磯村大徹は吐き気を堪えながらその男の話を聞いていた。 「──そう! 全てを分け合うことで!人類は平等となるのです!」 近頃勢力を拡大している怪しげなセミナー団体。知能犯対策を取り仕切る、警視庁刑事部捜査二課に所属する刑事、磯村大徹は潜入捜査のため、このセミナーの入会面接を受けていた。二課でもなかなか尻尾が掴めないが、どうやら悪質な自己啓発系セミナーのような手口で金を集めているらしい。裏には暴力団の関与も疑われている。 しかしそれでいて、脱退者が見つからないというのはどういうことなのだろうか。話を聞こうとしても、抜けた人間がまるで見つからない。それはこの団体の教義が素晴らしいことの証左ではない。異常でないことが既に異常であった。 「──ところであなたは『持っている側』の人間ですね?」 団体で総帥と呼ばれている男が、不意に話を切って磯村の眼を見据えた。とりたてて特徴のない、平均的な顔の男。その視線にどこか居心地の悪さを感じていると、男はさらに続けた。 「そうでしょう? 警察官の──磯村大徹さん?」 「──ッ!」 なぜそれを、という言葉をかろうじて飲み込んだ。磯村が団体に送付した申込書は偽名であり、経歴も全くの偽りを書いた。それが、なぜ。 「いえ、ただ単に貴方という人間が『何で構成されているのか』私には分かってしまうだけですよ」 まるで磯村の心を読んだかのように、総帥が続けた。磯村を羨むかのような、そのねっとりとした視線がただただ不快であった。 「磯村さん。貴方は不惑を迎えてもなお、男らしく筋肉質な体格をしていらっしゃる。警察官らしい責任感と倫理観の強さ……もちろん公務員だけあって収入も申し分なく、家庭も円満。絵に描いたような理想の中年男性ですね。だから──」 総帥の顔に、規格化されたかのような笑みが張り付いた。 「それを、他人に分け与えましょう」 その言葉が終わるか終わらないかのうちに、磯村は言いようのないおぞましさを感じ、席を立っていた。 「どうやらここは私に合わないようだ。悪いが、帰らせて頂く」 「そうですね。貴方は頭が働き過ぎる。もう少し、知能が低いほうがお似合いでしょうね」 「おいッ! さっきから何なんだ君の言い草は! 全く無礼な男だ。社会人としての品格さえ疑わしい!」 我慢しきれず怒気をぶち撒けた磯村を無視して、総帥が膝の上に載せていた大量の写真の束を捲った。その手がある一枚を指さし、ピタリと止まる。 「──18歳男性。中卒」 次に総帥が磯村を指さすと、磯村の肩がビクン!と震えた。 ※ (全く、なんなんだこの男は! どこか精神的におかしいのかもしれん。ここは一度警視庁に戻ってから、改めて捜査方針を……んぉおっ??!) 筋骨逞しい中年刑事である磯村。その背筋に電流のように快感が走ったかと思うと、口髭を蓄えた厳めしい表情から、妙に覇気が抜けていった。 (んあ? ひふぅ……なんだぁ?今の。つーかオレ……すっげー難しいこと考えてた気がすんだけど……) 引き締まっていた表情筋が緩む。酸いも甘いも噛み分けてきたはずの中年男が……間の抜けた表情で困惑している。そんな磯村に、総帥は優しげな声を掛けた。 「やはり磯村さんはお若い。先程ので達してしまったようだ」 「なんだって?……んあっ!マジかよ!」 磯村がその外見に似つかわしくない若者言葉と共に、ガニ股になってあたふたと股間を抑えた。スラックスの股間には染みが広がり、イカ臭さが辺りに広がっていた。総帥が含み笑いをしながら続けた。 「いえいえ、むしろ誇るべきですよ? 40歳を過ぎてこの精力、まさに精力絶倫。男の中の男です」 「お! そーかぁ?うへへ……あんま褒めんなよ! なんもでねーぞ!」 磯村がオヤジ顔をデレさせ、ぐへへと笑った。警戒心の強かった敏腕刑事が、おべっか一つでころっと騙される単細胞に成り下がっていた。 「どうです? 磯村さんは物事を難しく考えすぎていましたからね。我々の力で、中卒の少年と知能を交換したんですよ。頭がスッキリしたでしょう?」 「おお! そういやそーだな! すげー気分いいぜ!」 