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【Prev】 【15】 日向たちが戦っている最中、蒼惟は剴と共にディザイア施設内の廊下を走っていた。もっとも拉致と誤認させるために、蒼惟は剴に担がれているだけなのだが。 蒼惟「…あった!ストップストップッ!ここだ!」 ある扉の前で蒼惟が剴の肩をバシバシと遠慮なく叩いて示すと、猛進していた彼が急ブレーキを...
日向は天井を仰いだまま、必死に呼吸を繰り返す。
その表情にもはや戦意や余裕など残っていないーーはずだった。
日向「…はぁっ…はぁっ…ふっ…」
日向は天井で小さく振られる明かりに気づいたのである。それは作戦準備完了の『合図』。ディザイア内の写真をSNSに予約投稿できた蒼惟が、ライトをつけたスマホを振り暗闇の中から日向に『合図』を送っていたのだ。
仰向けに倒れた日向だからこそ気付くことができた光。八剱も、観客も、恐らくは亮と彗翔も、誰一人として気が付いていないだろう。最も難所となる作戦がうまくいったことに日向は安堵の笑みを溢したのだ。
八剱「あ?なに笑ってんだよ?頭ァ踏まれすぎてイカレちまったか?」
日向「別に。後はお前を倒すだけだとわかっただけだ」
八剱からすれば単なる敗者の減らず口のはず。だが、いくら痛めつけても一向に変わらないその態度が癇に障ったらしい。その眼光が一層剣呑な光を帯びる。
八剱「ハァァ?何ほざいてんだチビ助。俺は無傷。テメェは血まみれのズタボロ。こっからどうやったらテメェが勝てんだァ?」
八剱の手が日向の髪を鷲掴みにする。
頭皮の引き攣れる痛みに顔を歪め、抵抗の意を示しながらも、日向は無理やりに掛けられる力のままに立ち上がるしかなかった。
苦痛と疲労でふらつく脚を叱咤している間に、片腕と後頭部がしっかりと押さえ込まれる。
日向「ぐっ…クソ…ッ!」
八剱「ほォら。こうしてやりゃァピンボールごっこもできねェだろ?」
必死に逃れようともがいたところで体格からくる力の差は絶望的で、咄嗟に抜け出すことなど到底できない。
八剱「んじゃァ行く…ぜェッ!」
ズドォッ!!
日向「ぐっはァッッ!!!」
そして、勢い付いた膝頭が日向の腹部を突き上げた。
八剱自身の脚力は元より、地を蹴り付ける反動をも乗せた膝蹴りは日向のはらわたを激しく揺さぶる。
それも一発や二発では終わらない。強烈な膝蹴りが次々と突き刺さっていく。
その度に日向の小さい身体が跳ね上がる。小柄とはいえ五十キロ代の半ばもある体を軽々と扱われ、単純な筋力の差が相当なものであることを誰もが再認識する。
八剱「やっぱ生意気なバカに痛みで理解らせんのは一番だなァオイッ!!世の中強ェヤツが勝つんだよッ!!勉強になったなァチビ助ェッ!!」
とうに気息奄々の姿を晒し、糸を引く唾液と共にマウスピースが勢い良く唇からこぼれ落ちてもなお八剱は日向を攻め続けた。
日向の身体からは力が抜けきっていた。もはや八剱が立たせているだけに過ぎない状態だ。
八剱「んじゃあ最後にもう1回だけ確認テストしてやるよチビ助ェ。この試合勝つのは誰だ?」
後ろ髪を掴まれ、日向の視線が無理やりに持ち上げられる。至極満足気に笑う八剱を睨める双眸は、やはり変わりはしない。
日向「ハァ…ハァ…始めから…言ってん…だろ…勝つの…は…俺…だ…!」
今まさにトドメを刺されようとしているというのに、尚も闘志と敵愾心の鈍い光がそこにはあった。
八剱「やっぱテメェ頭ン中もガキレベルだわ。んじゃ死んどけ」
ドゴォッ!!
日向「…ガッ……ッ!!!」
無慈悲にも、最後の一撃が叩き込まれた。幾度目かの、硬い膝頭が腹に捻じ込まれる感覚。痛みを知覚するよりも先に日向の体が爪先までふわりと浮き上がり、そして、重力のままにゆっくりと崩れ落ちていく。
八剱はそんな日向を投げ捨て、観客に目を向けて勝利のアピールを始める。予想通り、何の番狂わせもない、当たり前の勝利に、観客たちは八剱へと口々に歓声を浴びせた。
その時だった。
ゴッ
…ドサッ…
場内が一気に静まり返る。ケージリングに立っていたのは、拳を天へと突き上げた日向だった。
誰しもが八剱が勝つと信じ切っていた。それだけに何が起きているのか理解できず、全員ぽかんと口を開けるのみだった。一つの声が上がるまでは。
彗翔「ワァァァンッ!!!ツゥゥゥウッ!!!」
静寂を打ち破ったのは、彗翔の声だった。
「「スリィィイッ!!!フォォォオッ!!!」」」
ハッとした観客が一人、また一人とカウントに加わる。
「「「ファァァイブッ!!!シィィィックスッ!!!」」」』
少し遅れてアナウンスもカウントに混じる。
「「「『エェェェィイトッ!!!!ナァァァィインッっ!!!!』」」」
リングでは日向は立ったまま。八剱は倒れたまま。どちらも微動だにしない。そしてそのままーー
「「「『「テエェェェェンンッッッ!!!!勝者ッ!!日向 朔也ッッ!!!」』」」」
カンカンカンカーンッッッ!!!
