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【1】 刃連「…これ…何やってんですか…?」 部室に入った刃連 慎哉(ゆきい しんや)はリング上の光景に困惑する。 彗翔「痛い痛いマジで痛いッ!!ギブッ!ギブッ!!」 日向「解いてほしけりゃさっさと吐け。週末お前は何してた?」 彗翔「無理無理ッ!!マジ言えないんスって!!ギブゥッ!!!」 包帯だらけの天ヶ...
町外れにある廃棄された空き倉庫。一般人は誰も近づかないこの場所に日向と彗翔は来ていた。
彗翔「なんなんスかここ?すげーボロいスけど…」
日向「昔、徠とその取り巻きが使っていた溜まり場だ。そしてあいつらからMMA部を解放した場所でもある」
彗翔「ここがスか…てか、MMA部を解放したって、一体どうやったんスか?」
日向「…その話は後だ。来たぞ」
ブロロロロ…キキッ!
外からエンジンの音が近づき、倉庫の前で止まる。車のドアを閉めた音がしてから程なく、徠が倉庫の中に入ってきた。
徠「やぁ、天ヶ瀬くん。週末はお疲れ様。元気そうで良かったよ」
彗翔「徠…!てめぇ、よくも涼冴を…ッ!」
徠「せっかく素敵なゲストもいるんだ。その話はまたにしよう。俺もキミの今回の守秘義務違反には目を瞑るからさ」
彗翔「なっ…!?ふざけん…!!」
日向「ここは俺に任せろ、天ヶ瀬」
彗翔「日向先輩…!」
徠に飛びかかろうとする彗翔を日向が制す。日向と視線を合わせた徠は嬉しそうに笑みを浮かべる。
徠「久しぶりだね、日向くん。そろそろ来る頃だとは思っていたよ」
それに対し、日向の表情と口調は冷淡なものだった。
日向「何が守秘義務違反だ。俺との契約はどうした?『MMA部の部員には二度と手を出さない』、だろ」
徠「日向くんは相変わらずせっかちだなぁ。久しぶりなんだからもっとゆっくり話そうよ」
徠はポケットからタバコを取り出し、火をつける。
徠「日向くんの認識には少し誤りがあるね。確かに2年前、日向くんは俺との取引に勝った。でもそこで結んだのは『俺”から”はMMA部の部員に手を出さない』という契約だ」
そして徠はタバコの煙をフーッと吐く。
徠「だから今回のケースは契約違反に当たらないんだ。天ヶ瀬くんは自分で借金を作っただけ。そして俺はあくまで困っている天ヶ瀬くんにバイトを紹介してあげただけ…」
ブンッ!!
徠の言葉は強い風の音で遮られる。それは日向の上段回し蹴りが徠のタバコを吹き飛ばした音だった。
日向「お前の無駄話に付き合う気はない。黙って要求に従え」
彗翔(えええええッ!?オレのことは止めたクセに、自分は蹴りに行くのかよ!?)
日向の突然の蹴りに驚きを隠せない彗翔とは違い、徠はまるで何事もなかったかのように飄々と続ける。
徠「あはは。手厳しいなぁ。仕方ない。その要求とやらの中身、聞くだけ聞いてあげるよ」
日向は徠に裏ピースのように2本指を立てた手を突き出す。
日向「要求は2つだ。1つは2年前に俺と結んだ契約『MMA部の部員には二度と手を出さない』。これを徹底しろ。どんな理由があろうとも無条件で手を引け」
徠「つまり天ヶ瀬くんをディザイアから解放しろ、ってことだね。難しいお願いだなぁ。天ヶ瀬くんもまあまあ人気出てきたからなぁ。とりあえず、もう1つも聞こうか?」
徠はおどけるように首を傾げながら日向の言葉を求める。
日向「1つ目の契約の対象範囲を拡張する。部員に加えて関係者である指導教員とコーチも対象に入れろ」
彗翔「へ…?コーチ?そんな人ウチの部にいましたっけ?」
徠「なるほどなるほど。天ヶ瀬くんに吹き込まれたか」
日向の言葉に彗翔は戸惑う。だが徠は鼻で笑いながら応える。
徠「その要求ってさ、宮鷹くんをMMA部の外部コーチに仕立てて、俺たちが手を出せなくしようってことでしょ?」
彗翔「え…!?そ、そうなんスか…ッ!?」
日向「…あぁ。もちろん本人の同意を取った上で、だがな」
徠はくすくすと笑うと、再びタバコを取り出す。
徠「面白いことを考えるねぇ。だけど日向くんが考えているようにはいかないよ。宮鷹くんとはウチと専属契約を結んでいる。他所との契約は一切認めていないんだ」
日向「そうか。だったらその専属契約を今すぐ破棄しろ」
徠「はは、ワガママだねぇ。でも、断る…なんて言ったらまたタバコを蹴り飛ばされちゃうんだろうなぁ」
徠はふーっと煙を吐いて提案する。
徠「じゃあ取引をしようか。ディザイアと君たちMMA部で団体戦をしよう」