お前の頭を悪くした。そう間接的に言われているにも関わらず、磯村は単純化された思考を、無邪気に喜んでいた。今まで担ってきた仕事の重責や、家庭との両立。子どもの進学資金やマイホームのローン、親の介護や自分の老後……そういった様々な思考を、知能の低下した磯村の脳みそは「むずかしいから、かんがえなくていいや」と思考を放棄していた。社会的に立場のある中年男が、それまで抱えていたプレッシャーから一気に開放されたのだ。その顔はとても晴れやかだったが、総帥を見て何か思い出したのか、磯村は腕組みをして悩み始めた。 「けどよー……あんたワリーやつなんだろ? オレ刑事だしさぁ、捕まえなきゃなんねーんだよなぁ」 磯村が角刈りの頭を指でボリボリと掻いた。総帥はなるほど、と答えて再び履歴書をめくっていった。 「知能が低下しても、責任感や倫理観は強いんですね。では──35歳男性 暴力団構成員」 「うっ」 磯村の顔が歪むと、今度は急にニヤニヤとし始めた。堅物な刑事に似つかわしくない、下卑た笑みだった。 「うへへ……けどまあ、出すもん出しゃあ、見逃してやってもいいぜぇ」 再びイッてしまった股間からびゅくびゅくと白濁が零れ落ちたが、磯村はそれを隠そうともせずに舌なめずりをした。もはや警察官としての倫理観はかけらもなく、私服を肥やせればどうでもいいといった風情だ。総帥はフフフと声を漏らした。 「ねえ、磯村さん。貴方はさっきよりも、ずっとずっと気分が良くなっていませんか?」 「んあ? まあ……そうだな? へへ……見ろよ。さっきもイッたのによぉ、勃ちっぱでとまんねーわ」 ビンッと張り詰めた股間を隠そうともせずに前に突き出した。勃起は一向に止むことなく、磯村のチンポはヒクヒクと痙攣し続けている。 「それが、分け与える者の幸福です。自分が持つモノを他人に分け与えれば、見返りとして大きな快楽が得られるのです」 「んあ? つーかよぉ、もっとわかりやすく言えよ!」 総帥の言っている内容さえピンと来ないのか、磯村は敏腕刑事とはとても思えない答え方をした。総帥が根気よく続けた。 「貴方のいいところを、他人の悪いところと交換すると、とても気持ちよくなるんですよ」 「なあんだ! そ~ゆうことかよ! おめーよぉ、さいしょっからわかりやすく言えよなあ!!」 磯村はバンバン!と乱暴に総帥の背中を叩いた。特に難しい説明でもないのだが、今の磯村の理解力ではこれぐらい噛み砕かないと伝わらないのだ。 「さあ、どうします? 磯村さん。貴方は顔も男前だし、体格も筋肉質だ。他の人の……例えば不細工な顔やデブな体と交換すると、今よりもっと気持ちよくなりますよ」 「んお〜! どうすっかなぁ!! もっときもちよくなんのかぁ」 磯村は鼻の穴をおっぴろげ、ムムムと悩んでいる。先程からトロくなった頭でものを考える度、甘い感覚が背筋を走る。警察官にあるまじき下品な振る舞いをする度に、金玉がぐりんぐりんと激しく動く。磯村は好色そうに鼻の下を伸ばしながら、生まれ持った自身の顔や、柔道で鍛え上げた肉体を手放すかどうか本気で悩んでいた。 ※ 「んじゃよぉ……顔はこの不細工な奴だろ? 体はこのデブにすっか。おっ、髪も変えれんのか?なら……このハゲにするぜ」 「ペニスはどうします?」 「おお! じゃあこのガキのにするわ。頼むぜ!」 「はい──顔はこの32歳男性。体はこの26歳男性。髪は49歳男性。ペニスは12歳男性ですね?」 「んほぉぉぉおおお!!!!?? キタキタキタァ!!!!」 苦みばしった男前だった顔が変化を始めた。徐々に目尻が垂れて鼻の下が長い馬面になっていき、さらに青々と髭の剃り跡のある痴漢顔に変わっていく。おまけにたっぷりと顎に肉が付き、二重顎になってしまった。黒々とした剛毛の角刈りだった磯村の頭髪が、脂っこい柔らかい毛質に変わり、バーコード状に禿げ上がっていく。さらに中年にしては筋骨逞しかった磯村の体に、急に肉が増え始めた。ゴツゴツした指がぶくぶくと膨らみ、浅黒かった肌の色が白くなっていく。胸板が逞しいを通り越して不要なほど贅肉で盛り上がる。