【Prev】

【1】 日向「お前ら、行くぞ」 いつもと変わらない芯の通った日向の声。それは決して大きな声ではなかったが、カーテンの向こうに立ち込める喧騒の隙間を縫って、MMA部の部員たち四人の耳にしっかりと届いた。 「っしゃあ!」「ぅす!」「はい!」「うーい」 それに応える部員たちもまた、いつも通りのテンションで...
剴「しゃあァッ!まずはコイツからだァッ!」
試合が始まるやいなや、剴は力比べをしようと手を差し出してくる。決して大柄な体つきではないが、その体格以上のプレッシャーを放っていく。
彗翔「蒼惟!そいつの誘いなんか気にすんな!蹴り入れてけ!」
蒼惟「はーん、そういうことね。いいぜ」
そう言うと蒼惟は、剴へと近づいていきーー
彗翔「…なっ!?」
ーーなんと手を組み合わせ、ロックアップの体勢に入った。
彗翔「なっ!?何やってんだよ蒼惟!?んな馬鹿な誘い乗るなって!」
蒼惟「いーじゃんコレ。プロレスラーと戦(や)るなんてなかなかねーだろ」
彗翔「あーー!何やってんだよバカーーッ!!」
自分でさえ乗らなかった誘いに乗ってしまった蒼惟を見て、彗翔は頭を抱え出す。
剴「オメェ、ノリがわかってんなァッ!だけどよォッ!」
蒼惟「ぉわッ…!?」
蒼惟の身体はグイグイと後ろに押されていく。圧倒的な体格差。蒼惟の引き締まった腕も、剴の丸太のようなそれと比べれば、いささか頼りなく見えてしまう。
剴「軽ィなァッ!!ちゃんとメシ食ってんのかァッ!?」
ガシャァンッ!!
蒼惟「ぐっ…!」
派手な衝突音が会場中に響き渡る。蒼惟の身体は一瞬にしてリングの中央からケージのフェンスに叩きつけられたのだ。
剴「情けねェなァッ!ちっとは気合入れろやッッ!!」
ドゴォッ!!
蒼惟「がァッ!!?」
腕をフェンスに押し付けられてがら空きとなった蒼惟の腹に、剴の強烈な膝蹴りが打ち込まれる。蒼惟はあまりの痛みに声にならない声を上げる。たった一発の膝蹴りだったが、蒼惟の腹筋がみるみるうちに赤く染まってきた。
剴「オメェそんなんで本当に天ヶ瀬より強ェのかァ!?仕切り直してやるから今度は気合見せろやッ!!」
そう言うと剴は蒼惟から手を離し、再びケージの中央でロックアップの体勢に構える。
蒼惟「…くそッ!」
剴「またオレがフェンスまで押し込んだら今度こそ天ヶ瀬にリング上がってもらうからなァッ!」
彗翔(えっ…!?ルール変わってね…!?)
蒼惟「はっ!次は俺が押し付けてやるよ!」
蒼惟は再び剴の手を掴み全身の力で剴を押す。だが、剴は微動だにしない。
剴「やっぱオメェホラ吹いてんなッ!オメェみたいな軟弱野郎が天ヶ瀬より強いワケあるかよッッ!!!」
蒼惟「くっそ…!コイツ、なんつー馬鹿力…ッ!」
剴は蒼惟をグングンと押し出していく。このまま再び蒼惟の身体がフェンスに叩きつけられると誰もが予想した、その時だった。
蒼惟「…なーんてな」
剴「…ォ…ッ!?」
蒼惟は剴を巻き込んで、バランスを崩すように後ろに倒れ込む。そして蒼惟は器用に剴の腕を絡め取り、腕ひしぎ腕固めの要領で一気に締め上げる。
剴「ガァアァッ!?!?」
今度は剴が苦悶の声を上げる番だった。
蒼惟「ワリーワリー、言ってなかったけど俺、相撲取りじゃなくてグラップラーなんだわ」
蒼惟はグラップラーの戦い方、つまり総合格闘技の試合における寝技、投げ技、絞め技、関節技といった組み技を用いる戦い方を得意としていた。
彗翔「すげぇ!蒼惟のヤツ、コレを狙ってたのかよ!」
日向「あぁ。グラップリングに持ち込めば、藤代は負けない」
蒼惟の関節技は完全に極まっており、剴の馬鹿力を以ってしても解けるようなものではなかった。
蒼惟「ほら、怪我する前にさっさとギブアップしとけよ」
剴「ギブアップだァ!?ナメんなァァッ!!」
剴はそう叫ぶと蒼惟ごとズルズルと這っていき、空いている方の手でケージのフェンスを掴んだ。
剴「エスケープッ!ロープブレイクだッ!!」
蒼惟「ヒュー♪やるじゃん。だけどな」
手を離した蒼惟は流れるように剴の背中に身体を滑らせ、首に腕を、胴体と腕に脚を巻き付ける。
蒼惟(腕ひしぎの極まりが悪かった。コイツの関節、可動域がフツーのヤツよりめちゃくちゃ広い。サブミッションはあんまり効かねーのか?なら…!)
剴「ぐッが…ッ!?!?」
一瞬にしてリアネイキッドチョークが完成していた。
剴はまだ何が起こったかも理解らないままに脳への血流を絞られていく。
蒼惟「俺はMMAグラップラー。しかもここはレフェリーもいない地下格闘技。ロープブレイクなんて知らねーよ」
剴「が…ァ……ク…ソ……ッ…」
剴の意識が朦朧となる。歯を食いしばって必死に拘束を解こうとしたが、蒼惟の技はしっかりと決まっていて、そう易々とほどけるものではなかった。やがて剴の目がとろんとなり、全身が弛緩していく。
蒼惟「てかそもそもロープもねぇっての」
カンカンカーーーンッ!!
剴の身体から力が抜けきったと同時にゴングが鳴り響いた。剴の巨体がリング上で大の字に伸びており、そのすぐそばで蒼惟はガッツポーズを決めた。
『勝者、立惺高校 総合格闘技部、藤代 蒼惟ッ!!ほとんどノーダメージで秒殺だァァッ!!』
彗翔「ッしゃあ!まずは1勝ッ!!」
日向「ああ…!」
日向の返事にも自然と力がこもる。
蒼惟は決して格闘技に関して特出した才能を持っているわけではない。だが、積み重ねた体力づくりが、何度も反復した練習が勝利を掴み取ったのだ。
MMA部で積み重ねた練習は地下格闘技の選手相手にも通用する。
リング上で、得意げに笑う蒼惟の顔を見て、日向の口角もほんの少し緩んだのだった。
ディザイア vs 立惺高校 MMA部 団体戦
第1試合
× 稲叢 剴(ディザイア)
TKO 2:04
○ 藤代 蒼惟(MMA部)
SS作成協力:スケトウダラ・マキコ(https://www.pixiv.net/users/1614613)

【Prev】 【3】 「ド素人相手に何瞬殺されてんだ!?」 「ふざけんなッ!金返せ金ェッ!!」 団体戦の1回戦は多くの観客の予想を裏切って、それも一瞬の決着で、MMA部が勝利する結果となった。期待を裏切られた観客たちの怒号は、ディザイア側の入場口近くで次の出番を待つ青年の耳にも届いていた。 黎司「あーあー、...
うらき
2022-12-17 09:14:27 +0000 UTC