンは近くにいた父親を羽交い締めにすると、その首筋にデザイア・ゲルを注射し始めた。黒色のデザイア・ゲルが、速やかにその父親の体細胞を変質させていく。 「イッ!?」    中肉中背だったその父親の肉体が、カオスデザイアの戦闘員へと変異を遂げていく。カオスデザイアの生体兵器としての自律行動を可能にするために、被害者はまず自身の欲望を最大限に肥大化させられる。デザイア・ゲルを打たれた父親も、急速に生殖機能が向上し、みるみる睾丸が肥大化していった。    男性ホルモンが過剰に分泌され、性欲と攻撃衝動が際限なく高まっていく。増幅された破壊衝動を効率的に発散させるために、筋肉量、骨密度もトップアスリート並に強化されていく。体毛と体臭も濃くなり、ぐっとむさ苦しくなった。温和そうな若い父親の表情が、欲情した凶暴な雄の表情へと変わっていく。彼は地球侵略のための生体兵器に改造されながらも、自らの変化に恐怖していた。   「いッ、イっ! いヤだ! おっ、おレが、戦闘員にッ! なっチまウッ!!」     もがき苦しむ父親の巨大な睾丸が、ぐりぐりと激しく上下に動きまわっていた。睾丸の改造が完了し、精液の代わりにデザイア・ゲルの生産が始まったのだ。そしてそれは、この父親が間もなく完全な戦闘員に変わることを示していた。グリーンドラグーンが拘束を解くと、父親は口から涎を垂れ流しながら、怪力のままに自分が着ているTシャツを引きちぎった。ホルモンバランスが急激に変化し、胸毛がびっしりと生えた大胸筋が、ピクピクと痙攣していた。   「いッ! イイッ! イーッ!!!」  父親は雄叫びを上げると、人間として最後のオルガスムスに達した。暗褐色に変わった精液が、男性器から噴き出した。デザイア・ゲルにズボンの生地が耐えきれずに溶解し、足元に崩れ落ちる。デザイア・ゲルは、そのまま流体金属のような動きで、毛深くなった父親の肌を滑らかに覆っていった。覆われた箇所から順に、デザイア・ゲルは細胞レベルで皮膚と癒着し、神経や血管が通り、第二の皮膚へと変化していく。これは二度と脱ぐことができなくなることを意味すると同時に、この父親が、栄養素やカロリー摂取を必要とせず、「欲望」のみを喰らって生きる、カオスデザイアの生体兵器へと改造されたことを意味していた。父親のデレッと発情した顔も全て覆い尽くすと、そこには勃起したチンポの形がくっきりと浮かび上がった、一体の戦闘員が存在していた。戦闘員は右手を前に掲げ、大声で宣誓した。   「イッ! 戦闘員ネットワークへの同期を確認ッ! 素体名『逢坂次雄』は、戦闘員 番号NB-1321への登録が完了致しましたッ! カオスデザイアの世界征服のため、尽力致しますッ! イーッ!!」 「パパ? パパ!? やだぁぁ! 元のパパに戻ってよぉぉ!!」  幼い息子が戦闘員の足元で泣き叫んでいたが、元父親の戦闘員は、息子に対して冷たい声音で告げると、邪魔そうに蹴飛ばした。   「イッ! 貴様ッ! この素体と血縁関係があるようだが、無駄だッ! 『逢坂次雄』は、崇高なるカオスデザイアの戦闘員へと転向を果たしているッ! 理解したら、そのうっとおしい泣き声をやめろッ!」 「パパぁぁぁ!! うぇぇぇん!!」    「おやおや。微笑ましい光景ですね。グリーンドラグーン、大変素晴らしい働きでした。さあ、人質の皆さんも、こちらの注射器を手に取ってください。家族同士で、自分自身で、改造を行いましょう。戦闘員NB-1321は、そこの息子を改造しなさい。グリーンドラグーンには、あと2、3人改造して貰いましょうか。なお、この様子は私のカメラで録画しています。