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くろねこ@9605
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東京MC紀行〜六本木編〜

 火傷しそうなほど熱を孕んだアスファルトの上で、クマバチが死んでいた。その死骸には、小さな蟻が黒い塊のように群がっていた。   「さすがに来年オリンピックやるのは、無理なんじゃない?」  地面から眼を離し、空を仰ぐ。都心のビルよりも遥かに高くそびえ立つ入道雲。ギラギラと熱線のように降り注ぐ太陽。粘性を持ったかのように纏わりつく空気。僕は呆れ混じりに、この夏の暑さを呪った。こんな天気で屋外スポーツなど、自殺行為だろう。    六本木の国立新美術館で目当ての展覧会を観た後、すぐ近くにある東京ミッドタウンでかき氷を食べて帰る予定だったのだが、僅かな距離とは言え、夏はジリジリと僕の体力を奪っていた。今まで持っていなかったが、さすがに帽子を買うべきだろうか。そんなことを考えながら、どうにか東京ミッドタウンまでたどり着くと、エアコンの冷気で人心地ついた。吹き抜けのロビーを通り抜けて、目当ての甘味処、獅子屋茶寮へ向かう。    獅子屋茶寮は、平日の夕方だと言うのにかなり並んでいた。有名な甘味処であり、一杯で千円以上するかき氷が毎年人気だ。中年のおばさまたちが団子のように連なって並んでいる。僕がスマホを片手にきょろきょろしていると、列の前の方に並んでいる男がこちらに手を振った。 「お〜い! ユキノブくん。こっちこっち」  日焼けして体格のいいサラリーマンだった。ストライプ柄のワイシャツは、分厚い胸板や僧帽筋をぴっちりと包み込んでいるが、長袖は腕まくりをしており、浅黒く太い腕を晒していた。腕まくりをするくらいなら、最初から半袖のワイシャツを着ればいいと思うのだが、そこは彼なりにこだわりがあるのだろう。自身の逞しい肉体が、他人にどのような印象を与えるのか、この男は自覚と自信がある──彼の彫りの深い日焼けした顔には、そんな自意識が微かに漂っていた。      この男の名前は澤畠浩史。年齢は46歳。先日、僕が洗脳能力で「奴隷」へと変えた男だ。仕事が終わり次第、並んでおくように事前に連絡しておいたのだ。   「浩史おじさん。仕事は大丈夫なんですか?」  僕も何気ない調子で応えると、彼と一緒に並んだ。近くにあった店の待合名簿を見ると、しっかりと「サワハタ 大人2名」と書いてあり、そろそろ呼ばれそうだった。浩史もそれを横目に見ながら答えた。   「大丈夫だって。元々、今日は外出先から直帰の予定だったし、職場にはうまく言っておくから、心配しなくていいよ。俺もここのかき氷が好きだし」     快活に笑う浩史自身には、自分が奴隷であるという自覚はない。洗脳によって浩史の価値観はかなり変貌したのだが、それを周囲に悟られぬよう、普段の浩史の人格や記憶にも僕は手を加えていた。    そのため、普段の浩史は僕を「以前から親しい親戚の子ども」だと認識している。また、浩史は洗脳によってかなりの男好きへと変わったのだが、既婚者である彼が余計なトラブルを起こさぬよう、妻一筋への愛妻家としての認識も植え付けていた。そのため、彼自身は自分をノンケだと思い込んでいる。ただ無意識下では男好きであるので、以前よりも男同士のスキンシップに抵抗はなくなっている。僕が「浩史おじさんって相変わらず筋肉すごいですね」と言って日焼けした腕をぺたぺた触ると、彼は照れ臭そうに笑いながらも、僕にされるがままになっていた。     