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聖水少女奮闘記~尿意に堪えて悪魔を倒せ~(後編)

(ここが、ドラキュラのいる場所……?なんだろう、なんの力も感じないけど……) 「よくぞここまでたどり着いた。太陽の一族よ」 「……っ!誰っ!?」 「ほう……今代のヴァンパイアハンターは、己が宿敵の名すら知らぬのか」 「じゃあ、あなたが……!ならここで、あなたを倒しますっ!!」 闇から現れた宿敵に向かい、聖剣を振り下ろす。 しかしその一撃は、虚しく空を斬った。しっかりと狙いを定めていたし、相手は少しも動いていないはずなのに。 「相も変わらず、人間は気が早いな。少しは落ち着きを持ってもらいたいものだ」 「この手応えのなさ……魔力もなにも感じないのは、もしかして……!」 「ようやく気づいたか?そこに我が肉体はないということに」 先ほどからマリーが感じていた違和感の正体。強大な魔力を持つ魔王がいるにしては、なんの気配も感じなかったことの理由。そしてマリーが剣を外した理由。それは極めて単純なものだった。 この場所にドラキュラはおらず、目の前にあるのは彼が魔法で作り出した映像に過ぎないということである。 しかしそこでマリーは疑問を抱いた。人間界を征服しようと、100年に1度の機会を眈々と狙っていたはずの彼が、なぜこんなことをするのかということだ。 「気になるか?私がなぜこのような事をするか……単純なことだ。癪ではあるが、人間どもの進歩は私が考えるよりずっと速かった……今の世は、夜でも光に満ちているではないか」 「確かに、今は明かりがそこら中にあるけど……でも、あなた達が嫌うのは太陽の光だけのはずじゃ?」 「だが、それでも闇は照らされる。我が力の源である闇がなければ、我が力を発揮することは適わぬ……特に貴様ら太陽の一族と戦うにはとても足りぬのだ」 「それじゃあ、もしかして諦めてくれたの!?」 瞳を輝かせるマリーの言葉に、ドラキュラは軽く笑みを浮かべながら答える。 その語った内容は、彼がまだ地上侵略を諦めていないことを示していた。 「だが逆に、貴様らさえいなければ問題は無くなる。闇がなくとも、普通の人間ごときを狩るのは造作もないのだからな」 「フフ……だからこそ私は、私自身をエサに貴様をおびき寄せたのだ。ここで貴様を滅ぼし、次代にその忌々しき血を残させぬ為にな」 「まさか、あなたの狙いは……!」 「そう、貴様自身なのだよ。マリー・ヘリオライト。ここで貴様を倒し、次の日食の暁に地上を征服するのだ」 「その為に私は策を弄し、貴様の力を削ぐことに専念したのだ」 「それなら、なぜあなたは私を殺しに来ないの?」 「貴様の力は想像以上だった。正面から戦えば、力が弱まった今の私では危険が伴うだろう」 「地上侵略の前に私が倒れては仕方ないのでな。魔力のほとんどを配下に分け与え、魔界で身を休めているというわけだ」 「魔力を分け与えて……?あっ、まさか……!」 「フフ……ようやく気づいたか?人間とは本当に浅慮なことだな。私がなんの目的もなく、貴様と話などをすると思っていたのか?」 「やられた……!時間を稼いでいたのね。帰り道に魔物を召喚するまでの……!」 「予め配置していたのはことごとく倒されていたのでな。貴様を仕留めるに充分な相手を拵えるのには苦労したぞ」 「だがこれまでの道のり、決して楽なものではなかったであろう?その消耗した状態で、果たして無事に帰ることができるかな?」 ここに来て明かされたドラキュラの作戦。自分の身を守りつつ、最大の障害であるマリーを殺すための策。 100年に1度、自分を殺すために必ずやってくる太陽の一族をおびき出し、その力を消耗させて仕留める。永遠の生命を持つドラキュラにこそ可能な、100年越しの計略にまんまと嵌められてしまったのだ。 だが、だからといって大人しく殺されるわけにはいかない。ドラキュラの城の最上階で、マリーの戦いは折り返しを迎えていた。 