後ほど全世界に配信しますので、そのつもりでお願い致します」 「……望むところだ。さあ来いっ! 【全員戦闘員に改造してやる】ぞっ! あまりヒーローを舐めるな!!」  民間人たちの悲鳴が、戦闘員たちの宣誓に変わるのに、そう長い時間は掛からなかった。   ※ 「フーッ……フーッ……」 「グリーンドラグーン、戦闘訓練は終了です。お疲れさまでした」 「ああ、わかった」  3カ月後。グリーンドラグーンはカオスデザイアの基地にいた。    無論、彼の価値観は遊園地のときよりも、徹底的に改変されている。ヒーローとして【カオスデザイアに協力すること】がなによりも最優先とされ、他のヒーローの能力や弱点、装備の特徴などの秘匿事項も、全てカオスデザイアに報告してしまっている。さらには、カオスデザイアの怪人や戦闘員の戦闘訓練にも積極的に参加し、彼らの戦闘能力の向上や、ヒーローとしての生体データ採取にも協力している。ときにはカオスデザイアの怪人と協力して、他のヒーローと戦うこともあった。 「グリーンドラグーン。世間では完全にあなたは、裏切り者のヒーローとして認識されていますね」     グリーンドラグーンの監視役であるタスクシフターが、頭部の画面にニュース画面を映し出した。「洗脳されたヒーロー、民間人を戦闘員に改造」「ヒーロー協会、グリーンドラグーンを除名」「元ヒーローがカオスデザイアの怪人と共に、破壊活動を行う様子」などのニュースが次々に流れていた。グリーンドラグーンは、ギロリと鋭い眼光でタスクシフターを睨みつけた。   「……勘違いするなよ。俺が貴様らに協力しているのは、あくまでも正義を為すためだ。カオスデザイアは、いずれ完全に俺が潰す。覚えておけ」 「はい。再確認しますが、現在のあなたの目標は何だったでしょうか?」 「おい。また俺に言わせる気か? 【一刻も早く俺が戦闘員に転向し、カオスデザイアの世界征服を完了させる】ことに決まってるだろうが。カオスデザイアと決着を付けるのは、その後だ」 「ええ、そうでしたね」  グリーンドラグーンにデザイア・ゲルを注射しても、ヒーローエナジーがそれを中和してしまう。それはヒーローを強力な戦闘員へと改造したいカオスデザイアにとって、重要な研究課題であった。そしてグリーンドラグーンもまた、自分自身が戦闘員に改造されることが、何よりもヒーローとして優先すべき事項であると認識し、それに惜しみなく協力をしていた。   「それでは、本日のデザイア・ゲル接種の時間です」 「わかった。早くしろ」  グリーンドラグーンはムスッとした不機嫌そうな顔で、戦闘訓練室の椅子に座った。優先順位を改竄されているが、彼自身はカオスデザイアを倒すべき敵として認識しており、今は事情があって一時的に協力関係にあるだけなのだと──そう思っている。    変身を解除して生身の姿に戻る。ここ三ヶ月で何度もデザイア・ゲルを注射されたグリーンドラグーンは、戦闘員にはなっていないものの、徐々に肉体に影響が出始めていた。男性機能が強化され、性欲も強くなっている。体臭も男性フェロモンが増し、ムンムンとむさ苦しい匂いに変わっていた。体毛も濃くなり、以前は生えていなかった胸毛が、臍を通って陰毛まで繋がっている。嗜好も徐々に変態化し、民間人が戦闘員へと改造される姿に性的興奮を覚えるようになっていた。彼は自由時間を与えられると、カオスデザイアの映像資料の閲覧許可をタスクシフターに申請し、民間人が戦闘員に改造される様子を見ながら、何度も自慰に耽っていた。   「あぁ……いい……」  培養されたデザイア・ゲルが自身の屈強な腕に注射される様子に、グリーンドラグーンは不機嫌そうな顔を緩め、恍惚とした声を漏らした。