刃連「…これ…何やってんですか…?」
部室に入った刃連 慎哉(ゆきい しんや)はリング上の光景に困惑する。
彗翔「痛い痛いマジで痛いッ!!ギブッ!ギブッ!!」
日向「解いてほしけりゃさっさと吐け。週末お前は何してた?」
彗翔「無理無理ッ!!マジ言えないんスって!!ギブゥッ!!!」
包帯だらけの天ヶ瀬 彗翔(あまがせ けいと)が日向 朔也(ひゅうが さくや)に足関節を極められている。
彗翔はひたすらギブアップを叫びながらマットをバンバンと叩くのだが、日向の技はキツくなっていく一方だ。
普段から怪我をしないように指導をしている日向が、包帯だらけの彗翔を相手に関節技を極め続ける様は異様な光景だった。
刃連は戸惑いながらリング脇でカバンを漁る藤代 蒼惟(ふじしろ あおい)に声をかける。
刃連「藤代先輩、何ですかコレ?しかもその鞄、アホヶ瀬さんのですよね?」
蒼惟「おつー。例のアレの尋問だよ」
刃連「アレ?…あぁ」
刃連は先週蒼惟から聞いた話を思い出す。
彗翔は時折包帯だらけになって登校してくることがあり、喧嘩なのかリンチなのか、とにかく何かしらのトラブルに巻き込まれていることは間違いない、という話だった。
蒼惟「彗翔のヤツ、日向先輩の関節でも全然吐かなくてさ」
刃連「へぇ、普段考えてることが全部口に出てるアホヶ瀬さんにしては珍しいですね」
蒼惟「だろ?で、仕方ないからコレ調べんだわ」
蒼惟はそう言うと、彗翔のスマホを本人の顔の前に近づける。
彗翔「あ!てめ、ざけんなッ!」
顔認証でスマホのロックを解除しようとする蒼惟に気づいた彗翔はギュッと目を閉じる。
蒼惟「無駄な抵抗を…日向先輩」
日向「ん」
彗翔「ああああ!!!痛い痛い痛いッッ!!」
蒼惟の合図で日向が力を強めると、彗翔はたまらず目を見開く。
蒼惟「よし、おっけ」
スマホのロックの解除に成功した蒼惟はチャットアプリを開いて怪しいやり取りを探っていく。
日向「どうだ。何かあるか?」
蒼惟「『クソ詐欺師』って奴とやり取りしてますね。やっぱボクシングとかプロレスとかしてたっぽいです」
日向「ほう。どういうことだ、天ヶ瀬?」
彗翔「ち、違うんスよ!あの…その…バ、バイトッ!バイトで頼まれて仕方なく…がァッ!?」
日向は足を極めたまま彗翔の首に腕を巻いてグイッと引っ張る。
日向「部則で部活動以外での試合や喧嘩は厳禁だと決まってるだろ…!」
彗翔「ぅ…ぅそ…ぉんなこと言ったって…じ、事情が…あるんスよ…ぉッ…」
彗翔の身体が弓の弧のように反らされていく。同期が苦しむ姿を意にも介さず、蒼惟は更なる証拠回収のため、写真フォルダを漁っていく。
蒼惟「うーわ、フォルダエロ画像か筋肉の自撮りしかねーじゃん。マジキモいなー」
すいすいとスマホをスワイプしていた蒼惟は、1枚の写真で指を止め、顔を真っ青にする。
蒼惟「…え…?これ…マジ…!?」
日向「どうした…!?」
その様子に日向は技を解き、彗翔のスマホを覗き込んで驚愕する。
日向「なっ…!?徠(らい)ッ!?」
尋常ならざる様子でスマホに見入る2人。彗翔も足を引きずりながらスマホを覗き込む。
彗翔「イテテ…な、なんの写真の話スか?」
そこに表示されていたのは、彗翔が地下ファイトクラブ「ディザイア」に初めて訪れた日の写真。控室での自撮りを円 萊(まどか らい)に邪魔された時のものであった。
刃連「アホヶ瀬先輩の巻き込まれてるトラブルって…よりにもよって徠絡みですか…」
刃連もリングに上がってスマホを覗き、深々と溜息をつく。
彗翔「え?なんでみんなコイツの名前知ってんの?あの詐欺師そんな有名なの?」
蒼惟「は?お前、あの徠知らねぇの?」
彗翔「えっと…?樹神?どゆこと?」
戸惑う彗翔に日向は重苦しい雰囲気で答える。
日向「そいつは樹神 徠(こだま らい)。樹神 亮(りょう)の兄貴だ」
彗翔「…へ??こ、樹神の…兄貴…!?」
樹神 徠。彗翔にとってその名前も、そもそも亮に兄がいたことも初めて耳にする話であった。
蒼惟「そっか。そういやお前がこの町来たの高校からだったな…」
彗翔「あ、あぁ。でも、その樹神 徠って何者なんだよ?」
日向はため息を1つ吐くと重々しく口を開く。
日向「そいつはこのMMA部の初代部長で、MMA部を不良の溜まり場に仕立てた最低最悪の男だ」
彗翔「え、MMA部の…初代部長…ッ!?!?」
