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雪降らないかな
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[小説]女子高生ラーメン虎おじのやや非日常

 いま私は金玉を揉んでいる。

 誤解しないでほしいが、私は女子高生だ。

 そしてこれは、私の体質のための、致し方ない行為だ。

 それをまず説明させてほしい。


 私はわけあって、虎おじに変身する体質を持っている。

 虎おじと言うのは……なんと言えばいいのだろう。

 虎のおじさんだ。

 うん……これは説明になっていない。長くしただけ。

 二足歩行で全身に毛が生えていて、顔を含めた全体の印象としてはおおむね虎なのだが、体型はおじさんっぽい。ガタイはいい方だろう。でも腹は出ている。胸はひょっとしたら私よりもでかい。

 絵本や児童書、ゲームによく、わけもなく二本足で立って喋っている動物がいるだろう。それが少しばかり、現実のおじさんを想起させるような生々しい体型をしている。

 そんな感じだ。

 そしてそういう動物は、なぜだか大体お店屋さんをしている。

 なにか決まりがあるのかどうかは知らないが、私の"虎おじ"もその例に当てはまるらしく、ほとんどの場合"ラーメン虎おじ"になって出てくる。

 ラーメン屋の店主で、虎で、おじさんだ。

 ええと。わかってもらえただろうか。

 これって、もしかして初めから"虎おじの霊に取り憑かれている"とか言ったほうが良かったのかな。

 いや。その場合でも虎おじの説明は変わらないか。

 まあ、いいや。


 とにかく、私は時折その"虎おじ"に変身してしまう。

 きっかけはいろいろだ。理由がわからないときもあるし、誰かに頼られたときに、男気とか責任感みたいなものが私を虎おじ化させていると、はっきり感じるときもある。

 そして虎おじ化が始まるときの身体の変化も、色々とバリエーションがある。

 急にぐっと全身に力が入って、ぶわっと虎柄の毛が生えてあっという間に変わってしまうこともあれば、顔だけがまず虎おじに変わって、中途半端に人格が混ざりあった状態が少し続く場合もある。ゆっくりと進む場合は、たいていはまずむわりとした獣臭が全身から漂いはじめ、少しずつ、感覚や部位が虎おじに置き換わっていく。鼻の位置が実際のそれよりやや前に――つまり、獣の鼻面のように――あるように感じられたり。腰のあたりがむずむずして、尻尾が揺らいでいるように思えたり。手や指が実際より太く、大きいような気がしたり。腹回りが太って、服にぴったりと張り付いているような感じがしたり。

 そうした感覚がむずむずとしたあとに、実際の肉体がそれに追随して変化――そして一箇所が変化したら、花が一斉に開花するみたいに、全身がつられてどんどん虎おじになっていく。

 完全に虎おじになったとき、私は私なのだけれど、でも人格は変わっている。そのときの私ははっきりと自分を虎おじだと思っているし、性別は男だと当たり前に思っている。自分のことを、がさつだが頼み事はなんでも快諾する気のいいおじさんだと思って女子高生の友達に接している。突き出た腹を恥じらいもせずに叩いてがっはっはと笑うし、飯を大量に平らげては大きくげっぷしてやっぱり腹をさする。ラーメンの試作を思いついたら台所で延々と食材を煮込み続け、家族にラーメンを振る舞って腕を組みながらコンセプトを語ったりする。そしてムラムラしてきたらパンツを下ろし……その、アレを……したりして……虎おじの気が済んだら、ふっと元に戻る。虎おじに変身しているあいだ着ていた服は獣臭と加齢臭に加え、豚骨やら鶏ガラやらのスープ食材の油がついていることも多いので、私は虎おじになりそうなとき専用のシャツやズボンをストックし、事前に着替えておくことを覚えた。だから、彼氏もいないのに私のタンスにはXLのトランクスがある。