「あなたの配下なんかに、やられたりしません!!」 絶対に一族の血を絶やしはしないと、決意を固めて来た道を戻っていくマリー。 その後ろで、ドラキュラは静かに笑みを浮かべていた。これからの道のりがかつてなく厳しいものになることを示唆するかのように。 下のフロアに戻ると、そこに広がっていた光景はマリーの想像を絶するものだった。 「なに、これ……!」 蝙蝠の群れと戦ったフロアに戻ってきたマリーを出迎えたのは、一面を埋め尽くす植物のツタだった。 一瞬にしてジャングルにワープでもしたかと思うほどの変貌ぶりに、驚きを隠せない。 辺りを見回しても、敵と思しき姿は見受けられない。変わり果てた城の姿に不安を覚えながらも、マリーは先へと進んでいく。 そして彼女がさらに下のフロアへ降りた時、城をこのような姿へと変えた元凶がその姿を現した。 「あれは、アルラウネ……?まさか、こんな力のある魔物じゃないはずなのに……!」 そこにいたのは、処刑場で人の血を吸ったことで変異した植物の魔物、アルラウネ。 人の体液を好み、特に男の精を啜ることで知られるが、逆に性的なもの以外の被害が少ない魔物である。 花の中央に女性を象っためしべがあり、ツタを伸ばして手足を拘束して体液を啜るのが特徴であるが、それぐらいしか攻撃手段がないので比較的危険度は低い部類に入る。 だがここにいるのは、そんな普通の個体とはまるで異なる力を有していた。 普通のアルラウネにこれほど大それた力はなく、ツタを伸ばすにしてもその長さは精々数メートル程度だし、伸ばせる本数も片手で数えられる程度だ。 しかしこの個体のツタは部屋中をびっしりと覆うほど多く、明らかに通常と異なっている。これだけのツタに一斉に襲い掛かられれば、さしものマリーも捌くのは難しいだろう。 「……!?危ないっ!?」 そして、アルラウネの本格的な攻撃が始まった。部屋中にあるツタが、マリーに向かって伸びていく。 本体から伸びるものだけでなく、部屋のあちこちに伸びたツタをも避けなければならない。360℃すべてから襲い来るツタを避けながら斬りかかるというのは、もはや神の領域に近い技量が必要となる。 魔物といえど植物には変わりないので、火炎放射はとても有効だがもう残りがない。 近づくことが困難な上、遠距離で有効な攻撃手段もない。もしもこのまま捕まれば、彼女と太陽の一族の命運は絶たれてしまう。 (もう、いやなのにぃ……!!) そしてマリーは覚悟を決めた。すでにこれまで何度も放ってきた技に頼ることを。 十字架に祈りを捧げ、全身から浄化の光を放つ。厄介な部屋中のツタも、これで問題なくなるかと思われた。 しかしマリーの予想は大きく外れることとなる。浄化の光を全身に浴びたはずの敵は、変わることなくマリーに向けて攻撃を放ってきたのだ。 (な、なんで!?なんで、効いていないの!?) それはマリーの心に大きな動揺をもたらした。蝙蝠のように力業で防ぐのでもなく、そもそも通用しないというのは初めての経験だったのだ。 動揺する彼女の前で、アルラウネがその口を開いた。その口から明かされた理由は、考えてみれば当然の理由であった。 「おひさま、ぽかぽか……」 そう、浄化の光とはすなわち太陽の光。魔物であると同時に植物でもある相手に対して、効き目が弱まるのは当然のことだった。 しかしそれでもマリーにとって決め技であり、高い代償を払って放つ技を封じられたショックは大きい。 何とか違う手段を講じようとする彼女に、再びツタが襲い掛かる。 (ま、まずい……そんなに長くよけきれないし、な、なにより……飛び回ると、お腹に響く……!) ツタの密度そのものの問題もあるがなにより深刻なのは、マリーの下腹部に溜まった聖水の残滓がそろそろ重くなりつつあることだった。それは彼女が飛び回る度、じんじんと鈍い感覚を伝えてくる。 一刻も早く決着をつけなければ、これからの戦いに差し支える。ここでマリーは、賭けに出ることを決めた。 グランドクロスが通じず、聖剣で斬ろうにもそこまで近づくことができない。