彗翔「だ、団体戦…ッ!?」
声を裏返らせて驚く彗翔を気にもせず徠は続ける。
徠「確か今のMMA部は5人いるんだよね?こちらもファイターを5人用意するよ。先に3勝した方が勝ちにしよう」
日向「俺が他の部員たちを巻き込むと思うか?」
徠「まあ日向くんならそう言うよね。嫌なら構わないよ。2年前みたいに1人でやってくれたって良いんだ」
彗翔「1人…!?何があったんスか…!?」
日向「徠からMMA部を解放した時も似たような取引をしたんだ。奴が用意した不良どもを俺が全員倒した」
彗翔「え゛っ…マジすか!?たった1人で…!?」
淡々と話す日向。しかし徠は日向の一抹の不安を見抜いていた。
徠「だけど今回の相手は地下ファイトクラブのファイター。不良学生程度相手に手こずってた日向くんがそんな余裕でいられるのかな?」
日向「…………」
2年前の徠との取引に日向はたった1人で挑んだ。だが、自分よりも大柄な相手、ましてや獲物まで持ち出してくる不良たちとの息をつく間もない連続の戦いは、たとえ日向であっても非常に苦しいものであった。
だが、今度の相手は地下ファイトクラブのファイターなのだ。たとえ彗翔と2人で挑んだとしても、2年前とは比べ物にならないほどの苦しい戦いになるのは目に見えている。
しかし、そんな危険な戦いに無関係な部員たちを巻き込むわけにはいかない。矛盾した迷いに言葉を詰まらせる日向を、徠の言葉がさらに追い詰める。
徠「もし君たちが勝ったらその2つの条件を飲もう。でももし俺たちが勝ったら君たち側で参加したメンバーは全員、ディザイアの永久契約ファイターになってもらおう」
日向「…ッ!」
彗翔「なっ…!?永久契約…ッ!?」
徠「上位ランカーの宮鷹くんが懸かっているんだ。取引なんだからこちらにも相応のリターンがないとね。さ、選んでよ日向くん。楽しい団体戦をするか。それとも天ヶ瀬くんと宮鷹くんにディザイアで戦わせ続けるか」
日向と彗翔の顔に一筋の冷や汗が垂れる。だが、2人の意思はもう決まっていた。
日向「天ヶ瀬。元はお前が撒いた種だ。覚悟はできてるな?」
彗翔「も、もちろんスよ!2人で3勝すれば良いだけ!オレと日向先輩なら楽勝っしょ!」
日向「あぁ…!」
徠「決意はできたみたいだね。それじゃあ…」
日向と徠が取引に合意しようとした、その時だった。
蒼惟「ちょっと待ったぁッ!!」
倉庫に声が響き渡る。入り口を見ると、そこに立っていたのは蒼惟と樹神 徠の弟、樹神 亮だった。
亮「おいクソ兄貴、何勝手に人のサンドバッグで遊ぼうとしてんだ?」
弟の姿を見た徠は不機嫌そうに眉をしかめる。
徠「…ああ。不快だからすっかり忘れていたよ。そういえば今のMMA部には出来損ないの愚弟がいたんだった」
蒼惟と亮を空き倉庫に先に送り出した刃連は、倉庫の前で立ち尽くしていた。
黎司「お~慎哉やん。久しいなァ」
刃連「…廻栖野(めぐすの)さん…?」
黎司「って自分そのメッシュまだ続けとるん?ほんま好っきやなァ~」
オレンジ髪に紫のバンダナを巻いた体格の良い青年が、徠の車の近くで暇そうに立っていた。
彼の名前は廻栖野 黎司(れいじ)。
刃連が驚くのも無理はない。黎司は刃連の中学時代のサッカー部の先輩で、3年前にはーー
刃連「…なんで…なんであなたがここにいるんですか?引っ越ししたんじゃ…?」
黎司「うん、したで?今日はたまたまよ。徠クンが急に後輩クンに呼び出された言うからここで犬みたいに待たされてんよ」
刃連「徠って…廻栖野さんがどうして樹神 徠と一緒に…!?」
黎司「どうしてってそんなん決まっとるやん」
黎司は満面の笑みのまま、軽い関西弁で答える。
黎司「オレの今の雇い主、徠クンやから」
蒼惟「ほらー!やっぱヤバい賭け!どうせそんなこったろうって思ったんスよ!」
日向たちから徠とのやり取りを聞かされた蒼惟は呆れるあまり声を荒らげる。
蒼惟は日向たちが徠ととんでもなく無謀な取引をすると踏み、万が一に備えて亮を引き連れて空き倉庫に駆けつけたのだ。
一緒に引き連れてきた刃連は倉庫の前で「気になることがある」とはぐれてしまったが。
日向「仕方ないだろ。こんな危険なことにお前らは巻き込めない」
蒼惟「だからって下手したら2人揃って死ぬまで地下格闘ですよ!?」
彗翔「いやそれはオレらが勝てばいいだけじゃん」
日向「ああ。気合で勝つ」
日向と彗翔は謎の自信に満ちた様子で言う。
蒼惟(ダメだ…こいつら放っておいたら絶対もっとヤバいことになる…!)
