俺が不倫相手の笹木佳奈江にされてしまったのは、別れ話を切り出した日のことだった。 営業課に異動してきた笹木がかなり好みだったので、仕事の相談に乗りつつ徐々に親しくなっていき、やがて個人的に飲みに行く間柄になった。そこからは一気に関係が進展し、週末はホテルで笹木を抱くようになった。 「志賀課長って、すごく逞しいですよね……」 笹木は、俺の厚い胸板を撫でるのが好きな女だった。俺は学生時代にラグビーで鍛え、四十代になった今もジムで体型維持をしている。妻とはもう何年もセックスレスだったので、俺に夢中になる笹木に対して、俺も最初は喜んだものだ。 「奥さんとは、いつ別れてくれるんですか?」 「私……こんなに志賀課長のことが好きなのに……」 だが、次第に笹木が重たくなり始めた。毎週のセックスが隔週になり、やがて月に一回になった。二人きりになるたびに、延々と妻との離婚を迫る笹木には、俺もうんざりしてきていたので、ある日別れ話を切り出した。 「…………わかりました」 笹木が意外にも素直に別れ話を受け入れたので、俺はホッとした。だが、笹木は最後にもう一度抱いて欲しいと言ってきた。 「これが最後です。もう一度だけ私を抱いてください。きっと、私とは離れたくないって課長は言うと思いますから……」 その口ぶりが妙に気になったが、一発ヤッて別れてくれるなら別に構わなかった。ベッドに入る前に、笹木が変わった香りのお香を焚いた。 「媚薬のような効果があるんですよ」 お香に火を点けながら、笹木が妖しく微笑んだ。そのお香のムズムズする香りに、俺は妙に身体が火照ってしまった。獣のように吠えながら、普段よりも激しく、ガツガツと腰を打ち振った。笹木も激しく悶え、俺の筋肉質な手足に、華奢な肢体を絡ませた。 ※ 「あぁ…………すごく、よかった」 今までで、一番気持ちがいいセックスだった。行為が終わった俺は、ホテルの浴室でシャワーを浴びていた。さすがに毎回朝帰りだと不倫がバレるので、終電に間に合うように帰っていた。シャワーを終えて、浴室の鏡を見た。浅黒い肌をした、精悍な中年男がこちらをジッと見ている。俺は荒い息を吐きながら、自分の頬を撫でた。ジョリッと、伸びた無精髭が音を立てた。 「ああん……やっぱり志賀課長って……素敵だわ」 俺の口から低い声が漏れ、半ば勃起したチンポがぶるんと揺れた。そう……セックスを終えると、俺は笹木佳奈江になっていた。身体が変わったわけではない。俺自身の外見は全く変わっておらず、逞しい元ラガーマンのままだ。志賀英克として生きてきた46年間の人生も、全て思い出せる。だが、俺自身が何者かと問われると「俺は笹木佳奈江である」という自覚が、しっかりと俺の脳みそに焼き付いているのを感じた。 「私って、さっきまで志賀課長だったのよね? なんだか信じられないわ……」 俺は鏡の前で、グッと両腕に力こぶを作り、ポージングをした。自分が先ほどまで、志賀英克として生きてきたという事実に、たまらなく興奮してしまう。俺の脳みそは志賀英克のままなのに、口調や感情が、笹木佳奈江に変わっているのだ。俺はチュッと音を立てて自分の二の腕にキスをした。無精髭が肌に擦れる感覚が、なんだか新鮮なものに感じてしまう。俺は、俺自身の顔や体臭、記憶のひとつひとつが、愛おしくてたまらなくなっていた。愛する志賀課長の全てが、俺のものになったのだ…… 「おいおい。すっかり気に入ったようだな」 先に着替えていた「志賀課長」が、浴室の入り口から声を掛けてきた。俺が着ていた男物のスーツを着て、どこか醒めた眼で俺を見ていた。女性の乳首の輪郭が、カッターシャツの生地に浮いていた。 「志賀課長になってみたのはいいんだが、俺の方はなんだか気持ちが冷めちまった。約束通り、今日で別れてくれよな、笹木」 「はい。それで構いません」 俺はもう、そんなことはどうでもよくなっていた。俺の愛する課長は、もはや俺そのものなのだ。 (未完) ────────── 他人の立場になったことで、自分の肉体に対する感情も、交換相手の感情になってしまっている感じです。 これはこれでありなんですけれど、かなりあっさり立場交換に飲み込まれているので、もうちょっと抵抗させたり、あるいは徐々に立場交換が進行するように作り直すのもありかな〜と思っています。あとはOLとして出勤した、彼の日常生活も書きたいですね。
くろねこ@9605
2019-03-03 02:51:44 +0000 UTC羊谷 日辻(ひつじたにひつじ)
2019-03-02 22:39:01 +0000 UTCくろねこ@9605
2019-03-02 13:38:18 +0000 UTCWill
2019-03-02 11:24:00 +0000 UTCくろねこ@9605
2019-02-28 21:03:20 +0000 UTC黒竜Leo
2019-02-28 14:16:17 +0000 UTC