ならばグランドクロスを囮にして接近し、相手に攻撃するのである。 チャンスは一度しかなく、失敗すれば敗北が確定する。しかし勝てる可能性があるとすればこの作戦だけだ。マリーは迷うことなく行動に出た。 残り三本となった聖水の1つを一息に飲み干し、銀のナイフを構える。そして十字架に祈りを捧げ、必殺技を発動する。 「くらいなさい!グランドクロス!!」 「また……ぽかぽか……まぶしい……」 グランドクロスの強い浄化の光で視界を奪い、ナイフの届く距離まで近づく。そしてアルラウネの本体、女性の形をした部位に向けてナイフを投擲する。 「あれ……はもの……?いたい……」 「今だっっ!!!」 「ア…………!」 突き刺さったナイフに気を取られた一瞬の隙を突き、深々とその体に聖剣を突き立てる。 さしものアルラウネも、聖剣に刺されては耐えることはできない。ばらばらと花を散らし、その場に朽ちていく。 部屋中のツタも枯れ崩れ、後に残ったのはマリーと何者かの腕だけだった。 その腕からは強力な魔力が感じられ、その腕がアルラウネに強い力を与えたと思われる。そしておそらくその腕の持ち主は、ドラキュラ本人だろう。 強い魔力を有したドラキュラの肉体は、それを持つ者にも力を与えたのだ。おそらくこの先にいるのも、そうやって強い力を得た相手だろう。 今までにない強敵との戦いに疲労を隠せないが、まだフロアは残っている。迫りくるタイムリミットを前に、ゆっくりもしていられない。 「も、もう飲みたくないけど……そうも言ってられないよね……」 次の戦いに向けて、ちゃぷちゃぷと波打つお腹を圧して聖水を流し込む。 きゅんと切なく疼く感覚を振り払って、マリーは階段を下りていく。 その先にあったのは、怪しげな色の靄に包まれた空間だった。それ以外に怪しい気配はなく、逆に不気味さを感じる。 (何もないはずなんてない……このもやが怪しいけど、行かないわけには……なるべく吸い込まないようにしないと) この靄を吸ってしまわぬよう、袖で口元を覆いながら駆け抜けようとするマリーのすぐ目の前に、巨大な影が表れた。 鼻先がぶつかりそうなほどの位置に突然現れたのは、牛の頭に人の肉体を持つ巨人、ミノタウロス。唐突に現れたそれに驚くマリーに、さらなる仕掛けが牙を剥く。 百戦錬磨の彼女が一切気づかぬ間に、周りを無数のスケルトンが囲んでいたのだ。その事実に驚きと、同時に焦りを覚える。 戦闘の最中にこれほどの接近を許し、さらには包囲までされてしまったということ。そしてこれだけの敵の気配に一切気づけなかったことに動揺していた。 確かに疲れているし、尿意からくる焦りもあるとはいえ、これほど迂闊になるなどあり得ないことである。 しかし、おとなしくやられるままでは迂闊どころの話ではない。無数の敵を相手にやれることはたった一つである。 あと2回しか撃てないとはいえ、出し惜しみして殺されては仕方がない。マリーは迷うことなく、それを発動する。 「……グランドクロス!」 浄化の光が辺りを照らし、闇の力を浄化する。辺りにいた敵も、一瞬にして消え去った。 これで先に進める、とマリーが思ったその瞬間だった。何者かに背後から腕を掴まれ、後ろ手に拘束されてしまったのだ。 一体何が起こったのかわからず混乱する彼女の耳元で、手を掴んでいる相手がささやきかけてきた。その声の主は、女性だった。 「ふふ、忌々しい一族の末裔も、こうなっちゃうとカワイイ女の子……おいしくいただいちゃおうかしら」 「あ、あなたは……!?どうして、なんともないの……!?」 「うふふ、それはね……ドラキュラ様が持っていた日の光を防ぐ外套を纏っていたからよ。今ので台無しにはなってしまったけれど……ね」 「そ、そんなことが……!?」 「お楽しみの前に、自己紹介しましょうか。私はドラキュラ様第一の部下、サキュバスのカーミラ……よろしくね、お嬢さん?」 ドラキュラから差し向けられた次なる刺客は、女性の淫魔であるサキュバスだった。 