彗翔「やっと見つけた…!ピッツァポテチッ!」
若年層を中心に人気のスナック菓子、ピッツァポテチが天候不良による原材料不足で突然生産休止になってしまった。
そのニュースはすぐさまSNSで拡散され、転売ヤーによる買い占めが各所で発生。ピッツァポテチは店から姿を消した。
しかし、天ヶ瀬 彗翔(あまがせ けいと)は街中の店という店を回り続け、スーパーのお菓子コーナーでようやくピッツァポテチを見つけたのだ。
彗翔「やっぱオレとピッツァポテチは運命の糸で繋がってるんだよなぁ!」
彗翔は最後の一袋を手に掴む。
グイッ
彗翔「…ん?」
手に走る違和感。彗翔と同時に袋の反対側を誰かが掴んだのだ。横を見るとそこにいたのはーー
彗翔「げッ!?」
涼冴「…あ?」
ーーそこにいたのは、ウインドブレーカーを身に纏った宮鷹 涼冴(みやおう りょうご)だった。
涼冴は元キックボクシング王者の宮鷹雄冴の息子で、地下ファイトクラブ「ディザイア」の上位ランカーである。
彗翔はひょんなことからディザイアの選手になり、デビュー戦でこの涼冴と戦ったのだ。その試合で彗翔は涼冴に完膚なきまでに叩き潰され、リング上で犯された。
今でも悪夢だったのではないかと思う程現実離れした記憶。そんな非日常の世界にいたはずの涼冴が、日常の極みとも言える近所のスーパーのお菓子コーナーに現れたのだ。彗翔が狼狽えるのも当然だった。
彗翔「み、宮鷹ッ!?な、なんでお前がここにいんだよッ!?」
涼冴「この菓子を買いに来たからだ」
彗翔「お前ん家って近所だったのかよ!?でもな、こいつはオレのもんだ!さっさと手ェ離せ!」
涼冴「先に掴んだのは俺だ。テメーこそさっさと離せ」
2人とも袋から手を離そうとしない。それどころかお互いの力はどんどん強まっていき、袋からはギチギチと悲鳴のような音がし始める。
彗翔「オレは店回りまくってここで5店目ッ!やっとコイツを見つけたんだぞッ!」
涼冴「俺は13店目だ」
彗翔「じゅ、13ッ!?どんだけ好きなんだよ!?」
涼冴「あ?こんなもん好きなワケねぇだろ…!」
彗翔「はぁ!?だったらオレに譲れっつーのッ!!」
バサァ!
「「…あ…」」
彗翔が力に任せて腕を引いた瞬間袋は大きな音を上げて破れた。床一面に広がったポテチを見て2人は呆然と立ちすくむ。
彗翔「…オレの…ピッツァポテチ…」
涼冴「チッ…馬鹿力で引っ張んじゃねぇよアホ面」
彗翔「なッ!?誰がアホ面だこの野…ッ!!」
店長「君ら何してくれてんの?」
その声に2人が振り返ると店長と名札をつけた恰幅のいい男性が立っていた。
彗翔「えっ…あっ…店長…さん…?」
店長「とりあえず奥まで来いや」
彗翔「あ、あのほんとスンマセンッ!ほんと土下座すんで!警察と実家だけは!警察と実家だけは許して欲しいスッ!!」
涼冴「…面倒くせぇ…」
2人は引きずられるように事務室へと連行されていった。
数時間後。説教と床掃除からやっと解放され、外に出た2人を待ち受けていたのは、土砂降りの大雨だった。涼冴は手ぶら。彗翔も折りたたみ傘なんて当然持っていない。
彗翔「うぇ~最悪…さっきまで晴れてただろ~…」
涼冴「はぁ…つくづく面倒くせぇ…」
彗翔「…ってちょ!おま、待てって!」
フードを被って走り出そうとした涼冴の腕を彗翔は慌てて掴む。
彗翔「この土砂降りの中どこ行くんだよ!?」
涼冴「次の店に決まってるだろ」
彗翔「諦めろって!生産中止なんだからどこも売り切れだって!
涼冴「…生産中止?」
彗翔「知らねぇの?学校とかSNSですげー話題になってたじゃん」
涼冴「知るか」
彗翔(あ〜、コイツ友達いなさそうだもんな)
自分のことを棚に上げて勝手に納得する彗翔。
涼冴「チッ…無駄足かよ」
彗翔の腕を振り払った涼冴は店の壁にもたれかかる。彗翔も少し間を空けて並ぶ。
彗翔「…なぁ、お前なんでピッツァポテチ嫌いなの?」
涼冴「は?あんなのクセェ臭いだけで吐き気がするだろ」
彗翔「えぇ…最高な匂いだろ…。んな嫌いなもん、なんで必死に探してんだよ?」
涼冴「アレがねぇとうるせぇんだよ」
彗翔「?弟か妹でもいんの?」
涼冴「…………」
涼冴は眉をひそめ、カタカタ貧乏ゆすりを始める。だがそれに彗翔は気づかず、涼冴にとって地雷の言葉を口にする。
彗翔「兄貴も大変だなぁ。でもさ、弟か妹が騒いだって、あの宮鷹 雄冴(みやおう ゆうご)が一発怒鳴ればーー」
その瞬間、涼冴の目がカッと開きーー
シュッ!!!
彗翔「うぉッ!?」
ーー彗翔の目の前で涼冴の拳がピタッと止まった。
涼冴の目つきは試合の時と同じ、あらゆるものを貫くように鋭い目であった。
彗翔「…な…何すんだよ…!?」
涼冴「言っただろ。そのクソみてぇな名前を二度とオレの前で出すな」
涼冴は父親の話題を出されることを極端に嫌っていた。だが、その理由を知らない彗翔はただ困惑するしかない。
彗翔「クソみたいってお前…キックボクシング教えてくれたのだって親父さんじゃ…」
ブブーッ!
その時、彗翔と涼冴のスマホが同時に振動した。涼冴は手を戻し、そっぽを向いて自分のスマホを確認し始める。
彗翔「…ったく、なんなんだよ…つか宮鷹のスマホも鳴ったってことは…」
彗翔の嫌な予感通り、スマホに来ていたのはディザイアの運営員である詐欺師、円(まどか)からの試合通知だった。そしてその内容は彗翔をさらに驚愕させるものであった。
彗翔「オレの対戦相手が…プロレスラーぁッ!?」
週末に開かれる試合で、彗翔はMMAとプロレスの異種格闘というとんでもない試合をさせられることになったのだ。
彗翔「えっと…名前は稲叢 剴(いなむら がい)…?ボクシングじゃなくてMMAで戦えんのは良いんだけどさぁ…一体どう戦えってんだよ…って宮鷹?」
涼冴はスマホをしまうと、ウインドブレーカーのフードを被り直す。
彗翔「え、もう行くのかよ?」
涼冴「雨も弱まった。大して濡れねぇ」
彗翔「いやまだ結構降ってんぞ?てかお前の試合はどんな感じだったか聞かせろよ?」
涼冴「アホ面に関係ねぇだろ。それに興味もねぇ。どんな奴が来ようと潰すだけだ」
彗翔「あっ!待てって、宮鷹ッ!」
涼冴は振り返りもせずに走り出し、すぐに姿は見えなくなった。
残された彗翔は、父親の話題を出した瞬間の涼冴の変わりようを思い出す。
彗翔「…マジなんなんだよ、あいつ…」
【Next】

【おまけ】
君たちフツーに会話してるけど