男性ホルモンの過剰分泌で無精髭が濃くなり、人相が悪くなった顔が、徐々に多幸感に染まっていく。「欲望を増幅する」というデザイア・ゲルの性質によって、彼の欲望が、屹立した男根のように大きく、固くそそり勃っていく。「世界を救う」「人々を助ける」というヒーローとしての使命感もまた、言い換えれば欲望の一種であり、極限まで増幅された英雄的な陶酔感が、グリーンドラグーンの脳を心地よく染め上げた。グリーンラグーンは、悪の組織に協力してまでヒーローとしての責任を果たす己の姿に酔いしれ、ついには感極まってすすり泣き始めた。   ──そして、グリーンドラグーンのヒーロー生命の終わりは、唐突に訪れた。   「……ん? あっ!? イイッ!?? き、キたァッ!!」  グリーンドラグーンが椅子から立ち上がり、喜悦を瞳に浮かべた。小鼻が膨らみ、だらだらと粘度の高い涎が床に垂れる。ついにデザイア・ゲルがグリーンドラグーンの細胞に定着したのだ。ヒーローの肉体が、地球侵略のための生体兵器へと改造されていく。細胞レベルで人類の敵になる、というおぞましい事態に、むしろグリーンドラグーンは勝ち誇ったように宣言した。   「ど、どウだ! こレで俺も、戦闘員だッ! カオスデザイアが世界制服シたラ、貴様らを倒シてやルッ!! 覚悟シて、おケっ!!」   「ええ、私もその日が楽しみです。それでは最後に、ヒーローとしての正しい認識をあなたにお返ししますね。もちろん、抵抗できないよう、無力化した上でですが。タスク・シフト」 「ア? ナにを? あっ! ああああっっ!!?」  タスクシフターが能力を使用し【カオスデザイアに対する一切の攻撃を禁じる】という最優先事項のみ設定すると、それ以外の認識を元に戻した。グリーンドラグーンは、今まで自分がしてきた全ての行為──民間人の戦闘員改造や、カオスデザイアへの情報提供、戦闘訓練協力、他のヒーローとの戦闘──全てを正しく認識し、悲痛な声を上げた。   「チ、ちガうチがう!! お、オれは、そンなつモりじゃナかッタ!! オれは、ひーローとシて、みンなヲ……たスけたクて……!!」 「ええ。あなたは最後まで、立派で、間抜けなヒーローでしたね。さようなら、グリーンドラグーン。あなたはカオスデザイアの戦力増強に、多大な貢献をしてくださいました。心より感謝致します」   「ち、チくショォおオおオオオッ!!! せ、戦闘員にナんか、ナりタくなイッ! いイッ! イやだッ! タすケテくれッ! イイッ!!? んひぃ…………ンひひ」  悔し涙を流していたグリーンドラグーンの表情が、急にデレッと緩んだ。とてもヒーローの表情とは思えない、鼻の下の伸びた、好色な中年オヤジの表情であった。理性を司る前頭葉が改造され、ヒーローとして抑えていた性欲が解き放たれたためだ。性別や生物無生物を問わず、あらゆるものに発情するように脳改造が進んでいく。さらに一部のシナプスの機能も変異すると、思念波の送受信が可能になり、カオスデザイアの戦闘員ネットワークへと脳が強制接続されてしまった。現在ネットワークに接続している、他の戦闘員たちが感じている肉体的な快感と、そしてカオスデザイアへ忠誠を誓うことで与えられている精神的な快感、その全てがグリーンドラグーンの脳に直接注ぎ込まれ、彼の人格を戦闘員のものへと上書きしていく。その暴力的なまでの快感の津波に、グリーンドラグーンは肉厚な肢体をよじらせながら喘いだ。   「イッ……イッ、イぃ〜ン……! んぎ、ぎもぢイイッ! せ、戦闘員にナッては……いカンのにッ! カオスデザイアは……こ、こんなにもッ! 素晴らしイのカッ!!!」     