主から貰った外套でグランドクロスの光を防ぎ、無数の敵を目くらましにして近づいたのだ。 しかしサキュバスが生き残っていたこと以外にも疑問はある。なぜ歴戦の経験があるマリーに、一切気取られずここまで近づくことができたのか、ということである。 「人間ってほんと、単純でかわいいわぁ……この靄がどういうものか、少しも考えないんですものね」 「そ、そうだ……このもやはいったい……?なんだかちょっと、吸ってるときもちよくなってきて……」 「それはそうよ。これは行為の際に焚くお香でね、ちょっと頭をぼんやりさせることでより積極的になれるの。戦いの際には、それで判断を鈍らせたりもできるわ」 「それに私の幻惑魔法を合わせれば、色々と面白いことができちゃうってわけね」 「こうい……?」 「あら、知らないの?ふふ……おねえさんが手取り足取り、と言いたいところだけど今日はそっちじゃなくて……ココ、いじめちゃおうかしらね?」 そういってサキュバスが触れたのは、じわじわと存在感を増してきている下腹部。そこをくいくいと押され、マリーは慌ててそれを止めようとする。 「あ、だめ!だめですっ、そこはぁ!」 「うふふ、今まで飲んできたお水はぜんぶこの中に溜まってるのかしら?もうほとんど飲んでしまったのよね?」 「……っ!だ、だって……いやな敵ばっかり出てくるから……っ」 「それはそうよ。あなたがどういうハンターか分析して、私がドラキュラ様に進言したんだもの。この子はおもらしすると弱くなるから、そういう風に仕向けたほうがいいって……ね」 「そ、そんなことが……!」 「ドラキュラ様はずっと魔界にいて、人間界のことはあまり存じておられないの。だから私みたいなのがこうして進言することもあるわけ。うふふ、びっくりしたかしら?」 ここに来て、マリーは驚くべき事実を知った。今日一日かけてマリーを消耗させる戦法は、他でもなくここにいるサキュバスが考え出したものだったのだ。 それに見事はめられてしまい、10あったうちの9本をすでに飲んでしまったマリーのお腹はすでに波打つほど水浸しだ。それが膀胱に降りてくれば、耐えがたい重しになるのは想像に難くない。 「これまでは戦いで気が紛れてたりしたでしょうけど……どう?ちょっと落ち着いてくると、すごくしたくなってきたでしょう?」 「そっ、そんなこと……!」 「真っ赤になって、かわいいのね。そうだ、いいこと教えてあげましょうか。あなたがこの城に入ってから、どれくらい経ったのか知ってる?」 「時間……?」 「あなたがこの城に入ったのは、もう昨日のことよ。昨日のお昼ごろにお城へ乗り込んできて、今は日付が変わってまもなくというところね。わかる?そんなに長い間、あなたは戦い続けていたの。我慢したままね」 サキュバスが教えてきたのは、マリーがこの城に来てからの時間だ。マリーが家を出て、今に至るまで12時間近く経過しているということ。それだけ長い間、彼女は排泄をしていないということを突きつけてきたのだ。 そのことが、マリーに大きな影響をもたらした。これまでは戦いに夢中で時間の経過など気にしていなかった。ある意味で麻痺していたのを覚まされてしまったのだ。 戦いによる高揚が麻酔の代わりとなっていたのが覚めれば、あとは麻酔と同じである。麻酔によって感じなかった感覚が、一気に押し寄せてくるのだ。 「そんなに長い間行っていないのだもの。さぞかし辛いでしょう?お手洗いに行かないとダメよねぇ」 「わ、私は……別に、行きたくなんか……!」 「あらそう?人間って確か、5~6時間に一度は行くのではなかったかしら?あなたはだいたいその倍は我慢してるし、お水だってたくさん飲んだわよね?」 「そんなの、ぜんぜん平気です……!」 「あらそう?じゃあこれ、浴びてみる?」 そう言ってサキュバスが取り出したのは、小さな瓶に入った黄色い粉末だった。 それの意味がわからず首を傾げるマリーに、サキュバスは半ば呆れながら挑発する。 「あら、中身がなんなのかさっぱり想像もつかないのかしら?