順番が来たので店内に案内された。僕と浩史は、ここの名物である宇治金時のかき氷を注文すると、そのまま雑談を続けた。営業マンである浩史は会話の緩急を心得ており、こちらの話を傾聴しながらも相槌を適切に打ち、話題が途切れたところで質問をしてきたり、別な話題を提供したりと、僕を飽きさせないように振る舞っていた。   「でさ、そのクライアントはそれをエスカルゴだと思って食べてたんだけど、実際は食用のやつじゃなくて──おっと、来た来た」 「お待たせ致しました。宇治抹茶金時、二名さま分でございます」  目当てのかき氷が運ばれてきた。真っ先に、濃い緑が眼に入る。ひんやりと冷えた硝子皿に盛られたかき氷は、濃緑に茂る夏の山のようだ。店員が下がると、僕と浩史はさっそくそれを食べ始めた。    まずは白い氷だけの箇所を食べてみる。舌の上に乗せた氷は、すうっと雪のように溶けていった。後にはほのかな甘さだけが残った。僕は舌に残った余韻を味わいながら呟いた。   「氷自体も甘いですね……すごく上品」 「そうそう。和三盆を溶かした氷を削っているんだよ。で、濃いめの抹茶蜜がさらに掛かっていて、それがまた旨いんだよな」  今度は抹茶の蜜が掛かっている箇所を食べると、そちらは滋味深い複雑な抹茶の甘みと渋みが感じられた。サクサクと食べ進んでいくと、ねっとりとした小倉餡が隠れているのが見えた。ひとくちひとくちに幸福を感じながら、浩史とひとしきりかき氷の話題で盛り上がった。   「やっぱり夏はこれですよね。高いけどいつも食べに来ちゃう。この餡も美味しい」 「そうそう。やっぱりユキノブくんはわかってるなぁ。かき氷にこんなに金を払いたくない、って奴もいるけど、そうじゃないんだよな。ここのかき氷『だからこそ』高い値段でも食べたいんだよ」  浩史は満足げに頷いている。僕はそろそろ、本題に入ることにした。   「ところでおじさん、今日はこのあと時間あります? せっかくだから、晩御飯も一緒に食べて帰りません?」 「ああ、いいぞ。ちょっと待っててくれ。夕飯は要らないってメールしておくから……ああ、でも俺と飯に行ったことは内緒にしておけよ? ユキノブを甘やかしすぎだって、俺が叱られちまうから」 「ええ、わかっていますよ」    僕はほくそ笑んだ。浩史には僕と会っていたことを、誰にも喋らないように暗示を掛けていた。表向きは、僕と浩史は遠縁の親戚であり、以前法事か何かで話した際に意気投合した──ということになっている。   「僕の父親はしつけが厳しく、浩史が僕を甘やかすことをよく思っていない」「そのため僕と会ったことは、誰に対しても秘密にしている」──そんなもっともらしい理由を捏造した浩史は、存在しないはずの親戚の子どもを可愛がるおじさんとして、今日も振る舞っていた。 ※  東京ミッドタウンを出る頃には、日はすっかりビルの合間に沈みつつあった。街に熱気はまだ残っているが、ギラついた太陽がないだけまだマシである。浩史が角ばった顎を撫でながら、この後の行き先を思案した。   「さあて、何が食いたい?」 「何でもいいですよ。浩史おじさんのオススメってあります?」    「そうだな……ここから六本木駅の先の方に行くと、俺が行きつけの旨い天ぷら屋があってな。今夜はそこにしよう」 「いいですね」 「胡麻油にこだわった店で、揚げたての香ばしい天ぷらが絶品なんだ」 「ええ、楽しみです」  僕が念じると、浩史の脳を変質させた「蛇」がビクリと反応した。それは実体のある蛇ではなく、僕が洗脳能力に与えた形の一つだ。蛇は浩史の脳に巣食い、彼の認識や人格を全て支配下に置いていた。浩史の濃い眉根が一瞬歪んだが、彼は何事もないかのように歩き出した。