 ここまでが、私の体質に関するざっくりとした概要だ。

 いずれにせよ、それ自体は問題は――まあ、私個人のアイデンティティのゆらぎとかそういった面では多分にあるけれど――あまりない。私のまわりの人は何故か私が虎おじになっても割とすんなり受け入れてくれるし、虎おじ化が生活に支障が出るほど長引いたこともない。

 もっと問題なのは――変身しそうでしないときだ。

 あ、もう少しで虎おじになりそうな気がする、という予感がして、そこで止まってしまうとき。さっきの説明で言うなら、虎おじの身体の感覚だけが生えた段階。

 そこでプロセスが止まってしまうとき。そういうときが一番困る。

 変身しないのなら別にいいじゃないか、と思われる人もいるだろう。

 ところがそうじゃない。

 名前が思い出せそうで思い出せないとき。口に入れた食べ物が、飲み込めそうで飲み込めないとき。くしゃみが出そうで出ないとき。数学の証明が解けそうで解けないとき。痒いところが見つかりそうで見つからないとき。どれも苦痛だ。はやく済ませてしまわないと気になって他のなにもできなくなる。

 虎おじ化も、このジャンルの一つに入るのだ。


 そんなわけで、私はいま金玉を揉んでいる。

 私のではない――虎おじの金玉だ。私の身体はまだ全然変化していない。見えない金玉を私は揉んでいる。

 服はすでに虎おじ用の黒シャツとパンツに着替えてあった。何度か虎おじ時に使用したやつなので、すでにだいぶ虎おじ臭い。その匂いにつられて私の中の虎おじがじわっと出てきそうな気がするが――やはりすぐに引っ込んでしまう。ああ、もう。

 私は目を閉じ、股間のあたりに感覚を集中する。できるだけ意識的に虎おじの匂いを鼻に吸い込みながら、太ももの間に大きくて柔らかい塊があるのをイメージして、無心に、ゆっくりと、リズミカルに、虎おじが手持ち無沙汰なときにそうしているように、揉む。揉む。揉む。

 ぐっと指を折り曲げた瞬間、触感が"増えた"。

 意識の――感覚の上でだけあった金玉の感覚の上にもう一つ、ナマの――実際に存在する何かを触っているときの重さと熱がある。

 目を開くと、私がさっきまで虚空を揉んでいた手の中には――パンツの生地を通して浮かび上がる丸い膨らみがあった。

 はあっ、と私は大きく息を吐く。

 便秘気味だったときにようやくお通じがあったときの――アレ。

 なに恥じらってんだ、クソの話だって言っちまえばいいじゃねえか。

 やだよ。女子高生が人前でそんなこと言えるか。

 ああ。虎おじが出てきた。

 でも、またすぐに意識の暗闇の中に引っ込む。

 もう、さっさと全部出てきてよ。

 そうなったら好きなだけアレの話でもなんでもしていいから。

 しょうがない。私は再び股間に目を向ける。やはり丸く膨らんでいる。

 手を嗅ぐと、あの体臭とも男の匂いとも違うなんとも言えないタマ臭さがした。

 パンツの中が具体的にどうなってるのかは考えまい。とにかく、私は再び集中して金玉を揉むことにする。

 一度取っ掛かりができればあとはなんとかなる。

 手の先に感覚を集中させ、金玉を中心に「虎おじになった自分」の姿を脳裏に思い浮かべる。そうすると身体中に散らばっていた虎おじの破片がゆっくりと、ゆっくりとそこに集まっていって、しっかりした質感を持ち始める。核は「金玉を揉む」という動作そのものだ。動作の魂が願いを成就できないまま彷徨っているので、それに肉体を与えてやるイメージ。なんで急に金玉揉みたくなるんだ? 男ってワケわかんない。そういうのがあるんだよ、おっさんになると。ああもう、まだ一人会話するのは早いんだって。

