【Prev】

【Prev】 【5】 試合開始と同時に刃連が走り込む。そして間合に入ったところで高く跳ねるとーー バンッ!! ーー黎司の頭部に向けて強烈な飛び蹴りを放つ。 しかし、その蹴りは寸でのところで黎司の太い腕で防がれた。 黎司「あっぶなァ〜!ってうぉッ!?」 刃連は蹴りを戻す勢いを利用して、逆サイドへの飛び蹴...
黎司「ほな、いこか」
ダダダッ!ドンッ!!
刃連「んう゛ッ!!」
黎司は助走をつけたタックルで、呆然と立ち尽くしていた刃連をマットへと叩きつける。そして馬乗りになり、刃連の手脚を封じた。
黎司「思うてたよりだいぶショックそーやなァ。まさかこんな傷痕になっとるなんて想像できんかった?」
刃連「……っ……」
刃連は何も口に出せない。その顔面からは血の気が引いて、引きつっていくばかりだ。
黎司「なんにも言えへんかァ。ほんなら代わりに俺が思ってたこと言ったろかァ」
日向たちの「動け!」「逃げろ!」という必死な叫び声も、刃連の耳には届いていない。黎司は拳を握りしめ、振り上げる。
黎司「俺な、慎哉のコト、ずゥーっとキライやったで」
その言葉と同時に黎司の拳が振り落とされる。
ドッ!!!
刃連「がッ!!」
その拳は刃連の顔面ど真ん中に叩き落される。
黎司「気づいとらんかった?せやろなァ。慎哉は周りのヤツの気持ちなんて何も気にしとらんかったもんなァ」
ゴッ!!!
刃連「ぶッ!!」
刃連の顔面にさらに拳が振り落とされていく。
黎司「中学のウチのサッカー部、ほんっまに弱かったんやで。まともな選手なんて俺1人しかおらんかった」
ガッ!!!
刃連「うッ!!」
黎司「でもな、サッカーはチーム戦や。フツー1人じゃできひん。だからオレはチームを育てた。俺より下手な奴らを褒めてェ、励ましてェ、頭も下げてェ。自分の練習の時間捨てて、下のレベルに合わせたしょーもない練習して。そこまでしてよォやっと人並みのチームになれたんや。よォやっとおもろなってきたんや」
ズンッ!!
刃連「ぐゥッ!!」
マウントポジションを取られ手の自由を失った刃連は、次々に振り下ろされる拳をただただ無防備に受け続けていく。もっとも手が自由であったとしても、黎司の太い腕を防ぐことなど到底できないだろう。ましてや、今の刃連の呆然とした精神状態であれば尚更だ。
黎司「でもなァ、慎哉。自分が入ってきてそれが無駄だったっつーコトがわかった。俺が2年手塩にかけて育てたチーム全員よりな、慎哉1人の方がよォっぽど強かったんよ」
ドスッ!!
刃連「がはッ!!」
黎司「とーぜんチームの奴ら全員ガン萎えや。俺たちの、俺の2年間は何やったんやって。それでもな、俺は萎えとるみんなを励ました。なんとかチームの形保たせとった。いちいち慎哉が言うキッツい言葉も流そうとした。でもなァ、それも限界がきた。それで起きたのがあの事件や」
ガッ!バンッ!!
刃連「ぶはッ!!」
刃連の口から血まみれのマウスピースが吹き飛んだ。もう刃連の顔面を守るものは何もない。
黎司「あの事件でこんな傷負うてもうた。治すんにぎょーさん借金も抱えてもうた。もー人生めちゃくちゃや。なァ、俺はどこで間違えたん?俺はどうしとったら良かったん?教えてェや慎哉」
黎司の拳がこれまでで一番高く振り上げられていく。
黎司「なァ教えてくれや、慎哉ァ。俺は何のために生…ッ!!」
バァァンッ!!!
黎司の拳が振り下ろされる瞬間、強烈な回し蹴りが黎司の身体を吹き飛ばした。それはケージリングの金網を乗り越えてきた日向だった。
黎司「…!」
カンカンカンカンカーンッ!
