「──烈空掌!」 小ぶりのコウモリに似た淫魔が数匹、男が放った拳圧に耐えかねて、跡形もなく消し飛んだ。男は呼吸を整え、残った敵を睨みつける。骨太で、荒々しい戦神のような風貌の男だった。彼は格闘家バルダル。勇者一行と魔王退治の旅の途中である。彼らは旅の途中に立ち寄った村で、村外れの洞窟に住み着いた淫魔を退治してほしいと懇願され、この洞窟にやってきた。だが── 「切りがねえな……走破斬!」 手刀がまるで斬撃のように、横一列に並んだ淫魔の胴体を引き裂いた。洞窟内は淫魔の巣窟と化しており、さらにトラップが幾重にも仕掛けられていた。そのうちのひとつ、転送トラップを踏んでしまったバルダルは別の部屋に転送され、一人で淫魔の群れとの戦いを強いられていた。とはいえ、淫魔自体のレベルはそう高くない。せいぜい10レベル前後だろう。冒険を始めたばかりのバルダルなら苦戦したかも知れないが、レベル87の屈強な格闘家となった今となっては、一山いくらの雑魚である。 「あら。なかなか威勢のいい雄が来たものね」 淫魔の群れが割れると、洞窟の奥から女がこちらにやって来た。無論、ただの人間ではない。魔力を蓄積し、人間に似た姿にまで成長した淫魔──サキュバスである。巨大な黒い羽は濡れているかのように艷やかであり、頭に生えた捻れた角も、どこか卑猥な質感に思える。尻尾はうねうねと蠢き、バルダルを誘っているかのようであった。 「まずはお客様に、ご挨拶しないといけないわね?」 ドバっと、サキュバスの指先から粘っこい魔力の塊が溢れ、バルダルに対して一直線に飛んできた。サキュバス得意の魅了呪文『チャームアロー』である。 (……『不動心』) 対するバルダルは、格闘家固有のパッシブスキル『不動心』で魅了効果を打ち消した。あらゆる精神系状態異常を無効にするこのスキルがある限り、サキュバス得意の魅了は一切バルダルに通用しない。サキュバスの眉根が、不快そうに歪んだ。 「あら残念。歓待は素直に受けるものよ? この世のものとは思えない、至高の快楽を与えてあげたのに」 「貴様がこの洞窟の主だな」 バルダルは拳を構え直した。このままサキュバスを倒し、勇者と合流する。そこいらにいる淫魔よりは多少強いものの、そこまでレベルの高いサキュバスではない。レベルは……20前後ぐらいだろうか。これまでに戦ってきた、魔王直属の部下の方がよほど強敵であった。だが……バルダルから立ち上る圧倒的な闘気を見てもなお、サキュバスは含み笑いをしていた。 「怖い怖い。さすがは勇者の仲間だけあるわね。魅了も効かないうえに、明らかに貴方の方が格上。魔王さま直属の四神将の方々さえ討ち取った、格闘家のバルダル……でしたっけね。貴方と戦ったら、どう考えても私の負けね」 「なら、おとなしく降伏することだな。俺には弱者を虐げる趣味はない。一撃で楽にしてやる」 「そうね……だったら……戦わないことにするわ。本当は、勇者相手に使いたかったところだけど、贅沢は言ってられない状況だし」 サキュバスの瞳が、金色に輝いた。手には何かの魔道具であろうか。黒い色をした鈴のようなものを持っていた。 「さあ『貴方』は『私』におなりなさい」 サキュバスの手の中で、鈴が不快な音を立てて鳴る。脳髄を揺らすようなその音色に、バルダルは目眩を覚えたが、しかし敵の前で倒れる訳にはいかないと踏ん張った。鈴が鳴り終わると、それは砕けて粉々に散っていった。それが、バルダルが『格闘家』として最後に見た光景だった。 ※ 「んあ?」 バルダルが間の抜けた声を漏らすと、彼の装備していた道着が、一瞬で装備解除された。褌さえ解けて、彼は全裸でサキュバスの前に立っていた。 (うおっ! 装備解除の魔道具か!? 急いで道着を着ねえと!) 褌と道着を手にとったバルダルだが、しかし、なぜかそれを着ようとすると、また勝手に解けて床に落ちてしまった。まるで今のバルダルでは『格闘家の道着を装備することはふさわしくない』かのように……。 「な、なんでだ……!? それに俺……なんつう助平なガタイしてやがんだ!」 それだけではない。バルダルは愕然とした顔で、自分の身体をあちこち触っていた。彼自身の姿は、先ほどまでの屈強な格闘家と全く変わっていない。なのにバルダルは、まるで自分の身体を触るのが、初めてであるかのような態度だった。自分の男の肉体が、こんなにも情欲をそそるものだったこのに、なぜ今まで気が付かなかったのか。