その日の戦闘も、いつも通り俺の勝利で終わるはずだった。 「ここまでのようだな、カオスライナー共!」 全身タイツと覆面姿の戦闘員たちを蹴散らし、敵怪人へと向き直る。秘密結社カオスライナー。世界征服を企む悪の組織であり、ヒーローであるこの俺、メタルマッスルが戦い続けている相手でもある。 その日は絶好調だった。俺の身を包む、赤く燃えるような色合いのヒーロースウツは鍛えあげられた筋肉で盛り上がり、紙くず同然に戦闘員たちを薙ぎ払っていた。赤地に銀色のラインが入ったヘルメットの奥で、俺の双眸が不気味な敵怪人を睨みつける。 その怪人は、普段相手している奴らとは違っていた。怪人の大半が動物や植物、少し変わった相手でも機械をモチーフにした連中なのに対し、そいつが何の怪人なのか判然としなかった。まるで戦闘員のように全身がツヤツヤした膜で覆われているが、体の中心からちょうど半分、右と左とで白と黒に色が分かれていた。目鼻も口もなく、ただグネグネと、白と黒の腕を踊るように動かしていた。 ……どうにも仕掛けづらい。そう感じたのもつかの間、俺は自身のヒーローエナジーを右手から放出して叩きつけていた。ただでさえ威力のあるそれに『金属硬化』という俺の能力が付加され、鋼の砲弾のような威力で怪人へと迫る。そいつは初撃をうねるような動きで躱すと、逃げるでもなく近づくでもなく、その場に突っ立ってウネウネと手足を動かし続けていた。 その誘っているかのような動きが気になったが、このまま見合っているわけにもいかない。点でダメなら面で制圧するまでだ。そう考え、掌に溜めたエナジー弾を分割し『散弾』を用意しようとした矢先。そいつが、不意に仕掛けてきた。 「!? ぐ……おぉあっ!」 怪人の白い右手が布のように薄く長く伸び、俺の首に巻き付いた。驚いたが、大した力ではない。すぐに引きちぎってやる。そう思い、奴の腕に手をかけたのだが。 (あいつ……何してやがんだ?) 怪人は、黒い左手を近くに倒れていた戦闘員に巻きつけた。それを認識した直後、俺の全身に悪寒が走った。マズい。なんだか分からないが、コレはとにかく不吉なモノだ。必死に引きちぎろうとしたが、それよりも早く、その衝撃はやって来た。 「クッソ、この……おひっ!?ハァァアアン!!?」 外側から全身を包み込む不快感。内側から身体を貫く快感。本来真逆のはずのそれは、鋼のような俺の肉体を同時に苛んだ。屈強なヒーローであるべき俺は、その異常な感覚に耐え切れず、叫び声を上げながら首を振っていた。鳥肌が立ちながらも勃起する。ダメだ。ダメだ。ダメだ。このままだと…俺の中の何かが裏返っちまう。ヒーローとして譲れない部分が、正義を志したはずの魂が、別なものに変わっちまう。 「おっおっ俺は、こんなんに、敗け、負け、まけなぁああっ! あっ!…………ぐひっ! あっうひひぃぃいいん!!!!」 俺の唇から涎が垂れた時、俺は、俺じゃなくなるのを感じた。 ※ 「ハッ、ハァッ、ハァッ……」 怪人の腕は、なんてことも無かったかのようにするすると離れていった。 俺はと言うと、すっかり息が上がっている。ここまで疲労するのは、ヒーローエナジーを全力で使い尽くした時でない限りあり得ない。エナジーによって強化された肉体は、そうやすやすと底を見せないはずなのだ。 「ククク……作戦は成功したようだな」 「き、きさまは……レオ将軍」 いつの間にか眼の前には、カオスライナーの幹部であるレオ将軍が腕組みをして立っていた。獣面人身の獅子怪人であるレオ将軍は、緑色の軍服に鮮やかなオレンジ色の鬣をたなびかせていた。レオ将軍がたしなめるように口を開く。 「おっと、言葉遣いがなっていないな。上官に対してその口の聞き方はどうかと思うぞ。メタルマッスル」 「なん……だとぉ?」 口の渇きを感じながらモゴモゴと返したが、俺は自分の口調に違和感を感じていた。何かがおかしい。それどころか、メタルマッスルという名で呼ばれたこと自体にも違和感を覚えていた。