僕も連れ立って歩きながら、「蛇」の目覚めを促した。   「ん……」  浩史が、微かな声を漏らした。偽装用の人格の内側から、奴隷として仕上がった人格が目覚めようとしている。3割程度目覚めさせたところで、「蛇」を介して命じた。 ──狩りの時間だ。お前の力が見たい。次に行く店で獲物を見繕い、お前が堕とせ。  僕が奴隷としての浩史に命じると、それを了承した意思が伝わってきた。そのとき、不意に浩史が振り返った。   「何か言ったか? ユキノブくん」 「いいえ、何も」  浩史は怪訝そうな顔をしていたが、彼自身の陰茎が固さを増し始めていることには、気づいていないようだった。    ※   「うわっ。すごいサクサクだ。普段食べてるのと全然違いますね」 「だろ? この衣の軽さは、揚げたてならではだよな〜。次はそうだな……ししとうと、鱧を頼んでみるか」  六本木駅にほど近い天ぷら屋「呑竜」のカウンター席で、僕と浩史は天ぷらに舌鼓を打っていた。学生では来れないような価格帯の天ぷら屋だけあって、なかなかに旨い。日本酒も飲み始めた浩史は顔が赤らみ、瞳には心地よさそうな酔いの色が浮かんでいた。傍目には天ぷらを楽しむ中年男にしか見えないが、しかしふとした瞬間に、浩史の瞳に冷たい色が浮かぶ場面がしばしばあった。他の客や店員たちに、少しずつ、しかし確実に全員に対して僅かずつ視線を送っている。客や店員の容姿を値踏みしている。主人である僕に献上する獲物として、相応しい男がいないかどうかを、じっくりと確かめている。    そしてどうやら、浩史は獲物を見つけたようだった。    浩史の視線の先にいるのは、カウンター席の端に座っているサラリーマンたちだった。30代くらいの顎髭蓄えた眼鏡の男と、その上司らしき50代のバーコード禿げの男。30代の男の方は、割と僕の好みだ。「蛇」を介してこちらの意向を伺う気配を感じたので「30代の方を堕とせ」と返事をした。    浩史は「ちょっとお手洗いに行ってくる」と告げると、席を立った。そのまま目当ての男たちの横を通り過ぎ、洗面所へと向かうところで、浩史は無意識下で「狩り」を始めた。    浩史の口から、ずるりと蛇が這い出てきた。鮮やかな緑色をしたその蛇は、浩史の肩を伝って、すれ違いざまに獲物である男の肩へと乗った。そのまま男の腕を伝って手首に巻き付くと、彼が手に持っている日本酒の盃へ向けて大きく口を開き、牙から毒液を垂らし始めた。浩史はそんな光景に目もくれないまま、洗面所へと入っていく。獲物にされた男もまた、自分の手首に蛇が巻き付いているというのに、何の反応も示さない。    飲食店の只中に突然蛇が現れたというのに、誰も何も騒がなかった。それはこの蛇が、現実に、質量を持って存在する生物ではないからだ。僕の洗脳能力に一定の形を与えた存在が、この蛇だ。それは浩史の脳を奴隷として改造した後、普段は彼の中で眠っている。しかし僕や、あるいは浩史の意思で自由に動き、こうして外に出てくる。今の動きは僕ではなく、浩史が命じた動きだった。既に浩史自身の脳は毒によって完全に変質しているため、蛇が抜け出たところで、僕の奴隷である事実が消えるわけではない。今も浩史は、洗面所の中から遠隔で蛇を操作しているはずだった。    僕はししとうの天ぷらを食べつつ、獲物にされた男の様子を静観した。男が日本酒を飲む。空想の蛇が分泌した、妄想の毒。存在しない毒は男の肉体ではなく、精神を蝕む。かつて浩史がそうされたように。獲物の男が何度か日本酒を飲んだところで、浩史が洗面所から出てきた。そして獲物である男の顔を見て、驚いたような表情を浮かべると、親しげに何度か言葉を交わした。