ーーとうとう、勝利のゴングと歓声が会場中に響き渡った。
日向「…よし…」
満身創痍の体を支えていられたのも、そこまで。糸が切れた操り人形のように崩れ落ちていく日向。だが、日向の身体がマットに叩きつけられることは無かった。
亮「先輩、なーにブッ倒れそうになってんスか?」
支えとなったのは亮の腕。崩れ行く日向の手首を掴んだのだ。
彗翔「そッスよ!勝ったんだから立ったままリング降りねぇと!」
逆側からも彗翔が肩を貸し日向を支える。試合が終わり亮と彗翔がリング内に飛び込んできたのだ。
彗翔「いやでも日向先輩ッ!マジですげーッス!!ガチでめっちゃカッケーっスッ!!!」
体格的にも実力的にも上の相手に打ち勝った。蒼惟の作戦も成功を収めた。そして酷く傷ついた身体は、後輩たちが左右から傷ついた身体を支えてくれている。
固く強張っていた戦士の顔も、ただの年相応の少年のものに和らいでいた。
日向「お前ら…ありがとう」
VIPルームでは、徠と滄冴が試合を見届けていた。
徠「流石だねぇ日向くん。あの絶望的な状況から逆転するなんてね」
滄冴「さすがにありえなくなーい?部長くんチート能力目覚めた?」
徠「掌底だよ。普通の試合なら反則だから確かにチートかもね」
滄冴「しょーていって手のひらで殴るやつでしょ?なんでそんなんでワンパンできんの?」
徠「掌底は拳や肘と違って外的なダメージはほとんど与えられない。リーチだって短い。でもね、『内部に衝撃を伝える』という一点においては最強の技なんだよ」
疑問を連ねる滄冴に対し説明を続ける徠の口振りには、段々と熱が籠り始めていた。
徠「一度倒れるふりをして最大限の助走距離を取り、脳に直接繋がっている顎をピンポイントに狙った。あんなものをモロに喰らったらどんな人間だって倒れてしまう。サイズが小さく、掌底部分が開いているオープンフィンガーグローブだからできた芸当だよ」
滄冴「ふーーん。よくわかんないけど、部長くんずーっとそれ狙ってたんだ」
徠「あぁ。勝つためなら手段を問わないその姿勢…!肉を切らせて骨を断つ精神…!そしてそれを可能にする強靭な肉体…!!!やっぱりどうしようもなく君を手に入れたいよ、日向くん…!!」
試合の勝敗すら気にならないくらいに陶酔して、果てには完全に自分の世界へと入り込んでしまったようだった。
滄冴「推し語ってる早口ヲタじゃん。えぐ」
興奮する徠の言葉を右から左へ聞き流して、滄冴が再びソファへと深く背をもたせ掛けた時だった。
ブーッ、ブーッ
傍に置いてあったスマホが鳴る。画面に表示された名は黎司だ。
滄冴「もしもし?うん、いるよ。でもスマホ気づいてないと思う。えー!医務室に誰もいないんだー!スタッフは全員倒れてるー?うーわ激ヤバじゃーん。うん、ボスが落ち着いたら伝えとくよー。じゃねー」
黎司からの話を聞いた滄冴は大げさな口調でリアクションを取る。
滄冴(ま、そーだよね。上でずーっと何かしてんだもん)
未だに何かを呟いている徠をよそ目に、滄冴は目線を窓の上方に向ける。その先には僅かに見えるメンテナンス通路の蒼惟の姿があった。
ディザイア vs 立惺高校 MMA部 団体戦
第4試合
× 八剱 擢真(ディザイア)
KO(顎への掌底) 13:21
○ 日向 朔也(MMA部)
SS作成協力:はばねろ様(https://www.pixiv.net/users/20449949)

【Prev】 【19】 VIPルーム内。 広い室内では、焦り、苛立つ声があちらこちらから聞こえていた。控えていたディザイアのスタッフたちからのものである。彼らは、半ばパニック状態に陥っていた。 スタッフA「次の出場者はこのままで良いのか!?ディザイア側が敗北したら洒落にならんぞ!」 スタッフB「だが八剱や宮...
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daipin
2024-03-31 16:00:55 +0000 UTC