 パンツの膨らみをひと揉みするたびに、手が少しずつ大きくなっていく。骨組みが角ばって、指が太くなっていって、次第にその表面に明るい色の毛が生え始めた。毛は指先から手の甲へ、そして肘へと伝播して――生えた場所は、まるで毛がエネルギーを送り込んでいるかのように筋肉も脂肪も増して逞しく膨らんでいく。毛はますます上って肩へと辿り着こうとしており、細く滑らかだった白い腕は毛むくじゃらの、がっちりむっちりとした働き盛りの男の腕に変わりつつあった。脇からむわっと刺激臭が漂って、顔をしかめるきつい匂いのはずなのに何故だか懐かしく、ほんのすこしだけ嬉しくなってしまう。

 一度始まった変化は、連鎖して無事(?)全身に拡がっているようだった。

 脂と肉を増量させる獣毛の波は肩を通して胴体へと移り、瞬く間に私の身体を肥え太らせていく。胸がぐぐっと硬い張りを増したかと思うと、柔らかい肉に包まれて脇の肉と一体化していく。その下では腹が空気を入れたみたいにむくむくと膨らんでいき、毛に覆われた大福みたいになる。それは脇腹に肉を広がらせながら腰の上に鎮座してその重量を預け、突き出して出っ張った下腹が金玉を揉んでいる手にも触れて、蓄えられた脂肪の感覚を伝えてくる。私は空いているほうの手で自分の胸や腹を揉み、がっしりと力強い己の身体に陶酔する。ああ、だいぶ虎おじになってきた。興奮する。さっきまで女子高生だった俺がこんなガタイになっちまうなんてな。ああ、おじさんってなんでそういう言い方するんだろ。わかんねえ。へへへ。

 毛はすでに背中全体を覆い、腰回りに入りつつあった。見えないが、背中の体積が増えて姿勢全体が前傾方向に押し出されるのがわかる。はっはっは、背脂だ。分厚い肉のついた丸い背中を想像して私はなんだか可笑しくなる。変身ってこのあたりになるとなんか、躁状態っていうか、ハイテンションになっちゃうんだ。なんかおかしいっていうか、面白くてたまんなくなってくる。腰に集まった毛が少しずつ突起の形を成したかと思うと、やがてそれはまごうことなき尻尾になってにゅるにゅると伸びていく。ああ、尻尾が生えるとやっぱりだめ、なんていうか、人間のときには絶対にないやつだから、虎おじが、俺が一気に、引きずられて出ちゃう。尻にも太ももにもでっぷりと肉がついて、丸太のようになっていく。白くて細い女の子の足がじわじわと虎柄の毛に侵食されて、太くなって。無骨っていうか、頑丈っていうか。そういうモノの機能第一みたいな感じの造形になっていくのがなんか片方では誇らしいって思っちゃうんだけど、片方ではやっぱあーあってなるっていうか、あ、もう足の先までなっちゃった。ごっつい足。絶対私の靴には入んない。サイズ差を頭の中に思い浮かべてツボに入ってしまった。超ウケる。でかすぎ。

 そんなことを(片方の手で金玉を揉み、片方の手で胴体の肉を揉んでいる)考えてる私の頭も、もうだいぶ虎おじになってきていた。毛に覆われた口のまわりが前に突き出て、牙とかひげとかが生え始めてる。鼻はなんか潰れて、あの猫っぽい形になってひくひくしてる。気がつけば私の部屋は獣臭で充満していた。

「おっ、お゛っ、おうっ、お゛おっ」

 いつの間にか股間を揉んでいる私の手に、なにか別の……敏感な肉の塊が触れていて、そこに掌や指が触れるたび、知らず知らずにうちに重低音の喘ぎ声が私の太くなった首から漏れる。俺の匂いがより一層強くなって臭い、臭いのに鼻が勝手にひくついてその渦を取り込もうとする。興奮が止まない。自分じゃない自分の匂いで身体の境目が曖昧になる。身体が拡がる。縮む。膨らむ。しぼむ。部屋に充満した匂いが私を圧迫して、形を粘土みたいにくちゃくちゃに変えていくのがわけのわかんない気持ちよさになってぶるぶると全身が震える。