男の方は最初こそ戸惑った様子があったが、浩史と言葉を交わすうちに、親しげな様子になった。上司らしき50代の男に、浩史のことを紹介しているようだ。浩史がこちらを見て、手招きした。僕は席を立つと、彼らの方に歩いていった。浩史が日本酒で赤らんだ顔に笑みを浮かべていた。   「ああ、ユキノブくん。ちょうど知り合いに会ってね。こちらは寺沼さんと、寺沼さんの上司の島崎さんだ。お二人にご紹介します。こちらは僕の親戚で、大学生のユキノブくんです。いやあ、本当に奇遇ですね──」  ※  あらゆる生き物は環境に適応する。それは捕食者に見つからないための保護色であったり、逆に獲物を捕らえるための身体機能の発達であったりと様々だ。    僕が浩史に与えた「蛇」もまた、例外ではない。実在しない生物である彼らもまた、宿主である奴隷たちの脳内で、環境に応じた変化を遂げる。    宿主に応じた毒。宿主の性格、性癖、生業……それらに適応した効能の毒。   「浩史の毒は『信頼』だね」  ラブホテルのソファに腰掛けた僕はそう言った。六本木はラブホテルの数こそ少ないが、デートスポットである分、価格帯の高いホテルが幾つか存在していた。ここもその一つだ。モノトーンを基調とした内装に、間接照明を使うことで落ち着いた雰囲気を出している。都心のホテルということでそこまで広いわけではないが、やや狭めなデザイナーズマンションと言っても通用しそうな、一定の高級感を醸し出すことには成功していた。    浩史はというと、寺沼をベッドの上に押し倒し、チュッと音を立てながら唇を重ね合わせていた。二人とも、夏場の汗をたっぷりと吸ったワイシャツとスラックス、蒸れた靴下を穿いたまま、互いに身体を愛撫し合っている。浩史が時折唇を離し、上から涎をつうっと垂らす。寺沼は喘ぎ声を上げながら、必死に浩史の唾液を啜っていた。  なるほど、確かに営業マンである浩史にとって「信頼」というのは必要不可欠なものだろう。さらには既婚者であり、以前は女遊びもしていた彼にとって、不倫を疑われないために妻からの「信頼」を普段から得ておくことも必要だし、不倫相手からの「信頼」を得て、秘密を守らせることも重要だ。    「蛇」が浩史に応じた毒を得たことで、彼の体質も変質していた。汗や唾液が、蛇と同じ性質の毒へと変わっていた。浩史の体臭を嗅いだ者は、彼に対する信頼が徐々に増してしまう。汗を掻きやすい夏場なら、ただ浩史と会話しているだけで、無意識下で彼への信頼を育んでしまう。営業マンとしては、チート級もいいところなスキルだろう。    ましてや「蛇」から日本酒に毒の原液を注がれた寺沼が、浩史への信頼を疑えるはずもなかった。    浩史は洗面所の中で「蛇」と感覚器を共有すると、二人の会話の中から寺沼と島崎の名前を把握。トイレから出たところで知り合いを装い、寺沼に話しかけた。「信頼」という毒を注がれた寺沼は「知り合いである」という浩史の言葉を疑うことが出来ず、上司である島崎に浩史のことを紹介した──というのが、一連の流れだった。    その後は僕も合流し、四人で会話しながら、さらに毒を注いでいった。今回の獲物ではない島崎にも毒を注ぎ「酔い過ぎて顔色が悪そうだ」という浩史の言葉を信じさせると、僕たちよりも先に帰らせた。   「毒というのは微量なら薬にもなるんだけどね。でも信頼も過剰になると『盲信』へと変わってしまうし、それは明らかに対人関係では毒だよね」 「おっしゃる通りです」  完全に奴隷としての人格になった浩史は、僕の言葉に同意した。寺沼はビクビクと身体を痙攣させ、無抵抗に、ただひたすらに浩史を盲信し続けていた。   