「梅雨も明けて、暑くなってきているからな。部活に参加する生徒は、充分に熱中症に注意するように。以上だ」 担任としてホームルームを終えた樫村哲雄は、職員室に戻ろうとして、何気なく壁際の席にたむろしている生徒たちの方を見た。野球部の興津と他の野球部員たちが、井口という大人しい生徒の席に集まっていた。井口がスマホで野球部員の写真を撮り、それを彼らに見せると、野球部員たちはげらげらと笑っていた。 (興津たちか……あまり井口と接点がなさそうな感じだが、仲が良かったのか?) なんとなく気になった樫村は、彼らの席に立ち寄った。 「ずいぶん楽しそうだな。何してるんだ?」 「おっ、カッシーもやる? 井口が面白いアプリ入れてんすよ」 野球部の興津が、浅黒い顔に笑みを浮かべて振り返った。ちなみにカッシーというのは、樫村のあだ名である。樫村は特にあだ名で呼ばれることに抵抗がないタイプだったので、生徒たちがそう呼ぶのを許していた。 「んー? ああ、こういうのか。先生もテレビで見たことあるぞ」 樫村は、井口が差し出して来たスマホの画面を見て納得した。最近、若者の間で流行っている、写真にフィルターを掛けることが出来るアプリだ。若返りや老化をさせたり、髭や髪型を変えたり、性別を逆にしたり……。 「そうなんすけど、井口の持ってるやつ、すげー細かくフィルターがあるんすよ。俺もこのアプリ入れたいんすけど、もう配信停止になってるらしくて」 「なあ井口、さっきの画像、俺のスマホにも送ってくれよ」 「いいよ」 三人の野球部員と井口は楽しそうにやりとりしている。井口はクラスでも目立たない生徒だったので、クラスで孤立しないか樫村は心配していたのだが、これなら大丈夫そうだ。そう思い、樫村は立ち去ろうとしたのだが。 「おっ、来た来た。やっぱ俺が【坊主頭】とか、ウケるよな〜」 (ん?) 興津の言葉に違和感を覚えた樫村は、改めて興津の方を見た。【三つ編みのおさげ頭】である興津は、どこからどう見ても野球部員らしい姿だ。興津の元に井口から送られてきた画像を見ると【坊主頭の興津】の姿が映っていた。 (何か……おかしいような) 興津以外の野球部員を、樫村は順に見つめていった。北園は【ポニーテール】だし、木塚は【縦ロール】だ。彼らの持っているスマホにはそれぞれ、井口から送信されてきた【坊主頭の北園と木塚】の画像が映っている。 「なあ、おまえたち……前からそんな髪型だったか?」 違和感に耐えかねて、樫村は思わず口を出した。すると、興津たちはきょとんとしたような顔をした。 「えっ、俺は小学生の頃からずっと【三つ編みのおさげ】っすよ」 「俺は中学で野球部入った時に【ポニーテール】にしました」 「俺も中学の頃から【縦ロール】っすねー」 三人とも、口々に【以前からずっとこの髪型だった】と主張してきた。樫村も確かに、以前から彼らの髪型はそうだった気がするのだが……しかしなぜか、そう納得してしまうこと自体が、異常なことのように思えてならなかった。すると井口が、樫村に声を掛けてきた。 「たぶん、こういうアプリに樫村先生慣れてないから、加工した画像見て、変な感じがしちゃうんじゃないですか?」 「そういう問題じゃ……いや、しかし……」 「樫村先生もやってみましょうよ、アプリ」 「そうっすよ。絶対楽しいっすよ」 成り行きで、樫村もアプリで画像加工して貰うことになってしまった。 「それじゃ、撮りますねー」 「ああ、男前に撮ってくれよ」 パチリ、と音を立てて、井口が樫村の写真を撮った。井口が薄く笑っていることに、樫村は気づかなかった。 ※ 「で、どのフィルターにします?」 写真を撮り終えると、井口がスマホの画面を見せてきた。ずらりと様々なフィルター名が並んでいる。井口が画面をスワイプする度に、プレビュー画像の樫村の姿が変化した。白髪と皺が増えた姿や、童顔になった姿、二重顎の肥満体になった姿、髪型がリーゼントになった姿や、バーコード禿げになった姿…… 「そうだなー……おっ、これなんか面白いんじゃないか?」 樫村が選んだのは「黒ギャル」というフィルターだった。小さめのプレビュー画像の中の樫村は、髪を肩まで伸ばして白く脱色し、そこに小麦色の派手なギャルメイクをしていた。