バルダルは悔しささえ感じながら、自身の厚い胸板を揉んだ。男の固い大胸筋の感触に、頬が緩む。そして割れた腹筋を愛撫し、濃い脇毛の生えた脇の臭いを嗅ぐと……舌をチロリと、己の上腕二頭筋に這わせた。塩っ気のある濃厚な格闘家の汗が、バルダルの舌を刺激する。バルダルのチンポはガチガチに勃起し、彼は敵の目の前であるにも関わらず、脇の臭いを嗅ぎながらチンポを扱き始めていた。 「た、たまらん……! 俺の汗臭ぇ身体に、チンポ……あー……男臭くてたまらん……!」 「ずいぶんお楽しみね?」 サキュバスがからかうように言った。そこでようやくバルダルは、戦闘中であったことを思い出した。バルダルは彼女を睨みつけると、ヒクつくチンポから名残惜しそうに手を離し、顔を真っ赤にして怒鳴った。 「おい! これは貴様の仕業だな。俺をこんな……変態ににしやがって! 絶対に許さん!」 サキュバスを前にして、拳を構えようとしたバルダル。しかし、彼の顔が訝しげに曇った。 (あれ? 構えってこれでいいんだっけ?) 身体に馴染んでいるはずの、闘いの構えが思い出せない。その結果、まるで素人のような情けない構えになってしまった。サキュバスはふてぶてしく告げた。 「どうぞ、掛かってらっしゃい。先手は貴方に譲ってあげるわ」 「覚悟しろ! ええっと……烈空掌!」 バルダルのゴツい拳が、サキュバスの柔らかな肌に突き刺さり──あっけなく、弾き返された。 「あ? な、なんだあっ!!?」 狼狽した声を上げたバルダル。このサキュバスはせいぜいレベル20程度。レベル87の自分にとって、到底敵ではないはずだ。やけになって殴り続けたが、まるで手応えがない。それどころか、さまざまな技の出し方を忘れていて、適当に拳を動かしているだけだった。 「まったく、無様な男ね。技というのはこう出すのよ? 裂空掌!」 「うおっ!!」 サキュバスが拳を構え、突き出すと、デカい衝撃がバルダルの身体を掠めた。わずかに掠っただけなのに、バルダルは大きく吹き飛ばされ、ぐったりと身体を洞窟の床に伸ばした。 「いったい、なぜだ……」 「入れ替えたのよ。貴方を私の職業を。さっき使った魔道具『転命の鈴』の力でね。今日から私が『格闘家』で、貴方は『サキュバス』になったってわけ」 「はああ!!?」 バルダルは歯を食いしばり、立ち上がった。そんなことは絶対に認められない。魔王を倒すべく続けて来た旅が、格闘家としての自身の研鑽が、全て無駄になってしまう。子どもの頃からバルダルに武術を教え、最後は魔物に殺された父親にも顔向けできない。バルダルはサキュバスを鋭い眼光で睨みつけた。 「ふざけるなよ。何が職業を入れ替えただ。そんなこと絶対にあり得ない!」 「自分のステータスを確認して御覧なさい。レベルも何もかも変わっているわよ」 バルダルは、恐る恐る頭の中で念じた。彼ら勇者一行は、念じると自身の強さを具体的な数値で推し量ることが出来るのだ。レベルアップ直後なら、その変化をも知ることが出来る。 レベル :87→21 名前 :バルダル 職業 :サキュバス HP : 345 → 44 MP : 71 → 60 ちから :212 → 9 ぼうぎょ:188 → 11 まりょく: 70 → 54 すばやさ:140 → 47 みりょく: 20 → 101 「な、なんだこりゃあっ!!」 あまりにも情けないステータスだった。「みりょく」のステータスこそかなりあるものの、それ以外は全て下がっている。格闘家として低かった「MP」「まりょく」の数値さえ、高レベル故にそれなりに上がっていたのだが……レベル21のサキュバスになったことで、格闘家だった頃よりも下がっていた。なのに……バルダルは、ゴクリと自分の肉体を見て生唾を飲み込んでいた。自分の男臭い肉体が、たまらなく魅力的に思える。戦闘中なのに、全身を愛撫したくてたまらない── 「駄目よ? 戦闘中に隙を見せちゃ」 「んひっ!」 サキュバスがバルダルに近寄り、その豊満な乳房を押し当てて抱きついた。サキュバスの柔らかな乳房の感触に、バルダルは思わずニヤけて妙な声を漏らしてしまった。柔らかなサキュバスの肌と、汗臭い己の肌が互いを求め合うように擦れ合い、背筋にゾクゾクと快感が走る。本来のバルダルなら、戦闘中に敵に抱きつかれることなど、許すはずがない。