はぁ〜と大きく溜息を吐いた蒼惟は頬をパンパンと叩いて気合いを入れる。
蒼惟「しゃーない…団体戦、俺も参加しますよ…」
日向「…!危険だぞ蒼惟」
蒼惟「いや、アンタたち放っといた方が危険なんすって…」
彗翔「マジか蒼惟!そんなにオレのことを思って…!」
蒼惟「殴んぞお前…それより問題はあのヤンキー兄弟だよ…」
日向たちが目を移すと、亮と徠が睨み合い、まさに一触即発の雰囲気を醸し出していた。
徠「…つくづく君は人のおもちゃで遊びたがるね。そしていつも勝手に壊すんだ。いい加減にしてくれないかな?」
亮「俺は転がってるモンで遊んでるだけだぜ?大事なモンならちゃんと片しとけよ、クソ兄貴」
徠「人のおもちゃ箱を勝手に開けといて何言ってるんだか。とにかくこれ以上人のおもちゃを自分のモノだと勘違いするのは止めてくれるかな?」
亮「はぁ?勘違いしてんのはテメェの方だろ、クソ兄貴」
日向「そこまでだ」
手が出そうになる亮の肩を日向が掴む。
亮「なんスか先輩、今ここでこのクソ兄貴をぶちのめした方が早いんじゃないスか?まさかビビってます?」
日向「いや、こいつは取引と契約にだけは忠実な男だ。今回は条件に抜けも無い。俺らが勝ちさえすれば取引は確実に行われる」
ここで徠を倒したとしてもディザイアから次なる刺客が現れるだろう。その時はきっと取引の余地などない暴力沙汰になるのは目に見えている。
だが、それ以上に日向が危惧していたのは、徠の戦闘能力だった。
日向(徠が戦うところは見たことがない。2年前の取引でもだ。だがこいつの一挙手一投足の一切の隙の無さ…恐らく、いや間違いなくここの誰よりも…)
日向の気持ちを察したかのように徠はフッと笑みを浮かべる。
徠「いやぁ、信頼してもらえていて嬉しいよ。じゃあ後のことは天ヶ瀬くんとのチャットでやり取りさせてもらおうか。俺も、随分と人を待たせてしまっているからね」
そう言うと徠はスタスタと出口へと歩き、外まで出てから振り返る。
徠「じゃあ次はディザイアのリングで会えるのを楽しみにしているよ、日向くん」
日向「……」
徠の姿が完全に見えなくなった後も、日向たちの強張った緊張感は抜けず、しばらくその場に立ち尽くすのであった。
【Next】

【Prev】 【6】 空き倉庫での徠との取引から1週間後。ディザイアとの団体戦はもう週末にまで迫っていた。 蒼惟「もう今週か~…さすがに緊張してくるな…」 彗翔「え?むしろテンション上がんね?もうやるしかねぇ!って感じしない?」 蒼惟「やっぱお前頭イカれてる?そもそもこの状況、誰のせいよ?」 来るべき決戦...
モテモテのヒロインか囚われた宇宙人か。
うらき
2022-07-16 14:50:01 +0000 UTCうらき
2022-07-16 14:49:35 +0000 UTCblackace118
2022-07-15 17:29:43 +0000 UTCdaipin
2022-07-15 15:26:06 +0000 UTC