眉は細く整えられ、鼻や唇は小ぶりになり、肉感的な女性の印象になっていたが、女性にしては顎の辺りがややゴツい感じがした。白いアイラインの引かれた瞳にわずかに残った精悍さには、元になった樫村の面影があった。フィルターの効果は胸にまで及んでおり、樫村の白いポロシャツも、明らかに女性の乳房でむっちりと膨らんでいた。 「それじゃ、このフィルターに決定しますね」 井口が決定ボタンを押すと、「現実の姿と交換しますか?」というメッセージが画面上に現れた。井口の横で画面を見ていた樫村は、不思議に思って尋ねた。 「おい、井口。それってどういう意味──」 井口が決定ボタンを押すと、ぐりん、と樫村の脳が裏返るような感覚があった。それと同時に、樫村の姿が変化した。短髪で無精髭が生えている現実の樫村の姿と、黒ギャル化フィルターを掛けられたアプリ上の樫村の姿が、逆転する。 「んんっ?」 180cm以上あった樫村の身長が縮み、160cm程度に変わっていく。今まで見下ろしていたはずの野球部員たちを、逆に見上げるようになってしまった。変化はそれに留まらない。肩幅が広く、逆三角形の筋肉質で骨太だった樫村の体格が、肩幅が狭く華奢になっていく。XLサイズの男物のポロシャツが身体と合わなくなり、肩の部分がずれてしまった。 「あぁっ……!」 樫村は胸板に違和感を覚え、両手でポロシャツの胸元を抑えた。樫村のゴツい両手の下で、胸板に脂肪が乗り始めていた。小さかった男の乳首がムクムクと肥大化し、乳輪もデカくなると共に、胸板が脂肪で包まれて、乳房へと変貌していく。樫村の男物の白いポロシャツが、男を悩殺するような乳房でみるみる膨らんでいった。 胸を押さえている樫村の両手も変化していった。節くれ立った男の手から、ネイルを塗った華奢な女の手へ。左手の薬指に嵌めた結婚指輪が、指とサイズが合わずぶかぶかになってしまった。さらに頭部も変化し、短髪だった髪の毛が伸びると共に、白く脱色されていく。悩ましげに顰められた濃い男の眉が、細く整えられた女の眉に変わる。ゴツい男の鼻が小ぶりになり、唇がぷるんと肉感的に膨らむと、ラメ入りのグロスで覆われた。樫村は息も絶え絶えに、井口を睨みつけた。その精悍な眼つきもじわじわと変化し、やや垂れ目がちになったが、男らしい精悍な印象は、顔の他の場所に比べれば残っていた。 「い、井口ッ! これは、どういうことだっ……!」 「おっ、まだ自分の変化を認識出来てるんですね。やっぱり樫村先生、ちょっと耐性ある方だったんだ」 井口が感心した声を出した。他の野球部の三人組は、担任教師が黒ギャル化しつつあるという異常事態が眼に入らないらしく、呑気そうに樫村に話しかけてきた。 「あれ? カッシーどうしたんすか? 腹でも痛いんすか?」 「興津! 助けてくれ! 見てわからないのか!」 「無駄ですよ。彼らは変化を認識できません。まあ、変化が完了しさえすれば、樫村先生も自分の変化を認識できなくなりますよ。記憶も性格も、その姿にふさわしいものに書き換わりますからね」 「ングッ!」 悔し涙を浮かべる樫村の目元に、白いアイラインが引かれた。マスカラでまつげが盛られていく。日焼けした肌からは無精髭と髭の剃り跡が消え、こんがりとした小麦色のファンデーションが塗られていく。顔の輪郭が少し小さくなったが、角ばった顎はそのままであり、やや垢抜けない印象のギャルの顔になった。 「イ゛ッ!」 樫村は唇から涎を垂らし、ぶるりと身体を震わせた。がっしりしていたはずの男の腰もくびれ、曲線美のある腰に変わっていく。尻もぷりっとした桃尻へと変わり、サイズの合わなくなったジャージがずり落ちそうになった。手足も華奢で体毛が薄くなり、どこからどう見ても黒ギャルになったのだが、変化していない場所もあった。井口がスマホを操作しながら言った。 「この黒ギャルフィルター、あくまでも『黒ギャルっぽい見た目にする』だけで、性別は変わらないんです。なので男性に対して使うと、『黒ギャルっぽい見た目の男性』になるだけなんですよね」 外見が黒ギャル化したとはいえ、樫村はあくまでも生物学上は男性であるため、樫村の口から漏れる声は低い男のままであり、股間にはチンポと金玉がそのままぶら下がっていた。