しかしなぜかバルダルは、格闘家としての敵との間合いのとり方、牽制の仕方を、全く思い出せなくなっていた。 「てめえ、一体なにしやが……んっ!……ふぁぁぁ〜……」 そのまま無防備に、バルダルはサキュバスの体臭を、思いっきり鼻から吸い込んでしまった。 「職業が入れ替わったことで、スキルも入れ替わっているわ。貴方はサキュバスの魔術しか使えないし、私も格闘家の武術しか使えない。けれどね……互いの肉体はそのままだから、私の体臭には魅了効果がちゃんとあるのよ」 匂いそれ自体に魅了効果のあるサキュバスの体臭が、さらにバルダルの脳を桃色に染め上げる。精神系状態異常を無効化するスキル、『不動心』をサキュバスに奪われたことで、バルダルは魅了に対する耐性がまったく無くなっていた。レベルが逆転したことで、基礎ステータスも逆転し、さらにサキュバスの魅了成功率に拍車を掛けていた。 「転命の鈴の効果は、最初はまだ不完全な状態なの。あくまでも最初は、職業やレベルを入れ替えるだけ。互いにまぐわうことで完全なものとなるの。職業だけでなく、名前や記憶、性格さえも入れ替わるわ」 バルダルの分厚い胸板の奥に、サキュバスへの好意と恋愛感情が植え付けられた。バルダルはそれに抗おうとしたが、しかし、サキュバスの体臭を嗅げば嗅ぐほどに、自分がサキュバスになってしまうことを、なぜか好ましいことのように思い始めていた。 (俺が、サキュバスになるだと? ふざけんじゃねえ! そんなの絶対に嫌なはず……なんだよな? でも、こんな機会でもねえと、俺は一生格闘家だっただろうし……ここいらでサキュバスになってみるのも、そう悪くないんじゃねえか? 俺には武術で鍛えた、こんなに助平なガタイがあるんだし……) 「さあ、私とまぐわい……貴方の人生全てを差し出しなさい、バルダル」 「…………」 傍目には、バルダルは完全に魅了されたかに思えた。バルダルの虹彩には、魅了された者特有のハート型の光が浮かんでいる。しかし格闘家としての師であり、そして魔物に殺された父親に対する想いが、バルダルを辛うじて繋ぎ止めていた。その様子を、サキュバスは愉しげに観察していた。 「あらあら。存外に骨がある男なのね。『不動心』を奪われてもなお、ここまで私の魅了に抗うなんて……フフフ。これはそんな貴方に対する、私からの餞別よ」 サキュバスは自身の濡れそぼる女陰に指を差し入れると──その愛液に塗れた指を、懸命に魅了に抗うバルダルの唇に、静かに捻り込んだ。体臭とは比べ物にならない、強力な魅了効果のある愛液が、バルダルの口腔内に広がった。 「んっ♥」 ムフリ、とバルダルの小鼻が膨らんだ。それはもう、亡き父親への想いを元に、魅了へと抗う男の顔ではなかった。バルダルは無精髭の生えた顔で、愛おしげにサキュバスに頬ずりすると、まるで十年来の恋人のように、丹念にサキュバスの肢体を愛撫し始めた。 「あぁ……頼む。早く俺とセックスしてくれ……どうか俺を、あんたみたいな立派なサキュバスにしてくれ! 武術なんてもう沢山だ! 俺はもう、とにかくセックスがしたくてしたくてたまらないんだ!!」 「ふふ。その意気よ。男として最後のセックスを、貴方にさせてあげるわ。さあ、来て……」 サキュバスは己の根城へとバルダルをいざなった。人間を魅了して巻き上げた、豪華な家財やベッドがそこにあった。バルダルは四つん這いになったサキュバスを、後背位で犯し始めた。雄叫びを上げながら、荒々しく腰を振るバルダル。チンポに絡みつくサキュバスの膣圧は絶妙で、彼が絶頂に達するまでに、そう長い時間は掛からなかった。 「うおっ! うおっ! イク! イクイクイク〜〜〜ッ!!!」 サキュバスの膣の中で、バルダルのチンポから精液が、ブビュルルルルッッ!!!と勢いよく噴き出した。その途端、バルダルは白目を剥いて痙攣した。途方も無いほどの快感が押し寄せ、その波が自分の全てを洗い流していく。武術に明け暮れた修行時代の記憶は、ゴブリンやオークを相手にセックスした記憶と入れ替わった。男らしく快活な性格が、セックスがなによりも好きな淫靡な女の性格と入れ替わった。そして「バルダル」という名前さえも、このサキュバスの名前である「ラーイルマ」と入れ替わった。 彼が父親を思い出すことは、二度となかった。 ※ 「おう。そんじゃ俺はそろそろ勇者のところへ行くぜ。俺の体液や体臭はサキュバスのままだからな。