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【SS+挿絵3+おまけ】Face out Facing out. 5 part1-1

【1】

日向「お前ら、行くぞ」


 いつもと変わらない芯の通った日向の声。それは決して大きな声ではなかったが、カーテンの向こうに立ち込める喧騒の隙間を縫って、MMA部の部員たち四人の耳にしっかりと届いた。


「っしゃあ!」「ぅす!」「はい!」「うーい」


 それに応える部員たちもまた、いつも通りのテンションで相打ちする。常人ならば足を踏み入れる前にすでに尾を撒いて逃げ出す物々しい雰囲気。だが、この男たちはその中でも至って飄々としている。決して自分たちの今置かれている状況を顧慮していないわけではないだろう。だが、お互いの見知った顔が普段のままの心持ちを保たせているのだ。


『立惺高校 総合格闘技部、入場ッ!!』


 スピーカー越しにアナウンサーの声が響き渡ると、入場ゲートのカーテンがバッと開いた。日向たち5人はスポットライトや爆音の音楽を浴びながら、会場中央へのケージに向けて歩き出す。



 ーーそう、今日は総合格闘技部、通称MMA部の部員たちが、地下格闘技「ディザイア」の選手たちと5対5の団体戦を繰り広げるのだ。彗翔と涼冴をディザイアから救い出すために。



蒼惟「スモークもレーザーもすげぇ〜…そこらの売れてるバンドのライブより金かかってんじゃねえの…?」


彗翔「だろ?男ならテンションアガるよな!」


蒼惟「いやお前、ココ抜ける気あんのかよ?」


 ニッと白い歯を見せて笑う彗翔と苦笑する蒼惟。二人の会話は、まるで部活の大会に出場する前のようなやり取りだ。

 普段の学生生活では決して味わうことのできない大舞台。少年と青年の狭間にいる彼らであれば浮足立ってしまうのも無理もない。


刃連「…観客もカネがかかってますね。国会議員やら大手建設の社長やら、有名人がたくさんいますよ」


 刃連の言葉が二人を、一気に現実に引き戻す。刃連は視線だけを左右に動かして観客席を素早く見渡している。


彗翔「え!?そんなんわかんの!?」


 彗翔は驚きの声をあげ、ぶんぶんと首を振り回して観客席を見渡す。もちろん彗翔は国会議員や社長の顔など知りもしないため、誰が誰だか判別できるはずもないのだが。


 だが刃連の言う通り、客席にはディザイアの運営母体に関係する様々な面々が並んでおり、それぞれが別の反応をみせていた。

 学生が地下格闘技選手によってズタボロにされる「普通のショー」では観られない展開を期待して息を荒くする者。

 学生のレベルの低い戦いなどを観るために高い金を払っているのではないと落胆の溜息を吐く者。

 だが、観客全員には、ひとつの共通認識が存在した。


亮「どいつもこいつも『MMA部が勝つなんてあり得ない』って顔してますよ。どうすか先輩?完全アウェイな状況で観客から見下げられる気分は?」


日向「知ったことか。俺たちは勝って天ヶ瀬と宮鷹をここから出す。それだけだ」


亮「ふーん。ま、先輩ならそう言うと思いましたよ」


 亮はフンと鼻で笑った。こんな状況においても、亮は日向を煽ることを忘れない。いや、これも彼なりの発破の掛け方なのかもしれない。少なくとも日向にはそう伝わっているのであった。


