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【SS+挿絵4+おまけ】Face out Facing out. 5 part5-2

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【SS+挿絵4+おまけ】Face out Facing out. 5 part5-1

【Prev】 【19】  VIPルーム内。  広い室内では、焦り、苛立つ声があちらこちらから聞こえていた。控えていたディザイアのスタッフたちからのものである。彼らは、半ばパニック状態に陥っていた。 スタッフA「次の出場者はこのままで良いのか!?ディザイア側が敗北したら洒落にならんぞ!」 スタッフB「だが八剱や宮...


【23】

 ケージリング内。

 戦況は一方的なもので、徠が無傷なのに対し、亮は身体中に痣を作り、鼻、口、前頭部から大量に流血していた。

 疲労困憊で傷だらけの弟に対し、兄は息の一つも乱れていない。


徠「少しは気概を見せろよ。せっかく日向くんが盛り上げてくれたのを台無しにする気?」


亮「っせぇな…!絶対ェぶっ殺す…ッ!!」


 なぜここまでの差が付いたのか。打撃が届かないわけではない。防がれるわけでもない。全ての攻撃が『受け流される』のである。

 徠の戦闘スタイルは何とも稀有なものだった。まともに構えも取らず、一見して無防備な体勢だというのに、そこを亮が攻めようとすると、まるで事前に見切っていたと言わんばかりに容易く対応してくるのだ。

 相手の力に無理に逆らわず空を切らせれば多少なりとも軸もぶれる。その上で正確に叩き込まれる徠の反撃も、並の威力ではない。突く、叩くというよりも、抉る、薙ぐという表現の方が適当に感じるほどだ。


亮(クソが…!しばらく見なかった内にどんだけバケモンになってんだよ…!?)


徠「はぁ~。この試合で少しでも息が乱れたら禁煙しようかと思ってたのに」


 退屈だと言わんばかりの溜め息に、亮はマウスピースを強く噛んだ。

 そして、再び徠へと向かっていく。真正面からの右ストレートが空を裂き、唸りを上げながら徠の顔面へと迫る。当たればノックアウトは間違いないほどの剛腕。

 だが、やはり当たらない。ストレートの軸の外側へ回り込むようにして一歩を踏み出した徠。その頬に拳を掠めることさえなかった。

 そして、亮の伸び切った腕を肘で叩き落とし、空いた鳩尾に追撃を喰らわせる。ついでに、衝撃で下がった顎をアッパーカットで突き上げるという容赦の無さだ。

 いずれの打撃も流れるような動作で、さながら舞踊のよう。しかし、そのコンビネーションの凶悪さは自明である。


亮「ぐ…はァッ…!!…くッ!」


徠「まだまだ喫煙所通いは続きそうだね」


 ケージリングの外で観戦している彗翔たちも、徠の格の違いに圧倒されていた。


彗翔「ウソだろ…!?県内の学生全員から恐れられてるあの亮だぞ…なんで攻撃が一発も当たんねぇんだよ…!?」


日向「あの動き、システマか…!」


彗翔「え、急にハミガキ粉!?」


日向「違う。システマはロシアの軍隊格闘術だ。ロシアの合気道や最強の護身術とも呼ばれている。生存力を高めるため、ありとあらゆる相手や状況に対応することを突き詰めた武術だ。並の格闘家じゃ通用しない…!」


彗翔「そ、そんな…!?」


 日向の言うように、システマは臨機応変に対応することを目的とした武術だ。それも、実戦で用いることを前提にされているのだから、当然一対一だけではなく多対一をも想定するもの。通常の格闘技のような一対一を前提として型にはまった構えなどは邪魔なだけで、むしろ肉体を柔軟に使えなくなる一因となりうる。

 システマにおいて重要とされるのは、呼吸と脱力。型を構えない事が型なのだ。


徠「ハァ、もう付き合いきれないよ」


亮「ぐっ!!」


 攻防のさ中、体勢を崩した瞬間に大きく足を払われ、亮がマットの上に思い切り俯せに倒れる。

 樹神亮が伏せる姿など、滅多に見られるものではない。ケージ脇に居る彗翔の動揺する声が内部まで聞こえていた。

 即座に復帰しようとしたものの、やはり徠の方が速かった。そのまま右腕を取られ、押さえ込まれる。背中側で腕を捻り上げるそれは、単純に見えて肩と腕両方を極めることができている。

