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いつでも戻れると思うと(1)

「はい、聖仁(きよひと)」  羽留奈(はるな)に促され、俺は彼女がエプロンを半ば外してさらけ出している胸に顔をうずめる。柔らかですべすべした感触。甘い匂い。  と、一瞬、宙に浮いたような感覚。  それが収まると、俺の胸に『俺』が顔をうずめている。鼻息がくすぐったい。 「ほら、羽留奈」  俺はじっとしたままの『俺』の身体の羽留奈を両手で軽く押しやった。  おとなしく顔を離した羽留奈はちょっと気まずそうに頬を赤らめる。俺の顔も熱い。でもこれ以上はその話をしない。「『羽留奈』のおっぱいって気持ちいいよな」なんて、当の羽留奈に言える話題じゃない。 「今日はどうする?」 「えっと、前に叔母さんにもらったドレス、試してみたいんだ。それと、昨日雑誌で見た髪型もやってみたくて」 「わかった」  エプロンを完全に脱ぐ。その都度毎回感じる不安も、二ヶ月経った今ではずいぶん小さくなっていた。 *  初めてこうなったのは、ゴールデンウイークの最中だった。  中三のバレンタインデー、羽留奈が俺に告白してくれて、俺たちはカップルになった。  受験だ卒業だ入学準備だと色々あったが四月を過ぎれば落ち着くもので、俺たちは家族のいない隙を見計らって一線を越えて楽しむようになっていた。  あの連休、羽留奈のご両親は知人の法事や親戚の結婚式が重なって数日家を空けていて。俺たちは存分にあれこれを楽しんでいた。  俺が裸エプロンを提案してみたところ、羽留奈が乗り気になり、それが想像以上に興奮させられるものだったから俺は暴走し……。  裸身を唯一覆うエプロンをはだけて、その素晴らしい胸に俺が顔をうずめた時、一瞬おかしな感覚が走り。  気づけば俺と羽留奈は入れ替わっていた。  幸いなのか何なのか、元に戻るのは簡単だった。パニック状態で「とにかくさっきと同じことをやってみよう」と『羽留奈』になった俺の胸に『聖仁』になった羽留奈が顔を埋めたら、元に戻れたのだ。  でもそうなると、色々試してみたくなるのは人情で。  裸エプロンじゃなくてもいいのか(必須だった。エプロン自体は品を選ばない)、エプロン越しでもいいのか(直におっぱいに顔をうずめないと無理だった)、などと入れ替わりの際の条件面をあれこれ調べていき。  最近の俺たちは、入れ替わった後の状態をおっかなびっくり調べている。二人きりでゆっくり会える時間を見つけては、セックスもそっちのけに。 *  ふと壁の時計を見る。 「四十五分」  俺の呟きに、俺の長くきれいな髪をブラッシングしていた羽留奈が応じる。鏡越しに視線が合う。 「何かおかしな感じある? あたしはないけど」 「俺も別に」  入れ替わった後、どれくらいの時間入れ替わっていて問題ないのか。こうやって入れ替わった状態で過ごし、俺たちは時間をどんどん伸ばすようになっていた。今のところ、最長は一時間十五分。俺にも羽留奈にも、特におかしなことは起こっていないと思う。  最初はすぐ戻れるようにずっと裸エプロンでいたけれど、長時間過ごすような恰好じゃない。そこで羽留奈が思いついたのが、『羽留奈』の身体を使っての着せ替えごっこだ。  最初は少し抵抗があったけど、羽留奈に可愛いと言われると満更でもない気分になってくるから不思議なものである。 「ほんと、『羽留奈』の聖仁は可愛いよね。あたしだと可愛げがなくて似合わない服も素直に着こなしちゃって、理想の美少女って感じ」  でも毎回こうもべた褒めされると気恥ずかしくて、俺は話を逸らしてみた。 「そ、その……羽留奈も可愛いっての。『羽留奈』の時もだけど、今だって『俺』の身体なのに、何か、色気があるって言うか……」 「それって『男』への評価としてどうなの?」 「ご、ごめん」 「でも褒めてくれてうれしいよ。ありがと」  鏡越しの眼差しは、やっぱり不思議な魅力があって、俺は目を逸らしてうつむいてしまった。 「あ」 「どうした?」  俺の問いに、羽留奈は微妙な表情を浮かべてしばしためらい、やがて恥ずかしそうに口を開いた。 「トイレ……行きたくなってきて……」 「悪い、考えなしに飲み物飲んでた」  長時間の入れ替わりを試してみるってわかってたのに、何やってんだ俺は。 「元に戻ろう」 「ううん」  立ち上がり服を脱ごうとしたが、羽留奈が制する。 「聖仁の身体でトイレしてみたいんだけど……ダメ?」 「べ、別にいいけど」 「男の子の身体でおしっこするって、興味あって……」  言ってることはアレだが、もじもじしている羽留奈は『聖仁』の身体なのに妙に可愛く見えた。 「でも、立ってやると汚れるから気をつけろよ」 「そ、そっか……パパもよくママに怒られてるし……座った方がいいのかな……」  呟きながらトイレに向かう。手持ち無沙汰になった俺は羽留奈のベッドに腰を下ろした。  この二ヶ月、入れ替わりを何度もやってみて、家族がいない休日を見計らってはこんな風に長時間の入れ替わりも試してみて。でもまだ、入れ替わってる最中に性別が絡むようなことはお互いにしてこなかった。  股間に手を当てる。スカートとショーツ越しに感じる、何もないあそこ。  おかしな気持ちになりかけた時、トイレから俺を呼ぶ羽留奈の泣きそうな声がした。 * 「ごめんね……」  羽留奈がしょんぼりとした表情で言う。 「いや、悪いのは俺だ。初めてなんだからちゃんと教えてやるべきだった」  俺たちは今、慌てて入れた風呂に入っている。  座って用を足した羽留奈だが、ずいぶん我慢していたらしい。そしてその時、軽く勃起気味だった。その状態で勢いよく出したものだから、便器を飛び越えて床だけでなく下ろしたズボンやパンツまでぐっしょり濡らしてしまったのだ。  こうなると『聖仁』の服を洗うしかない。その間、羽留奈を裸でうろつかせるわけにもいかない(羽留奈のパパの服はサイズが違い過ぎた)し、本人も体を洗いたがっている。ゆえに風呂に入るしかない。  だから別に俺まで入る必要はないのだが、また何か間違いをするかもしれないと羽留奈に不安そうな顔をされては断ることなどできなかった。  まずは体を洗おうと、向かい合う。  もちろん二人とも裸だ。


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