リングマットに倒れ込んだ黎司の耳にけたたましく鳴り続いていたゴングの音がようやく入った。日向は刃連が数回殴られた時点でコーナーストップを宣言し、リングにタオルを投げ込んでいた。だが投げ込まれたタオルにも、何度も響き渡るゴングの音にも黎司は気づかず、刃連を殴り続けていたのである。
日向「この音が聞こえないのか?試合はとっくに終わっているぞ」
黎司「あ~ほんまやわァ。慎哉と久々の喋るんに夢中になってて全然気づいとらんかったなァ」
日向「お前…どの口が…!」
ほどなくしてようやくケージリングのドアのロックが解除される。
蒼惟「刃連ッ!!」
彗翔「廻栖野てめぇッ!!」
黎司に殴り掛かろうと拳を振り上げる彗翔。だがその腕は日向に掴んで止められた。
彗翔「先輩ッ!?なんで止めるんスか!?」
日向「お前の気持ちはわかる。だが今は刃連が先だ…!」
彗翔「…チッ!…うす!」
日向たちは刃連を囲んで呼びかける。だが刃連はぐったりと倒れて反応を示さない。
蒼惟「刃連!刃連ッ!…気を失ってる…!」
彗翔「徠!医務室に運ばせろ!」
彗翔は叫ぶが、スマホの向こうから聞こえてくる徠の声は悪びれる様子もない声だった。
徠『あぁ、今担架を向かわせているところだよ』
日向は立ち上がり、担架を持ったスタッフが走ってきているのを確認すると、彗翔からスマホを奪い徠のいるVIPルームを見据える。
日向「試合前に言ったはずだぞ、徠…!コーナーストップしたらすぐに試合を止めろと…!」
徠『ゴングは日向くんの言葉の直後に鳴らしたよ。だけどまさか廻栖野くんがここまで熱中するとはね。申し訳なく思うよ』
日向「ならケージのドアが開かなかったのは何故だ?鍵が開いたのは俺がこいつを蹴り飛ばしてからようやくだぞ?」
徠『至らぬ点が多くて言葉もない。ただ今日の興行は異例なものなんだ。我々運営側も苦労していることを理解してもらいたいな』
日向「…下衆が…!」
スタッフがリングに上がってくると、刃連を担架に乗せる。
蒼惟「日向先輩、刃連の付き添いは俺が行きます!後の試合、お願いします!」
日向「あぁ。頼んだぞ、藤代」
彗翔「オレも途中まで送る!」
彗翔と蒼惟はスタッフに続いてリングを後にする。リングに残った日向に黎司はユルい口調で声を掛ける。
黎司「いやァ、ホンマすまんかったわァ、部長クン。悪いのはゴングの音に気づいとらんかった俺や。あんまり徠クンやスタッフさんたちを悪く思わんといて」
日向「何が気づいていなかった、だ。見え透いた嘘はやめろ」
日向は振り返ると黎司を見据えて喋り出す。
日向「俺がコーナーストップを叫んだ時、お前が一瞬動きを止めたこと。俺は見逃していないぞ」
黎司「…は?」
黎司の目から笑みが消えた。だがそれはほんの一瞬。すぐに元の笑顔を造り上げる。
黎司「ほんまァー?部長クンの見間違いやと思うけどなァ」
日向「…そうか。ならこれも気付かないフリをしているのか?」
黎司「と、言いますと?」
日向「お前と刃連の過去は知らない。だが、それでもこれだけはわかる。お前のその感情は、ただの羨望と嫉妬だ」
黎司「…へェ〜、やっぱ部長クン面白いなァ。メンタリストYouTuberでもできるんとちゃう?」
黎司はそう言うと振り向いてリングを降りていく。先程と違い黎司の表情は崩れなかった。だが日向は確かに見抜いていた。黎司の心がほんの少し、そして確実に、揺らいだことを。
ディザイア vs 立惺高校 MMA部 団体戦
第2試合
○ 廻栖野 黎司(ディザイア)
TKO(コーナーストップ) 3:21
× 刃連 慎哉(MMA部)
徠「お疲れ様、黎司。やっぱり君は良い仕事をするね」
黎司「あれま徠クンやないの。降りてきとったん?」
黎司が入場ゲートに戻ると徠が煙草を吸いながら壁に寄りかかっていた。
徠「Wifiはこの施設中に飛んでるからね。それにしても1試合目の悪くなった雰囲気をよくここまで盛り上げてくれたよ」
黎司「ほんまプレッシャーエグかったわァ~。これでもし連敗しとったら、徠クンに何されるかわからんもん。もォー不安で不安で、夜しか眠れんとこやったわァ」
徠「あはは、グラウンドに持ち込んだ後は特にすごかったね。まるでゴングの音に本当に気づいていないかのように殴り続けるんだから」
黎司「あー、あれなァ…ほんっま大変やったわァ!あんな喧しいゴングの音を気づかないフリできるなんて、アカデミー男優賞の受賞者決まったんとちゃう?」
徠「ふーん。ま、日本アカデミー賞ぐらいは取れるかもね」
黎司のほんの僅かな言い淀み。詐欺師である徠がそれを見逃すはずはなかった。だがそれに触れはしなかった。
涼冴「てめぇら邪魔だ。気が散る。他所でやれ」
そのやり取りを不快そうに横目で見ていた涼冴が渋々口を開く。
黎司「おっ、涼冴クンもおったん。じゃ、次なん?」
涼冴「お前には関係無ぇ」
黎司「連れへんなァ~。俺たちも団体戦のチームやろ?あちらさんみたいに仲良くしようやァ~。それともアレなん?せっかく友達が助けに来てくれてんのに、試合させる徠クンに怒ってん?」
涼冴「は?意味わかんね」
涼冴は黎司の言葉に全く興味を持たず聞き流す。
黎司「あれェ?徠クン、涼冴クンに団体戦のコト言っとらんの?」
徠「もちろんメッセで送ってあるよ。うちが負けたら宮鷹くんを渡すこともね。ま、宮鷹くんのことだ。いつも通り目を通していないんだろう」
黎司「え~、徠クン、俺がメッセの返信ちょっと遅くなるとめっさ機嫌悪くなるんに、涼冴クンには甘いンとちゃう?えこひーきやで、えこひーき」
徠「まあまあ。とりあえず俺らは上がろうか。じゃ、宮鷹くん、次はよろしく。リングの清掃ももう少しで終わるみたいだからさ」
徠と黎司はエレベーターに乗り込みその場を後にする。
涼冴「…面倒くせぇ」
1人になった涼冴はたった一言、そう口にするのだった。
SS作成協力:スケトウダラ・マキコ様(https://www.pixiv.net/users/1614613)

【Prev】 【8】 観客たちの上げる熱狂の声が場を満たす中で、ケージのマットに残った血と汗を、スタッフ数人が慣れた手付きで拭き取っていく。 ディザイア側が1戦目の雪辱を果たしたことで、観客達のもたらす熱量のボルテージはまた1つ上がったようだった。しかし結果として、彼らが叫ぶ言葉の中身は僅かたりとも変...
うらき
2023-06-02 01:27:12 +0000 UTCうらき
2023-06-02 01:26:35 +0000 UTCdaipin
2023-05-13 06:03:39 +0000 UTC佐藤ていぎ
2023-05-12 17:14:46 +0000 UTC