Face out Facing out. 外伝 ~ダサいオレには、なりたくないから~
SS:ミケ空さん(https://www.fanbox.cc/@kaminagisora)、うらき
挿絵:うらき
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カァンッ!
「Box!」
「っしゃあッ!!」
ゴングが鳴り響くと、オレは一声気合を入れ。水瀬さんへと向かっていった…
だが。
パンパン!パァン!
「ぐっ、がっ!がはっ!」
ゴングが鳴って早1分。オレは水瀬さんとの実力の差を否応がなしに思い知らされた。水瀬さんのパンチは、あの時公園で見た通りに速くて正確で、オレには反撃も許さないほどだった。
(クソッ…実力差はあると思ってたけど、こんなに強ぇなんて…ッ!)
オレは隙を見てはパンチを返すものの、ほとんどはかわされ、当たったと思えば防がれ、一発も直撃させることも出来ないままに、顔に、腹にと青いグローブを打ち込まれ…オレは防戦一方どころか一方的にボロボロにされ、徐々に追いつめられていた。そして。
トンッ
「やべっ…!」
オレがいつの間にかコーナーまで追い詰められたことに気づいた瞬間!
「そこだっ!」
ドゴォッ!
水瀬さんの強烈なボディーブローがオレの鳩尾に突き刺さった。
「…かはっ…」
オレはマウスピースを吐き出すと、がくっと膝から崩れる。そして、
バタァン!
「ぐっ…!」
そのまま前のめりにリングへと倒れ込んだ。
「DOWN!」
すぐにカウントが始まる。
「…ゲホッ…く…そっ…ぐっ!」
オレは必死に立ち上がろうとするも、全身の、とりわけ最後にボディーブローが入った腹の、強烈な痛みで体に力を入れることができない。
(…やべえ、腹、キッツ…!なんだよ、このパンチ…)
はあはあと息を荒らげながらも、オレは必死に震える腕や足を奮いあげ、立ち上がろうとする。…ふと気づけば、オレは腹を中心に全身が赤く腫れ、鼻血も出ていた。
(…こんなにも一方的にってか…ダッセェなオレ…)
でも。それでも。
(それでも…薬まで飲んでもらった水瀬さんの前でこんな簡単に終わるほうが…もっとダセェんだよ…!)
オレは震える膝に活を入れ、なんとかファイティングポーズをとる。その瞬間だった。
「…ぐっ!」
水瀬さんは急に呻きだすと頭のあたりを抑える。そして、
「はあ…はあ…はあ…」
顔が今まで以上に赤くなりると同時、息が荒くなり肩で浅い呼吸をしだす。
「えっ…水瀬…さん…?」
『オラ、何突っ立てんだよ!』
『さっさと戦えよ!』
水瀬さんの様子を知ってか知らないでか、観客はオレ達に戦えと怒声を浴びせる。
(まさか…薬が本格的に効きだしてきたのか…!?やっぱりあの時オレが捨てておけば…!)
ふらつく水瀬さんの姿を見て、オレの頭の中に後悔の念が湧いてくる。だが。
「…はあ、はあ…来いよ、天ケ瀬…!全力で…来て…くれるんだろ…!」
水瀬さんは薬で虚ろになりそうな目をしながらも、拳をクイクイっと向け挑発する。
「…み、水瀬さん…ああああッ!クッソォッ!」
オレは迷いを振り払うように叫ぶと、水瀬さんの元へ一直線にダッシュし――
「くらえッ!」
右のストレートを放つ。さっきまでなら易々と避けられていたそのパンチだったが…
パァンッ!
「ぐあっ…!」
オレのパンチは水瀬さんのブロックを易々と抜け、その頬を叩く。そして、
パンパンッ!パンッ!
その後のオレのジャブも、ワンツーも、水瀬さんの顔に直撃する。そして。
「ぐ…させ…るか…っ!」
水瀬さんはオレに反撃のストレートを放つも、オレはそれをバシッとグローブで防いだ。
(やっぱ間違いねぇ…薬だ…!)
