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俺が神官少女で神官少女が触手で(10)

「世界は一人一人の選択や偶然によって分岐し続けています」  そう言うと、職員は右手を伸ばしてきて……俺の乳房を揉んできた。 「あら柔らかい」 「な……!」 (何するんですか?!)  予想してなかった行為に俺は硬直してしまい、トゥクファの声で我に返ると相手の手を振り払う。  形よくも弾力がある自分の胸の感触。入れ替わってから、そこを自分で触ったりすることなんてなかったから、俺にとってそれは初体験の感覚。  男だった時はあり得なかった出来事と、それによるショックと、それと……不思議な気持ち。  それらに少し呆然としていると、職員が悪びれずに笑った。 「私が右手を伸ばしてあなたの胸に触った。でも私は左手を伸ばしてあなたのお尻を撫でさすることもできました。私がそちらを選んだ世界ではあなたはお尻を撫でられていたわけで、今この瞬間に世界は分岐したわけです」 (くだらない……ジクーブさん、いつまでぼうっとしてるんですか!) 「は、はいっ!」  腕で胸を中心に防御しながら、トゥクファの入っている手桶を持ちつつ職員から距離を取った。 「今のは他愛もない分岐ですが、もっと重大な分岐が色々とあることはおわかりですよね?」 「それくらいは……」 「才に恵まれて、最初から上級職のムシャやパラディンになれた。あるいは成長の方向性がそれらに向いていて早々にクラスチェンジできた。十層で割のいい敵と多く戦えて、成長ペースの遅いそれら上級職でありながら順当に成長できた。今この世界にいるあなたはそうでなくても、別の世界のあなたは運にも恵まれてそうなれている」 (わたしのような触手が、その力を引き出す? どんな理屈で?) 「私は一介の職員なので理論までは存じませんが、触手生物はそもそも多元世界にまたがって存在しているとか、そんな仮説が考えられているようです。触手の方々に伺っても実感は別にないそうですが」 (あるわけないじゃないですか) 「ともかく、触手と人が結合することで、人は別の世界の自分の能力を借り受けることができるのです。今の自分よりもはるかに強い力を」  何も経験してない状況で聞かされたら相手の精神状態を疑うしかない発言続出だったが、迷宮でのあの一連の出来事を思い返すと一応は説明がつく話だった。 「てことは、俺はあの時……」 「並行世界のトゥクファさんの力を借りていたんです。運がいいことです。栄養補給モードでそこまで達することはまずありませんから」 「え? また何か新しい言葉が出てきたが」 「人と触手の接触には、結合モードと栄養補給モードがあることがわかっています。後者は、あなたたちが地下で経験したやり方。ただあれは、よほどの非常時に嫌々やることなんですよね」 (どういうことです? あれは、その……嫌ではありませんでしたけど)  トゥクファの心の声が、羞恥と思い出した快さに震えている。  まあ、俺も同感だ。排泄物を飲まれて飲んでと考えると恥ずかしくはあるが、あの時トゥクファが出してくれたものは今まで口にした中で一番美味いと思った。  そんなことを話すと、職員は何度も肯きつつ顔は真剣。 「そこが不思議なんです。触手が人間のそれを美味に思うというのはすでに判明しています。けれどその逆、人間が触手の出したものをおいしく感じるというのはちょっと前例のないことでして。毒ではない、それどころか人間の生命維持や活動に必要な栄養が豊富なのはすでにわかっているのですが、それでもひたすらまずいからよほどの時以外口にしたくないというのが、味見した方の共通した意見でして……入れ替わりが関係しているんですかね」 「聞かれても困る」 (それより、あれが栄養補給モードというのだとして、なら結合モードというのはどんなものなのですか?) 「はい、その説明もするためにお風呂に入ることにしたんです。お二人ともこちらへ」  エルフ職員に手招きされ、湯船から上がって洗い場の床に座り込む。 「ではトゥクファさん、排泄のための器官を一本出してみてください」 (は、はい……)  応じはしてもしばらくもぞもぞするばかりだったトゥクファだが、このままでは埒が明かないと思ったのか身体の中心に近いところから一本ぴょこんと飛び出させた。こうやって改めて見ると、やはりこれは人間の男のチンポに似ている。 「やっぱチンポだよなこれ……」  いかん、口に出してしまった。 (ひ、ひどいこと言わないでください!!) 「いえ、ある意味事実です」  激昂するトゥクファに対し、職員はそんな追い打ちをかけてきた。 「触手とは、触手化の指輪によって人間が変異した姿です。そして排泄器官の形状に関してだけは、元の人間の姿を反映しています。トゥクファさんは現在入れ替わってジクーブさんの身体になっているわけですから、この形はジクーブさんのチンポの形ということです」 「お、お前ら見るな!」 (わたしだってこんなもの見たくありません!!)  触手がいやいやをするように身をくねらせる。中心部ではチンポもうねる。ちょっとした地獄絵図だ。 「見るなと言われましても、見ないことには説明のしようもありませんので。気にしないでいいですよ。見慣れてますから」  職員にはそんなことを言われるが、今さらながら俺は気になることがあった。 「この触手化って……戻れるんだよな?」  職員は触手と何度となく接している。触手化の指輪というのは十一層以下ではそれなりに見つかりやすいと思われる。触手との結合が冒険者を飛躍的に強くしてくれて、それが十一層以降を攻略する軸になっているようだ。つまり触手化した冒険者はそれなりの数がいるはず。  だがこの触手化という奴、結合した人間側はともかく、触手側には特にメリットがあるように思えない。  トゥクファだってああも追い詰められていなければ指輪を使うこともなかったわけで、指輪を使った奴が揃いも揃ってそこまで切羽詰まっていたとも考えづらい。  ということは、元に戻れるあてがあるからこそ、そいつらは触手になっているのだろうと推測できた。 「ええ。人間化の指輪を使えば。触手化と人間化、二つの指輪が揃うたびに役割を交換する方たちが多いですね」 (なら安心、とはいかないんだよな。俺たちの場合) (はい、入れ替わりをどうにかしないと)  トゥクファを人間に戻す。入れ替わりを元に戻す。二つが解決しない限り、俺たちはどうしようもない。そのためには、やはり十一層より下で戦い続けるしかなく、そのためには「結合」とやらを使いこなせるようになるしかないのだろう。 「話を結合に戻していいですか?」  俺の思考の流れを読んだかのようなタイミングで職員が言った。 「ああ、よろしく頼む」 「お二人でセックスすればいいんです」 「…………」 (…………)  俺と触手の動きが凍りついた。


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