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【Part2】
刃連(…日向先輩の動きをトレースしろ…膝を抱えて腰を回しながら…蹴り足を垂直にインパクトさせる…ッ!)
サンドバッグの前に構える刃連。深呼吸を終えて目を開くと、身体を1回転させながら後ろ回し蹴りを放つ。
バンッ!!!
部室に凄まじい音が鳴り響く。サンドバックは激しく揺れ、蹴りの威力が並大抵では無いことを物語る。
だが刃連にとっては頭の中で描いた姿をそのまま再現したに過ぎない。
刃連(…予想通り。こんなもんか)
一方で、その様子を見ていた彗翔と蒼惟は金魚のように口をパクパクさせていた。
蒼惟「…刃連のヤツ、日向先輩が1回見せた蹴り、もう完コピしてんぞ…」
彗翔「…マジかよ…入部してまだ2週間だろ…?格闘技未経験っつってたよな…?」
蒼惟「って聞いたけど…中1までサッカーやってて、それ以降は帰宅部だったって…」
彗翔「へ、へぇ~…こりゃオレも、うかうかしてらんねぇな!」
蒼惟「…バカはすぐ熱くなれていいよなぁ…」
嫌でも聞こえてくる2人の会話に、刃連は小さくため息をつく。
刃連(はぁ…驚く程のことか?この程度の技1回見ればできて当たり前だろ)
そう思いつつも刃連は何も聞こえないように練習を再開する、そんな時、日向が刃連に声をかけた。
日向「良い蹴りだったな、刃連。どうだ?練習には慣れてきたか?」
刃連「日向先輩。はい、問題ないです」
日向「そうか。それなら試しにスパーリング、やってみるか?」
刃連「え…?」
日向の唐突な提案に少し驚く刃連。
刃連(もうスパー…?こんなにすぐやるものなのか?…まあ1週目には基本的な動作や打撃はマスターできてるから余裕だと思うけ連絡けれど)
刃連「…はい、いいですよ。階級を考えると相手は日向先輩ですか?」
日向「いや。天ヶ瀬、来い!」
彗翔「うーすッ!」
刃連「…え…まさか…」
刃連はドタバタと音を立てながら近づいてくる彗翔に怪訝な表情を浮かべる。
彗翔「うすッ!なんスか?」
日向「今から刃連とスパーしろ」
刃連「…ええ…」
彗翔「えッ!?早くないスかッ!?」
刃連の不満な声は彗翔のバカでかい驚きの声にかき消されるのであったーー
ーーファイトショーツとオープンフィンガーグローブを身に着けてリングに上がった彗翔と刃連は、それぞれのコーナーで向かい合った。
彗翔「慎哉、試合姿似合ってんじゃん!」
刃連「…たかがスパーなのになんで試合着になるんですか…?」
彗翔「そりゃ人生初のスパーなんだろ?格好だってガチでやった方が雰囲気出るっしょ!」
刃連「は?意味がわからないんですけど」
はしゃぐ彗翔にイラっとする刃連。そんな彼にリングの下から蒼惟が声をかける。
蒼惟「刃連、本当にヘッドギアなくて良いのか?」
刃連「ええ、視界狭めたくないので。それに…」
蒼惟「…それに?」
刃連「『ガチでやった方が雰囲気出る』らしいですから」
蒼惟「…ふぅん、なら良いけど」
蒼惟は少しニヤっとして隣の日向に話す。
蒼惟「ってことで2人とも準備良いらしいすよ」
日向「わかった」
蒼惟「でもさすがに早かったんじゃないすか?しかも彗翔にやらせるって」
日向「藤代ならこのスパーの意味、わかるだろ?」
蒼惟「まあわかりますけど…相変わらず荒療治っすね〜…」
刃連(荒療治…?日向先輩は何を考えているんだ…?)
真顔で話す日向と苦笑いを浮かべる蒼惟、2人のやりとりを見た刃連は怪訝そうに眉をひそめる。
刃連(ここ数日、天ヶ瀬先輩の動きは目に入っていたけど、無駄だらけで酷いものだった。こんな人と戦って何の意味があるんだ?)