 その姿は被疑者を取り押さえる警官のようでもあった。


徠「そういえばお前、この前日向くんに腕折られたんだってね。日向くんも後輩相手に本気じゃなかっただろうに情けない」


 亮の背に自重を掛ける形で動きを制限しながら、捉えた右腕へと力を加える。

 腹這いの状態では、手首を掴む手を振り払おうとしても上手くはいかない。

徠「一度骨折した部位は強くなるという俗説と脆くなるという俗説があるけど、どっちが本当なのかな?ちょっと検証してみようか」


亮「がァぁァッ!!」



 まだ癒えて間もない腕の骨に、無慈悲な圧力が掛けられていく。


彗翔「亮ッ!!」


日向(樹神徠…!まさかここまで実力差があったとは…ッ!亮には悪いがここまでだ…ッ!)


 問題児とはいえ、日向にとっては亮も大事な後輩の一人だ。まともな戦いになっているのならばともかく、蹂躙されているところを黙って見ているわけにはいかない。

 いつでも蒼惟に連絡を取れるようにと手にしていたスマホへ険しい視線を向けて数秒の逡巡。日向は決断を下した。


日向「天ヶ瀬!肩貸してくれ!」


彗翔「ちょ!まだ立ち上がんの無理スよ先輩!」


日向「そんなこと言っていられる状況か!」


彗翔「う、うす!」


 まだ足元はふらついているが、日向は彗翔の肩を借りて何とか立ち上がる。

 周囲に異変が起き始めたのは、その時だった。


プルルルル…

ブーブーブーッ


 ケージの周りを囲むように置かれた客席のそこら中から着信音が鳴り響き始める。


徠(…なんだ?客の様子がおかしい…)


 各々が試合から目を離し、手持ちのスマホを確認するにつれて、騒めきが広がっていく。


「な…!?なぜ私の写真がネットに!?」

「ここの位置情報に…本人タグ付けまでされている!?」


 ディザイアの観客たちは、MMA部の彼らとは異なりネットへのアクセスが可能なWi-Fiの使用を許可されている。ゆえに、地下でも連絡を受け取ることができ、ネットの情報を閲覧することができる。

 彼らが動揺を露わにしているのは、非合法なファイトクラブで観戦を楽しむ自分の姿をネットで見つけた友人からの連絡や、自分自身でその情報を見つけたことによるものだろう。


彗翔「…なんだ?観客たちが急にざわつき始めてる?」


日向「まさか…!?」


 それは即ち、MMA部が交渉の材料にしようとしていたものを使ってしまったということだ。

 そこに、ちょうど日向のスマホに蒼惟から連絡が入る。


日向「藤代!無事か!?」


蒼惟「はい、なんとか…!」


日向「そうか…!この様子、もうネットに上げたのか!?」


蒼惟「は、はい!計画だと脅迫に使うだけでしたけど…状況ヤバかったんで…すみません…!」


日向「そうか…藤代の判断は間違っていない。だが…切り札を切った以上ここからの交渉の余地が…」


 日向からしてみれば、交渉のカードは今切ったもので全てだ。脅しに使うものを実行してしまったいま相手方と対等に取引を行うことなどできはしない。敗北してしまえばそれで終わりだ。それどころか、運営の邪魔になるような真似をしてしまった自分たちをタダでは帰さないかもしれない。