秘密がバレてしまった彗翔は、今まで地下ファイトクラブ「ディザイア」であったことを日向たちに一通り説明する。一連の話を聞き出した一同は、事態の余りの深刻さと、彗翔の軽率すぎる行動の数々にただただ唖然とする。
日向「バカだバカだとは思っていたが…」
蒼惟「まさかここまでバカだったとは…」
刃連「小学生だって知らない人には付いて行かないぐらい守れますよ…」
彗翔「…なんも文句言えねぇ…」
そして話題は樹神 徠についてに移る。
彗翔「…じゃ、じゃあ樹神 徠はウチの卒業生で、空手部とかボクシング部とか、格闘系の部活を全部くっつけてMMA部を作った、ってことスか?」
蒼惟「そ。で、MMA部はずっと不良の巣窟だった。日向先輩が不良共を全員追い出すまでな。MMA部の黒い噂は大半は樹神 徠の頃のものなんよ」
彗翔「つーことはオレが学校でぼっちなのも徠のせいってことじゃん!」
蒼惟「いや別にそれはどうでもいい」
彗翔の戯言を蒼惟は軽くあしらう。
刃連「徠がMMA部を作ったのも、その地下ファイトクラブの選手を育成するためだった、ということですかね」
日向「可能性はある。だが今はどうやって天ヶ瀬をファイトクラブから解放するかだ」
蒼惟「そうなんスよね~…!警察は相談できねぇし…」
蒼惟の言葉に彗翔は驚いてポカンとした表情を浮かべる。
彗翔「え?なんで警察ダメなの?即通報されると思ってたんだけど」
日向「樹神の父親は県警のトップだ。俺らが通報したところで無駄だ」
彗翔「け、県警ッ!?」
彗翔は予想もしていなかった言葉に飛び上がる。
蒼惟「事実、今までの樹神兄弟の悪行の数々で、警察沙汰になったものなんでほとんどねぇからな…」
刃連「それどころか、親戚にも政界やマスコミの関係者がたくさんいます。オレたちが通報したってもみ消されるだけです」
事態のあまりに絶望的な状況に一同はただただ頭を抱える。
彗翔(なんかマジでヤベー話になってきたじゃん…だけど、オレは…)
彗翔はディザイアで繰り広げられた宮鷹 涼冴(みやおう りょうご)へのあまりにも理不尽な仕打ちを思い出す。そして、強い覚悟をもって口を開く。
彗翔「でもオレ、このままで良いッス。今はディザイアを抜ける気無いスから」
彗翔の言葉に驚く3人。
蒼惟「な、何まだバカなこと言ってんだよ!?タフさだけが取り柄のお前がそんなボロボロになるぐらいヤベェとこなんだろ!?」
彗翔「あぁ、そうだよ…!でもそんなトコにオレよりよっぽど酷ぇ目にあってるヤツがいるんだよ…!」
蒼惟「それってまさか…宮鷹の…!?」
彗翔「あいつを助けるまで、オレはディザイアを離れる気はねぇ…!オレが絶対ェアイツのことを…」
日向「天ヶ瀬…!」
バァンッ!!!
彗翔「ぶ…はッ!?」
彗翔の言葉は日向の拳が彗翔の左頬に叩き込まれたことで遮られた。突然の衝撃に彗翔はたまらず床に倒れ込む。
蒼惟「ちょッ!?何してんですか先輩!?」
日向「天ヶ瀬、お前ふざけてんのか?自分の身も守れないような奴が、どうやって他の人間まで助けるんだ」
日向はそう言いながら彗翔の胸ぐらを掴んで顔を上げさせる。だが、彗翔の瞳の鋭さは何も変わっていなかった。
彗翔「んなのわかんねぇっスよ…!樹神 徠が思ってたよりよっぽどヤベェ奴だって知って、もっとわかんなくなってんスよ…だけど…!!」
彗翔は日向の眼を真っ直ぐと見据えて叫ぶ。
彗翔「だけどオレはもう決めたんスよ!涼冴にアイツの人生を歩かせるって!!アイツを助けずにオレだけ降りるなんて、そんなダセェ真似絶対にできねぇんスよ!!」
日向「天ヶ瀬…」
彗翔「……ッ!」
日向は彗翔の胸ぐらを掴んだまま目を睨みつける。彗翔も決して目を瞑らずに睨み返す。そして歯を食いしばり、次の拳を受ける覚悟を決める。
だが、次に日向から出たのは拳でも罵倒でも無かった。
日向「お前の覚悟はわかった。スマホ貸せ」
彗翔「…へ?スマホ?いや、別にもう良いスけど…何で?」
日向は彗翔からスマホを受け取るとチャットアプリの通話ボタンを押す。
彗翔「え、ちょ!誰にかけてんスか!?」
しばらく続いた呼び出し音が止まった後、日向は短く告げる。
日向「…樹神 徠。2年前のあの場所に来い。今すぐにだ」
【Next】

雑すぎる伏線でスミマセン……。
うらき
2022-07-16 14:55:38 +0000 UTCdaipin
2022-07-11 14:44:50 +0000 UTCkiretanuko
2022-07-08 15:18:00 +0000 UTC