あなたはもう少し穿って考える癖をつけた方が良さそうね」 「お、大きなお世話ですっ……!というか、そういう風にあなたがしたんじゃないですか!このもやで……!」 「それは確かにそうね。じゃあ、ヒントをあげようかしら」 「私たち魔族にとって、さして強くもないアルラウネなんかにドラキュラ様が御力を分け与えたのは、なぜかと思うかしら?」 そう、アルラウネは決して強い魔物ではない。確かに太陽光に耐性はあるが、それなら蝙蝠の群れをもう一度呼び出してグランドクロスを乱発させた方が効率的だったろう。 そんな中であえてアルラウネを選んだ理由。それはその生態にあった。 アルラウネは人の体液を好む。特に男の精液と、若い少女の小便を好むのだ。 そしてそれらを効率よく得るため、アルラウネはその身体から人の身体を狂わせる物質を生成する。 アルラウネの蜜は強力な催淫効果を、そして花粉は利尿作用をもたらす。そしてサキュバスの持つ瓶に収められているのは、黄色い粉末である。 「ま、まさか……!」 「そう、そのまさか。アルラウネは初めからお薬の代わりに呼んだだけなの。太陽への耐性も、まあ役には立ったけれどね」 「や、やだ、やだ……!やめて、くださ……!」 「うふふ、ここでやめるわけ……ないわよね?」 ぼふ、と小さな音を立てて粉末がマリーに振りかけられる。その効果は、すぐに表れた。 「あ、え……!?ぅあ!やだ、や……!は、はなして!はなしてくださいぃ!」 「あらもう?早いのねえ。さすがは魔界の花……いえ、あるいはドラキュラ様の御力かしらね」 「だめ、だめ……!おさえっ……!っ、うぁぁぁ……!!」 サキュバスに抑えられた腕をじたばたと動かし、必死に振りほどこうとする。急激に高まった尿意は、瞬く間に決壊の間際までその水位を引き上げていた。 アルラウネの花粉が持つ利尿作用は元より強力なものではあるが、それでもこれほどの即効性は持ち合わせていない。 恐らくドラキュラの腕によって変異した個体のものだからこそ、これほどの効き目を発揮したのだ。 「あらあら、押さえたいの?もう出ちゃいそうなのかしら?」 「ち、ちがっ……!そんなことぉ……!」 「強がっちゃって……いいわよ、放してあげる。けどその代わり……」 「あっ……!」 「物騒なこれは没収ね。あの光をもう一度放たれたら堪らないもの」 「じゅ、十字架が……!どういうつもり……?」 これまでマリーを後ろ手に拘束していたサキュバスが、突然それを解放したのだ。 それと引き換えに必殺技のキーである十字架は奪われてしまったが、今までよりはあらゆる意味でやりやすい状態になったのは確かである。 ここでわからないのは、サキュバスが何を考えているかということだ。マリーを殺したくて仕方ないはずなのに、こうして塩を送ってくるのはどういう意図があるのだろうか。 「ふふ、単純よ。私たち闇の一族にとってあなたたちは怨敵……それをただ殺すだけじゃ恨みが晴れないわ。さんざんに辱めてからじゃないとね」 サキュバスの意図。それは何百年にも渡って魔族の野望を打ち破ってきた一族の末裔を辱め、長年の恨みを晴らすというものだった。 これはとらえ方によっては、油断ともいえるものだ。絶対的優位に立っているゆえに、こうして相手をおちょくっているのである。 そうであるなら、まだ打つ手は残っている。グランドクロス発動のキーである十字架を奪われはしたが、まだ最後の切り札は残してあるのだ。 (でも、これを撃つには近づかないといけない。それに……うぅ……おなか、苦しいけど……飲まなきゃ……!) だが、先ほどのグランドクロスでマリーの体内エネルギーは枯渇している。それを補わなければ戦うどころではない。 最後の聖水をここで消費してしまうと、この後に強敵が現れた時に為す術を失ってしまうことになるし、すでに悲鳴を上げている下腹部に更なる重しを与えてしまうことにもなる。 だが、飲まなければここで死ぬのは免れない。覚悟を決めて、マリーは最後の聖水に口をつける。 