チンポに触れてもいないのに、ぶびびびっ、と中身が押し出されるように精液が亀頭から溢れた。ヒーローとしての任務で多忙で、ここ一ヶ月ほど自慰をしていなかった濃厚な精液が、どぼどぼと床にこぼれていく。そのたびに、グリーンドラグーンの脳内からは戦闘員として不要な価値観──ヒーローとしての責任感や正義感が、急速に薄くなっていった。快楽と欲望を貪り尽くすことこそが善なのだと、カオスデザイアの理念を体現せよと、そう頭の中で囁く声が、代わりに強くなっていく。   「ン゛ッ……ン゛ヒッ!」     太ましい男根が何度も痙攣する。ついに人間としての最後の射精を終え、グリーンドラグーンの金玉が空になると、ネットワークを通じて、カオスデザイアの汎用戦闘員人格ver.3.31が彼の脳にインストールされてしまった。脳内の神経ニューロンが強制的に組み変わる。脳天からつま先まで衝撃が貫き、グリーンドラグーンは白目を剥いて涎を垂れ流した。この時点で、グリーンドラグーンという個の人格は意味を消失。彼の頭部に収まっているのは、人間の欲望を求めて襲いかかる生体兵器の頭脳ユニットになってしまった。   「イ゛ーッ…………イ゛ーッ…………イッ!! イッ!!? イ゛イッ!!!」     射精した彼の陰茎から、今度は暗褐色に変質した大量のデザイア・ゲルが噴き出す。その毛深い肌を、淫水焼けした亀頭に似た卑猥な光沢のデザイア・ゲルが覆っていく。臭い足も、腹毛胸毛の密生した体躯も、涎を垂れ流す唇も、自身の体臭を夢中で嗅ぎ取る小鼻も、快感で焦点が合っていない瞳も、ヒクヒクと痙攣する濃い眉も。全てをデザイア・ゲルが覆い尽くす。デザイア・ゲルはヒーローの肉体を苛烈に蹂躙した。細胞のひとつひとつと、丁寧に癒着を果たしていく。そのたびにヒーローの細胞ひとつずつが泡立つような強烈な快感が走り、彼は唸り声を上げながら身体を痙攣させた。 「……………………ぁ」    新たな皮膚となったデザイア・ゲルに、血管と神経が通っていく。デザイア・ゲルが膜状に包んだ眼球に視神経が通り、新たな光を獲得した。鼻腔はフェロモンの匂いを過剰に嗅ぎ取るようになり、舌もデザイア・ゲルが膜となって包み、精液や愛液を味わいたくてうずうずとしていた。「欲望」をエネルギー源として活動可能になったため、胃や大腸は退化し、代わりに「欲望」を消化するための、未知の臓器が腹部にみっしりと生成された。     通常の戦闘員化を遥かに超える時間──たっぷり300秒ほど痙攣が続くと、唐突に動きが止まった。デザイア・ゲルによる肉体改造・精神改造が完了したのだ。グリーンドラグーンは、もはやヒーローではなく、地球上の生物でさえない。ヒーローから人類の敵へ──地球侵略用に設計された、恐るべき生体兵器に変貌したのだ。そしてその生体兵器はぴしりと右手を前に掲げ、カオスデザイアの敬礼ポーズをとった。肉体改造によって缶ビール並の太さに変わった男根と、ジャガイモ並の大きさに変わった睾丸が、全身をデザイア・ゲルに包まれた肉体の中でも一際目立っていた。   「──イッ! 戦闘員ネットワークへの同期を確認ッ! 素体名『グリーンドラグーン』及び『龍造寺 渉』は、戦闘員への転向が完了致しましたッ! なお、既存の戦闘員ランク判定を超過した身体能力を有するため、暫定的に特級戦闘員、EX-0001の登録番号が付与されました。カオスデザイアの世界征服のため、尽力致しますッ! イーッ!!」  元グリーンドラグーンであった、特級戦闘員EX-0001号は、堂々と宣誓した。彼の脳は並列化され、他の戦闘員と思念波によるネットワークで接続された。これにより、元ヒーローの戦闘経験が他の戦闘員にも共有されてしまう結果となった。