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幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(14)『『光彦』の十四歳の誕生日』

 六月のある日、俺と瑠璃が家に帰ってすぐくらいのタイミングで、宅配便が来た。 「あ、来たみたい」  言いながら瑠璃が受け取りに行く。荷物が来ると知っていたっぽい。 「何だそれ?」  瑠璃は段ボール箱を持ってきた。けっこう重そうで、しかも二箱。 「『お父さん』と『お母さん』にちょっとおねだりしてみたの。今年だけで世界史と日本史、両方もらえるとは思わなかったけど」  開けてみると、歴史漫画がそれぞれ二十冊くらい入っていた。それぞれ古代から現代までを通しで扱ったタイプで、日本版と世界版の二種類。小学校の図書室で見た覚えがあるけど、俺は少ししか読んだことがない。  でもおねだりって何のことだ? この前の中間テスト、瑠璃は『光彦』の身体でかなりすごい点数取ったって言うし、父さんと母さんがご褒美をやろうみたいな話をした結果、家で勉強するためにこれをもらったとか? 「リビングの棚を少し整理すれば、どうにか置けるかな」  そんなことを言っていた瑠璃なのに、なぜか俺へと箱を滑らせた。 「はい、みっくん」 「え?」 「今日はみっくんの誕生日でしょ? 受け取ったのはわたしでも、お二人からのみっくんへのプレゼントってことだよ」 「あ……え……」  誕生日なんて忘れてた。元々そういうのにあんまり関心がなくて(幼稚園の頃に毎年ゲーム機とかを要求して全然通らなかったせいもある。今にして思えば、高価過ぎたのかもしれないが)、いつもちょっとしたプレゼントをもらってからようやく気づくようなところがある。それに今の俺は『光莉』だし。 「普通の漫画とはまた違うけど、読んでみると面白いと思うよ」 「でも、これは瑠璃がもらったものだろ?」 「そりゃ誕生日なのは『光彦』だけど、それってつまりみっくんの誕生日ってことでしょ。『光莉ちゃん』に渡すわけにはいかないから、少し悩んだけど」 「あ、ありがと……」  予想外のプレゼント。しかもそれを俺が「受け取れる」ように瑠璃は工夫してくれていた。状況に気持ちがまだ追いつかず、言葉はさらに遅くなる。 「ちゃんと読むね」  そう言った時、瑠璃は俺に背を向けてキッチンに向かっていた。  言うのが遅くて、怒っちゃった? そ、そんなわけないよね。  内心で軽く不安に襲われる俺だったが、瑠璃はお皿を抱えて戻ってきた。 「そしてこれが、わたしからのプレゼント」  誕生日の定番、ショートケーキだ。白いホイップクリームと赤いイチゴが目に鮮やかで、普段食べる一切れの鋭い扇型じゃなくて円形になっている。 「買ってきたの? いつの間に?」 「昨夜、みっくんが寝た後に作って、冷蔵庫に入れておいたの」 「え……」  今日は驚いてばっかりだ。 「お菓子作りは前からしてたけど、入れ替わってからは初めて。でも、そんなにうまくいかなかったっていう感触はなかったから……まあ、安心して」  言いながら、瑠璃が持つ『俺』のスマホでまず記念撮影。それから俺に切り分けてくれる。 「光莉ちゃんの好みはだいたいわかってるつもりだから、今のみっくんの口にも合うと思うけど」  一口食べてみる。生クリームやスポンジケーキの幸せな甘さがメインで、イチゴの酸味がアクセントになっている。おいしい。 「おいしい!」  わ、思ったことがそのまま口に出た。  でも、ほんとにおいしい。  男だった時も別に甘いものは嫌いじゃなかった。入れ替わってから二ヶ月以上になるけれど、甘いものが好きな『光莉』の身体でももちろん甘いものを楽しんできた。  けどこれは、特別だ。瑠璃が作ってくれたからなのかな。  ほっぺがとろけそうってこういう感じなのかも。 「喜んでくれてよかった」  俺を見ながら、瑠璃がうれしそうな顔をしている。  その顔を見ているとますます幸せな気持ちになれて、俺たちは微笑んで見つめ合った。  俺を見つめる『俺』を見て、胸の中が温かくなるように気持ちに包まれながら、改めて思う。  俺は瑠璃が好きなんだ。  目の前の瑠璃は『瑠璃』じゃないのに。  俺が瑠璃を好きになった理由は、顔がきれいとか、おっぱいがでかくなってきたからとかじゃなくて……いや、それらもやっぱりないわけじゃないけど、絶対にそれだけじゃなくて。  一緒にいると心地いい。俺のことを気遣ってくれる。そんな温かさと優しさが、最初に好きになった理由なんだ。 「あ、みっくんだけじゃ食べきれないよね。わたしもいただきます」 「何だよ、自分が食べたかったからか?」  いつもの調子で話しながらも考えた。  俺は、瑠璃に優しくできているのかな。瑠璃に気遣いできているのかな。  瑠璃はのんきな顔で自作のケーキを口にしていた。 「うん、おいしい」 「何か、ごめんな」 「何が?」  訊き返されると、答えに窮する。つい話を逸らしてしまう。 「瑠璃はまだ十三歳なのに、俺の身体になったせいで十四歳になっちゃって」 「三ヶ月しか違わないじゃない。それ言ったら、光莉ちゃんの方が可哀想でしょ。わたしの身体になったせいで一歳半も年上になっちゃって」 「まあそれは、再来年には元に戻れるんだし」 「なら、わたしに謝る必要もないんじゃない?」 「……それもそうか」  それからもしばらく考えた。瑠璃にどうにか気持ちを伝えられないかなと。  でも、はっきり好きだと伝えるのは怖くて、今の俺たちは兄妹だから変な雰囲気になるのも嫌で。  食べ終えてから皿やフォークを洗いつつ、俺は一つ思いついた。 「お、お兄ちゃん」  ソファに座っていた瑠璃の隣に腰掛けて、言う。 「え?」  俺は瑠璃に抱きつくと……ほっぺにチュッと唇を当てた。 「い、妹からの誕生日プレゼント!」 「もう……みっくんってば」  瑠璃が柔らかく笑った。


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