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魔法学院の生徒会長4――決着編(後)4

 飽和攻撃の最中に生じるわずかな猶予を利用して、塵のような細かい魔力を周囲になるべく大量に散布する。密度と制御技術とを高めたそれは、微細な一粒が襲い来る魔力弾一つ一つに相応し、防御の弾幕として機能してくれる。  だが、すべてをうまく相殺してくれるわけではない。最初よりはずいぶん楽になったものの、すり抜けてきた攻撃はかわして、かわしきれないものは防いで、防ぎきれないものはなるべくうまく受ける。  炎にも氷にも雷にも、もちろん殺傷能力は与えられてない。けれど受けるたび、それどころか掠めるたびに、魔力を削がれるだけではなく痛みも走る。  考えていては間に合わない。脊髄反射にも似た動きで、前後左右および上からひっきりなしに飛来する攻撃に対処する。それらが自動的なものに近づいていくにつれ、暇になった頭は余計なことを考え始める。  どうしてわたしはこんな苦しいことをしているんだろう。一歩間違えればたちまち数十メートル転落する崖登り、上からは絶え間ない落石のおまけ付きといったところじゃないか。  何もかも放り出して、『キヨヒコ』としておとなしくしていれば、こんな目には遭ってないのに。  魔法学院に入り、キヨヒコの成し遂げたことを周囲に認めさせることはできた。今後はその功績とポジションをいただいたまま、魔法研究に大きな進歩をもたらしたとして安穏と生きていくことはできるだろうに。  もう『フタバ』とは極力関わらないようにしておけば、周りからここまで強い敵意を向けられることはなかったろう。ここで負けたら卒業までどんな学生生活を送ることになるのやら。  高嶺の花のアイドルみたいなものとして『フタバ』からはなるべく遠ざかり、敵を作らず、穏当に。ワカバが魔法学院で苦しまずにやっていける道を切り拓ければそれでいい。将来は身の丈に合った、ちょっと可愛くて気立てのいい女性と結婚して……。  ――嫌だ!!  そこまで思って、やっぱり嫌だと心が叫ぶ。  人生を大きく狂わされて、その元凶は明白で、なのにいまだのうのうとしているそいつに一太刀も入れずに引き下がるなんて、あり得ない!  それはあの日から消えたことのない怒り。  と同時に、また別の欲望も沸き起こる。  わたしが男として女を抱くなら、『フタバ』以外はあり得ない!  この身体で射精を覚えたほぼ直後から、わたしのチンポはずっと彼女を思い描いて勃起し続けていた。引き下がって『キヨヒコ』のまま、他の女性と結ばれるなんて考えられない。  勝って元に戻ればもちろろんこの欲望は叶わないけれど、投げ出しそうになる心を奮い立たせるには、怒りと共に大いに役に立った。  弾幕が途切れた。  ちらと『フタバ』を見る。まだまだ戦意は充分の模様。仕掛けるには早すぎる。  わたしは迎撃用の魔力塵を再びばらまく。そして再開する、わたしに反撃の機会はない戦闘。  そんなことを繰り返すうち、少し余裕が出てきたか、会場の声をいくらか耳を傾ける余裕が出てきた。  聞き取り始めた最初は、散々だった。わたしに勝ちの目が見当たらないのだから当然だが、『フタバ』を応援する声ばかり。  けれど、延々と戦い続けていくうちにそれらは薄れていく。  代わりに上がるのは、わたしに対する不審の声。  それもまた当然。 「……どういうことですの?」  ついにキヨヒコも訊いてきた。  致命的な直撃を避けてはいても、わたしは完全回避できているわけではない。そのたびに手持ちの魔力は減衰していく。魔力制御で効率を良くしようと、魔力密度を高めようと、魔力消費がゼロになるわけでもないからこれも手持ちの魔力を減らしていく。資本がなくなれば破産は免れない。  なのにわたしは、まだ戦い続けていられる。誰もがおかしいと思うくらいの長時間を。 「魔力回収魔法ですよ。技術自体は昔からある」  周辺に漂う魔力を一定量回収して自分のものにできる魔法。 「でもあれは効率が悪すぎて使えたものでは……」 「それは魔力五桁が最低ラインの魔法使いたちの話です。『三桁』にとっては、常時20%くらい回復してくれるありがたい魔法だ」  こうして話している間にも、魔力を回復してくれている。 「なるほど。戦い方を間違えていたようですわね」  言いながら、『フタバ』は舞うような美しさで両手を動かし、魔力を練り上げていく。大きく色鮮やかな魔力塊が現れる。 「回避不能、防御不能、誘導にも惑わされない自動追尾……そんな一撃で終わらせることといたしましょう」  それはつまり、『フタバ』の本気の一撃。魔力三桁の「一般人」に本来使うようなものではない。だからこれまで手控えていたのだろう。  でも使わざるを得ない。わたしがそうするようにここまで導いてきた。  相手がもちろん知っている魔力制御技術。そして直前に明かした魔力密度。これらによって『フタバ』は警戒しただろう。が、初手から全力を出すような相手でもないとも思ったはず。数に物を言わせた飽和攻撃で倒しきれると踏んだ。  その予想を裏切った。  有名なRPGで例えれば、わたしは金属系のスライム。かわすし硬さも多少はあるが生命力には乏しく、逃げられないこの状況にあっては手数を多くして削っていけばいずれ倒れるはず。しかしわたしは毎回生命力を回復しているとわかった。ならば、かわせない渾身の一撃で仕留めるのは自然な流れ。  それも、こちらの読み通り。  さあ、仕上げだ。  わたしは『フタバ』を指さした。  まっすぐ伸ばした人差し指で、一般人のわたしが魔法使いの『フタバ』をさす。  マナー違反どころの騒ぎではない、禁忌に近い行為をわたしは犯していた。


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