↓part1
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喫茶店での契約から1週間が経った今日、オレはファイトクラブ『ディザイア』のデビュー戦を迎える。試合会場は住んでいる街から結構離れているそうで、オレは円さんの運転する車に乗せてもらった。だけど…。
「…天ケ瀬くん…着いたから起きてくれる…?」
「…んぁ…?」
「…起きろっつってんだろ」
瞬間、べちっという音と衝撃が頭に響きオレは目を覚ます。
「んぉッ!?」
円さんの張り手で目を覚ましたオレは、何事かと思いながら頬を摩り、辺りを見回す。地下駐車場だろうか。眠ってしまっている間に着いたらしい。
「…ったく、人が運転してんのにでけぇイビキしながら寝てくれてさぁ…」
「うぅ…すんません…」
「とにかくさっさと来てくれる?」
「う、うすッ!」
オレは慌てて車を降りて円さんの後に付いて行く。
「…メッセでも伝えた通り、今日の試合形式はボクシング。まあ3ラウンドの特殊ルールだけど、それ以外はまあ変なルールはないかな。天ケ瀬くんが普段やってるMMAとは勝手が違うだろうけど、問題ないよね?」
「うす!この1週間、めっちゃトレーニングしたんで!」
円さんからチャットアプリで教わった話によると、ディザイアではその時々で試合形式が変わるらしい。そして今回の試合はボクシングルールになるそうだ。
人生初のボクシング、しかも文字通り、オレの生活が懸かった超重要な試合。…これで何も対策しないほどバカじゃない。トレーニングは普段の倍はこなしたし、日向先輩からもボクシングのテクニックを教わった。もちろん日向先輩には「オレが見てないところで試合する気じゃねえだろうな?」なんてすげー怖い目で睨まれたんだけど…まあそこは完璧な嘘で騙し通した。
「…念のため聞いておくけど、ディザイアのことは他言してないよね?」
「もちろん!うまく誤魔化しといたんで!」
「…ふ~ん。…ほら着いたよ。ここが天ケ瀬くんの控え室」
円さんがドアを開くと、そこはロッカーやベンチ、大きな鏡のある少し広めの部屋だった。
「うおおっ!すっげぇーッ!」
「試合は1時間後。俺はちょっとスタッフと話してくるから、試合技に着替えて準備してて。バンテージとグローブは戻ってきてから巻いてあげるから」
「うす!…って、あ、あの!」
慌てて円さんを呼び止める。肝心なことをまだ聞けていなかった。
「何?」
「あ、あの…オレの対戦相手って、どんな奴なんスか…?」
「…ああ、そういえば言ってなかったっけ」
円さんは振り返り、ニヤッとした表情をして口を開く。
「天ヶ瀬くんの対戦相手は宮鷹 涼冴(みやおう りょうご)。君ぐらいの歳の子だよ」
「…えっ…!?」
会員制のファイトクラブ『ディザイア』。そんな大層な場所で戦う相手が歳の近いヤツだなんて、オレは微塵も思っていなかった。
「じゃ、また後で」
「…あ、ちょ、待っ…!」
オレが呆気に取られている隙に、円さんは部屋から出て行ってしまう。
「…聞きてぇこと、まだいくらでもあるんスけど…」
控室に1人残されたオレは、とりあえず言われた通り着替えようとロッカーを開く。
そこには真っ赤なグローブと白いラインの入った赤いトランクス、そして赤のシューズが入っていた。オレは試合着を、オレが好きな赤で統一してもらうよう、円さんに頼んでおいたのだ!
(…やっぱリングに上がるなら、赤じゃねぇとダセーもん!)
試合着に着替え終え、鏡の前に立つ。まだバンテージも巻いてないけど、グローブも嵌めてみる。
「…結構イケてるじゃん…!」
そこには初めて見るボクサー姿のオレが写っていた。
「んじゃ、せっかくだし…」
オレはスマホを取り出し、カメラアプリを立ち上げる。せっかくこんな格好したのだから自撮りしない手はない。
(彼女ができたらボクシング姿のオレも見たいって言われるかもしんねえしな〜!)