「ああっ……ヒロちゃん……本当に、何年ぶりだろうなぁ」 「高校以来だな。あの頃も、俺の家でよくヤッてたよな。俺たちは両思いだったもんな」 「そっ、そのとおり……だ……あぁ……」  言葉こそ温かいが、浩史は、獲物を見下す冷たい眼で寺沼を見つめていた。「俺たちは幼馴染で、互いに学生の頃から愛し合っていた」という浩史の嘘を、寺沼は何の疑いもなく受け入れていた。実際には46歳である浩史と、32歳である寺沼では同じ高校の同級生になれるはずがないのだが、寺沼はそこさえも疑うことが出来なくなっていた。 「なあ、拓也」  浩史が、寺沼を下の名前で親しげに呼んだ。さらにその後に、冷徹な言葉を続けた。   「お前なら、俺のご主人様の奴隷として、上手くやっていけると思うんだ。お前も奴隷になって、俺と一緒にご主人様に仕えたいだろ?」 「もちろんだよ……ヒロちゃんと一緒に、奴隷になりたい……」  寺沼は、顎髭を蓄えた男臭い顔を、うっとりと弛緩させて呟いた。寺沼の眼鏡にも浩史の唾液が垂れ、理知的であるはずの彼の風貌を汚していた。その様子を見下ろした浩史は、冷たい声で告げた。   「ご主人様、準備が整いました。この男を献上したいのですが、宜しいでしょうか」 「いいだろう。上出来だよ、浩史」 「身に余る光栄です」  僕は手のひらから小さな「蛇」を作り出すと、それを床に落とした。「蛇」はうねうねとカーペットの上を進み、ベッドの上に伝って寺沼の口へと向かった。僕一人で堕とすときにはもっと大きな「蛇」を作る必要があるのだが、寺沼は殆ど浩史の毒によって無力化しているので、最小限の力で充分だった。    寺沼が弓なりに身体を仰け反らせ、僕の「蛇」を脳内に受け入れた。    ※   「試験は合格だ。手際もいいし、毒の性質もとても良い。気に入ったよ」 「ありがとうございます」  「蛇」が寺沼の人格や記憶を改造している間、僕は浩史に告げた。さらに言葉を続ける。   「単に資金提供用の奴隷なら、洗脳した後に蛇を抜いて、金だけ振り込ませ続けるんだけどね。でも浩史には、そのまま蛇を与えておくことにするよ。これからも君の肉体は『信頼』という毒を帯び続ける。その力を僕のために使って欲しい」 「勿論です。ご主人様に相応しい奴隷となれるよう、これからも精進して参ります」  浩史は濃い南方系の顔をほころばせ、誇らしげに微笑んだ。聞くと実家は九州の方なのだという。厳つい顔立ちであるが、笑うとどこか少年のような快活さを感じさせた。僕が浩史の頬を撫でると、夜になって伸びた無精髭がザリザリと音を立てた。浩史は気持ちよさそうに眼を閉じた。 「まあでも、やっぱり口調がちょっと堅いかな。奴隷としての自覚を保ったまま、口調だけ偽装用の人格と同じにできる?」 「ええ。わかり……わかった。ユキノブくん。これでいいか?」  浩史は、やや戸惑ったように濃い眉を歪めながらも、フランクな口調になった。はにかんだように、熱っぽい眼で僕のことを見つめながら口を開いた。 「……その、なんだか恥ずかしいな。さっきまでご主人様だったのに、こんな風にユキノブくんと話すなんて」 「楽にしてていいよ。その口調の方が『親戚のおじさんを洗脳した感』があって、むしろ僕も興奮するし。家や職場ではどう? 偽装用の人格は、上手く機能してる?」 「ああ。ユキノブくんに用意してもらった新しい俺は、ちゃんと機能しているぞ。女遊びを反省し、妻一筋の真面目な夫として振る舞っている。以前の俺は、妻とはセックスレスで、険悪ではないが冷めた関係だったのだが……『信頼』の毒になった俺の精液をぶち込んでからは、妻に対して『愛している』と言うだけで、妻は新婚の頃のように俺を求めてくる」 「おっ、よかったじゃん。