体臭も、三十路男の男臭い匂いのままだ。 だが樫村に、井口の言葉を聞く余裕はなかった。変化がいよいよ終盤に近づき、彼の脳内では【黒ギャル化した姿が、元々の自分の姿である】というように、強引に辻褄が合わせられていった。体育会系ノンケ男性として生きてきた32年間の記憶が改変され、黒ギャル風男の娘としての記憶で上書きされていく。 今までの体育の授業も、樫村は女のような豊満な乳房を晒して、水泳や柔道の授業を行っていたと記憶が書き換えられた。また、樫村はスーツを着て高級レストランで妻にプロポーズをしたのだが、その時も女のような体格に男物のスーツを着て、ギャルメイクをした状態で妻を口説いたと記憶が書き換わった。樫村は妻とのセックスでは、正常位を好んでいたはずだが、その嗜好も変化した。妻に乳首を愛撫され、吸われ、焦らされた末に騎乗位で犯されるのが、なによりもたまらなく好きであると、価値観ごと記憶が上書きされた。 「なあ井口、カッシーどうしたんだ?」 樫村の様子を心配した興津が、井口に声を掛けた。井口はにっこりと微笑んで答えた。 「大丈夫だよ。ちょっとアプリを再起動するね」 樫村の左手の薬指から結婚指輪が滑り、教室の床へと落ちた。 ※ 「で、どのフィルターにします?」 写真を撮り終えると、井口がスマホの画面を見せてきた。ずらりと様々なフィルター名が並んでいる。井口が画面をスワイプする度に、プレビュー画像の樫村の姿が変化した。白髪と皺が増えた姿や、童顔になった姿、二重顎の肥満体になった姿、髪型がリーゼントになった姿や、バーコード禿げになった姿…… 「そうだなー……おっ、これなんか面白いんじゃないか?」 樫村が選んだのは「三十代男性」というフィルターだった。小さめのプレビュー画像の中の樫村は、髪は短く刈揃えられ、無精髭を生やしていた。眉は床屋で整える程度で太く濃いものであり、鼻っ柱が太く精悍な眼つきをしていた。 「それじゃ、このフィルターに決定しますね」 井口が決定ボタンを押すと、「交換済です。現実の姿との再交換はできません」というメッセージが画面上に現れた。井口の横で画面を見ていた樫村は、不思議に思って尋ねた。 「おい、井口。それってどういう意味なんだ?」 「さあ? 海外のアプリみたいで、時々変な翻訳があるんですよ」 「そういうもんなのか」 「それじゃ、記念に先生のスマホに送っておきますね」 樫村は自分のスマホに送られてきた画像を見た。ごく普通の、三十代男性の容姿をした自分の姿。初めて見るはずの画像なのに、なぜかいつも見慣れているような気がした。 (俺って昔から体つきも女っぽいし、女顔だからなぁ) 樫村は自分の身体を見下ろした。男にしては豊満なまでの乳房と、サイズの合わない男物のポロシャツにぷっくりと浮かび上がっている乳首。悩ましくくびれた腰。小麦色の肌をした、滑らかで華奢な手足。チンポこそデカいが、女に間違われることが多い。短髪が全く似合わないので、ならばいっそと思い、髪を伸ばしてギャルメイクをしている。ちょっと顎の辺りがゴツいし、目元が男っぽいので、念入りにマスカラとアイライナーを重ねているが……顔立ち全体としては、そこそこ可愛い方だと樫村は自負していた。 (けど……本当に昔からこうだったか?) 樫村は微かに違和感を覚え、自分の記憶を遡った。こんな長い髪で部活はどうしていたのだろうか。確か高校と大学では、ラグビー部のレギュラーで…… (いやいや、俺は昔から筋肉が付きづらい体質だったし、ラグビーなんてやれるわけないだろ。なんでラグビー部に入っていた気がしたんだ?) 樫村の脳裏に、自分がラグビー部員だった記憶が浮かびかけたが、それを勘違いだと彼は否定した。代わりに彼が【思い出した】のは…… (へへへ……そういやラグビー部の連中とヤルの、すげぇ楽しかったな……) 樫村の小鼻がむふりと膨らんだ。黒ギャルの外見に影響され、樫村は性的に奔放な性格に変化してしまった。共に汗を流したラグビー部の仲間たちとの思い出は、濃厚なセックスをしたラグビー部のセフレ達との思い出に、上書きされてしまった。樫村がラガーマンとの濃厚なセックスを思い出してニヤついていると、興津たちが口を開いた。 