 そう考える日向に対して、あの奇妙な少年と出会った蒼惟は違った。


蒼惟『いや、まだなんとかなるかもしれません…!本当に通用するかは未知数ですけど…』


日向「!時間が無い。話してくれ」


 蒼惟から新たな切り札を受け取った日向は、彗翔に支えられながらケージの近くまで歩み寄った。


徠「随分と面倒な事をしてくれたみたいだね。日向くんはこれがあったから時間稼ぎしてたのかい?」


日向「あぁ、ここの写真や動画をネット上にばらまいた」


彗翔「え!?どうやったんスか!?ここ電波はいんないスよね!?ディザイアのアプリしか使えないじゃないスか!?」


日向「天ヶ瀬、時間がない。しばらく黙ってろ」


彗翔「…う、うす」


 日向に遮られ、彗翔は肩を落としながらも口を閉ざす。


日向「ばらまいた写真は一部だ。残りも今すぐ投稿できるように藤代が待機している」


徠「…要求は?」


日向「今すぐ試合を終わらせろ。俺達MMA部の勝利としてな」


徠「交渉が下手だね日向くん。こっちだって今すぐ試合を終わらせられるんだよ」


 脅し付けるような言葉と共に、徠が亮の腕へ更に強い負荷を掛ける。

 骨の軋む音が彗翔たちまで聞こえてきそうだった。


亮「がぁぁ…ッ!!」


 だが、日向は怯まず、静かに、しかし威圧するような確かな気迫が込められた声でとある一言を口にした。


日向「なら、『VIPルームの中の写真も拡散されて良い』んだな?」


 それこそが、蒼惟から手渡された新たなカードであった。

 そもディザイアにやってくる客というのは、大物政治家や企業の社長など、程度の差こそあれど皆社会的地位のある人間である。その中でわざわざVIPルームに通される者というのは、それだけ特別な待遇を用意しなくてはならない大物か、あるいは人の目に触れられたくない、触れさせたくない人間ということだ。

 それがどのような人物であれ、万一にも表に出ないよう秘匿されている人間ということには違いない。


徠「!」


 驚いたように目を細めた徠の脳裏に、いくつもの思考が巡る。


徠(それが交渉材料になることを何故彼らが知っている?藤代蒼惟の洞察力か?だとしてもこのタイミングで切ってくるカードとしてはあまりにも出来すぎている。本当に彼らだけで考えたのか…?)


 常人からすれば瞬きにも満たない時間ではあったが、樹神徠という頭脳明晰な人間にしては時間がかかりすぎた。


日向(…乗った)


 日向がそう確信するには十分過ぎる間だった。


徠「…やれやれ。被害の状況もわかっていないのに交渉なんてできるわけないだろう。だけど君たちと話している時間もなさそうだ。最大限譲歩した条件を出そう」


日向「…言ってみろ」


徠「この団体戦は無効試合として打ち切る。この団体戦で賭けていた条件もリセットだ。君たちはこのまま無事に帰すし、ディザイアと天ヶ瀬くんとの契約も続く。もちろん宮鷹涼冴や廻栖野黎司も解放しない」


 全てが振り出しに戻るということだ。

 だが、徠と亮の試合はこのまま続けば亮の敗北で終わるだろう。そうすればMMA部の敗北も確定し、ディザイアのファイターとして契約を結ばされることとなる。それを考えれば、徠の提案は確かに譲歩したものだ。


彗翔「…そんなん認めるワケ…ッ!」


日向「天ヶ瀬」


彗翔「…っす…!」


 日向に制され、彗翔は再び口を閉じる。


徠「その代わり、1つだけ天ヶ瀬くんとの契約に変更を加えてあげよう」


日向「変更…?」


徠「ディザイアに天ヶ瀬くんが出る時、代わりにMMA部の他の部員が出てもいいことにしよう。その選出の権限を日向くん、部長の君にあげるよ」


 予期せぬ提案に、日向は眉を顰めた。


彗翔「な、何言ってんだ徠ッ!?オレとお前らディザイアの契約だろッ!?」


蒼惟『日向先輩!こんなの受けちゃダメです!こんなの受けたら絶対ーー』


 部員たちが口々に止めに入る。当然だ。そんな条件なら、日向が自分以外の部員を出場させるわけがないのだから。彗翔との契約内容を更新すると言っておきながら、これでは実質日向と単独契約を結ぶようなもの。