水瀬さんの動きは明らかにおかしくなっていた。…オレは汚ぇとは思いつつも、このチャンスを逃さずに攻撃へと転じていた。
パンッ!ドゴッ!
「ぐあっ!がはっ!」
オレの赤いグローブが水瀬さんの頬に、腹にめり込み、綺麗な白い肌はドンドンと赤く腫れあがっていく。その度に水瀬さんの身体は異常にビクビクと震えるが、それが苦しみなのか快感なのかさえオレにはわからない。
(迷うな…!迷うな…ッ!)
オレは必死に頭の中で叫びつつ、水瀬さんにパンチを浴びせる。薬があろうとなかろうと全力で戦う。水瀬さんの思いに応える。その思いをかき消さないようにオレは全力で拳を振るった。そして。
「オッラァッ!!」
オレは大きく踏み出すと、右のフックを水瀬さんの横っ腹に突きたてた!
ドゴォッ!
グローブを通じてオレの拳が水瀬さんの筋肉に突き刺さっていくの感触が流れ込む。そして。
「ぐ……がはっ!」
水瀬さんはマウスピースをはき散らすと、だんだんと体が前のめりになり―――
ドタンッ!
水瀬さんは赤茶色の髪の毛をなびかせながら、真正面にリングに倒れ込んだ。
「…ッしゃあッ!!」
オレは思わず、声を上げる。
「DOWN!」
『おおお!!決めたあああ!!!』
『良いぞ天ヶ瀬ーッ!!!』
水瀬さんが倒れると同時に割れんばかりの歓声が広がる。
…格上の相手を拳でリングに沈めた感触と快感。薬で動きが鈍る相手を殴る情けなさ。響き渡る歓声。もうこれ以上水瀬さんを痛めつけたくないという思い。それでももっと、もっと戦いたいという、きっと格闘技をやってるなら誰しも感じるあの気持ち。たくさんの相反する感情がオレの中でせめぎあっていた。そして、オレは息を整えながら切に願った。
(頼む…もう、立たないでくれ…!)
だが、カウントが残り5を切ったその時。
水瀬さんの青グローブが、ぎゅっと握り込むように動いたのだった。
立ち上がった水瀬さんは、ボロボロの状態だった。綺麗な赤茶色の髪の毛は乱れ、顔も、体も赤く腫れあがり。眼なんてもうどこか遠くを見ているかのようにとろんとしている。だが、それでも、水瀬さんはオレとの戦いを望み―――ファイティングポーズを取った。
「…いいパンチだな、天ヶ瀬。すげえ、効いた…」
「水瀬さん…」
「まだ…まだまだ、だろ?天ケ瀬。全力で戦って…くれるんだろ…!」
―――オレは水瀬さんの言葉にファイティングポーズを取りなおす。
(…そうだ…約束したんだ。何があっても全力で闘おうって!…だから…ッ!)
オレは腫れた顔の痛みなんか気にせず、ニヤッと笑って水瀬さんに堂々と伝える。
「水瀬さん。オレ、この試合すげー楽しかったッス!正直、薬飲んでもらって後悔してたんスけど…今の言葉聞いて、オレ、吹っ切れたっス。!オレ、水瀬さんと全力でもっと戦いたいッス!」
「…ああ、俺も。…正直、薬で頭の中おかしくなりそうだけど…天ヶ瀬との試合はすっごく楽しい。…こんなの、久しぶりだな」
そう言うと、お互いにオレ達はへへっと笑ってみせる。終わらせたくないこの最高の時間。だけど、オレ達の身体はもう限界を迎えようとしていた。
「だけど…お互いボロボロだな。天ヶ瀬」
「…ッスね。次で最後っスね」
「ま、勝つのは俺だけどな」
「何言ってんスか。勝つのはオレっスよ」
「なら…決着にしようか…!」
「上等ッス!うおおおおおッ!」
オレはその瞬間、水瀬さんへと踏み込むとカッと目を見開き、右フックを仕掛けた!そして、その瞬間に水瀬さんも動き――――
つづく
【A. 慧の拳が先に届く】
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【B. 彗翔の拳が先に届く】
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タカ
2021-05-19 09:54:29 +0000 UTC