それは確かに俺の名前のはずだ。しかし、俺にふさわしい名前だという気が全くしない。俺の……俺にふさわしい名前は、もっと、別の。うろたえる俺に対して、レオ将軍が肉食獣じみた悪辣な笑みを漏らす。 「おお、もうメタルマッスルではないのだったな……下級戦闘員、C403号」 「いっ……イイーッ!!」 そう呼ばれた途端、俺の背筋を快感が貫き、反射的に敬礼を行っていた。右手の掌を開いて前に突き出す。それは俺が戦ってきたはずの、敵であるはずのカオスライナーの敬礼であった。 「イッ! イイッ!?」 ようやくそこで気がついた。俺が着ているのは、真っ赤なヒーロースウツではない。真っ黒な全身タイツ。カオスライナーの戦闘服だ。ヘルメットもなく、目出し帽のようなマスクに取って代わられていた。屈辱で顔が赤くなるのを感じながら、レオ将軍に怒鳴り散らす。しかし俺の口から出た言葉は、俺の心とはまるで真逆の言葉だった。 「イッ! 洗脳ありがとうございます! 将軍!!」 (クソッ! よくも俺を洗脳しやがったな! 畜生!!) 「洗脳とは違うぞ、C403号よ。それはお前自身がよくわかっているはずだ」 「イイッ!?」 (なにっ!?) そう、それは洗脳とはまた違っていた。俺自身の精神は以前と何ら変わりない。なのに口調や立ち居振る舞い、自分がヒーローであるという実感が、戦闘員のものとすり替わっていた。考えたことを話そうとすると、自然と戦闘員らしい言葉が口をついてしまうのだ。 「さあ出てこい、メタルマッスルよ」 「ああ」 むくり、と起き上がった影を見て衝撃を受けた。そこにいたのは、先ほど俺が倒した大勢の戦闘員の一人だった。そいつはさっきまで戦闘員だったのに、今は俺の真っ赤なヒーロースウツとメットを被り、ヒーローを気取っている。しかし、その姿はまるでチグハグだった。その戦闘員は、40すぎぐらいの脂ぎった中年オヤジなのだ。ぴっちりしたヒーロースウツは固太った体型を強調し、腹のところなどスウツがめくれ、ギャランドゥが密生したビール腹をさらけ出している始末だった。ヘルメットから覗いている無精髭だらけの下卑た表情も、ガニ股の短足も、何もかもがヒーローらしくない。なのに。 「イィ……」 俺は、そのビヤ樽のような体型のヒーローを見て、性的に興奮していた。いったいどうしちまったんだ。奴はどう見ても俺の偽物なのに、まるで俺の……本物のメタルマッスルのように感じちまう。俺ではなく、むしろアイツが本物のメタルマッスルなんじゃねえかって思っちまう。自分でも自分が抑えきれないまま、俺はギラギラと血走った眼でそのヒーローを視姦して、勃起したチンポで戦闘員タイツに染みを作っていた。 「何の事はない。貴様と戦闘員の立場を交換したのだ」 レオ将軍が鼻息を荒らげる俺の股間を撫でる。それだけで達しかけた俺は仰け反り、ピクピクとチンポを震わせた。 「名前、経歴、所属といった社会的立場に加え、それを成り立たせるのに不可欠な肉体的・精神的パラメータ。それらをすべて、ヒーローと下級戦闘員の間で交換してある。肉体はそのままだが、能力が入れ替わっとるのだよ、貴様らは」 「イッ! イッ!」 (くそぉ……) 「貴様はもはやヒーローではない。これからは、一介の戦闘員として世界征服の礎となるのだ! フハハハ!!」 (未完) ────────── ヒーローと戦闘員の立場交換です。この後は、戦闘員としてこき使われるヒーローの屈辱的な様子を書きたい……と思っているのですが、立場交換による感情の影響を、もっと深くしてもいいかな? でもこれはこれでありだし……と悩み、未完となっています。
くろねこ@9605
2019-06-02 01:06:59 +0000 UTCくろねこ@9605
2019-06-02 01:05:51 +0000 UTCGoldenSpiritUg
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