娘さんとはどう?」 「こちらも上手くいっている。以前は娘から汗臭いと嫌われていたが、俺の毒にあてられた頃を見計らって『子どもの頃はお父さんと結婚したいって言ってたよな』『案外今でもそう思ってるんじゃないか?』と茶化したら、それを信じたようだ。最近はスキンシップが増えてきた。俺の汗臭い身体を嫌っていたはずなのに『結婚するならお父さんみたいな人がいい』と言って、べたべたと俺の胸板や二の腕に触れてくる始末だ。新しい俺は満更でもない気分のようだが、近親相姦に及ばないように、無意識下で娘との距離感を調整している」 「なるほどね。職場ではどう? 不倫相手との関係も精算できた?」 「職場での人間関係も良好だ。男女問わず、皆が俺に対して好意を向けてくるし、対人関係のトラブルも皆無だ。不倫相手だった職場の部下とも、円満に関係を終了させた」  奴隷の人格である浩史から、ひとしきり普段の生活を聞き取った。浩史の毒は多量に摂取すると「盲信」してしまうが、微量なら「信頼」程度であり、そこまで目立つような効果ではない。あまりにも周囲への影響が大きすぎるなら「蛇」を抜き取ってしまうのだが、先程言ったとおり、その必要はなさそうだ。   「僕との関係はどう? 親戚だという設定に、矛盾や違和感は感じていない?」 「うーん。特に感じてはいないな。遠縁の親戚程度の認識で、齟齬は出ていない。俺には娘しかいないから、ユキノブくんのことを息子のように可愛がっている──と感じている。だがまあ、ときどきユキノブくんのことを、同性として好ましく感じて……ドキッとする瞬間はあるな。新しい俺は、それが愛情だとまでは認識していないようだが」 「なるほど。自分で調整出来るかい?」 「ううむ、どうだろうな。妻とのセックスを増やすことで、性欲を抑えつつ、俺自身は異性愛者だという認識を強めようと思う。申し訳ないが、それでもユキノブくんへの好意が抑えられないようなら、俺の人格をもう一度調整して貰えないか?」 「いいよ。『浩史おじさん』は僕のものなんだから、僕が調律するのはごく当たり前のことだよ。自分の異常を申告しない道具の方が不良品だからね。その点は気にしないでいいから」 「よかった。奴隷にして貰えただけじゃなくて、俺のメンテナンスもして貰えて……とても助かるよ。ありがとうな、ユキノブくん」 「どういたしまして」  浩史は「親戚のおじさん」らしく、僕の髪をわしゃわしゃと撫でた。奴隷としては褒められた仕草ではないが、僕が求めているのが「奴隷に堕ちた親戚のおじさんらしい振る舞い」であることを理解した上での動きなので、むしろ評価が上がった。僕が求めるものをしっかりと理解している。言いなりの人形ではなく、頭の切れる奴隷の方が僕の好みだ。    横で呻き声がしたのでそちらを見ると、寺沼の意識が戻りつつあるようだった。僕はそちらを見ながら、浩史に対して言った。   「とりあえず、寺沼の初期設定をしたら今日は解散しようか。愛妻家の浩史おじさんが、朝帰りはマズいでしょ?」 「それなんだが……その、ユキノブくん。おじさんに、ご褒美をくれないか? 奴隷の分際で本当にワガママだと思うのだが……ユキノブくんと、もう一週間もセックスしていないんだ」  親戚のおじさんらしく振る舞うことを許された途端に、浩史はしっかりと僕におねだりをしてきた。精悍な目つきはとろりと潤み、僕に対する深い愛情と忠誠心を感じさせる。うーん、どうしようかな。まあ結構、浩史は頑張ったし? これからにも期待出来る人材だし? ここいらでご褒美をあげるのも、やぶさかではないし?   