私は目が覚めたら知らない部屋に寝かされていた、それも裸で…
部屋の中を見回してみても服どころか棚の一つも置いてない、無機質なベッドが部屋の中央にただ置いてあるだけの空間だった
とりあえずここに居てもしょうがないので部屋から出ることにしよう、私をここに連れてきた者に出会わなければいいけど…
ドアは一つだけで他に窓などは無く、ここからしか出れないようになっている
私は意を決してゆっくりとドアを開いた、すると開いたドアの隙間から真っ白な煙が流れてきた…いや、これは冷気だ
ドアを開き切ると目の前には真っ直ぐな通路が伸びていた、しかしただの通路ではなく壁や天井は霜に覆われていて床は真っ白な冷気が溜まっていてよく見えない、更に通路の奥は冷気によって霞んでいた
あの部屋から出るためのドアは一つしかなかった、つまりこの冷たい通路を通るしかない…でも裸とはいえ出口も見えてるし少し寒いのを我慢すれば済む話だ
辺りを包む冷たい空気に鳥肌を立てながらも私は軽い気持ちで歩みを進めた
シャリ…シャリ…
一歩進むたびに床の霜が音を立てる、そして奥に進むほど急激に温度が下がっているのが肌を通じて感じ取れる、今や寒いを通り越して体が冷たい…
通路の左右からはゴウゴウと音を立てて大量の冷気が通路に流し込まれている、冷気の滝の近くまで来ると髪の毛がパリパリと音を立てて凍ってしまい私の髪は霜で真っ白になってしまった
それに思っていた以上に通路が長い事に気がついた、入り口から見た時はすぐ近くに思えた出口のドアが全然近づいてこない…
そして奥に進めば進むほどに温度が下がっていく、このまま奥に進み続けていたらどうなってしまうのか…そんな不安から進んできた道を振り返ると、なんと入ってきたドアが消えていた
冷気で見えないとかではなくドアがあった場所は左右の壁と同じ様な物に置き換わっていて私に戻るという選択肢はなくなってしまった
あれから数分ほど歩いたところで肌の感覚はついに無くなってしまった、指で触れても何も感じないのにただ冷たいという事だけはしっかりと伝わってくる
肌から伝わる感覚が冷たい事以外わからない私は歩いても足が地面に着いてるのかまだ床に到達してないのかすら危うい状態になっていた
更に奥に進むと息をするたびに体の中から冷えていくほど冷たい空気になっていた、そしてそんな冷たい空気に包まれていた私の体には異変が起きていた…いつの間にか私の体は髪と同じ様に霜で白くなっていた
もはや凍りついてもおかしくないほど冷え切った体は痛みもなく、ただひたすらに異様な冷たさを伝えてくる、あの部屋で目を覚ますまでの間に私の体は何か変なことをされてしまったのだろうか…
ただ、もしも普通の体だったらここまで辿り着くこともできず途中で凍りついていたのかもしれないと思うとゾッとする、まさかこの体を試すためにこの通路を歩かされている?
もしもそうならばゆっくりと歩いているのは危険なのでは…
冷たい空気に晒されている肌はついに氷までもが張り付き始めていた、先程からパキパキと小さく響く音は周囲の壁からではなく自身の体で成長する氷の音だった
このままではマズい、早くここを通り抜けてあのドアまで辿り着かないと私はここで冷凍されてしまう、そう思った私は感覚のない体を記憶を頼りに動かして急いで進み始める
大量の冷気が降り注いでいて冷気の壁の様になっている所にまで辿り着いた、戻ることのできない私は迷うこと無く白い壁を通り抜ける、そこは今までとは全く違う環境になっていた
冷気の壁を通り抜けた途端に周囲の空気が変わった、肌から伝わる冷たい感覚が今までとは比べ物にならないほど強烈になった、それは今までいた空間が温かいと思えるほどだった
強烈な冷気によって肌に所々張り付いていた氷はみるみる成長していき体の大半を覆っていく
私はあまりの冷たさに思わず足を止めてしまっていた、それに気づいて再び歩き出したが数歩進んだところで足が動かしにくくなってしまった
超低温の空間で動くことすら難しくなってしまった私は、とにかくゆっくりでも確実に前へ進もうと足を持ち上げる…だが持ち上げた足は冷気の影響を特に受けていたようでその表面は氷に覆われてしまい曲げることができなくなっていた
棒のようになってしまった足で不器用に少しずつ前へ進んでいく、だがその小さな一歩の距離ですら奥に近づくほど温度が下がっていくのがわかる
氷よりも冷たくなった肌に冷気が触れると感じたことのない未知の冷たい感覚に襲われる
ギシギシ…足を持ち上げ
ギギ…カコッ…床に下ろす
ミシ…ミシミシッ…体を進め
ギシギシ…足を持ち上げる
全身に広がった氷が動きを妨げ、動く度に氷の軋む音が響く
「歩く」という表現とはほど遠い動作ではあるが確実に出口に近づいていく
一歩また一歩、本当に少しずつゆっくりと進んだ私はついにドアの目の前まで辿り着いた……
でもその頃には私の体はほとんど氷漬けの様になっていた
足は完全に氷で覆われて床に張り付いてしまい、持ち上げるどころか動かすことすらできなくなっていた
ドアに伸ばした腕は途中で氷によって固まってしまい指すら動かせなくなってしまった
出口付近に降り注ぐ冷気は今までのとは比べ物にならないほど冷たく、氷に包まれた全身からも脳の許容を超えた冷感が伝わってくる
空気すら凍りつきそうな温度に晒されながらも意識を保っている私の体は、本来感じるはずのない超低温の感覚に襲われていた
冷たい事以外は何も感じずかと言って凍りつく事も意識を失う事もできない、肌の上で成長した氷によって氷漬けにされていく私は生きたまま冷凍されているような状態になっていた
どんなに動こうとしても足は床と氷で同化し、上半身を動かそうとしてもミシミシと少し氷が軋むだけでドアに近づく事は全く無い
私がそんな無駄な抵抗をしていると通路の左右から流れ込む冷気の量が一気に増幅した、まるで最後の仕上げと言わんばかりに大量の冷気が私に向かって噴出してきた
冷たい…冷たい、冷たい!!!
今なら入り口でも暑いと言えるほどの冷気が全身に吹き付けられる、氷が更に凍りつきギシギシと音を立てて硬くなっていく
もはや私自身が体に氷を生み出し、氷を硬くしているのではないだろうか…そう思うほどに今の私は冷え切っている
冷気に吹き続けられた私の瞳には氷が張ってしまい、霜と氷で歪む視界の先で伸ばした腕を見ることしかできない
そして何よりもこの状態になっても意識を保っているのが辛い、こんな事なら途中で凍りついてしまったほうが私は幸せだった
冷たい、冷たい…凍らせて……わた…しを、凍らせ……て…