引き締まっていた腹がビール腹になったかと思えば、さらに太鼓腹になっていき、カッターシャツのボタンがパツンパツンと弾け飛んだ。ベルトが壊れ、ブリーフも破けると、雄々しくそそり勃っていたイチモツの代わりに、白いアスパラガスのような無毛の包茎チンポが生えていた。 「どうでしょう?磯村さん?」 「ンギモッヂイイ♥ オレぇ! ハゲでデブでバカでぇ、しかもチンポも超ちっせぇ!! ぎゃはは!!」 すっかり不細工で不養生な肉体になってしまった磯村は、その快感に酔いしれていた。ビクンビクンビクンと断続的にオルガスムスに達し、見るに耐えないむさ苦しい面構えから涎を垂れ流していた。 「磯村さん。貴方はもう中卒程度の学歴しかないので、刑事は続けられませんね? だから、社会的な立場も適当に交換しておきましょうか。そうですね……この29歳のひきこもりの青年がいいでしょうか。年齢は変えないので、あなたは40歳を過ぎても親の脛を齧り続けるヒキオタニートになってしまいますが……それでいいですよね?」 「んほほおおおぉぉお♥♥ イイぞおッ!」 「それともちろん、家庭環境も今の改変に応じて変化します。貴方は結婚などしていないし、子どももいない。ご実家で親の財産を食いつぶしながら、部屋に引きこもってちんぽ汁を垂れ流すという毎日を送っていることになります」 この醜悪な外見のまま、刑事として積み上げたキャリアも収入も、家庭まで失い、人生を棒に振らなければならないのだ。その不幸と、自分が他人に分け与えた幸福を思うと、磯村の脳みそは幸せではち切れそうだった。 「ウヒッ♥」 磯村は最後に一声鳴くと、余りにも不幸になった自分の人生を呪い、祝い──幸福のあまり失神した。 ※ ゴミ溜めのような部屋の中で、ランニングシャツとブリーフだけの巨漢が、深夜アニメを見ながら貪るようにカップ麺を啜っていた。磯村大徹。かつて捜査二課きっての切れ者と言われた刑事の成れの果てだった。汗染みのあまり黄ばんだランニングからは異臭が漂っている。 「ブヒッ♥ オレぇ、こないだまで刑事だったんだよなぁ……ブヒヒ♥」 五杯目のカップ麺を食べ終えた磯村が、かつての自分の姿を妄想して顔をニヤつかせた。仕事の鬼であった自分が、怠惰極まりない生活をしている。さらにあれから何度かネットを介した遠隔セミナーにも参加し、スポーツ観戦だった趣味はアニメ鑑賞に交換された。かろうじてDQNのような男らしさを保っていた性格も、卑屈でコミュ障気味の男と交換されてしまった。だがそれも、磯村自身が望んだことなのだ。 磯村はブヒブヒと喘ぎながら、肥え太った胸を揉みながらゴミの山に倒れこんだ。ブリーフをずらし、興奮して固くなり始めた包茎チンポをさらけ出す。ぶひーぶひーと荒い鼻息を漏らしながら、抜き用の美少女フィギュアを股間にあてがう。何度か擦り付ける内に絶頂に達し、黄ばんだ精子がフィギュアにこってりとこびりついた。 ※ 「磯村さん!」 「ん?おう……」 磯村は寝ぼけまなこを擦りながら、眼を覚ました。張り込みの最中に、車内で寝てしまったらしい。若い部下が珍しいですねと声を掛けた。 「俺、コーヒー買ってきますよ」 磯村はそれに答えず、ぼんやりとしていた。部下が車を出て行った後、スマートフォンを取り出してある番号に発信した。 「ああ、私だ。磯村だ。寄付金はたんまり払う。次は、頭の悪い女で頼めるか? 援助交際にも手を出しているような、頭も股も緩くて、すぐに悪い男に引っかかるような馬鹿にしてくれ。それと──セミナーに招待したい奴がいる」 缶コーヒーを買いに行く部下の背中を見送りつつ、磯村は電話に向かって告げた。部下は子どもが生まれたばかりと言っていた。今は幸せの絶頂のはずだ。磯村の精悍な顔に、悪辣な笑みが浮かんだ。 「きっとそいつも気に入るはずだ」 数分後、コーヒーを買った部下が戻ってきた。コーヒーを受け取り、助手席で飲み始めた磯村。その視線は、運転席に座る若い部下の姿を追っていた。コーヒーを飲む、若い部下の精悍な顔が、徐々に脂ぎっていく。