「じゃ、そこの寺沼に対して『僕と同じくらい愛情が湧き上がってくる』ことにしようか」 「ああっ! そんな! 俺はユキノブくんとっ……!」 「ほらほら。『発情期の犬のように発情して』『寺沼の身体を舐めるほど、愛情と興奮が高まっていく』からね。『舐める以外の性行為は禁止』はい、スタート!」  浩史は顔を真っ赤にして抑え、ヒクヒクと肩を震わせた。まあ、普通にご褒美を上げてもよかったんだけど……おねだりを要求するとか、ちょっと奴隷としては厚かましいぞ? という気持ちも僕の中にはあったので。今回はしつけ兼ごほうびということで。   「ハッ、ハッ、はひーッ! て、てらぬまっ……い、イヒ♥」  頼りがいのある親戚のおじさんとして振る舞っていた浩史の姿は、もはや型なしだった。デレッと相貌が崩れ、欲情した中年男の姿を晒している。浩史はもどかしげにスラックスとブリーフを脱ぎ捨てると、怒張したチンポをブルンブルンと揺らしながら、半ば覚醒しつつある寺沼に迫った。帰るときに面倒なので、ワイシャツのボタンを引きちぎることも禁止すると、浩史は震える手付きで寺沼のワイシャツを脱がせ、彼の裸体に夢中で舌を這わせ始めた。それだけで浩史のチンポは先走りを垂れ流し、金玉はグリグリと玉袋の中で激しく上下運動をした。  セックスに及ぶことも出来ず、ただただ男の肌を舐めて興奮を高めることしか出来ない浩史は、悩ましいほどに持て余した男性機能によって、僕の奴隷である自覚をより一層高めることだろう。 (終) ──────────  以前書いた東京MC紀行( https://www.pixiv.net/fanbox/creator/316319/post/139905 )の続編です。「蛇」によって奴隷にされた人間がどうなるかを色々考えたのですが、一定のMC能力に目覚めるようになると面白いかなと思い、この話に至りました。    主人公の意思次第では、浩史に与えた蛇が分裂して、新たな蛇を生み出す……ということも出来るのですが、それをやってしまうと収拾がつかなくなる、と主人公は考えているため、体質の変化による限定的なMC能力に留めています。    毒の種類は奴隷同士で重複することもあり「発情」や「興奮」の毒が、比較的よく出ることが多いです。浩史のように使い勝手のいい毒は、結構珍しいですね。続きを書くときにその辺りに詳しく触れるかも。    

東京MC紀行〜六本木編〜

Comments

ありがとうございます。以前ドラゴンさんから頂いた熱烈な感想も、続編を書く後押しとなりました。 偽装人格と奴隷人格の切り替え次第で、既に堕ちているのにノンケっぽく振る舞わせたりとか色々出来そうなので、続きを書くのが自分でも楽しみです。

くろねこ@9605

待ってました〜!!このシリーズほんと好きです。 奴隷にMC能力が付与されて奴隷が奴隷を堕とすっていう話が面白かったです。 浩史が拓也に唾液を垂らすところなんかも、毒を過剰に摂取させられて正常な判断を失ってしまう様が見て取れて最高に興奮しました。 個人的なことなのですが、眼鏡のキャラクターが受け付けない自分が、眼鏡に唾液がたれる描写にやられてしまいました。なんて卑猥な文章なんでしょうか。 初めて顎ヒゲ眼鏡男子萌えの気持ちがわかった気がします。新しい出会いに感謝です。

毒の設定考えるの楽しかったので、続きはいつかまた書きたいです。

くろねこ@9605

その毒、癖になりそうです...

黒竜Leo


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