「お゛ふぅ、ふうっ、あ゛、ああ、もう、やだなあ、くっさ…」

 大丈夫、大丈夫、あとで換気するし、大事なものはしっかりしまってある。女子高生の私をなだめながら毛がぞわぞわと顔を上っていく感覚に集中する。その間もずっと金玉を揉んでいる。顔に肉がついて丸々としてきたところを、風が通り抜けた草原みたいにぶわあって黄色い毛が覆って、そのまま耳の裏を駆け抜けて全体を柔らかく包み込み、敏感な薄い皮膚を触られたときのあのぞわぞわに思わずピンと耳を立ててしまう。額に大きな虎縞ができ、眉が太くなり、頭全体が、いや、身体全身が、本物になった証とでも言うみたいに、重みを増して――

 私は虎おじになった。


「う……よいしょっ、と……」

 私はゆっくりと腰を持ち上げる。そして腕を大きく肩の高さより上げて、伸びをする。脇の匂いがむわっと立ち昇る。

「ん、ん゛〰〰〰〰〰〰ッ」ぱきごき、と内側から骨の鳴る音がした。どうしておじさんの身体ってこう…肩が勝手に重くなるんだろう? そういうもんなんだって。女子高生はいいよなあ。いま、どんな感じなんだろう。ちゃんと虎おじになってるのかな? ケツを掻きながら姿見の前までのしのしと歩いて全身を見ることにする。尻尾がなにかに当たった。たぶん椅子。

 鏡を見る。でっぷりとした、虎のような、おっさんが立っていた。

 全身を覆う毛が生えて、その上に虎模様がいくつも走っていて、きょとんとこちらを見つめる様は、一瞬自分はマスコットキャラクターの着ぐるみのでは? と錯覚させる。だけど服に自分の身体が触れる感触がそうではない生身であることを告げていた。ぱつぱつになった黒いシャツが大きな腹やたるんだ胸の輪郭をそのまま浮かべていて、まるで逆に自分の体型を協調して見せつけているみたいだ。あんまり腹が張り出しているもんだから、その頂点にシャツの生地が引っ張られ、へそのあたりに空間ができてスースーする。どうしてラーメン屋さんってのはこんな感じのコーディネートが好きなんだろう? まあ黒いのはわかる。一度シャツの補充が切れてしょうがなしにお父さんの白いシャツを借りたら、食材の脂がべっとりと染み付いてもう使えたもんじゃなかったからだ。あんまりにも胸の肉が多いもんだから、体側にやった腕と胴体の間に、むっちりと肉が挟まった感触がある。腕も足も太くて丸太みたい。きっと私になる前(?)はすごい重い鍋とか抱えてたんだろう。お腹とかも重いものを抱えるのに便利だったのかも知れない。そのことを考えると、ごつい手にじわっと力が集まっていくような気がする。身体の部位それぞれにも、記憶ってやつはあるらしい。

 顎にも肉がついて、首との境目がよくわからない二重顎になっているが、黒黒としたあごひげが先端にあるのでかろうじて位置関係はわかる。動物みたいな鼻の下にもやっぱり口ひげがあるし、丸く膨らんだ頬にもひげだか虎縞だかわからない剛毛のラインが走っていた。眉は太くて硬い毛がびっしりと密集している。唯一可愛らしいと言えるのはぴるぴると動かせて頭からちょこんと飛び出している虎の耳だが、どうせ髪の毛と一緒にいつも黒タオルでまとめてしまう。目元も私っぽいか? 顔をぺたぺたと触ったついでに指の匂いを嗅いでみる。くっさ。

