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幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(3)

「帰ろうか」  しかたなく、俺は瑠璃に言った。 「う、うん……」  肯く、『俺』の身体の瑠璃。けれど、さっき状況を整理してみせた時よりも落ち着きがなくなっているようだ。まだ混乱から立ち直りきれてないという感じ。  そりゃそうだよな。  さっきまで瑠璃は『瑠璃』だったのに、今は『光彦』になってしまった。さっきまで女子だったのに、男子になってしまった。さっきまで東京へ引っ越す寸前だったのに、今はまたここで暮らすことになった。  それは俺も似たようなものだ。さっきまで『光彦』だったのが『光莉』になり、男子から女子になり、中学二年生になるはずが中学一年生としてまた入学式に出ることになる。  でも、瑠璃の方がもっともっと大変に違いないと思うと、俺が動揺している場合じゃないという気持ちにもなっていく。  俺は、瑠璃の手を取った。 「みっくん……」 「はは、男の手って大きいんだな。光莉の手が小さすぎるのかもしれないけど」  スポーツとかは全然大したことない『光彦』の身体だけど、『光莉』の手とはまったく違う。骨ばっていて、たくましい。 「俺、できるだけお前のこと手伝うから。だから二年間、どうにかがんばろう」  言って、手を引く。妹が兄の手を引くように。 「みっくん……ごめんなさい。わたしのせいで」 「気にすんな……ううん、気にしないで、お兄ちゃん」  俺は身体の記憶から光莉っぽい口調を引き出した。 「お兄ちゃんも、外ではちゃんとしてね。あたしは光莉なんだから、『みっくん』は家の中だけにして」 「う、うん。わかったよ、光莉」  瑠璃も、男子っぽい口調で返事する。  あまり『俺』っぽくはなくて、もう少しおとなしめな雰囲気。でもこれはこれで悪くないかも。アニメによく出てくる知的な男子みたい。 *  家に帰ったところで、俺の持ってるスマホが鳴った。つまり『光莉』のスマホだけど、かかってきたのは母さんからで安心する。  身体の自然な反応に任せる感覚で、スマホを操作し会話した。 「みっくん、誰から?」 「母さん。今夜は会社近くで泊まるって。父さんも前から泊まり込みが決まってたから、今夜は二人とも帰ってこない」  うちの両親は共働きだ。四十代前半は働き盛りというやつらしくて、最近は二人とも重要な仕事を任されているみたい。二人とも会社はうちから少し離れた県庁所在地にあり、最近は疲れた状態で家まで運転するよりはと会社近くのビジネスホテルで休むことも増えていた。「光莉も大きくなってしっかりしてきたし」と話していたことがある。 「そうなんだ……」  身体の記憶を読み取ったのか、俺がそれらをもっと詳しく説明するまでもなく理解した様子で、ほっとしたような息を吐く瑠璃。そうだよな。記憶があっても、近所のおじさんおばさんといきなり家族として接するなんて、かなりきつい。 「じゃあ、今日はピザの宅配でも頼むか?」  俺が提案すると、瑠璃は小首を傾げてから、少し恐る恐るという感じで口を開いた。 「わたしが、晩ご飯作ってみていい? あんまり自信はないけれど……」 「もちろんいいけど、瑠璃って料理するんだ?」  初耳だった。『光莉』の記憶でも、聞いたことがない。 「去年くらいから、家の手伝いは始めてたの。でも凝ったものとかは期待しないで」 「瑠璃が作ってくれるならそれだけでうれしいよ」  普段よりもすんなりと、そんな言葉が出てきた。『光莉』の身体だからだろうか。  それを聞いた瑠璃は、顔を赤らめてそっぽを向く。それはまるで『光彦』が照れた時のよう。  もしかしたら兄妹として過ごす二年間で、俺は瑠璃ともっと近い関係になれるのかなと妄想する。そうしたら、元に戻った時にはもう恋人みたいなことになれるかも!  ……でも、俺は入れ替わりの時に、『光彦』の身体に瑠璃に関する気持ちの記憶を残さないようにしてたわけで。  それについて瑠璃はどう思うかな。俺が恥ずかしくて残さないようにしたと考えてくれれば早いけど、俺が瑠璃を何とも思ってないと誤解したら。  一抹の不安を抱えながらも、俺は瑠璃を手伝うために台所へ向かった。 「……ごめんね、みっくん」 「しかたないよ」  瑠璃の手際は、かなり悪かった。俺が手伝うことでどうにか完成させられたと言っていい。  でもそれは、むしろ『光彦』のせいとしか思えなかった。俺がごくまれに台所に立つ時によくやらかすミスを、今日の瑠璃は頻繁に繰り返していたんだ。 「たぶん、身体を使うことって、身体に影響受けちゃうんじゃないかな? 俺、今日はいつもより包丁とかもすんなり使えたし」  そんな話をしながら、夕飯を食べ終えた。  最後にジュースを飲み干す。そう言えば俺、今夜は自然とオレンジジュースを選んでたな。光莉は好きだけど、俺はそうでもないのに。  考えていた時、尿意を覚えた。 「あ……トイレ」  口にしてから、その意味に気づく。  思わず瑠璃を見る。瑠璃も『光彦』の顔を赤く染めていた。 「し……しかたないよ。やり方は、わかるよね?」 「う、うん……」  トイレに入る。今の俺は、入れ替わった時から着替えていないラフなトレーナー姿だった。特に女子の知識も必要なく便座に腰を下ろす。  ただその後は、『光莉』の感覚に身を任せる方が具合が良かった。  ちんこがない状態で、俺としては生まれて初めておしっこをする。でも『光莉』にしてみれば毎日何度もしてきたことで、不慣れと慣れが入り混じる感覚にすっかり混乱させられる思いがした。  終わった後、紙で拭く。ちんこがあったところよりも少し奥という感じ。  こんな状態が二年続くのか。  ついついため息をついてしまう。そして、瑠璃も立場は逆だけど似たような境遇になってしまったのだなと思った。 「瑠璃が、俺のチンポでおしっこ……」  想像すると、おかしな気持ちになった。恥ずかしい。でも同時に、瑠璃にちんこの感覚を知ってもらえるのが何か楽しみなようでもあって。  何かふわふわした気分でトイレから出ると、すぐ外に瑠璃が待っていた。 「わ、わたしも、トイレ……」  さっきよりさらに顔を赤くしながら、瑠璃はトイレに飛び込んでいった。  瑠璃が戻ってくるまで、居間で俺は今しがたの想像をさらに膨らませてしまっていた。


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