彗翔「…おっ?」


 MMA部の面々がケージの下にまで辿り着くと彗翔のスマホが振動し始める。彗翔は画面を見て少し眉をひそめると、スピーカーボタンをタップした。


徠『ようこそ、ディザイアの舞台へ。後輩たちがこの舞台に来てくれるなんて、MMA部の創設者として感動するね』


 スマホのスピーカーから流れ出したのは徠の声だった。


日向「樹神 徠…!」


 ディザイアは文字通り地下ファイトクラブだ。スマホの電波は全く入らず圏外だ。電話はもちろん、インターネットもSNSもマップも使えない。

 だが、今回団体戦の連絡を円滑に行うために、ディザイア施設内の無線LANに繋いでいれば徠との直通通話だけはできる、特殊な通話アプリを使うことになったのである。


彗翔「どこだ徠!?ツラ見せろよ!」


刃連「上です」


蒼惟「上…!?」


 MMA部の面々が見上げると、日向たちがいる場から数階上の階層にある部屋のガラス越しに人影が見えた。


徠『へぇ、聞いていた通り刃連くんは本当に眼が良いんだね。ここはこの会場のVIPルームなんだ。ガラスから会場全体を眺められるのはもちろん、君たちの表情はモニター越しにしっかり見れるようになっているんだ』


 徠の言う通り、刃連以外の部員たちには、その姿ははっきりとは見えなかった。頭上に目をやると、スポットライトの光が眩しく、ちょうど逆光になる位置に彼はいるのだ。


亮「文字通り高みの見物ってか、クソ兄貴」


徠『仕方ないだろ。俺だって色々やらなきゃいけないんだ。君たちと呑気におしゃべりだけしてるわけにもいかないんでね』


日向「ここまで来て御託はいらない。こっちの準備はできている」


 日向たちにとって、もはや徠と言葉を交わすことなど時間の無駄であった。だが徠は飄々と言葉を紡ぎ続ける。


徠『まあまあ、せっかくの舞台なんだ。オーディエンスにもルールを伝えないとね』


 徠の言葉に合わせて会場のいたる場所に設置されたモニターの表示が切り替わり、団体戦のルールを説明するムービーが流れ始める。


ディザイア vs MMA部 団体戦ルール

ルール1.5対5の星取り戦形式で試合を行い、先に3勝したチームが勝利となる。

ルール2.両チーム1人ずつがケージに入り試合を行う。レフェリーは存在しない。

ルール3.試合は時間無制限一本勝負とする。ラウンドやインターバルは存在しない。

ルール4.試合の決着はKO、TKO、ギブアップのいずれかのみとする。

ルール5.すべての試合の終了後、敗北したチーム全員が「制裁」を受ける。


蒼惟「めちゃくちゃなルールだな…特に最後の物騒なのなんだよ?」


刃連「ここの人間が考えることですからね。どうせロクなことじゃないですよ」


 試合の後に「制裁」でどんなことが行われるのか、彗翔はまだMMA部の面々に話せていなかった。


彗翔(あんなこと言えねーよ…そもそもオレたちが勝てば関係ねーし…!)


 彗翔は、表情を固くして、ごくりと唾を飲み込んだ。


徠『あとここには書いていないけど、君たちにスマホの持ち込みを許可したのはあくまで俺とのコミュニケーション用だ。場内の撮影録音は固くお断りしているよ。大切なゲストがたくさんいる秘密の場所だからね』