この体質で、勇者を骨抜きにしてやるつもりだ」 サキュバスはバルダルの職業だけでなく、名前や記憶、性格までも盗み取っていた。すっかりバルダルのような口調で、彼女はバルダルの道着を装備した。外見こそ美女のサキュバスだが、みりょくのステータスが低くなり、性格も変わったことで、ぐっと男臭い雰囲気の女になっていた。さらしも何も巻いていない、豊満な乳房が道着の中に収まっている。対するバルダルは、不満そうに唇を尖らせ、艶めかしい仕草でサキュバスを見上げた。 「んもう、バルダルったら……もっと私と楽しみましょう? こんなんじゃ、私全然足りないわ……」 「おいおい。ライールマさんよ。もう十分だろ? ダミーの死体も用意してあるから、この洞窟のサキュバスは倒されたことにしておいてやる。お前はサキュバスらしく、男のチンポを追っかけて生きていけよ。俺はサキュバスの肉体を持つ格闘家バルダルとして、このサキュバスまんこで勇者の野郎をハメまくってやるぜ。ガハハ!」 サキュバスはそう告げると、さっさと立ち去っていった。バルダルは一人、サキュバスの根城に残された。人間を魅了して貢がせた、ふかふかのベッドの上で、悩ましげな溜め息を吐いた。 「それにしても、すっごくよかったわ……私、さっきまで格闘家で、勇者と旅をしていたのよね……なのに、今はサキュバスになってる……」 戦神のように逞しい体躯のバルダルであったが、すっかり女っぽい雰囲気になり、精液と愛液に塗れてうっとりとしていた。自分が人間であり、バルダルという名の格闘家だったことは覚えている。バルダルだった頃の記憶も、ぼんやりとなら思い出せる。しかし自分は何者かと問われると、どう考えてもサキュバスであるという結論に至ってしまうのだ。 「もっともっとレベルを上げて、逞しい雄のチンポを咥え込みたいわ……勇者のチンポって、どんな味なのかしら。あぁ……」 バルダルのチンポから、とろとろと精液が流れ続けていた。肉体はあくまでも人間の男のままでありながら、職業がサキュバスになったことで、さまざまなサキュバス用スキルを習得させられてしまっていた。性的な事柄においてのみ、HP・MPの減少を無効にするスキル『淫魔の心得』や、精液や愛液を摂取することでステータスに補正を得る『淫液活性』により、バルダルは人間離れした絶倫になってしまっていた。バルダルは涎を垂らしながら、自身のチンポから溢れる精液を指ですくい取り、舐めていた。 やがてバルダルは姿見の前に立った。無精髭の生えた頬を撫で、ぐっと力こぶを作ると、自分の肉体の雄々しさに惚れ惚れしてしまった。固く引き締まったケツをぷりぷりと振りながら、低い男らしい声で喘いだ。 「ああ〜ん……なんて逞しい雄なのかしら。格闘家バルダル……性奴隷にしたいほどの雄なのに、それが私の身体なのよね……この雄々しい体躯! もう、たまらないわ!」 バルダルはチンポを固く勃起させながら、鏡に映った己の姿に舌を這わせ、鏡面にチンポを擦りつけた。黄ばんだ精液がたちどころに噴き上がる。すかさずバルダルは鏡に肉厚な舌を這わせ、その種汁を残さず舐め取っていく。 「んっ……んっ……美味しい……格闘家をやめてサキュバスになって正解ね。なんで私、武術なんかに明け暮れてたのかしら。チンポを弄って精液を舐めるほうが、ずっと楽しいのに……」 サキュバスは男の精を取り込めば取り込むほど、経験値を蓄積し、レベルが上っていく。勇者一行が立ち去ったあと、この地に強大なサキュバスが現れ、国一つを滅亡寸前にまで追い詰めるのだが……それはまた、別の話である。 (終) ────────── ファンタジーモノが書きたいと思い、書き上げた小説です。ドラクエⅥでハッサンを「あそびにん」に転職させたとき、戦闘中に怠けるハッサンの姿に、妙に興奮したんですよね。質実剛健な格闘家が、だらしない人間になってしまっている……その時の興奮が元になっています。こういったファンタジー世界での転職、立場交換ネタは幾つかアイディアがあるので、また機会があったら書いてみたいです。
くろねこ@9605
2022-01-11 11:13:16 +0000 UTC某氏
2022-01-11 08:52:10 +0000 UTCくろねこ@9605
2019-02-03 03:24:01 +0000 UTC黒竜Leo
2019-01-31 19:07:43 +0000 UTC