 ああそうだ。金玉揉んでたんだった。股間を見やると、タイトになったパンツの、両の内ももの間にもっこりとしたそれがぶら下がっていた。ああ。もう慣れたけどさあ、やっぱり見るたびぎょっとするよな、これ。なんでこんなのが体の外側にはみ出てくっついてるわけ? トイレくらいならもういいけど、「ムラムラした虎おじ」が出てきたときとかホントに大変だった。今回はそういう…性欲的なアレ…ではないらしいからちょっと安心した。まず勃起が痛くてやだ。なにあれ。なんで敏感な部分がさらに起き上がってこすれるの? じんじんしてなんかヘンになるし、そしたら余計に勃起しておさまらなくなるし。どういう設計だよ。

 ていうか、今日なんか……「私」が強いなあ。いつもならもっと人格が切り替わるというか……はっきり「俺」って感じになるのに。たまに頭の奥から聞こえてくる虎おじの声も、今日は3つくらい隣の部屋からこもって聞こえるみたいなかぼそさだ。おーい虎おじ。なんかしたいことないのかよ。 ……は? 金玉揉んでたらリラックスしてそれで満足した? なんで? 意味がわからない。えっ、男はそういうもんだって? 意味がわからなさすぎる。自由に身体使っていいったって……あっ、寝た。この野郎。

 …。

 立っててもしょうがないし、とりあえず座るか…。

 ……。

 ………。

 全身がカッと熱くなってきた。

 「権限」が完全に私に譲渡された途端、猛烈な恥ずかしさが襲いかかる。

 は? なにこの身体。

 全身脂ぎってるし、むちむちに太ってるし、臭いし。ぱつぱつに体型が浮かんでるシャツから毛がはみ出てるし、顔は髭だらけだし、不細工に鼻の穴が開いてるし。ていうか黒ずんでる。尻もやべえ。座ったらどんだけ肉が拡がるんだよこれ。おっさんが電車でやたら足開くのってこういうわけ?

 「あっ、うっ、あーっ」

 もじもじと動いて、身体の肉同士が触れるたびに曖昧なうめき声をあげてしまう。ヘンなところに自分の肉がある。腹肉が邪魔で腰を捻りにくいし、肉と肉の重なる部分が妙にムレて痒いし。さっき着ぐるみって言ったけど、ある意味正しい気がしてきた。脱げないナマの着ぐるみに押し込められてどうしようもない状態だ今は。どうすんだよこれもう、なんかお腹減ってきたけどこんな体型でいま食べ物探してるとこ見られたら恥ずかしさでたぶん死ぬ。いや、いつもやってるしもう何度も見られてる。だけどいまは死ぬ。落ち着け。いつも通りだったら、すぐに戻る。用事がないときの虎おじ化は短い。リラックスして自然体でいるんだ。でも寝転びたくない。体臭を床に擦りつけたくない。ただでさえいつも虎おじ化後は毛の掃除がだるいのに。

 あぐらをかいて目を閉じる。エセ座禅。深呼吸して全身から力を抜く。

 自分の体臭が気になって落ち着いて深呼吸できない。あと牙が気になる。舌を口のなかでもぞもぞ動かして延々と牙の先っぽをナメてしまう。口の中の舌の位置が気になると云々って他愛無い話あるけどさあ、虎おじ状態にも共通したって別に嬉しくないんだよ。ああもう、余計なこと考え出すと余計に舌が動いて気になる。だめ。これはだめ。

 気がつくと、手を股間にやっていた。

 手が覚えているらしい。しょうもないこと覚えてんな。

 まあいいや。どうせ私の金玉じゃないし。断じて私の金玉じゃない。だから好きなだけ揉んでればいい。手が覚えている動作に任せて私は意識するのをやめる。

 …。

 ……。

 ………。

 …………?