オレはイケてるポーズを探し、ああでもない、こうでもないとポーズやスマホの角度を変える。と、突然、スマホの画面にぬっとオレ以外の顔が入り込んだ。
「…ん?」
「キモいなナルシストかよ…」
「うおぅッ!?!?」
パシャパシャッ!
オレは驚きの余り、シャッターボタンを押してしまう。振り返ると、円さんが哀れなものを見るような目をして立っていた。
「ちょ、ちょっとォ!入るんならノックぐらいして欲しいんスけどォ!?」
「知らないよ。それよりその写真、今すぐ消して?」
「え〜!?なんでスか!?」
「会員制のファイトクラブだって言ったでしょ。下手に情報が漏れると面倒なんだ。いいから早く消して」
「ちぇ〜…せっかくカッケー試合着なのに…」
オレは渋々写真を削除する。
(…まあ、オレがクソビビってる写真なんていらねぇからな…。っと、円さんにお礼言っとかねえと…)
「あの円さん、試合着ありがとうございました!オレのワガママで赤にしてもらっちゃって!」
「…あぁ、客のためにやっただけだから。少しでもマシな試合見せるためには、天ケ瀬くんのしょうもないご機嫌取りもしなきゃいけないってワケ」
「あ…はぁ…」
「そんな下らないことよりバンテージ巻くから、さっさとそこ座って」
「う、うす!」
円さんがオレの手にバンテージを巻いていく。普段は素手にそのままOFGをつけているから不思議な感じだ。…オレは円さんにさっき聞きそびれた質問を尋ねる。
「…あの…オレの対戦相手…宮鷹 涼冴…って、どんなヤツなんスか?」
「だから言ったでしょ。君と同じぐらいの歳のガキだって」
「いや、そりゃオレと歳が近いヤツと戦うのは驚いたスけど、そうじゃなくて…。例えば、体格はどうなんスか…?」
「あ~、それも君と同じぐらいかな」
「おっ!マジすか!?」
オレは空いてる方の腕で軽くガッツポーズをする。いくら歳が近くても樹神みたいなマッスルモンスターが相手だったら…とビクビクしていたのだ。オレはついニヤけてしまう。
「…なに安心してんの。宮鷹はディザイアの上位ランカーだからね」
「エ゛ッ!?そうなんスか…!?」
オレは一気に意気消沈する。上位ランカー?そんなヤツに素人のオレが勝てんのか?少しでも参考になりそうな情報を引き出しておく。
「…で、その宮鷹ってヤツ、どんな戦い方するヤツなんスか?」
「ヒットアンドアウェイ主体のキックボクサー、親父そっくりのね」
「え?親もキックボクサーなんスか?」
「…あ~、知らないんだ。ま、昔の話か」
円さんは冷めたように笑った。
(…キックボクシング…宮鷹…?どっかで聞いた気がする…?)
オレはその名前になぜかひっかかりを覚える。しかしそれを思い出す時間は無かった。
「…はい、完成」
「あ、あざっす!」
オレの両手には真っ赤なグローブが巻かれ終わっていた。オレはベンチから立ち上がって、グローブを胸の前でボフボフと突き合わせてみる。
(…OFGよりちょっと重いか?でも握りやすい…パンチだけに集中できるって感じだな…)
やがて。
ズンズンズン…ッ!
グローブの感触を確かめていると、突然、部屋の外から地鳴りみたいな重低音と、歓声ような声が響いてくる。
「…ショーが始まったね。天ケ瀬くんもさっさと身体温めて」
「…うすッ!」
オレはストレッチやシャドーボクシングで身体を温め始める。
(相手が得意なのはアウトレンジ…つーことは、相当足が速いはず…!)
日向先輩とのスパーを思い出しながら、腕を、脚を細かく動かす。鏡越しに全身ボクサー姿になったオレが見える。その初めて見るオレの姿が、あと数十分で試合が始まるという非日常感が、オレのテンションをさらに高めていく。
↓part3
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試合前なのに助手席で爆睡する彗翔。前日は緊張で夜しか寝れなかったそうです。
うらき
2020-10-11 02:03:40 +0000 UTCゆーと
2020-10-10 09:25:52 +0000 UTC