「ぜ、ぜったい、負けませんっ……!」 「あら勇ましい。その剣を私に当てられれば、確かに勝てるかもしれないわね?振れるなら、だけど」 「ば、バカにして……!やああぁ!!!」 勇ましく剣を振りかぶり、サキュバスに斬りかかっていく。だがその一振りは空しくも空振り、逆に隙を晒してしまう結果となる。 隙だらけとなったマリーのお腹に、サキュバスの手が触れる。硬く張り詰めたそこを、手のひらで軽くぽん、と叩きつける。 「んぎゅうううううぅぅっっ!!!!?」 たったそれだけでマリーは持っていた剣を取り落とし、両手で股間を押さえる醜態を晒してしまう。 そんな姿をサキュバスが見逃すはずもなく、嘲りの言葉を向ける。 「あら、大事な大事な聖剣を落としちゃったわよ?誇り高い太陽の一族が、そんなことをしていいのかしら?」 「ふぅ……ふぅ゛~~…………!!!」 「ほら、頑張って我慢なさい?一族の血をこんなところで絶やすつもり?それもオシッコが我慢できないなんて理由で……」 「うるさい……!うるさいっ……!!」 「ふふ、いいわぁその顔……!そうでなきゃ恨みは晴れないものねぇ」 屈辱に顔を歪める姿を見て満足げに嗤うサキュバス。長年の怨敵を良いように弄ぶ快感に浸る彼女は、どこから見ても油断しきっていた。 それはもちろん、そこに至るまでの過程があってのことでもある。サキュバスの策により消耗させられ続けたマリーの尿意は暴発寸前、最後の拠り所であるグランドクロスも十字架を奪ったことで発動不能、負ける要素などないと思うのも無理はない。 そのことが結果として、致命的な判断ミスを招いた。マリーの顔を近くで見ようと寄ってきたのだ。 (チャンスはここしかない……!) ここでマリーは、残された最後の手段を発動する。 両手を広げ、自分自身の身体で十字を描く。通常のグランドクロスは十字架に祈りを捧げるが、これは自分自身を十字架に見立てて神の加護を得るのだ。 本物の十字架を使う場合よりも威力は数段劣るため、接近していないと相手を倒すには至らない。その代わり十字架が無くても放つことが可能な技だ。 名付けてミッシングクロス。十字架を失ってもなお戦うために生み出された最後の技である。 「な!?これは、太陽の……?なぜ……!?」 「ゆ、油断……しましたね……!自分自身を十字架にする……私の、最後の手段です……!」 「そんな……!?ドラキュラさま、もうしわけ……ありま……!」 マリーを苦しめ続けてきた淫魔、サキュバスは光の中に消えていった。それと同時に視界を奪っていた靄も晴れていく。 靄が晴れると、眼前には城の入り口が待っていた。辛くもマリーは魔物ひしめく城内からの脱出に成功したのだ。 「やっと、出られる……!」 だが、安心したのもつかの間、更なる悪意がマリーに牙を剥く。 城を出た彼女を出迎えたのは、数えきれないほどのスケルトンの軍勢だった。ドラキュラの策は、二段構えになっていたのだ。 城内の敵は実質、アルラウネとサキュバスしかいなかった。ドラキュラが時間をかけて呼んだにしては少なすぎるし、彼女を殺しに来た刺客にしては戦闘力も低い。その理由は彼女を消耗させるためだけの、いわゆる当て馬でしかなかったからだ。 城内の二人でマリーの尿意を限界まで追い詰め、城外にいる無数の手駒で仕留める。これがサキュバスの作戦をさらに発展させた、ドラキュラの策であった。 「う……そ……」 無数の軍勢を目の当たりにしたマリーの表情に絶望の色が浮かぶ。ただでさえ多勢に無勢であるのに、今の彼女はお腹に特大の重しを抱えているのだ。 そのうえ切り札のグランドクロスももう使えない。聖水を飲み切ってしまった以上、頼れるのは聖剣による斬撃だけ。不利どころの話ではない。 だが、戦わなければ活路は切り開けない。マリーは知恵を振り絞って作戦を導き出した。 その作戦はとても有効だが、今の彼女にとってはつらいものだった。 ひらけた城外で戦えば四方八方から攻撃を受けることとなり、とても捌ききることは不可能だ。