「それにしても、カッシーって、すげえ可愛いっすよねー」 「そうそう。おっさんとは思えないっつーか、普通に彼女にしたい」 「俺、カッシーの水泳の授業、すげー楽しみにしてるんすよ。だって胸、バインバインでエロすぎじゃないっすか」 生徒たちの言葉を聞くと、樫村はニヤっと笑った。 「おいおい。男に可愛いは褒め言葉じゃないぞ。ったく、俺をエロい眼でみやがって。しょうがねえ奴らだな。それにしても今日は暑いな……」 樫村は、男としての面影が少しだけ残っている黒ギャルの顔に、満更でもない表情を浮かべると、おもむろにポロシャツの裾を胸元までたくし上げた。乳房の谷間は見えるが、乳首が見えるかどうか、ぎりぎりのところで裾を留めた。外見こそ黒ギャルになった男の娘体育教師。その樫村の破廉恥な仕草に、野球部員たちは色めきだった。 「うおーっ! やっぱカッシー最高だわ!」 「俺、写メ撮っていいっすか?」 「俺も俺も!」 「もちろん構わんぞ。男が男の胸板を撮るだけだからな。何もいかがわしいことはない。それに俺が許可する以上、盗撮にも当たらないからな。安心して撮っていいぞ」 樫村は野球部員たちにスマホを向けられると、マスカラで盛ったまつ毛の奥にある瞳が、陶然と潤んだ。男を悩殺する肢体になった樫村には、軽度の露出願望が芽生えており、水泳や柔道の授業で自身の乳房を露出し、それに男子生徒たちが興奮する様子に快感を覚えていた。樫村は興津に流し目を送りながら、口を開いた。 「本当に今日は暑いな……なあ、興津。乳首も外に出した方がいいと思うか?」 「だ、出したほうがいいっすよ! 熱中症になっちゃいますって!」 「そうかそうか……熱中症にならないために、俺が乳首を出すのは仕方ないよな?」 「絶対そうですって! 早く乳首出しましょ!」 三十代男性体育教師の乳首に対し、性的に興奮した野球部員たちが写真を撮りたがる──そんな異常とも思える構図だが、彼らは何の違和感も抱いていなかった。三つ編みやポニーテールになった野球部員たちが、性欲でギラギラと眼を輝かせ、鼻息荒くスマホを体育教師に向ける。そんな倒錯的な構図のなか、黒ギャル男の娘体育教師と化した、樫村のジャージの中で、三十路男のチンポはビンビンに反り返り、勃起していた。樫村はじりじりと焦らすようにポロシャツの裾をずらしていった。 (ああ……こいつらの童貞も、そのうち喰ってやりてえなぁ……) 男とは思えないほどに肥大した乳首を少しずつ晒して、教え子に見せつけることに、樫村は倒錯的な快感を覚えていた。ポロシャツの生地が乳首と擦れる。その感触に、樫村は深い溜息を漏らした。彼の脳は教え子たちのチンポをしゃぶる破廉恥な妄想で占められており、その妄想が現実になるのは、もはや時間の問題であった。 ふと樫村の視界の隅に、先程落とした結婚指輪が映った。 (さっき落としたのか。というか俺、なんでこんな、サイズの合わない指輪を作ったんだ? まあ……拾うのは後でいいか) 樫村は疑問に思ったが、それを深く考えることなく、教え子たちとの露出撮影会を愉しみ始めた。愛妻家だった体育教師の面影はどこにもない。ただただ享楽的な嗜好になった黒ギャル男の娘体育教師が、男遊びで黒ずんだ乳首をゆっくりと指先で愛撫し、ラメ入りのグロスを塗った肉感的な唇を歪め、野太い声で悶え始めた姿があるだけだった。 (終) ────────── 今回は現実改変による、体育教師の黒ギャル化&男の娘化でした。立場も女子高生にするのもアリだなとは思ったのですが、姿が変わったのに体育教師の立場のままというのも面白いと思い、こうなりました。 タイトルですが、厳密にはチンポと声帯、あと体臭も男のままですが、流石にそこまで盛り込むとタイトルが長すぎるので、そこは省略しています。あしからず。 7/21 17:17 加筆修正を行いました
くろねこ@9605
2019-07-22 09:26:01 +0000 UTC黒竜Leo
2019-07-21 13:57:11 +0000 UTCくろねこ@9605
2019-07-21 12:02:49 +0000 UTC黒竜Leo
2019-07-21 11:43:49 +0000 UTC