 なにか。

 なにか違和感が生えた。

 なにかが変化している。

 手の中に収まっているアレが、さっきより小さい。

 ひと揉みするごとに、明らかに、サイズが減少していっている。

 ああ、やっとだ。私はため息をもらした。ようやく戻れる。

 いいぞ、それなら大歓迎だ。もっと揉め。これもう虎おじの手だし、私関係ないし。揉んでお前の金玉消しちゃえ。

 私の無言の激励に応えるように、股間のソレは縮みゆく。

 ばくだんおにぎりだったものが、野球ボールくらいに。

 野球ボールだったものが、大福くらいに。

 大福だったものが、ぶどう粒くらいに。

 そしてぶどう粒だったものが、くっと肉の内側に入り込む感触がして。

 私の股間は、完全に女性の特徴を備えたそれの形状になる。

 良かった。

 あとは、全身が戻っていくだけだ。

 あれはスッキリする。

 全身から毛が抜けて、重みが取れて、邪魔だった肉が消えていって。

 心なしか、終わったあとは毛穴の汚れとか落ちてる気もするし。

 冬なんかは、しばらく足先ぽかぽかして便利だし。

 意外と、シャワーしたら匂いもすぐに落ちる。

 身をなかば投げ出して、ウキウキしながらごっつい虎おじの足先を眺める。

 ほら。もうすぐ戻るぞ。

 毛が抜けて、しゅるしゅる縮んで、私のうるわしい柔肌が見えてきて。

 柔肌が。

 見えてこないな。

 全身を触る。

 素肌になっている部分がない。

 細くなっているところもない。

 全身まだ毛むくじゃらで、むちむちとした肉の弾力が返ってくる。

 もう一回股間を触る。

 なくなってる。

 なくなってるよな。

 なんだろう。

 心なしか、胸に圧迫感がある。

 さっきよりシャツの生地が伸びて、薄くなっていた。

 まるで胸だけさらに増えたみたいな。

 ……。

 再び鏡の前に立つ。

 変わってない。虎おじのままだ。

 股間の膨らみがなくなって、胸がさらに丸く膨らんでいるのと、乳首の出っ張りがシャツの上からでもわかるくらい、デカくなっている以外は。

 どことなく、骨格も変わっているような気がする。

 傾きとかラインとかが。毛と肉に覆われてあまりわからないけど。

 髭も薄くなっている。

 ちょっと待って。

 いや、マジ、この状態初めてでなにもわからん。

 つまりどういうこと?

 よくわかんないけど、虎おじのその……性別的な部分だけがなくなって…そこだけ「私」に戻った…ってこと?

 つまり。


 虎おば?


 死ぬ!!!!!

 「おば」は嫌だ!!!

 いやわかってるんだ。この世の遍く生き物は老いる。女子高生だって年齢を重ねている限りいつかはおばさんになる。それがわかってないなんてことは流石にない。

 だけど一足飛びでいきなり「おば」になるのは流石に嫌だ!!!

 人生の空白がありすぎるだろ!!!

 せめて虎おねえさん!!! 虎おねえさんにして!!! 虎おね!!!

 今からでも虎おねにシフトチェンジしてくれ!! 年齢の部分だけ! 年齢の部分だけちょっと減らしてくれたらそれで済むから! あともうちょっと肉を減らして!!!

 というか!

 早く戻して!!!!

 待て。待て。待つのだ私よ。

 経験上、動揺すればするほど戻りは遅くなる。

 おちつくんだ。ポジティブなことを考えてリラックスする。

 ……。

 もし虎おじ体(おば体とは死んでも言ってたまるものか!)の年齢が固定なのだとしたら。

 私がその肉体年齢を超えたときは、逆に以降は若返ることになる。

 すげーいいじゃん!

 よくねえよ!

 

 結局私は。

 なにかのきっかけで元に戻るスイッチが入るまで。

 鏡の前でひたすら、虎おねになれダンスをし続けることになった。(効果はなかった)

[小説]女子高生ラーメン虎おじのやや非日常

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