どうにかして敵の攻めてくる方向を限定しなければならない。 そこでマリーが考えたのは、一度城内に戻ることだ。城の入り口で待ち構えることで一度に相手する数を限定し、入ってきた者から斬り倒す。 すなわち、籠城しての消耗戦である。 (が、がんばるっ……!) だがそれは、ここにいる全ての敵を倒さなければならないということである。普段の彼女なら敵軍に突っ込み、突破して逃げおおせることもできたろうが、今の彼女にはとても不可能だ。 どれだけ時間をかけようと、敵を殲滅する以外に生き延びる道はない。 ぎゅう、と股間と剣を握りしめて、少女の籠城戦が幕を開けた。 _________ 「ぁ……ぁ、でる、でちゃう……でる……!」 それから何時間経っただろうか。来た時の何倍もの時間をかけて、マリーは町はずれの墓地にたどり着いていた。 無数のスケルトン全てを震える剣でなんとか斬り倒し、ふらつく脚でここまでやってきたのだ。 彼女が城外に出たときはまだ暗かった空が、今はもう白みつつあった。それはすなわち、それだけ長い間戦い続けていたことを……マリーが尿意に堪え続けていたことを意味する。 本来なら追っ手を警戒して剣を常に構えていなければいけないはずが、今の彼女はそれどころではない。出口を押さえつける手が少しでも離れれば、その瞬間にも終わりを迎えてしまいそうなのだ。 だが非情にも、そんなマリーに更なる試練が与えられる。墓地に現れるある存在が、最後に立ちはだかる壁となるのだ。 「ぃ……や……!ゆるして、おねがい……!も、もう、でちゃうの……でちゃうのぉ……!」 目に涙を浮かべて嘆願する彼女の前に現れたのは、意思を持つ死骸。 城に向かう時はにべもなく斬り倒した雑魚、ゾンビ達だった。 少女がいくら涙を浮かべて頼もうと、それで引き下がるような知能を持つ相手ではない。それはマリーにも痛いほどわかっていた。 ぎりりと歯を食い締めて、少女は背中の鞘に納めた剣に手をかける。だが…… 「あっ…………!!?!?」 背中の剣に手を伸ばす、ただそれだけの動きでも膨らみ切った膀胱が引き攣り激痛をもたらす。 それは腰回りをハンマーで殴られたかのような感覚。そしてそれに伴う激烈な尿意が少女を襲う。 もう剣を構えるどころではなかった。出口をきつくきつく握りしめ、アヒルのようによちよちとした歩みでゾンビから逃れようとする。 杖をついた老人とさして変わらない移動速度のゾンビにすら劣るほどの速さであるが、これが今の彼女にできる精一杯だった。 そして来るべき時が訪れた。のろのろとした歩みのマリーはみるみる追いつかれ、ゾンビの群れが哀れな少女に襲い掛からんとその牙を剥く。 そんな最中でマリーは、驚くほど冷静になっていた。ある意味で諦めていたのかもしれない。 (ああ、もう死ぬんだ……私……戦ったってもう……なら、もう楽に……) こんな激痛を味わってまで尿意を我慢していたのは、戦うためだ。体内の聖水を出してしまうと動けなくなってしまうためだ。 しかし今、それが溜まりすぎてもはや戦いどころではない事態に陥っている。もうどうしようもない。 ならば最後に、楽になりたい。少女が思ったのは、こんな切なる願いだった。 しかしここで、思わぬ幸運が訪れる。マリーに襲い掛かろうとしていたゾンビが、消え始めたのだ。 その原因は、地平線の向こうから覗く朝日。日食を経て二日ぶりの太陽が、窮地の少女を救ったのだ。 「あ……おひさま……!」 (終わった……!じゃあもう、がまんしなくても……) 戦いは終わった。この太陽の輝きこそが、何よりもそれを証明していた。 この光のあるうちは、敵が襲ってくることはない。彼女が尿意を堪える理由も、これでなくなったことになる。 (ううん、ちがう……!!ここまでがんばったんだもん……ちゃんと、おうちでしなきゃ……!) (おとうさんとおかあさんだって、見てるんだから……!) 天に召された両親が見守っている前で粗相はできない。信心深い彼女だからこそ、ここで踏みとどまることができた。 