刃連の疑問は晴れることのないままルールの再確認が始まる。
日向「時間は3分1ラウンド。あくまでスタンドキープのスパーだ。タックルや寝技は無し」
彗翔「うすッ!」
刃連「わかりました」
日向「それ以外はガチスパーだ。刃連は全力でやって構わんが…天ヶ瀬、お前は初心者相手なんだからくれぐれも程々にしろよ」
彗翔「やだな~!ったり前じゃないスか!オレだってそれぐらいの常識はありますって!」
日向「その常識がねぇから言ってるんだが…まあいい。始めるぞ。Fightッ!」
ビーーッ!
ブザーが鳴り響き、刃連の初めてのスパーリングが始まった。
2人ともコーナーから数歩踏み出し、少し距離を空けて対峙する。刃連は日向から教わったMMAのスタンスを忠実に再現しているのに対し、彗翔はラフなスタンスをとっている。
彗翔「どっからでもかかってきていいぜ慎哉!先輩後輩なんて気にしなくて良いからさ!」
刃連「…本当ですか?」
彗翔「おう!全力で来ーー
バシィィィィッッ!!!
部室に鋭い打撃音が響き渡る。
それは彗翔の側頭部に刃連の後ろ回し蹴りが炸裂した音だった。
彗翔「ーーい゛…ッ!?!?」
刃連「…良かったです。先輩かどうかなんて、気にするつもり全く無かったので」
ドタンッ!
彗翔はそのままリングに叩き付けられる。
日向の動きを完全にトレースした刃連の蹴りは、並の格闘家、ましてやガードをしていない彗翔を吹き飛ばすには十分過ぎるものであった。
刃連は蹴りを放った足を見つめながらグーパーさせるように動かす。
刃連(…スパーでもこんなもん、か)
そしてダウンした彗翔には目もくれず自分のコーナーへと戻る。
蒼惟「…うーわ…開幕13秒でワンパンKO…それも格闘技超初心者が初スパー、しかも後ろ回し蹴りでって…えげつねぇ〜…」
日向「…………」
あまりの光景にドン引きする蒼惟と鋭い眼光でリングを見る日向。
そんな日向に刃連はロープ越しに話しかける。
刃連「日向先輩、終わりました。もう降りて良いですか?」
日向「…まだ終わってねえぞ。後ろ見てみろ」
刃連「?…後ろって…」
刃連が振り返ると、そこには彗翔が不敵に笑いながら口から垂れた血を拭っていた。
刃連「……嘘だろ…」
彗翔「…ってぇな…人が喋ってる時に顔蹴ってんじゃねぇよ」
口から出血しているものの、体はフラついていない。大きなダメージを受けているわけでもないようだ。
刃連(浅かった…?いや確実に足の面全体をインパクトさせて、角度も速度も申し分なかった。常識で考えて立ち上がれるはずがない…はずがないのに…)
理解が追いつかずにフリーズする刃連。
日向「まだやれんだろ?天ヶ瀬」
彗翔「ったり前じゃないスか!後輩にブっ飛ばされたままで終われるワケねぇスよ!」
日向「…そうか」
拳を胸の前で打ち合わせ気合を入れる彗翔。それを見た日向もほんの少し口角を上げる。
刃連(…ああ、なるほど。日向先輩は俺に『お前が思っている程MMAは甘くない』って伝えようとしてるのか。それなら…)
2人のやりとりからこのスパーの意味を察した刃連は再びスタンスを取り直す。
日向「刃連、再開するぞ。問題ないな?」
刃連「…はい!」
刃連(…それなら逆に教えてあげますよ。『アンタ達が思ってる程俺も甘くない』ってこと…!)
日向「Fightッ!」
【つづく】
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うらき
2021-08-17 02:30:04 +0000 UTCうらき
2021-08-17 02:28:24 +0000 UTCうらき
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