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幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(31)『告白されて』

 中学へ登校する。でも、今日からは一人。  昨日、瑠璃は中学を卒業した。だから二人で登校することはもうない。  一人で行く通学路は、思いの外寂しく感じた。  まあ、もう数日で『光莉』の中学二年も終わって春休みになる。そして四月一日に元に戻れば、今度は俺は『光彦』として『瑠璃』と二人で同じ一高へ行くことになるはずで、だからほんのわずかな辛抱なんだけど。  ただ、本来なら、それらを考えるのが今朝の主な考え事になるはずだったのに。  頭の中は、昨夜瑠璃に聞いたこともかなりのスペースを占めていた。 * 「あれ? 明良さん一人?」  放課後、文芸部の部室に、どういうわけか植岡くんが入ってきた。 「う、うん」  一年生のほとんどは、部活の日でもない曜日にわざわざ来るほど熱心ではない。  唯一熱心な苑田さんは、今日は部活を休むと昨夜メッセージが入っていた。校庭で体育の授業を受けているのは見たから、学校を休むほど参ってはいないようだけど。  ……彼女は昨日、卒業式の後で瑠璃に告白していた。  俺は瑠璃から昨夜それを教えられた。断ったとも。 『言わないで済ませられればよかったけれど、元に戻ったらみっくんにも関係あるものね』  瑠璃のその言葉はもっともなもので、だけど俺は何かもやもやするものを抱えたまま、今日は朝から一日中過ごしていた。  瑠璃が断ったこと自体にはまったく怒っていない。俺は苑田さんに恋愛感情なんてこれっぽっちも抱いていない(俺が好きなのは瑠璃だし、どうしても同性の年下の子という見方しかできない)から、瑠璃が勝手なことをしたとは思っていない。むしろ、瑠璃が勝手に告白を受け入れていたらそっちの方が大問題だしとんでもないショックだ。  だから、自分が何に引っかかっているのかがわからない。  この前、『瑠璃』な光莉が瑠璃と仲良さげにしていた時と同じような、焼きもち? でもあの時とは何か違うような。 「今日はちょっと、言いたいことがあって」  一瞬だけあれこれ考えていたつもりだったけど、気づくと植岡くんがかなり近くまで来ていた。教室で隣の席になる時よりもほんの少し近いくらいの距離。 「え?! ええと、何?」 「俺、明良さんのことが好きだ。付き合ってほしい」  聞いた言葉に呆然とした。 「冗談でも何でもない。俺、本気だよ」  彼の言葉は真剣なものに思えた。  だから、俺も、あたしも、本気で答えなきゃと思った。 「ご、ごめんなさい……あたし、付き合えない」  教室で話す時、植岡くんは気楽な男子だった。小さい頃の彼を知っていたこともあるし、彼自身も今はバカさは鳴りを潜めているけど、親しみやすさはあったから。  だからあたしも気軽に話していたけれど。  そのせいで彼が、こんな気持ちになっちゃったのかな。 「……他に好きな人、いるの」  低い声で問われる。 「う、うん……」  俺、瑠璃のことが好きだもん。ずっと前から、ずっと、ずっと。 「それって、お兄さんのこと?」 「ち、違うよ」  今の瑠璃は『俺』だけど、俺は『俺』が好きなわけじゃない。一瞬口ごもったのは、状況の複雑さに自分でも改めて戸惑ってしまったから。それだけ。 「じゃあ誰?」  植岡くんは少しだけ詰め寄ってきた。近すぎる距離が、さらに縮まる。  怖い。  俺が身を竦めた時。 「その辺にしたらどうかな。言いたくないものを無理に訊き出すのは違うと思うよ」  瑠璃が、部室に入ってきた。 「卒業した学校にまた来て、盗み聞きですか」  顔を赤らめながら植岡くんは言う。 「部室に入ろうとしたら、君の告白が聞こえちゃって。光莉が答えるまでは邪魔しちゃいけないと思って待ってただけだよ」  瑠璃は落ち着いた口調で言う。 「それと、県立高校の合格発表は卒業式の翌日でね。だから、入学手続きのために必要な書類をもらいに来たんだ」 *  帰りは、瑠璃と一緒だった。  瑠璃に寄り添うようにして、帰り道では何も言えなかった。 「告白って……」  家に帰った後、俺はようやく口を開いた。  どう言えばいいのかよくわからない。何度も口ごもりながら話していく。本当は瑠璃に合格おめでとうって言うつもりだったのに。  でも瑠璃は、時折相槌を挟みながら、じっと耳を傾けてくれた。 「告白するって、すごく怖いだろうなって、さっき告白されて、初めてわかった。断るのがこんなにつらいってことも」 「うん」  苑田さんの告白の話を聞いた時、俺は自分の立場や瑠璃のことだけでなく、苑田さんの気持ちも心のどこかで想像していたんだ。 「だから、植岡くんのこと、少し怖いとも思ったけど、それでも、彼が告白するのにすごく勇気を出したんだろうなとも思った」 「そうなんだね」 「みんな、すごいな……もっと気軽に「告る」くらいの感覚でやってる人たちもいるんだろうけど」  元に戻ったら瑠璃に告白するんだと、決めていた。なのにその決意が揺らぎそうになってしまう。  と、瑠璃が俺の頭を撫でた。 「そういう人ももちろんいるよね。そして、軽い態度の中に本気を隠している人も。でも、真剣な気持ちはどこかで伝わると思う」 「うん」 「みっくんも、それがわかったから、植岡くんのこと断りはしても拒絶まではしなかったんでしょ?」 「そう、かもしれない」  俺も、とにかく真面目にやるしかないんだろうなと、告白する時の身体である『俺』に優しく扱われながら思った。  瑠璃は瑠璃で思うところがあったのか、独り言のように続けていく。 「わたしも、まだ告白はしたことないんだ。怖くって……」  最後の方のつぶやきは、よく聞こえなかったけど。 「でも、元に戻ったら、その時に必ず……」 *  その後、光莉に連絡を取ったら、断わったことに文句は言われなかった。 『今どうなってるかは知らないけど、あたしにとっては小三の頃の奇声上げて廊下走り回ってたバカの印象が強すぎるから』  彼が彼女を作れるのは、小学校低学年時代を知らない場所に行ってからになるのかもしれなかった。あるいはそれを忘れてくれるくらい、いい印象を相手に与えた時か。


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