戦術的にはもう彼女が頑張る理由はない。だが最後は少女として、誇りを守り通すために。 「が、がまん……!がまんん……!!」 普通に歩けば五分とかからない家まで、少女の最後の戦いが幕を開けた。 もはや彼女が普通に歩くことは不可能である。特に膀胱が悲鳴を上げ、尿意が高まっているうちはその場に立ち止まって両足をきつく締め、両手を食い込むほど強く押し込んでようやくなんとかやり過ごしている状態だ。 少しでも大きく脚を開けば、少しでも振動を与えれば、たちまちのうちに夥しい量の水溜まりをつくってしまうだろう。細心の注意を払い、少女は進んでいく。 どんどん間隔が狭まる尿意の波をやり過ごし、二歩、三歩と歩を進めていく。そして波が高まればまた立ち止まる。 そんな地獄の行軍を三十分も続けて、少女はようやく自分の家へとたどり着いた。 両親の墓に挨拶する余裕もなく、玄関へと飛んでいく。もうすでに、慎重に進む余裕などなくなっていた。 「おしっこ……!!!おしっこぉっ…………!!!!」 じゅいぃっ!!ぶしゅうっ、じゅうううぅ!!! 履いている靴を脱ぐこともなく土足で家に駆けこんでいく。絶叫しているその姿からは一切の余裕が感じられない。 これまで尋常ならざる頑張りによって、一滴も漏らすことなく溜め込まれていた少女の聖水が溢れ出す。歩いた後に点々と雫を残して、少女はトイレのドアを乱暴に押し開ける。 「はやくっっ!はやく、出ちゃ、あああああぁぁっ……!」 素早く下着を脱ぎ去り、木製の便器に向かってしゃがみ込む。もう少女の放尿を邪魔するものは何もない。……はずだった。 しかし最後の最後に、マリーに不運が襲い掛かる。疲労によるものか、あるいは慌てすぎたためか……マリーの脚はもつれ、その場に尻もちをついてしまったのだ。 「あっ!?あ……ぁ……!」 もう起き上がる力などあるはずもなく、しりもちをついた体勢のまま少女の放尿が始まった。 びしゅぅいいいいいいいいいいぃぃぃいいいぃぃい!!!!!!びじゅぢぢぢぢっ!びしゃあああああああぁぁあぁぁぁあああーーーーーー!!!!! 「あっあ!?や、だめ……だめ……!」 それはとても人間が放つものとは思えない水圧で、便所の壁を叩きつける。2リットルにも及ぶ聖水を飲み、利尿薬を吸わされ、まる一日も我慢し続けてきた証が、部屋中に降り注ぐ。 人の背丈より高く吹き上がった放物線は壁に当たって跳ね返り、部屋中に黄金の飛沫をまき散らす。 なんとか止めようと両手を股間に持っていくも、それすら弾くほどの猛烈な水圧。壮絶極まる放尿が便所の中で噴き荒れていた。 びしうううううううぅぅうぅぅう!!!ぶしゅうっ!!ぶしょおおおおおおおおおぉぉおお!!! 「ん……!はぅ……あ……!」 (もう……いいや……) 本来収めるべき便器を盛大に飛び越えて、部屋中を汚していく少女のおしっこ。我慢に我慢を重ねてきたそれを放出する快感に、とうとうマリーは屈してしまう。 びりびりと脳を痺れさす放尿の快感の前に、彼女は後始末のことなど忘れて浸っていく。 一日戦い続けたご褒美というべき甘やかな快感の中で、少女は静かに眠りへと落ちていった。 マリーが眠った後も聖水の放出は続き、たっぷり三分もかけてようやく収まった。 彼女が目を覚ましたのはそれよりはるかに遅く、5時間もの間トイレの床で眠っていた。それほどの疲労だったのだ。 眠りから覚めた彼女を待っていたのは、悲惨な状態になったトイレと廊下だ。特にトイレは、バケツをひっくり返したとしてもこうはならないほど水浸しの惨状である。 マリーは頭から湯気を吹きつつ、撒き散らされた自分のおしっこの掃除をすることとなった。雑巾に吸い取らせ、バケツにそれを絞る作業を何度も繰り返す。 バケツになみなみと注がれた黄色い「聖水」は、とても人間の身体に収まっていたとは思えないほどの量で、それを見たマリーはまた顔を真っ赤にするのであった。


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