蒼惟「それはもう聞かされてる。どっちにしろここから出る前に一旦スマホは取り上げられて中身チェックされるってこともな」


徠『ふふ、話が早くて助かるよ』


日向「そんなことより、俺たちがどの順番で戦うのかは好きに決めて良いんだったな」


徠『あぁ。ディザイア側の選手は先に出す。君たちの誰が戦うかはその場で決めてもらって構わな…』


亮「ならさっさと1人目を出してこいよ」


 食い気味に放たれた亮の言葉に徠は短く舌打ちをする。


徠『本当に煩い愚弟だ。まぁ良い。じゃあゲームを始めようか』


 スマホの通話が切れると、再びアナウンサーの声が響き出す。


『さぁ、若き挑戦者たちに最初に立ちはだかるのはこの選…』


剴「オオオォォッ!!リベンジだァァッ!!」


彗翔「げッ…!この声まさか…!?」


 アナウンサーの声や爆音の音楽に打ち勝つ程の雄叫びを上げながら、ケージに男が駆け込んできた。


『175センチ、72キロ、稲叢ァァァ剴ィィィッッ!!!』


剴「しゃあああッッ!!天ヶ瀬彗翔ォォッ!!リング上がってこいやァァッ!!!」


 ディザイア側の一番手は、彗翔がこの前の試合で死闘の末なんとか勝利した相手、プロレスラーの稲叢 剴だった。


刃連「うっさ…」


日向「呼ばれてるぞ、天ヶ瀬。行くか?」


彗翔「嫌っすよ!アイツいくら殴っても全然効かねぇんスもん!頭クソ硬ぇし!」


 横目で見てくる刃連と日向に彗翔は全力で手を振って拒否アピールをする。


蒼惟「つーことはコイツが彗翔が言ってたプロレスラー?」


 そう言いながら蒼惟はジャージを脱ぐと、ストレッチで身体を伸ばす。細身ながらも鍛え上げられた色白でしなやかな肉体が、会場のライトに煌々と照らし出された。


彗翔「そ、そうだけど…蒼惟お前やれんのかよ?」


蒼惟「たり前だろ。てことで日向先輩、俺からで良いです?」


 初めての舞台、しかも強敵と聞いている剴を見ても蒼惟の瞳に恐れはない。それどころか、表情に余裕すらも感じられた。


日向「あぁ、頼んだ」

 

蒼惟「うーす、任せてくださいよ」


 蒼惟がケージに上がると同時にフェンスのドアが閉ざされた。その時、再びアナウンサーの実況が始まった。


『最初の挑戦者が決まったァ!175センチ、62キロ、藤代ォォ蒼惟ィィィッ!!!』

  

蒼惟「はは、マジで本格的」


剴「なんだオメェ!天ヶ瀬彗翔はどうしたァッ!?」


 変わらない声量で剴が叫ぶ。いや、剴にとってはこれが普段の喋り方なのかもしれない。


蒼惟「あー、なんかワリーけどお前の相手、俺ね」



剴「ふざけんなァ!オレはリベンジに来たんだァッ!!天ヶ瀬ェ!お前がリングに上がってこいやァッ!!」


 剴はケージを掴んでガシャガシャと揺らす。


彗翔「いやもうケージ閉まってるから上がりたくても上がれねーよ…」


剴「登れば良いだろ登ればァッ!!オメェが来ねェならオレが行ってやろうかァッ!?!?」


蒼惟「いや待て待てって…えっと、稲叢だっけ?1つ良いコト教えてやるよ」


 本当にケージを登り始めようとする剴に、蒼惟は慌てて声を掛ける。


剴「何だァ!?」


蒼惟「彗翔とのスパーで勝ってんの、いつも俺だぜ?その彗翔が勝った相手に、俺が負ける訳ねーじゃん」」


剴「何ィッ!?!?」


彗翔「は…はぁ〜ッ!?!?」



 剴と彗翔が同時に声を荒げる。


剴「面白ェッッ!!オメェが天ヶ瀬より強ェってんならヤってやるよォッッ!!!」


 カーーーンッ!!


 ゴングが鳴り響く。

 柔と剛。同い年でありながら、テンションも体格も立場も対照的な2人の戦いが今始まった。


SS作成協力:スケトウダラ・マキコ(https://www.pixiv.net/users/1614613)


【Next】

【SS+挿絵3+おまけ】Face out Facing out. 5 part1-2


【おまけ】

【SS+挿絵3+おまけ】Face out Facing out. 5 part1-1 【SS+挿絵3+おまけ】Face out Facing out. 5 part1-1 【SS+挿絵3+おまけ】Face out Facing out. 5 part1-1 【SS+挿絵3+おまけ】Face out Facing out. 5 part1-1 【SS+挿絵3+おまけ】Face out Facing out. 5 part1-1

Comments

ありがとうございます!ずっとやりたかった団体戦、ようやく実現しました!とはいえ2試合目以降は全然できてないです…w

うらき

‪Thank you! :3‬

うらき

This is gonna be so cool! ^^

mikadosora

おおおお! 団体戦キタ━(・∀・)━!!!! これは超燃え展開の超期待展開ですー!(語彙力

ゆーと


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