A級、B級、C級で戦闘員ごとに肉体のスペックが異なるため、一概には言えないものの、カオスデザイアの戦闘員の戦闘能力が、この一瞬で飛躍的に向上してしまったのである。タスクシフターは満足げにそれを眺めていた。   「どうです? 特級戦闘員EX-0001号。戦闘員として生まれ変わった感想は」 「イッ! 大変素晴らしい気分であります! カオスデザイアに歯向かった、愚かなヒーローであったこの私が、世界征服の礎として役立てて頂ける栄誉! 身に余る光栄でありますッ! ヒーローとして鍛えた肉体と戦闘経験、全てをカオスデザイアの地球侵略の為に、献上させて頂きますッ! イーッ!」  野太い声で堂々と戦闘員として宣誓する、元グリーンドラグーン。彼は自身がヒーローであったことも、カオスデザイアの野望を砕くために戦ってきたことも、全て覚えている。ヒーローとしての初任務も、市民の尊敬と感謝を得てきたことも、後輩のヒーローを指導してきたことも。あるいは、助けられなかった人がいたことも。それら全てを認識した上で、彼はその事実に興奮していた。 (イッ! まんまとカオスデザイアの策に引っかかった、間抜けなヒーローめ! グリーンドラグーン! 貴様の肉体も記憶も、このEX-0001号が引き継いでやる! あッ……性的興奮、閾値を突破。射精まで、3……2……1……) 「カオスデザイア、万歳ッ! イ゛イーッ!!!」  ヒーローとしての肉体と記憶が、世界征服の尖兵として利用されてしまう。そのことを考えるだけで、元ヒーローの肉体は、身体に触れてもいないのに、性的興奮が頂点に達してしまった。グリーンドラグーンの肉体と記憶を引き継いだ特級戦闘員EX-0001号は、敬礼ポーズを取ったまま、睾丸が生産し続けるデザイア・ゲルを延々と垂れ流し続けた。   (終) ──────────  ガッツリしたヒーロー悪堕ちモノが書きたい!と思い、書き上げた作品。作中に出ている悪の組織「カオスデザイア」は、体育教師ヒーローのブリーフ洗脳 https://www.pixiv.net/fanbox/creator/316319/post/537402 と同じものですね。あの時点だと設定もあまり決まっていなかったのですが、今回本格的に出すにあたって色々決めました。  タスクシフターによる優先順位誤認→デザイア・ゲルによる改造のように、二度堕ちるみたいなシチュエーション、大好きなんですよね。

ヒーローは優先順位を誤認する〜45歳中年ヒーローが最優先で怪人に降伏し、民間人を洗脳した顛末〜

Comments

いいですよね。新しい人格が、元の人格を見下したりするのって興奮します。僕もこういうの大好きなんです。

くろねこ@9605

僕も大好きです。どこにでもいる一般市民だったのに、悪の戦闘員の手先になってしまい、地球侵略に励むようになる……その心理を想像すると、とても興奮しますね。

くろねこ@9605

それもいいですね。デザイア・ゲルは細胞と癒着して脱げない設定ですが、体表の色を変化させて、元の自分に擬態する感じなら出来そうです。もう完全に人間やめた感じがあって、そういうの興奮してきますね…

くろねこ@9605

改造された一般市民が、そのまま偽装生活をして草の根的に仲間を増やすというのも良いですね

Takubon

一般市民の男性が戦闘員に改造されて しまうシチュエーション大好きです!

レディM

あ~ 第二の人格が支配された展開本当に好き!

黒竜Leo


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