 もちろん、徠がこういう提案をしたのは、それを見越してのことだろう。


亮「クソ兄貴!!テメェの目的は最初からそれで…がァァッ!!」


 自らの下に敷かれながらも吠える弟に一瞥すらくれることなく、徠は再び腕に掛ける力を強くした。


彗翔「亮ッ!」


徠「外野どもは雑音を立てるなよ。今俺が言葉を交えているのは日向朔也だけだ」


 しばしの逡巡の末、日向は重々しく口を開いた。


日向「…わかった。その条件受ける」


 絶句する蒼惟と彗翔をよそに、徠はにやりと笑った。


徠「契約成立、だね」


 そして彼が技を解き、腕を上げて合図するとアナウンスが為された。


『え、えー大会運営にあたりトラブルが発生したようです。本試合は中断し、無効試合とさせていただきます!』


 メインイベントである団体戦も消化不良で終わった上に、安全と思っていた身を脅かされた観客たちからは「ふざけるな!」「なぜ画像が流出している!」などと怒りの声が上がる。

 それすらも全く気にせず、リングを降りようとする徠を引き止めたのは、亮だった。


亮「はぁ…ッ!はぁ…ッ!待てよクソ兄貴ィ…ッ!!」


 振り返った徠の視線の先には、痛む肩を押さえながら立つ亮の姿があった。

 骨にこそ異常は無いものの、長時間無理に力を加えられていたことで、右腕はしばらくは使い物にならない程度にはダメージを受けているらしい。

 呼吸のために胸と肩が忙しなく上下するのも、それに合わせて絶え間なく肌を滴り落ちていく脂汗も痛みの程を示していた。


亮「日向先輩は俺のサンドバッグだ…!テメェらゲロカスクソ野郎どもの玩具になんか絶対にさせねェ…ッ!!」


日向「亮ッ!もういいんだッ!もうやめろッ!!」



 日向の声は、激昂した亮には届かない。


徠「ほざくなよ。せっかく日向くんも止めてくれているんだ。これ以上醜態を晒さないでくれ」


亮「ざけんなッ!!なんでもテメェの思い通りになると思ってんじゃねェッ!!!」


 利き腕が使えない状態にもかかわらず、亮は徠に向かって突進した。

 何の策もなく、振りかぶった左拳をただの力任せで徠へと突き出す。

 元々万全の万全の状態でも一撃すら当てられなかったのだ。怒りで精彩を欠いた打撃が命中するわけもなく、徠はやはりそれを軽々といなして、亮の頭部へとカウンターの蹴りを叩き込んだ。

 刈り取るようなハイキックだ。



 強かに打つ音と同時に、血と汗の飛沫が宙へと散る。


亮「がッ…あァ…」


 自分の助走の勢いもあいまって生じた衝撃は、到底今の亮に耐え切れるものではなかった。背中から身を投げ出すようにして大きく倒れ込んでしまった亮は呼吸こそしているものの、脱力しきった体が起き上がってくる気配はない。


日向「亮ッ!!!」


徠「なんでも思い通りになんてならないよ。お前みたいな愚弟がいること。それがエビデンスさ」



カンカンカンカーンッ!


 無効試合というアナウンス直後のこの展開に周囲のスタッフも呆気に取られていたのだろう、思い出されたかのようにゴングが鳴らされる。


日向「亮!しっかりしろ!」


彗翔「亮ッ!」


 扉の鍵が開かれ、日向と彗翔は亮のもとへ駆け寄る。

 亮は失神しているようで、何の反応もない。


彗翔「徠てめぇ…ッ!」


 彗翔が強い怒りを乗せた視線で徠を射抜くものの、彼は依然として涼しい顔をしていた。


徠「正当防衛の範疇だろ。とにかく俺は失礼するよ。大した事のない事故でも、初動対応が肝心だからね」


日向「とにかく早く俺達を解放しろ。それまで藤代にはいつでも投稿できる状態のままにさせる」


徠「はは。それぐらい慎重な方が信用できる。これからも良いビジネスをしようね、日向くん」


 いつもと変わらない——いや、どことなくいつもよりも満足そうな微笑みが、日向へと向けられていた。


ディザイア vs 立惺高校 MMA部 団体戦

最終試合

ー 樹神 徠(ディザイア)

 無効試合 8:47

ー 樹神 亮(MMA部)


SS作成協力:はばねろ様(https://www.pixiv.net/users/20449949)


【おまけ】


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