額の皺が深くなり、目つきもぎょろりとした人相の悪いものに変わっていく。さらさらの黒髪も、白髪交じりのパンチパーマに変わり始めた。部下は運転席に座ったまま、酒焼けしたような濁声で喘いだ。 「い、磯村さん……俺、なんだか……んあぁ」 「っへへ」 磯村はニヤけながら、自分のワイシャツのボタンを外し始めた。ワイシャツを脱ぎ捨てると、男の肉体には似つかわしくない豊かな乳房がぷるんと揺れた。徐々に磯村の顔つきもまた、全く他人の女の顔へと近づいていた。そのまま隣の席を倒し、部下の上に馬乗りになる。磯村は女の乳房になった自分の胸を揉みしだきながら、他人へと変わりつつある部下の肉体に舌なめずりした。 「おう、ずいぶん男前になってきたじゃねえか……てゆーかぁ……大徹もぉ、ちょー濡れてきたんですけど」 磯村の口調も若い女のそれへと入れ替わり、自分のことを下の名前で呼ぶようになった。そのまま磯村は、部下のワイシャツのボタンを外していった……細マッチョだった部下の肉体は固太り、ビヤ樽のような寸胴体型に変わっていた。びっしりと胸毛が生い茂り、ムッと加齢臭が漂っている。部下が困惑したように口を開いた。 「な、なんじゃこりゃぁ! おい、磯村ぁ! ワシぁいったい、どうなっとるんじゃぁ!」 「えー? 大徹ぅ、難しいことわかんなーい。それじゃ、始めよっか」 磯村は部下のスラックスも脱がせると、ほとんど女性器になった自分の股間に、部下の男性器をあてがった。そのままぬぷりと男根を飲み込むと、強面のオヤジになった部下の顔が、でれっと崩れた。 「んほぉ♥♥ 磯村のおめこ、なんつう気持ちよさしとんじゃぁ♥♥♥」 そのまま座席を揺らし、カーセックスを続ける磯村と部下。部下のチンポが磯村のまんこを突き上げるたびに、変化はさらに進み、二人の脱ぎ捨てた服も変わっていく。磯村が脱いだのは高校の女子制服で、部下が脱いだのは柄物の下品なワイシャツとスーツになってしまった。 「も、もう辛抱たまらんッ! 磯村ぁ! 中に出すぞッ♥♥♥」 「ああん♥ 大徹もイッちゃう♥♥♥」 ブビュルルルルっ♥と部下のペニスが射精をした瞬間、二人の背筋に鋭い快感が走り、変化が完了した。部下のペニスは真珠入りの極太魔羅へと変わり、磯村の股間には男遊びの激しいガバガバまんこがしっかりと定着した。張り込み用の車もヤクザが乗るような黒塗りの車へと変化し、後部座席には違法な薬物や拳銃が積み込まれていた。 「えひひ……なあなあ、磯村ぁ。もういっぺんスケベしようや。ワシ、こんな魔羅になってしもうて、もうたまらんのや」 すっかりスケベなヤクザになってしまった部下が、磯村にデレデレと鼻の下を伸ばして頬ずりした。年下の精悍な部下が、こんなにも下品な中年ヤクザに変わり果てたことに、磯村は耐え難いほどの幸福を感じて頷いた。きゅんきゅんと子宮が疼いて仕方がない。 「うん……じゃあ、今度は口でしてあげるね」 磯村は、部下の噎せ返るような精液の臭いを口腔内で感じながら、新しい人生を与えてくれた総帥に深い感謝を捧げた。もはや総帥と、彼のセミナー団体を逮捕しようという気持ちは、磯村大徹の中に微塵もなかった。 (終) ────────── こういうふうに「他人になってしまう」話って好きなんですよね。しかも自分よりも劣った容姿や性格、能力になってしまうほど、強い快感が得られるようになってしまったら……という設定で書いてみました。完全に他人にならずに、一部分だけ他人になって、元の自分の生活に戻るパターンも面白そうです。 2019.9.19 齟齬のある文章を修正しました。
くろねこ@9605
2019-02-24 11:15:22 +0000 UTCゆきの
2019-02-24 10:01:52 +0000 UTCくろねこ@9605
2018-12-12 10:54:51 +0000 UTC十五夜十六夜
2018-12-12 05:21:20 +0000 UTCくろねこ@9605
2018-12-01 01:26:26 +0000 UTC黒竜Leo
2018-11-30 16:38:33 +0000 UTC